5 とあるメイドの篭絡講座
前回修行パートとか言っちゃいましたけど次回になってしまいました。
これも全てシアがメイドの一人を篭絡なんかしてるから悪い。
決してボクのせいではありません。
次回こそ、修行パートです。
なるべく説明回っぽくならないようにテンポ良く書いていきたいと思います。
・・・できるかなぁ
※タイトルをシア流の頼み方からとあるメイドの篭絡講座に変えました。
「いけません、シア様」
それは問答無用の却下であった。
色々とあった一日を終え疲れていたボクは気絶するように眠り、この世界には目覚まし時計というものがないので仕方なくアラームという自分の決めた時間に音が鳴る魔法を使って(恐らく本来は冒険者が定刻を知らせたり、自分の場所を伝えるための魔法)起きたボクは何故かボクの部屋の前に立っていたエリスさんに今日から森へ通いたいという事を伝えたのだ。
正直魔法を使えばどうとでもなったのだが、この屋敷にもボクの事を心配してくれる人がいると知った今わざわざ心配をかけるようなことはしたくなかった。
なので素直にお願いしてみたのだが・・・結果は見事にNO。
見事に撃沈していた。
しかし、ここで挫けていてはフィアさんとの約束を破ることとなる。
そして何よりボクの自立大計画が台無しだ。
ここは何としてもクリアしておきたい関門であった。
「あの、本当にお願いします!ボク、近いうちにこの屋敷を出て自立したいんです・・・そのために行かせてください!」
「ですが、シア様の身に万が一何かあれば・・・私は勿論、シア様を見守るか、んんっ!!あのメイド達も大層悲しみます。どうかお考え直し下さい」
ん?今一瞬変な単語が出たような気がするんだけど。
気のせい・・・だよね。
そのことはちょっと怖いので置いておくとしても、だ。
このまま問答していても埒が明かないような気がしてきたな。
ここは、あんまりしたくないんだけど日本にいた頃に妹にどうしてもな時のお願い方法でいくしかないか。
実際妹相手なら効果は抜群のはずだ。それがエリスさんに通用するかは分からないけど、やってみる価値はあるはず!
少し考えていたために俯いたボクを、ようやく諦めてくれたのかと満足気に見ていたエリスさんに対し、古武術の縮地法を使って瞬時に近づいたボクはそのまま背伸びをしてスッとエリスさんの耳元へ口を寄せると囁くように言った。
「ね・・・、お願い、エリス」
「・・・・ッぅ、ひゃっひゃぃ・・・」
すると何という事でしょう。
いつもはしっかりとしたお姉さんな雰囲気のエリスさんが顔を真っ赤にしてへたり込んだではあ~りませんか。その表情は何とも・・・って、もしかして気絶しちゃってる・・・!?
確かに、この技は普段冷静沈着で一度ダメといったら譲らない過保護な妹に対して、何とかして許可を取れないかと模索し続けた末に見つけた最終手段ではあったけど。
あれぇー?妹にやった時はこんなにはならなかったんだけどな。
まぁやったが最後、妹にも「・・・それはズルいです、兄さん・・・」って言われることなるんだけどね。
まぁそんなことよりだ。流石に気絶したまま放置は不味いだろう。
そう思ったボクは取りあえず目を覚ますまで待ってあげることにした。
そして改めてお願いすることにしよう。今度は普通に、ね。
そうして待つこと数分。
ようやく彼女は戻ってきた。目は虚ろな感じだったけど。
なので、今一度お願いしてみることにする。
正直、これでもダメだったら割と八方塞がりである。・・・少ないな、ボクのボギャブラリー。
「コホン。んと、森へ出かける許可をいただけますか、エリスさん」
その一言でようやく目の焦点があってきたエリスさんは言った。
「はい・・・。勿論でございますぅ・・・。シア様の邪魔をする者がいればこのエリス、命をかけて阻止いたしますのでご安心くださいぃ・・・」
と。
あ、駄目だこれは。効果ありすぎ。
さっきと言ってることが正反対なのになんか凄い幸せそうな顔してるんだもん。
「あぁ、やっぱりこの技は最終手段にしておこう」と心に誓った瞬間だった。
とにかく、理由や経緯はどうであれ心配されていた森への出入りに関しての許可がアッサリと下りたボクは気兼ねなく出掛けられることになったのだ。
自由を勝ち取るとは素晴らしい事である。やり方がやり方だけども。
しかし流石にボクにもしものことがあった時、連絡がつかないのは彼女達の立場上まずいだろうと思ったので、鈴にアラームの魔法を掛けておき、音が鳴る条件をボクの発する専用の魔力を感知した時にしておいた。それだけでなく一度音が鳴った後はボクに近寄る度に音が大きくなるようにも設定しておいたのでこれでボクに何かあった時にすぐ知ることができるだろう。
本来はこういったことをするのも彼女達メイドの仕事だと思わなくもないけど、今回はボクの私情によるワガママだし何より目の前にいるエリスさんはまだ陶酔状態から回復してないからね。
「それじゃ、いってきます」
こうして、自らの自由と彼女達の立場もある程度守る事に成功したボクは笑顔で森へと歩いていくのだった。
―――☆―――☆―――☆―――
「あら、意外と来るのが早かったわね」
先日会ったフィアさんとは場所の指定はしてたけれど特に時間の指定はしていなかった。であるなら早く行くことに越したことはないだろう。
そう思ったボクは最短の距離で昨日ボクがお世話になった森の中央部から少し外れたところにあるフィアさんの家付近まで来たのだが、どうやらフィアさんはボクが来るより前から待っていたらしい。
スルリと軽い身のこなしで登っていた木から降りた彼女はそう言ってボクに近づいてきた。
「すいません。お待たせしちゃいましたか?」
「いえ、別に時間は決めていなかったんだもの。構わないわ」
一応謝っておいた方がいいだろうと思い謝罪したのだが返ってきたのはなんともまぁ大人びた返事が返ってくる。
この子は本当に十二歳かと言いたい。
まぁ他の人から見るとボクも相当大人びているように見えるとは思うので人の事は言えないけど、彼女も相当なものだ。
それとも種族名に「エルフ」とつくだけで人間族の同年代の子達とこんなに差が出るものなのかな?
そうであるなら何て理不尽な種族なんでしょう。
「さて、今日またここに来てもらったのは昨日の話しにも出ていた『精霊』についての話しよ」
ボクが密かにそんなことを思っているとはかけらも知らないフィアさんは変わらない調子で話を続ける。
「そういえば、言ってましたよね。ボクの周りに精霊がとか何とかって」
確かに昨日の話しで『精霊』とか『精霊の目』とかって単語が出ていた。
日本ならば多少聞き覚えのあるような単語だけど、こっちの世界では文献にも載っていなかったからそれらが何なのかはボクもよく分かってはいない。
「そう。昨日確かにあなたの傷を癒すきっかけを作ったのは私だけど、正確に言えば直接あなたの身体を癒したのはあなたの周りにいた精霊よ」
「ボクの周りにいた精霊・・・?」
「精霊というものをまず知らないみたいだし、小難しい話をするよりも実際に見せたほうが分かりやすいかしら」
そう言って片手を上げたフィアさんの手から、パッと炎が上がる。
日本を基準に考えればとても考えられないような現象が起きている事になるが、魔法というものがあるこの世界ではそう珍しい事ではない。
かくいうボクも、簡単な魔法なら威力を殺すことで無詠唱に出来なくはないので本来ならそこまで驚くことではないのだけど・・・。
(・・・魔力を感じない・・・?)
そう、今もなお炎を出したままのフィアさんからは魔力を感じないのだ。
通常、魔法を使うには当然魔力を消費して行使する必要があるのだが、その際に出る魔力をまったく感じられない。
これはどういう事なのでしょう?
キョトンとしたボクの顔を確認した彼女は、まるでドッキリが成功した子供のような顔で微笑んだ。
あぁいや実際まだ子供といっても過言ではない年齢なのか。
「フフ、どうやら本当に精霊については知らないみたいね。あなた、どうやら魔法に関しては私よりも優秀そうだし一本取ったみたいで気分がいいわね。いいわ。改めて精霊についてと・・・今使ってる精霊術について教えてあげる」
こうして、ひょんなことから精霊について知ることになるのだった。
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