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ラプチャー13

 幼い頃から、機械のように生かされていた。


 物心ついたときには、母を親ではなく上司として見ていた。


 指扇姓を持つ子供たちが、米国で鍛えられ一流の雇われ兵として熟される。毎日の訓練は最初こそ地獄だったが、慣れてしまえば呼吸と同じになった。

 それはもはや成長ではなく、生産と言った方が正しい。


 ロボット兵たちは、見知らぬ雇い主のために命を懸けて命を滅ぼす。同じ服、同じ目、同じ髪色。血と鉄と土の匂いが混ざった空気を吸い続けた。花の香りなど、知らない。


 しかし、不良品は人の心を手にしてしまった。


「っ…………!」


 劈くような換気扇の音。そこに耳鳴りも交わり、動悸が速まった。冷えた汗は頬を伝い、アスファルトをポタリと濡らした。それは本当に汗なのか、それとも涙なのか。


 蒼い光が少女を包み、彼女は戦闘衣装の軍服を纏う。その前には操作台と、たった六輌の小型戦車。


「キジョウ……私は、君をバケモノとは思えないッ……だから、」


 初めて笑ったのはいつだろう。

 初めて笑わなくなったのはいつだろう。

 初めて人を殺したのはいつだろう。

 初めて人を殺すことをやめるのはいつだろう。


 彼女のドッグタグ――コアが、よりいっそう光を放った。それは残り二つのタグにぶつかり、乱反射する。水面のように青く、水底みなぞこのように冷たい。


「ショーコ……!」


 小さな戦車が、六つからその倍に増えた。捷子は胸元のタグを握りしめ、目が血走りそうなほど意識を集中させた。呼吸は荒く、体は凍えたように震えている。いわば、限界までの力。

 砲台は全車輌、


























 捷子に向いていた。


 十二車輌が、彼女を囲んでいる。


「ショーコ、一体何をっ……!」






「私が報われる……唯一の方法だ。













――――――撃て」



 砲、砲、砲砲砲砲砲…………。


 豪雨のように、少女へ弾が放たれた。止むことを知らないそれは、喜丞の声すら掻き消した。汚れた煙が高く広がりだす。


 飛び散る真っ赤な珠は、蒼の空間を一気に塗りつぶした。それはまるでニルヴァーナのようだった。

 鉛たちは捷子の鍛えられたからだを容易に打ち砕く。頑丈な義足さえ、粉のように散った。

 

 天井の人工灯は衝撃で割れ、サラサラと降り注いだ。しかし奥の楼閣は依然として聳え立つ。それが何を意味するのか、喜丞には考える余裕がなかった。


 同じ服。

 同じ目。

 同じ髪色。


 今ここで、指扇捷子は唯一無二の存在となった。

たった十七年の人生が、走馬灯として視界に映る。


 ――――……捷人ハヤト風身カザミ。ようやくわかったよ。



 ――――……お前たちのところに行くのが、最善だって。



 ――――……もっと早く気がつけば、











 ――――こんな苦しまずに済んだのにな。


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