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第六話

 ジャイアントゴーレムを退かさない限り上層へと続く階段へ辿り着くことは出来ない。

 どうにかしてジャイアントゴーレムを退かさないといけない。


 伊織がジャイアントゴーレムに背を向けて走り出すと、それを追うようにジャイアントゴーレムも地響きを鳴らしながら歩を進める。

 ジャイアントゴーレムは完全に伊織を殺すつもりでターゲットしている。


 倒す必要はない。

 幸いなことにジャイアントゴーレムは動きが鈍い。迷宮内を駆け回って奴を撒き、上層へと逃げればいい。

 今ここに、伊織とジャイアントゴーレムによる命を賭した鬼ごっこが始まった。




「いやぁほんと死ぬかと思ったぜ。助かったぜ、浩平!」


「拓真が無事で何よりだ。あいつもたまには役に立つんだな」


 げらげらと笑っている二人は、ジャイアントゴーレムから逃れ城へ帰るべく迷宮を歩いている勇者の二人――田辺と小野だ。

 クラスメイトを犠牲に生き延びたのにも関わらず、二人はまるで悲しむ素振りがない。


「いい加減にしなさい! 私達は……有村くんを見捨てて来たのよ!」


 そんな二人の態度に耐えきれず、怒声とも呼べる声を上げたのは有栖川だった。

 二人を睨みつける有栖川はいかにも怒っていますという風で、今にも頭から角が生えそうだ。


「そ、そんなに怒るなよ。大体見捨てたのは有栖川だって一緒じゃないか」


「そうだ。有栖川だって同罪なんだよ」


「ならどうしてあの時行かせてくれなかったの!?」


 伊織の目からはあっさりと上層へと上がっていたかのように見えた勇者達だが、しかし実際は違っていた。

 ここに来てから何度か伊織と話をしていた有栖川は伊織のことを見捨てることが出来ず、それは優しさの塊である姫宮も同じようで二人はどうにかして伊織を助けようとしていた。

 有栖川は小野を止めきれなかった。力を持たない伊織が囮となっては生きて帰ってこれる可能性はない。

 どうにかしてジャイアントゴーレムの気を引こうと考えていた二人だが、どうしても名案が浮かばなかったので遂には伊織と共に囮役を引き受けると言ったのだった。


 当然、進藤や小野、ヨハンはそれを良しとしなかった。

 確かに運が良ければ全員生きて帰ることが出来るだろう。伊織が助かる可能性も生じる。

 だがそれ以上に危険なのだ。


 ヨハン曰く、迷宮は内部の構造を定期的に変えるが、同じ階層で道が繋がったことは一度もないらしい。

 ここまで探索を続けた彼等だが、事実奥へと進む階段がある道以外は全てが行き止まりであった。

 あの状況で田辺が逃げるには、誰かが囮になるのが最善策だったと語るヨハン。そして、その役目に相応しいのが伊織であることも説明した。

 

 しかし、それで納得する有栖川と姫宮ではなかった。

 今にも飛び出そうとする二人を羽交い締めにし、無理矢理階段を上り迷宮をしばらく進んだ所で二人はようやく大人しくなり、今に至る。


「ヨハンさんだって言ってただろ。あの状況で拓真が逃げるには、誰かが囮になる俺の策が一番だったって」


「そうだぜ。俺は助けて貰った身だけどよ。正直勇者の俺が死ぬより、何もできない有村の奴が死んだ方が誰がどう見てもマシだろ。つーかこういう時に役に立ってもらわ――」


 田辺の言葉は最後まで続かなかった。

 パンッと乾いた音が響く。

 有栖川が、田辺を平手打ちした音だった。


「人の命を天秤にかけるなんて、最低……。そういうこと、二度と言わないで……」


 有栖川の低い声に失言だったと、叩かれた頬を摩りながらごめんと謝る田辺。

 沈黙が支配する空間で、口を開いたのは進藤だった。


「確かに拓真は少し言い過ぎだ。有村の事が嫌いなのはわかるけど、彼が居たから拓真も、俺達も今こうして無事なんだ。それに有村ならきっと大丈夫さ! 逃げ回って助けが来る時間を稼いでるに違いない! 俺達も早い所戻って戦力を整えて、有村を助けに行こう!」


 何を根拠に大丈夫だと言っているのかはわからないが、進藤が言うと妙に説得力がある。

 有栖川も姫宮も進藤の言葉に頷き、早歩きで城へと戻るべく足を動かす。


 しかし、城へと戻った彼等に伊織を助けに行く許可は下りなかった。





「はぁ……はぁ……次の分かれ道は……右だったはず……!」


 命がけの鬼ごっこを繰り広げている伊織は、記憶を頼りに迷宮内を走っていた。

 走っている、とは言っても伊織にとっては走っているつもりだが、その速度はせいぜい早歩き程度だ。

 投げ飛ばされたり、ジャイアントゴーレムにとって吹き飛ばされた伊織は体中に擦り傷や痣を作り、確かなダメージとして残っていて何とか動けるといった状況だ。

 ジャイアントゴーレムの動きは確かに鈍いが、手負いの人間の早歩きでは撒くことができなかった。


 付かず離れずの距離を保ちながら、迷宮を走る伊織。

 思うように体が動かず、走ることができない。当初の予定では奴を撒き自分を見失ったジャイアントゴーレムの脇をすり抜けでもしてやろうと思っていたが、この分では無理そうだ。

 かといって、このまま進んでも十三階へと続く階段があるだけで、その階段を下りた先でも同じように魔物に襲われ伊織の命はないだろう。


「ここを……右に曲がると階段だ……なら、左に……っ!」


 分かれ道にぶつかった伊織。

 最初に来た時はそのまま右へと進み階段へと辿り付いてしまったが、今度は左へと進んでみる。

 運が良ければどこかと道が繋がっているはずだ。


「あれは……部屋? 行くしか……!」


 左の道を進みしばらくして、見えてきたのは小部屋だった。

 ここまで間違った道を進んだ先に待っていたのは行き止まりで、部屋なんてなかった。

 もしかしたら上層へ続く別の階段があるのかも……? と期待を込めて部屋に飛び込む伊織。


「は……ははは……これって……詰みってやつ……?」


 飛び込んだ先に待ち受けていたのは、階段も何もない、文字通りただの小部屋だった。

 後ろから地響きが迫ってくる。ジャイアントゴーレムは、すぐそこまで来ていて。

 逃げ場は、どこにもない。


「なんでこうなっちゃうんだろう、なぁ……」


 絶望が伊織を支配する。

 生き残ってやる、そう決意したはいいが、結局自分から逃げ場のない場所へと来てしまい袋の鼠だ。

 間もなくジャイアントゴーレムがやってきて、あの腕で自分は潰されるのだろう。


 嫌だ、嫌だ、嫌だ――。

 死にたくない、死にたくない――。


 心の中で幾度となく繰り返される言葉。

 しかし、現実は非情である。地響きはどんどん近付いてくる。


 伊織は諦めた表情を浮かべ、部屋の隅に座り込む。

 尻に違和感を覚え、何かあるのかと見てみると錆び付いた剣が落ちていた。


「魔物にやられるくらいなら……」


 怖いけど、自分の手で死んでやろう。

 そう思って伊織が剣を手にしたその瞬間。

 眩い光が部屋に満ち溢れた。

絶望感の描写と言うのは中々難しいですね。

タイトルで絶望を謳っておきながら満足に描写できないのは情けない限りです。

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