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第十三話

「おはようございます!」


 時刻は朝五時を回った所。

 伊織もルシアも突然の来訪者に安眠していたのにも関わらず無理矢理叩き起こされた。


「……エリスか。早すぎないか?」


 朝が弱いわけではないが、かといって寝られるのであれば気の済むまで寝ていたい。

 そんな伊織は気持ちよく寝ていたのにも関わらず無理矢理起こされ、少々不機嫌であった。


「うー……今なんじぃ?」


 まだ眠いのだろう。目を擦りながら体を起こすルシア。

 そんなルシアの問いに対して一人元気なエリスは五時です! と 何故か胸を張って告げる。


「それで? なんでまたこんな早くに来たんだ」


「ここ最近の傾向を見ると、魔物は朝方や昼時など、人々が気を休めるような時間帯に街目掛けてやってくることが多いんです」


 エリスの言葉に、寝ぼけていた頭を切り替え真剣な表情を浮かべる伊織。

 確かに昨日オークと戦った時も、朝早い時間であった。

 起床している人間がちらほらと居るような時間帯や、昼時で気が緩みがちな時間帯に襲撃をかけるのは確かに理解できる。

 夜に仕掛けてこないのは、夜目が利く魔物が少ないからだろうか。


「すぐに着替える。部屋の外で待ってろ」


「わかりました」


 自分達にも被害が及ぶ可能性があるし、何より手伝うと言った以上は一切妥協するつもりはない。

 エリスが部屋を出ると同時に寝間着として買った無地のTシャツを短パンを脱ぎ捨て着替え始める。

 その様子にルシアは赤面していたが、自分のことなど全く気にしていないように着替えている伊織を見て自分が女として見られていないのだろうか? と若干落ち込みつつも同じく着替え始めた。


 着替え終わった伊織の耳に届く衣擦れの音。

 それがルシアの物だと気が付いた伊織は、顔を赤面しながら出来るだけルシアを視界に入れないように部屋を後にしたのだった。




 部屋の外で待っていたエリスと合流し、遅れて出てきたルシアと共に伊織達はメルトレスのギルドへと向かっていた。

 どうやら早朝、及び昼時には依頼を受けた冒険者達がいつでも動けるようにギルドで待機しているとのこと。

 信号機トリオの二人も先に向かったとのことなので、合流しようという話だ。


 ギルドに到着した伊織達を迎えたのは、冒険者達からの厳しい視線だった。

 朝早くから集まり、恐らく食事も摂っていないだろうから虫の居所が悪いのだろうと思った伊織だが、実際は違う。

 ルシア、エリスという絶世の美少女と言っても過言ではない二人を侍らせている伊織に対しての妬みの視線なのだが、当然そんなことには気が付いていない伊織だった。


 信号機トリオのエドガルドとウィル二人と合流した伊織達は、三人から詳しい話を聞いていた。


 どうやら北と南にある街の出入り口に二人見張りが居て、魔物の姿を視認した際は上空へと魔法を放ち魔物の出現を知らせているらしい。

 ギルドの中に居てはその合図が見えないのでは? と疑問を口にした伊織。

 エドガルド曰く、ギルドの近くにその合図を確認し伝える為の伝達役が居るから問題ないとのこと。

 冒険者達が街で待機せずギルドで待機をするのは、街の人々を配慮してとのことらしい。


「朝や昼時に魔物が来る傾向にある、と言っていたが……それは毎日なのか?」


「あぁ。時間こそ一定じゃないが、毎日早朝や昼時に魔物の姿が確認されている」


 一時間程度の誤差はあるが、しかし毎日早朝や昼に分類される時間に魔物が現れている。

 恐らく今日も例外ではないだろう。とウィルが続けた。


「なるほどな……南北と同時に魔物が現れた際はどうしてるんだ? 担当みたいなものは決まっているのか?」


「うん。僕達は北側の担当だよ。といっても、今までで同時に両方から魔物が来たことはないんだけどね。一応、現状の戦力ではどうにもならないと判断した時点で魔法を二回上空へと放つのが増援を要請する合図。……合図こそ決まっているけど、現れるのはゴブリンとかの弱い魔物ばっかりだから一度も使ってないんだけどね」


 パーティ毎に防衛する方角が決まっており、信号機トリオは北側の担当。

 そんな彼等に付き合う伊織達もまた北側の担当と見て良いだろう。


 北側と言えば、進んだ先にはベクラールがある。

 万が一騒ぎを聞きつけ勇者が派遣されてきても困るので、伊織はローブのフードを深く被った。


「どうしてフードを被るの?」


「何となくだ」


 フードを被った伊織に対し疑問の声を投げかけたエリス。

 次の瞬間、ギルドの扉が荒々しく開かれ、肩で息をする男の一言によってギルドの雰囲気が変わった。


「き、北と南、両方で魔物の姿が確認された! い、急いで迎撃に向かうぞ!」


「両方でだと!?」


「くそっ! 魔物共、一体何を考えてやがんだ!」


 男の声を聞き、次々とギルドを出て持ち場へ走っていく冒険者達。

 伊織達も顔を見合わせ、彼等に続き駆け出す。


 メルトレスの街は木の柵で囲われており、北と南に出入り口として柵が開いている。

 それにより、通常では入口から街に入るしかないのだが、魔物相手では柵を破壊され街に侵入される可能性も大いにある。

 とにかく街に近付けさせず迎撃。この戦いでは如何に魔物を近付けさせないかが重要である。


 持ち場である北側の入口へと到着した伊織達。

 彼等を迎えたのは、百は軽く超えているであろう、オークの群れだった。


 ゆっくりと、しかし確実に街へと歩を進めている緑肌の群れ。

 冒険者の間では強敵とされているオーク。

 それが群れを成し街へと侵攻してくるその姿は、冒険者達にとっては絶望の光景。

 その光景を見た冒険者達は、萎縮を超え絶望に陥っており、膝を付いて死にたくないと命乞いを始める者まで居る。


 冒険者たちの士気は最悪だ。

 このままでは、すぐに街への侵入を許してしまうだろう。


「ホーリーランス」


 誰もが絶望に陥り、絶望が満ちた状況で響く、耳当たりが良く心地の良い声。

 その声と共に現れた光り輝く純白の巨大な槍は、オークの集団目掛けて一直線に飛んで行く。

 突然の攻撃にオークは回避することも敵わず、少なくとも十体は槍に貫かれその命を散らしただろう。


「ここで食い止めなきゃ、街の人達が危ないんです。……戦いましょう!」


 未だ数は多いが、しかし強力の魔法の前に一切の抵抗を許されず散ったオーク。

 その光景を作りだした少女――ルシアの一言により、冒険者達の士気が上がっていく。


 勝てるかもしれない。生きて帰れるかもしれない。

 冒険者達は立ち上がり、各々自らの得物を構えオークを見据える。

 彼等の瞳には先程までの恐怖の色はなく、戦うという意思が見える。


「やってやるぜ!」


「嬢ちゃんだけに良い恰好させるわけにはいかねぇな!」


「一匹たりとも街に入れるな! 死んでも食い止めるぞ!」


 恐らくは己を鼓舞するための発言だろう。

 しかし、冒険者達のその雄叫びにも似た声は、自分自身だけではなく周りの人間を鼓舞し、周囲の士気を上げていく。


 後にメルトレス防衛戦と呼ばれる戦いが、今ここに幕を上げた。

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