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やぶれない2

 自殺。



 ――自ら命を絶つこと。自死。自害。


 この行為を、一体どれだけの人が赦せるだろう。

 悪と定義するには無責任すぎるが、善からはほど遠い。


 現代、人々はみな自殺は消え去った概念だと思っている。そう、“思っている”だけ。

 

 漢徒羅カンドラは陽のあたらない地下で這うのみ。地上の人間は、その下などには目もくれない。埋もれた信者は煙のように人知れず消えていくのだ。



 だが、彼女はどうだっただろう。



 生まれながらに生きる道を定められ、戦争の傀儡となった彼女は。そして楼閣が聳え立つ地下で自ら命を絶った彼女は。


 彼女の死は、また別の地下で伝えられた。市松模様の床の上、訃報は淡々と響いた。



「彼女は彼女で、思い悩んでいたことがあったのでしょう。誰のせいでもないです。くれぐれも、自分を責めないでくださいね。……“全員”ですよ」


 五味いつみうずらの左目でぎょろりと一瞥したあと、その場から消えた。彼女の視線は、スティルトンに向けられていた。


「……」


 極限まで色素を失った髪が、だらりと下に垂れる。「誰のせいでもないわけあるか。……くそ」


 スティルトン

 エメンタール

 チェダー

 カマンベール

 ゴーダ

 パルメザン


 信じがたいことに、スティルトンの魔力指数は上がらなかった。これまで数多の生命を無に帰してきたのだ、……たかが一人の死では。


「スティルトン? 何か知ってるの? “自殺”としか聞いてねーんだけど、ボクたち」


「うるさい」


「チッ……ま、いいけどね。HAHA」


 遺された少女たちは、呆然と立ち尽くしたままその事実を噛み締めた。その感情に悲しみや不安がよぎって初めて、ロックフォールの存在がいかに大きかったか思い知った。


「どうして……」


「エメンタール、深入りはやめよう。……悲しいけど、こんなこともうないから大丈夫だよ」


「その保証はどこにあるの? 笑わせるわね」


「何、文句ある?」


 ゴーダが小さく口角を上げた。チェダーの発言をただの戯言だと言うように。ゴーダは自身の縦に巻いた髪を二本揺らし、カマンベールの方を向く。


「“こんなこと”、まだあるかもしれないのにねぇ?」


 あからさまな挑発。カマンベールは彼女を睨み、淡々と答えた。しかし、そこには明らかな敵意と黒い殺意が放たれていた。「…………そうですね」


「お前らッ……!」



「そこまでにしてくれないか」


 刹那、空気が張り詰めた。白いナイフのような声が、博物館ミュージアムを切り裂くようだった。「……黙ってくれ」


 …………。



「……すまないな、みんな。















私はもう、ここにいる資格はない」



 …………!?


「はっ……?」


「五味には、スティルトンは抜けたと言ってくれ。



……さよなら」


 踵を返し、地上への階段を上った。



「待って、本当に何が……!」「くれぐれも!」「……!」



「悪いなゴーダ、みんなも。何があったかは、彼女の尊厳に関わる。だから、言えない。










……くれぐれも、むやみに素性を明かさない方がいい。ギアーズは、そういう者の集まりだ」


棚畑喜丞‐【スティルトン】 17歳

魔力指数は83311。

たなばたきじょう、と読む。

国家管理局が起こるきっかけとなった災厄・交響曲シンフォニーの発端となった人物と血縁関係。本人は「棚畑姓」というだけで、災厄には関わっていない。生まれてすらいない。

漢徒羅教のカルト教団「カマドウマ」を統べる。初代教祖が棚畑姓を持つため、喜丞も同様に教祖として扱われる。

指扇捷子の死を経ても、その死生観は変わらない。十年以上築き上げてきたものがそう簡単に崩れるわけがない。不幸にも。

彼女と共にいた信者たちは、もう救われてしまった。たった一人となってしまった神は、どこへ行くのか。

コアの色は赤。数珠として携帯している。武器は赤いチャクラムと、戦闘時に背中から生える数多の手。

つよい。

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