ラプチャー14
「あの二人はどうなっちゃいましたかねえ……キナバがそう簡単に死ぬとは思いませんけど」
「そうねえ……。私たちだってそこまでは監視できないもの。二人とも生きててもらわなきゃ困るわ、人手が足りなくなったらどうしましょ?」
「キナバくらい消えたっていいですよぉ! あのカルトは厄介ですし。不健康の塊みたいで……」
国家管理局・局長室。
天鵞絨のカーテンが窓を覆い、外からここを遮断した。局長カンラクの座る革張りの大きなチェアが軋む。その前にはモニターたちが並び、青く仄かな光で彼女を照らした。
その隣には、五味うずら。相変わらず、ハート型の眼帯でその右目を覆っている。モニターが映す地上は、灰を被ったような無機質なビルの群れ。それは海のように続いていた。
「ソウルネームはプライバシーの保護のため。上手い嘘をよく思いついたものだわ」
カンラクがため息を漏らした。一見呆れているようだが、実際はこの状況を楽しんでいる。まるでボードゲームの試合を眺めているように。
「本名なんてバラしたら、対立する組織の組員同士が内戦するに決まってますからねぇ。まあそれもただの時間稼ぎであって、結局毎年バレちゃってますが……」
「仮敷島とスパーラは要注意ね」
「ですね。指数が高い人は人を殺しがちです、あはは。……ああ、指扇も!」
「……ところでイツミ。先月の犯罪数は?」
「十三件です! 自殺教唆はゼロですねぇ、信仰ってコワーイ!」
ケラケラと笑い声が響く。一面黒く塗られた壁に反射したあと、空気に溶けた。余談だが、現代では信仰の自由が大いに認められるようになった。ひと昔前まで宗教は「なんか怪しいもの」というイメージが蔓延していたが、今の日本では初詣に行く人すらも減少したという。
「十三……十三ね」
「はい! 悪魔のナンバー!」
「そうねぇ。いろんな説があるけど、なかなか不思議よね。その前の十二はあんなに親しまれているのに」
「たしかに……。十二か月、十二支……あ、一ダースも十二個ですね!」
「……何か起きそうね」
ふふ、とカンラクは小さく口角を上げた。浅蘇芳――灰がかった紅色のゆるやかな髪が揺れる。それに合わせて、うずらの切りそろえられた黒髪も弾んだ。
「局長は、もうギアーズと顔は合わせないんです?」
「難しいでしょうね」
「後輩じゃないですかぁ! いろいろ伝授とかなさったらいいのに!」
「…………」
軽快な言葉交わしが途切れた。闇夜に包まれたように、沈黙が続く。カンラクは椅子から立ち上がり、着ているシャツを整えたあとうずらに踵を返した。
「私のと彼女たちのはめっきり違うのよ。あの子たちは全部あなたに任せたんだから」
顔認証キーのロックを解除すると、漆黒のドアがスライドした。僅かな冷気がこちらにまで漏れてきたが、カンラクが出たあとドアはすぐ閉まる。
その様子をきょとんと見詰めていたうずらは、やがてヘラリと諦めたように笑った。
「……はあい」