やぶれない4
その頃、国家管理局・西区。
ギアーズの管理体制は変わった。
局の見張りは以前と同じ一人だが、二つの塔に二人ずつ見張りをするのではなく一つの塔に三人が置かれるようになった。彼女らの負担はそれだけ大きくなったが、人数が減れば仕方のないことだ。任期はあと数か月で終わる。それまでの辛抱だ。
西区にはチェダー、カマンベール、パルメザンの三人が塔の屋上で時間を潰していた。場の雰囲気は悪い。……というより、チェダーが一方的にパルメザンを敵視しているだけだ。睨まれている本人は、その視線など気にも留めずバウムクーヘンを齧っている。それがチェダーにとって余計に腹が立った。
「……カマンベールも食う?」
「いえ……私は別に」
カマンベールは正座し緑茶を啜る。敵襲を警戒しているのはチェダーのみ、二人のピクニックのような空気に苛ついた。
――――カマンベールだっていつコトカに何をするかわからない。あのときゴーダを睨んだ目つきを忘れるわけがない……おそらく、平和主義ではないだろうね。
「お前ら……そんなことしてて虚が来たらどうするつもり? 足手まといになられたら困るんだけど」
「ダイジョウブだよ、なあ?」「はい……平気です」
小さく舌打ちをした。どいつもこいつも、まともな奴がいない。そんな人間ばかりが揃ったギアーズにいる友達がより一層心配になった。
――――コトカ……。
「そォーんなにエメンタールが気になるのか? チェダー?」
「はっ……?」
何も口にしていない、素振りを見せていないにも関わらず降ってきた声に思わず目を丸くしてしまった。
「違った? 局の方ちらちら見てた、結構バレバレだぜ」
「っ……違う」
「ねェ、キミたちってどういう関係なのさ? なんも知らねぇからさ、教えてくれよ」
「誰が……あんたに言う必要なんてない」
「そうかぁ? カマンベールも気になるよなぁ?」
「えっ……私は別に……」
「あっそ」
――――…………。
「……なら一つ言っておくけど、あんた達があの子を傷つけるようなことしたら許さないから。場合によっては……殺す」
はっきりと、言ってやった。いくら頭のネジが外れたこいつらでも命は惜しいに決まっている。人を殺したことはない……だけど、そのくらいの覚悟だ。
それなのに、
「HAHA、恐いね!」「……ふっ」
(笑)
起こるはずのない笑い。なぜ、なぜ笑う? それともなんだ、そんなにあの子を陥れたいのか?
「別に悪いことしたいとは思ってねーよ。でもさぁ、
よそでやってくんね」
――ぷつりと、何かが切れた。
短いその一言が、全てを破壊に招いたようだった。
「こっちも好きに生きてんだわ、それをいきなり何? 他人に命令してまで自分の思い通りにしたいの? エゴを押し付けられたンなら、黙ってるわけねーよ」
「エゴじゃない……あたしは真剣にッ……!」
――――warning!――――warning!!――――warning!!!――――
警告が割り込み、緑色の夜が空を襲った。
それでもなお、憤りを捨て去ることはできない。できるはずがない。
潰す。虚も人も。