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やぶれない3

 それから、約二日が経った。エメンタールは国家管理局の入り口付近を見張りしている。今日の当番で振り分けられたのだ。入り口の出入りは少ない。しかしだからこそ警戒しなければならないのだ。大きな自動ドアを睨む。

 五味うずらは、スティルトンがいなくなったことを報告しても表情一つ崩さなかった。

まるでこうなることを予想していたかのように、「ああやっぱり……残念ですね」と。


 ギアーズは、抜けようと思ったらいつでも抜けられる。


 業務自体が非常に危険だから、本人たちの意志が尊重されるのだ。五味から自分がギアーズに選ばれた理由を聞かされたときも、五味は「本当にいいのか」とエメンタールに問うた。そしてもちろん、頷いた。


 左手首に輝くコアを小さく撫でた。金色のシンプルな腕輪の装飾として、それは微かに光を放つ。

 変身をしていないときは、コアはアクセサリーに扮する。エメンタールは腕輪、チェダーはベルト、カマンベールは帯飾り。ギアーズとして存在する証拠だ。


 ふいに、その声は響いた。


「あら? お疲れ様」


「お疲れ様です……えっ、局長!?」


 エメンタールは思わず背筋をピアノ線のように張ってしまう。それとは裏腹に、局長カンラクは彼女を見て微笑んだ。灰がかった桃色の髪に、真っ黒なスーツ。ヒールをコツコツと鳴らし、エメンタールに近づく。


「……」


「……えっと……」


 カンラクはエメンタールの両頬に手を添え、じっと見つめる。


「…………うん。




……頑張ってるわね」


「え……?」


「じゃ、またね」


 そのままカンラクは、エレベーターで最上階まで昇った。オレンジ色のランプがだんだんと上へ行く。


 ――――……?


 何も理解できず、立ち尽くした。彼女の深くまっすぐな瞳は、どこか寂しさを帯びていたが、エメンタールにはその正体がわからなかった。


カンラク。


 ラボの存在について話を聞いて以来、その姿を目にしていなかった。国家管理局局長であるにも関わらず、TVや公演などの表向きに顔を出すような真似をしない、どこかミステリアスな人物。彼女が女性であることを知らない国民もいるかもしれない。


 ――――どこに、行ってたんだろう……。


 表立って何かをしようとしない彼女、外へ出るなんて行動は今まで見たことがなかった。でもまあ、


 ――――まあ、お偉いさんのことはわかんないや。


 肩をすくめ、少しため息をついた。そういえば、塔での見張りはチェダーとパルメザンだ。一人の見張りは少し退屈だ、もう一度背筋を伸ばし緩めた警戒をまた張った。

次回の更新は1月30日になります。よろしくお願いします。

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