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第二話

 リヒターの後を追い、やってきた部屋は先程までの石造りの部屋とは違い豪勢な大部屋だった。

 五十メートルはあるのでは? と思わせる程の長いテーブルにを囲うようにいくつもの椅子が置かれている。

 テーブルには染み一つない白いテーブルクロスが敷かれていて、非常に清潔感がある。

 また、天井にはシャンデリアが吊るされていて、そこから発せられる光はまるで輝いて見える。

 

「さて、適当に座ってくれ。すぐに茶を持ってこさせる」


 テーブルのちょうど真ん中辺りの席に着いたリヒターに促され、リヒターの対面に進藤が着席する。

 進藤に続くように右側に田辺と小野が、左側に姫宮と有栖川が着席する。

 伊織はどこに座ろうか迷ったが、小野の隣に座るのは嫌だったので有栖川の隣から二つ離れた席に腰を下ろす。

 離れた所に座る伊織を見て怪訝そうな顔をする有栖川だったが、すぐに表情を消してリヒターへと向き直った。


「もう少し慌てふためくものかと思っていたが、存外落ち着いているのだな」


 全員が着席するのを確認して、リヒターが口を開く。

 彼の口元は笑みを浮かべていて、穏やかな表情を浮かべているリヒター。

 そんな彼の発言に一番最初に反応したのは、やはり進藤だった。


「まさか。俺も、恐らくはみんなも状況が理解できず頭の中が真っ白ですよ。それで、色々聞きたいのですが」


 伊織以外が進藤の言葉に頷く。

 伊織はというと、壁に掛けてある絵画や部屋に飾ってある壺を見て高そうだなー と一人呑気な様子だ。


「気持ちはわかるのだが、まずは私の話を聞いてほしい。話の中に君たちの問いに対することが含まれているだろう。その話が終わった後でまだ疑問に思うことを質問して欲しいのだが、それで良いかな?」


 彼は恐らく自分達がここに連れてこられた理由等を話すのだろう。

 彼の言葉通り、まずは話を聞くべきである。


「わかりました」


 返事をしたのはまたも進藤だ。

 しかしそれに反対する者は居ない。伊織も含めた全員が彼の言葉に頷く。

 その様子を見ていたリヒターが口を開こうとしたその時、扉をノックする音が聞こえる。


「どうやら良いタイミングで茶が入ったようだ。……入れ!」


 リヒターの許可が下りると、一拍置いて失礼します、と女性の声。

 そしてゆっくりと扉が開かれると、お盆を持ったメイド服の若い女性が二人部屋の中へと入ってくる。


「うおおおおお、メイドだメイド! しかも胸が……!」


「あぁ……ありゃメロンクラスだ……! しかもこの人達、どっかの喫茶店と違って本物か!」


 興奮した様子の田辺と小野。


「か、可愛いなぁ……」


 と目をキラキラさせている姫宮。


 一方で伊織はというと、可愛いメイドさんだなぁとか、胸が大きいなぁと口にはできない事を思っていた。

 伊織も年頃の男性である。女性の胸に目が行ってしまうのも無理もない話だ。

 寧ろ田辺達と違い興奮を顔にも態度にも出さないのは褒められるべきだろう。

 有栖川が田辺と小野に蔑むような視線を送っているのを見て、伊織は自分があまり表情に出ないタイプで良かったと安堵していた。


「失礼します」


 そう言ってお茶をテーブルに置くメイドに対して、各々礼を述べる。

 男子二人は案の定、お茶を置く際に近付いたメイドの胸を凝視していた。

 女性は男性の視線に鋭いという知識だけはあった伊織は、胸を見ないように置かれたお茶を見ながらありがとうございます、と礼を言った。


「ははは。勇者殿の世界ではメイドというものはあまり見られないもののようだな。茶の方も来客用に取り寄せた高級な物だ、味は保障するぞ」


 そんな彼等の様子を見ながら口を開いたリヒターの顔はどこか楽しそうな様子である。

 お茶を一口飲むと、うまい! とメイドにもう一杯持ってくるように声をかけていた。


 リヒターに勧められ、お茶に口を付ける六人。

 日本のコンビニで売られている安いお茶とは次元が違うようで、一口飲むと目の色を変えて、そのまま一気に飲み干した五人。

 伊織も確かに美味しいとは思うのだが、あまり味の違いが判らないので一口飲むとテーブルの上に湯呑を置いた。


「気に入ってもらえたようで何よりだ。すぐにもう一杯持ってこさせる。……さて、緊張も解けたようだし、真面目な話をするとしよう」


 リヒターの言う通り、すっかりと緊張が解けていた彼等。

 リヒターの気の良さやお茶の美味しさ、それにメイドですっかりと緩まっていた彼等だが、現在の自分達の状況を思い出したのだろう。崩れていた表情を引き締め、真剣な表情を浮かべる。


 リヒターの口から語られた話は、まるでゲームのようにファンタジー溢れる内容だった。


 この世界、イシュファルテと呼ばれる世界は現在、魔物と呼ばれる存在が活発な動きを見せている。魔物とはかつて存在した魔王に従えていた異形の姿をした生物であり、その多くは謎に包まれているらしい。

 ここ最近、魔物による被害が異常なまでに増しており、数百年前に倒された魔王が復活したのでは? と危惧され、それに対抗するために伊織達を召喚したこと。


 元の世界に帰す魔法はあるが、消費する魔力が甚大で最低でも一年は元の世界に帰れないこと。

 これに関しては魔法の扱いに関して精鋭も精鋭な超エリート集団と魔石と呼ばれる魔力を持った石を何十万と消費する大がかりな魔法になるため、すぐに用意することができないらしい。なんでも伊織達を召喚する準備に半年以上を費やしたとか。


 そして異世界から勇者として人を召喚するのは、実は数百年前にも行われていたこと。

 その時の勇者達が自分達と同じ国の出身なのかどうかはわからないが、彼等は魔王と戦い、魔王を倒したらしい。


 そして最後に、異世界から召喚された勇者はこの世界の人々を凌駕する圧倒的力を持っていること。

 恐らく伊織達も例外はないだろうとリヒターは語った。


 早い話が魔王が復活するかもだから勇者召喚して何とかしてもらおう、ということである。


「自分勝手な話で君たちを召喚したのは申し訳ないと思っている。だがしかし、私たちとて必死なのだ。私は王として、この国の人々を守らなければならない。だがしかし、もし本当に魔王が復活するのであれば……今のこの国の戦力ではとてもじゃないが対抗しきれないだろう。だからお願いだ、私に……この国に、いや世界に。力を貸してくれ」


 そういって頭を深く下げるリヒター。

 はっきりいって伊織は内心怒りで震えていた。

 勝手に召喚した挙句、何の関わりもないこの世界の為に戦えというのはふざけた話である。

 どうやら有栖川も同じようで、膝に置かれた手を握りしめぷるぷると震えている。

 

 リヒターの話を聞いて、やはり最初に口を開いたのは進藤だった。

 伊織や有栖川同様にふざけた話だとリヒターを非難するのだと思ったが、どうやらそうではないようで。


「そこまで言われたら断れません。俺達がどれだけの力を持っているかはわかりませんが、やれるだけやってみようと思います! みんなも同じ気持ちだよな?」


 立ち上がり、何故かやる気満々の表情でガッツポーズをしている進藤。

 それはお前だけだよ、と内心で毒づく伊織だったが、田辺と小野が立ち上がり、進藤と同じようにガッツポーズを取る。


「あぁ! やってやろうぜ! なんだかゲームみたいだし、それに俺達は強いんだろ? やってやろうぜ!」


「俺達でこの世界を救おうぜ!」


 男子三人が拳を合わせる。

 有栖川と伊織は何言ってんだこいつら、という表情で三人を見ている。

 姫宮はというと、不安げな表情で彼等を見ていた。


「でも……戦うってことは、死んじゃうかもしれないんだよ? 私、怖いよ……」


 今まで戦争とは無縁の生活をしていたのに、いきなり戦えと言われのだ。無理もないだろう。

 そんな姫宮に進藤はきらきらとした笑顔を浮かべながら姫宮の手を取った。


「大丈夫だよ、華。華を危ない目には合わせないさ。俺が守って見せる!」


 誰もが認めるイケメンの進藤にそんなことを言われた女性は心をときめかせてならないだろう。

 例に漏れず姫宮も顔を赤らめている。その表情は先程とは違い、どこか安堵したようだ。


「勝手なこと言って……こういうことはゆっくりと話し合うべきだと思うのだけれど。それに私は反対だわ。要するに私達に戦争しろってことでしょ? 命を落とす可能性も少なくない。元の世界に生きて帰れないなんて、私はイヤよ」


 どちらかと言えば反対よりだった姫宮が進藤の手によってあっさりと陥落したので、明確に反対の意思を示す有栖川。

 彼女の言う通り、戦うにしろ戦わないにしろ今ここで二つ返事で了承するのは良くないだろう。何せ、戦争とは命を賭した戦いなのだ。


「雅……大丈夫だ! 俺達は強いらしいし、女の子である華と雅に傷なんて付けさせない。俺達が守ってみせる!」


「過去に召喚された人がそうだっただけで、まだ私達が強いと決まったわけではないのよ?」


「それは……だが俺達が例外っていう可能性の方が低いだろう?」


「どうかしら? 試してみない事には何とも言えないわ」


 確かに進藤達は自分達が強いことを前提に話を進めているが、まだ実際に戦ってみたわけではないのだ。

 有栖川の発言は最もである。


「なら雅は、俺達が強いってわかれば反対しないんだな?」


「もし本当に、相手が文字通り相手にならないくらいの強さを私達が持っているのであれば、ね」


「言質は取ったぞ! なら俺達が強いのかどうか、試してみようじゃないか!」


「……どうやって?」


「さっき鎧を着た人達が居ただろ? あれっていわゆる騎士って人達だと思うんだ。あの人達相手に戦ってみればいい!」


 進藤の発言に呆れた表情を見せる伊織。

 確かに先程の人達は、まるで騎士のような見た目をしていた。

 しかしもし本当に騎士なのだとしたら、日頃から鍛錬を積み、恐らくは魔物相手に実戦も行っているだろう。

 言わば戦いのプロとも呼ぶべき人達であり、まともにやれば剣なんて握ったこともないようなずぶの素人である自分達が勝てるわけがない。


 もちろんまともにやればであり、もし本当に自分達が強いのであれば勝てるかもしれないだろう。

 そうでなくとも、リヒターが一言わざと負けるように指示すれば、死闘を演じた末敗北してくれるだろう。

 尤も、演技が下手だった場合は話にならないが……。


「確かにあれはうちの騎士だ。そうだな、強さに関しては実際にやってみるしか知る術はない。やってもらうとするか」


 リヒターはそういうと、部屋の隅で待機していたメイドに準備をするように指示を出す。

 指示を受けたメイドはかしこまりました、と深々と頭を下げると、部屋を後にした。


「準備をするように指示を出したから、すぐに準備が整うだろう。この部屋でドンパチやるわけにもいかないから、普段騎士達の訓練用の施設に移動する。付いてきてくれ」


 そういって立ち上がるリヒターに続いて、部屋を後にする伊織達。

 訓練用の施設、という所に着くまで、六人の間に会話は一つもなかった。

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