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第四話

「折角用意したのだ、ユウキ以外の勇者達も自分の適性を確かめておくといい」


 進藤とヨハンの戦いを終え、力を確かめるという目的を達成した伊織達は現在、リヒターの一言によって適性を確かめるべく武器を選んでいた。

 種類こそ豊富ではあるが、どの種類も一本しか用意されていない為順番に選んでおり、田辺は槍、姫宮が杖、有栖川は弓に適性があったようだ。

 小野はというと名前の通りか、斧に適性があったようでそれをネタに田辺から弄られている。


 最後の一人である伊織は、剣から順番に手に取っていた。

 長剣、大剣、短剣、槍、斧、斧槍、弓、杖など……どれを手に取っても適性がないようで、他の五人のように武器の使い方が分かるということはない。

 そして遂に最後の武器である鎌を手に取る伊織。


「……ダメだ、わからない」


 しかし鎌を手にしてもやはり手応えはなく、用意された全ての武器を手にしても伊織の適性が判明することはなかった。


「ふむぅ……イオリ、だったか。イオリはここにはない珍しい武器の適性なのかもしれんな……」


 そんな伊織を見たリヒターは、フォローするかのように伊織の肩を叩きながら言う。

 確かに、剣を一つ見てもそのカテゴリーは豊富で、短剣やら刺剣、大剣など様々だ。

 用意された武器を見ても全ての武器種が置いてあるわけではなく、比較的ポピュラーな武器が容易されているだけ。

 ここにある武器に適性がないからといって、悲観的になる必要はない。


「もしかして有村、俺達みたいに勇者としての力がないんじゃね?」


「あーあり得るわ。有村って勇者というより村人Aっぽいもんな!」


 しかし伊織を苛めている田辺、小野にとっては伊織を弄る絶好のネタだ。

 ここぞとばかりに伊織に対して心無い言葉をかける二人。

 そんな二人に対し進藤と有栖川がやめろと制止の声をかけるが、彼等は止まらない。


「思ったんだけどよ、俺達の力って武器を手にして使い方を理解したから得た力なのか? 違くね?」


「あー足の速さとかか。確かに武器の使い方を理解するとは言われたけどそれだけだもんな。どうなんすか? リヒターさん」


 田辺と小野の言葉を聞き、考え込むリヒター。

 しかしリヒターの話では前回の勇者召喚は数百年前の話らしい。当然数百年前の話など伝承か、或いは文献として残されているだけだろう。

 考えてもわからなかったようだ。


「勇者についての情報は過去の文献にしかなくてな……。適性武器を手にして力が解放される、というのも無くはないのだろうが、文献には武器の使い方を理解した、としか書いておらん。身体能力については最初から持ち合わせていると考えるのが自然だろうな」


「ならよ有村、お前ちょっくら走ってみろよ」


 リヒターの考えを聞き、田辺が提案する。

 確かに先程進藤が見せた足の速さは、日本では考えられない程の速度だった。走って同じような速度が出せるのであれば、伊織にも力があると証明される。

 何より、ヨハン達騎士も含めた全員の視線が伊織に集まっているので、とてもじゃないが断れる雰囲気ではなかった。


「元々力を持ち合わせている、というのはあくまで私の考えだ。実際は武器によって力を得る可能性もなくはないが……試してみるのも良いだろう。イオリ、あそこまででいい。全力で走ってみろ」


 リヒターが示す地点は、ここから五十メートル程離れている。

 運動が得意ではない伊織にとって五十メートル走っただけでも息が上がってしまう。

 疲れるのが嫌なので断りたい伊織だったが、断れる雰囲気でもないので渋々といった感じで頷いた。


 クラウチングスタート、なんていう格好いい走り出しは当然ながらできないので、そのまま走り出す伊織。

 全力で走っているつもりだが、その速度は日本に居た時となんら変わりない。伊織が指定された地点へと辿り着いたのは、走り出してから十一秒程経ってからだった。


「うわ……おっそ」


「あいつマジで力ないんじゃね?」


 伊織の走りを見て、田辺と小野はにやにやとしながら感想を漏らしている。


「ふむぅ……走りにも変化がないようだな。だが念の為だ、他の勇者達もイオリの居る所まで走ってみてくれ」


 リヒターの言葉に頷き、五人は一斉に走り出す。

 その速度は先程進藤が見せた速度と勝るとも劣らないスピードで、三、四秒程で伊織の居る地点まで走り切る。


「足の速度に変化はあるようだが……イオリと他の勇者達との違いは適性の武器を手に取ったか否か、か……」


 リヒターは六人に戻ってくるよう促し、集まった伊織達に自分の考えと、これからの事を伝えた。


「今のイオリに力がないのは証明された。ということは適性のある武器を手に取った瞬間に力も覚醒する、ということなのだろう。ここにはない武器をすぐに用意させるからイオリは残ってくれ。それ以外の勇者達は色々あって疲れているだろう。部屋へと案内するから各々休息を取ってくれ。食事の時間になったら部屋まで迎えを寄越す。……ヨハン、彼等を部屋まで案内してやれ」


「わかりました」


 案内役を任されたヨハンは、伊織を除く五人を連れて訓練施設を後にする。

 それを見送るリヒターと伊織だが、二人の表情はどこか険しい。


「リヒターさん。僕思ったんですけど」


「どうした、イオリ」


 教室での出来事、そして武器の適性がないこと。

 それらの事実に基づいて、伊織にはある一つの考えが浮かんでいた。


「もしかして僕、勇者じゃないんじゃないかって」


 思い返せば教室で魔法陣によって拘束されていたのは、自分以外の五人だ。

 そして魔法陣も五つ。普通に考えて彼等五人を召喚する為の魔法陣だろう。

 では、伊織はどうだ?


 伊織は魔法陣の上に確かに居た。だが、他の五人とは違い見えない力に拘束されることなく、動くことができた。

 魔法陣から逃れようとした所、転移が始まってしまい今ここに居るが、伊織は田辺の魔法陣によって巻き込まれる形で召喚されたのではないだろうか。


「その根拠は?」


「僕達が居た教室……場所に出現した魔法陣は五つでした。その魔法陣の力によって召喚されたのなら、今ここに六人居るのはおかしな話です。……他の五人は魔法陣の出現と同時に動けなくなったらしいのですが、僕は動くことが出来ました。つまり僕はたまたま魔法陣の上に居たが為に召喚されてしまっただけの一般人なんじゃないかって思うんです」


「なるほど、五つの魔法陣か。召喚魔法を使ったのは私達だが、人数に関しては何人召喚されるのかわからなくてな。ただ召喚魔法は異なる世界から勇者としての素質を持つ者を召喚する、それだけの魔法。だから私はイオリにも勇者の素質があると思っていたのだが……」


 伊織の発言に、どこか納得した様子のリヒター。

 伊織に武器の適性がないのも、超越した身体能力がない事にも納得が言ったのだろう。


「ならば……イオリに戦う力はない。だがかといって、すぐに元の世界に帰してやることも出来ない。元々召喚したのは私達の都合だ。城では丁重に持て成させてもらう。なぁに、五人も勇者は居るんだ。戦いは彼等に任せて、イオリはゆっくりしていればいい。元々、あまり乗り気ではなかったのだろう?」


「それは……そうですが」


「ならば問題はないだろう。イオリに戦う力はないのだ。わざわざ戦場に赴いてその命を散らすことはない。……しかし他の勇者達はもちろん、城の者にはイオリが勇者ではない事を話さねばならんし、召喚された勇者は五人であると、国民にはイオリの事を隠さねばならん。……少々肩身の狭い思いをすることになるかもしれんが、耐えてくれ」


 リヒターの言うことは当然だ。

 結局適性武器はわからず仕舞いでした。で他の五人が納得するとは思えないし、だから城でゆっくりしてますというのも納得はしないだろう。

 だが、巻き込まれて召喚されたと前置きをした上で勇者でないことを伝えれば、同情の余地もあり渋々だろうが進藤なんかは納得してくれるだろう。彼が納得すれば他の四人もそれに従うのが見える。

 国民に隠すというのも当然だ。わざわざ六人召喚されて、一人は勇者じゃありませんでした、なんて説明する必要はどこにもない。

 別世界の住人ではあるが、この世界に来て何の力も持たない伊織はただの一般人なのだ。そんな一般人の伊織が城で丁重に持て成されているという事実が万が一にでも露見すれば、それをよく思わない国民からは不満の声が上がることも予想される。


「わかりました。すみません、何の力にもなれず」


 力がない上に帰る場所もないので城でお世話になるのだ。日本でいうヒモみたいなものである。

 力があっても彼等に協力することに伊織は乗り気ではなかったが、力がないと分かっても伊織を見捨てるつもりがないリヒターの様子を見ていると申し訳ない気持ちが湧き上がってきた伊織は、力になれない事を謝罪する。

 リヒターはそんな伊織の肩を宥めるように叩いた。


「なに、さっきも言っただろう? 元々召喚したのは私達の都合だ。イオリを責める事なんて出来んよ。さ、イオリも部屋に行って休むといい。案内は私がしよう。付いてこい」


「はい……」


 リヒターの後を歩く伊織。

 部屋に着くまで二人の間に会話はなく、ただ先導するリヒターと、それに続く伊織の姿があった。

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