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第十一話

 翌日、朝早くに起床した伊織とルシアは街を出て次なる目的地へと向かって歩いていた。

 目的地はメルトレス。ベクラールから比較的近い場所にある街である。早朝に出発したのもあり昼時には到着できるであろう。

 次の目的である迷宮グレゴワール森林がどこにあるかはわからないが、ベクラールに長居していては勇者と鉢合わせる可能性がある。

 なので伊織達はまずは隣街であるメルトレスを拠点とし、次なる迷宮について情報を収集する予定だ。


「なんか……長閑だね」


「そうだな」


 魔物が活性化している、と聞いていたが二人の旅路は長閑なもので、出発から時間が経っていたが魔物はおろか人とすら擦れ違っていない。

 晴天の中草原を歩いていると、本当に魔物が活性化しているのか? と疑問に思ってしまうほど長閑に感じる。


「ん? あれは……」


 気持ちの良い陽射し、緑一色の草原。

 あまりの長閑さに揃って欠伸をしていた二人だが、遠く離れた先に人の姿を見つける。

 目を凝らして見てみると、どうにも戦闘中のようで剣を振っている姿が見える。

 相手の姿までは見えないので何と戦っているかまでは見えないだろうが、恐らく魔物だろう。


「どーしたの?」


「いや、先の方でどうにも戦闘中のようだ。避けて通るか?」


「えっ! 戦ってるの!? 助けに行かなきゃ!」


 伊織としては面倒事は避けたいし、出来るだけルシアを戦闘に巻き込みたくなかったので回り道でもして関わることを避けたかったのだが、ルシアとしてはどうにも見過ごすことは出来ないようだ。

 気が乗らない伊織だが、駆け出したルシアを見て諦めた表情を浮かべ、ルシアを追うべく走り出す。

 

 距離が近付くにつれ、戦闘の様子が鮮明に映りだす。

 恐らく冒険者だろう。男二人女一人の冒険者達が相手にしているのは、同じく三体のオーク。

 何故迷宮の十三階以降に居たアイツがここに? と思った伊織だが、冒険者達の状況は相手の攻撃を回避するので精一杯という感じで劣勢も劣勢。

 思考を一旦中断し、助けに入るべく魔剣を抜き速度を上げる伊織。


 一瞬で距離を詰めた伊織は、まず女冒険者の前に立った。

 女性も冒険者をやる時代だ。彼女が弱いなどとは思っていないが、それでもまず第一に助けに入るのは女性からだろうという考えからだ。


 突然の乱入者に困惑した様子のオークを、伊織は問答無用で剣で薙ぐ。

 それだけでオークの体は二つに分かれ、緑色の血を吹き出す。


「下がってろ」


 困惑しているのは女冒険者の方も一緒のようで、しばらく伊織をじっと見た後、次に対峙していたオークが一瞬で絶命したのを見て今度は驚愕の表情を浮かべている。

 取り敢えず女性は大丈夫そうなので、残りの二匹のオークを始末するべく同じように割り込み、オークを斬り伏せていく。

 防戦一方といった形が続いていたのだろう。擦り傷などの怪我はしていたが、三人共命に別状はなさそうである。


 冒険者三人は突然の乱入者に対してか、或いはオークを一瞬で倒したことにか、はたまた助かると思ってなかった命が助かったからか。

 その場に座り込み目を丸くして伊織を注視している。


「イオリ、大丈夫だった?」


 やっと伊織に追いついたルシア。息が上がっていることから、少しでも早く助けに駆けつけようと必死に走っていたのだろう。

 そんなルシアの頭を撫でながら、冒険者三人を指で指す伊織。

 彼等が無事なのを確認して安心したのか、ルシアは笑顔で良かった、と呟いた。


「た、助けてくれてありがとう。……あの、君は?」


 三人の内の一人である赤髪の男が恐る恐るといった感じで尋ねてくる。

 助けて貰ったが、しかしオークを一瞬で倒した伊織に対して恐怖心が少なからずあるのだろう。


「通りすがりの駆け出し冒険者だ」


「か、駆け出しにしては凄く強いんだね……ははは」


 伊織の素っ気ない物言いに対して更に恐怖を加速させたのか、青ざめた顔の赤髪。

 そんな彼を見て伊織は、別に取って食ったりしないのに何を怯えているんだ? と内心思っていたが自分が原因とは微塵も思っていないようである。


 改めて助けた冒険者を見る。

 赤髪、青髪の男二人に金髪の女。

 そんな彼等の髪色を見てまるで信号機みたいだな、という感想を抱いた伊織は、心の中で彼等を信号機トリオと呼ぶことにした。


「た、助けてくれてありがとう……僕はエドガルド」


「同じく、感謝する。俺はウィル」


「私からもお礼を言うわ。ありがとう。私はエリス。……あなたが来てくれなかったら、恐らく私達は全滅していたわ」


 恐らく勇気を振り絞ったであろう赤髪――エドガルドの言葉を機に、続けて青髪――ウィルと金髪――エリスが口を開く。


「無事で何よりです! 私はルシアです!」


 未だに落ち着かないようで息の荒いルシア。やはりずっと迷宮に閉じ込められていた故に、体力がないのだろうか。

 一人自己紹介を行っていない伊織に、信号機トリオとルシアの視線が集まる。

 信号機トリオは、みんな名乗ったんだからお前も名乗れよ! とでも言いたげな様子。

 彼等の視線を受け、渋々と言った様子で伊織も口を開いた。


「……伊織だ。間に合ったようで何より」


 伊織のぶっきらぼうな物言いに露骨に顔を顰めるウィル。

 助けてくれたことには感謝するが、その態度はどうなんだ? とでも言いたいのだろうか。


「俺達は先を急ぐ。……行こうルシア」


 そんなウィルの視線に気が付いていない伊織は、早い所メルトレスで情報を収集したかったのでルシアを連れてメルトレスへと向かうべく歩き出そうとした。

 しかし、そんな伊織に対して待ったをかける声。

 声の主は、信号機トリオの中で唯一の女性のエリスだ。


「待って。……もしかして、メルトレスへ行くの?」


「そうだが?」


 彼等もメルトレスへと向かう途中だったのだろうか。

 さっきのオークといい、何やら嫌な予感のする伊織だったが、その予感はすぐに的中する。


「近頃メルトレス周辺では魔物による被害が多発しています。……先程のオークもメルトレスへと向かっている途中のようでした。私達はギルドの依頼でメルトレス周辺の防衛活動に来ましたが、オークが出てこられるとなると私達だけでは厳しい。他にもこの依頼を受けてメルトレスに滞在している冒険者は居ますが、もしオークが群れを成して攻め入ってきたら恐らくは一時間と持たないでしょう。先程イオリさんはオークを一瞬で仕留めて見せました。そんなイオリさんにお願いです。……私達と一緒に、メルトレスの防衛をお願いできませんか?」


 エリスの言葉を聞き、まじかよ……と露骨に嫌そうな顔をする伊織。

 これからメルトレスを拠点にしようとしていたのにも関わらず、そこに魔物の被害が相次いでいるようでは他人事ではない。


「もちろんお礼はします! ギルドから報酬金も出ますので、その報酬の三割……いえ、五割をイオリさんにお渡しします!」


「ま、待ってくれ! そんな勝手に……」


「そうだ。五割も持っていかれちゃ俺達の報酬がだな」


 報酬の話で揉め出す信号機トリオ。

 はぁ……と伊織は溜息を吐いた。受けるにしろ断るにしろ、これでは話が進まない。


「どうする? ルシア。メルトレスじゃない別の街に今から向かうとしても、夕方には着くと思うが……」


 先程のオークでの一件を見て、ルシアの答えは半ば分かり切ったものだったが、一応聞いてみる伊織。

 ルシアから返ってきた言葉は、伊織の予想通りの答えだった。


「……何とかしてあげようよ。イオリなら、何とかできるかもしれないんでしょ?」


「まぁ、オーク程度だったら相手にもならんが……俺としてはルシアが巻き込まれるのは嫌だな。万が一怪我でもしたら堪ったもんじゃない」


「なら、イオリが守って?」


 昨日の夜の一件でルシアに対し特別な感情が生まれていた伊織は、やはりルシアを戦いに巻き込みたくはなかった。

 しかし、ルシアはやはり彼等を、メルトレスの人々を助けて欲しいと願っている。

 どうしたものかと腕を組んで考えいた伊織。だがしかし、ルシアの一言で伊織の思考も、信号機トリオの言い合いも幕を引くこととなる。


「わかりました! 私もイオリも力になります! お金も要らないので安心してください!」


 どこまでもお人好しなルシアである。

 戦場に身を置く以上、命懸けだ。それなのに報酬は不要。

 普通ならば馬鹿の一言で切り捨てられる。信号機トリオもルシアの言葉に言い争いを止め、目を丸くしている。


「……あの、正気ですか? 確かに報酬の話で僕らは揉めてましたけど……かといってただ働きっていうのは……」


「……何を考えている?」


「えっと……ルシアさん? 流石にお願いして戦ってもらう以上、ただ働きっていうのは……」


 報酬の話で揉めていた彼等だが、案の定ただ働きという言葉に突っ込みを入れている。

 ルシアは何かおかしいことを言った? というように首を傾げている。


「……ルシアは冒険者界隈の事は詳しくないんだ。それは俺もだが。……命を懸けるのもそうだし、事が終わった後に対外的にただで働く駒と見られても困る。報酬は二割で良い。あんたらの話、引き受けよう」


 特にお金に困っているわけでもなく、宝石を全て換金すれば文字通り大富豪な伊織。

 なので二割という数字を出したのだが、エリスは納得がいかないようだった。


「し、しかし! 二割でも正直割に合いません! 先程の戦闘を見る限り、もっと……」


「かといってまた揉められてもいい気がしない。二割で不満に思うのなら別の形で返してくれ」


「……わかりました」


 この話は終わりだ、とでも言うように手を叩く伊織。

 報酬などどうでもいい話だし、彼等の手助けをすると決めた以上さっさと片付けて迷宮に関する情報収集をしたい。

 伊織は信号機トリオを引き連れ、メルトレスへと行くべく再び足を動かしたのだった。

導入部が終わり、いよいよ伊織の旅路が始まり。

ヤンデレ要素はもう少し後になります。ごめんなさい。

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