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1-5 変態

 夕焼けに染まる、未使用の教室の中。俺は頭を抱えてうなってしまう。隣にいるのは、どや顔の雪坂さんだ。……彼女を信じた結果がこれですよ。この、どこかずれている彼女に期待しちゃダメだって、なぜそんな簡単なことにも気づくことができなかったんですかね、俺は。


「あの、そのあの……えーっと、なんでしょう、これ」


 勧誘した人をもう呼んであるのよと連れてこられた教室の中。そこで少し待っていると、確かに現れた。まず、目の前にいるのは、気弱そうで断れなさそうな女の子。どうやら雪坂さんに強引に丸め込まれて、今この場にいるらしい。結構かわいい。属性持ちかどうかは微妙だが、押しに弱い、あと見た感じなんとなく天然っぽい。映中 裕音と名乗った彼女は十二分に合格点である。……では、なぜ俺が頭を抱えてうなっているのか。


「へ……変態だ……」

「んだとおらぁ!!」


 そいつの隣に立っている、二人目が問題なのだ。


「誰が変態だ!!」

「お前だよ!! 誰が!! どこから!! どう見ても!!! お前が変態だああぁぁっ!!!」


 二人目の容貌を端的に表すと、すね毛が酷く、短めの髪の女装少年。しかも着ている女子向けの制服は全くサイズが合っていない。更には最悪なことにがたいが結構いい。目の毒だ。精神汚染だ。きっと大人になってもこの光景を思い出して鬱になるに違いない。


「違う!! 悪いのは友利だ!!!」

「あら、心外だわ?」


 しかも責任転嫁まで始めやがった。最低だなこいつ。


「ただ私はあなたの制服を隠して、代わりに私の制服を置いておいただけじゃない」

「いややっぱりお前が最低じゃねーか!!」


 何なのこいつらほんと。そろいもそろって頭おかしい。


「だろ!? やっぱり悪いのは友利だよな!!」

「いや、友利も悪いが、その恰好で一日授業を受け続けるお前もおかしいわ……」


 なんだかもう精神的にどっと疲れてしまって、俺は机に突っ伏した。


「普通、休むか私服着てくるかするだろ……。なんで女子用の制服着てこようって発想に至るんだよ……」

「……あぁ!!」


 納得! みたいな顔をされても困る。馬鹿かこいつ。いや焦ってたからとか言い訳を始めたが、いくら焦っていたとしても女子用の制服を着てこようとは思わない。普通は。


「ちなみに説明しておくと、この子は赤鐘 鉄規ちゃん。立派な男の娘よ」

「いや、ねーよ」


 この期に及んでまだ続けようとする雪坂さんにチョップで突っ込みを入れておく。

 しかし……これは、予想以上に雪坂さんの人選はダメかもしれない。映中さんは可愛いのでOKだが、属性持ちとしてはちょっと弱いし、二人目は……変態だし。というか、もう二人目探すの面倒だからこれでいいやと妥協した感じがありありと伝わってくる。このまま彼女に任せていたら、できるのはハーレムではなくネタ集団になりそうだ。いや、狙い通り集まっても、ある意味ではネタ集団には違いないのだろうけれど、俺の満足度に大きな差が出るのは間違いない。

 俺が自分で探すことが出来れば一番いいのだが……しかし、俺には人望が無さすぎるのだ。何故か。入学初日、二日目にやらかしたからだ。弁明のしようもない、完全に自業自得だ。

 まだ、校庭に魔法陣を描いた中二病少女の方が警戒されないに違いない。どっちもどっちだと思うが、どんぐりの背比べだと思うが……それでも、かすかに雪坂さんに軍配が上がりそうなのだ。ならば俺がやることは一つである。ここで、俺と雪坂さんの認識を合わせることだ。


「なぁ、雪坂さん」

「ずっと思ってたけど、友利で良いわ」

「じゃあ友利」

「やっぱりムカつくから友利様に変えてちょうだい」

「友利さん」


 なぜ主従関係でもないのに様付けをしなければならないのか。そういう意思をこめてしばらくにらみ合っていると、あきらめたのか雪坂さんはふぅと小さくため息をついて、「やっぱり友利で良いわ」と言った。


「で、何? 私の人選に感涙にむせぶの? 許可するわ」

「馬鹿言ってんじゃねぇよ」


 どうしてこいつはこう、自信満々でいられるのか分からない。やっぱり、求める人物像に違いがあるようだ。


「友利は、どんな基準でこの人たちを選び、これから先も人を選ぶつもりなんだ?」

「え、面白い人を集めればいいんでしょ?」


 ほら、やっぱり違う。


「なんでだよ!」

「属性持ちって言ったら……ツンデレとか、ぼくっ子とか、中二病とか、アンドロイドとか……ほら、もれなく面白いじゃない」


 いや確かに面白いが。しかし、それだけじゃダメなんだよ。


「友利、いいか? まず、絶対条件として、女の子であること。可愛いこと。これは必須だ。その上で、属性を持っている子が望ましい。第一条件に、面白いことを持ってきてはいけない」


 鉄規を指さし、言い放つ。


「そんな基準で選ぶから、こんなの連れてきちゃうんだ!!」

「てめぇこんなのとか言うんじゃねーよ」

「今すぐ拾ってきた場所に戻してきなさい!!」

「俺は捨て犬か猫か!!」


 そんな可愛いものではない。気分的には捨てネズミ……いや、捨てゴキブリぐらいの感覚だ。捨てても三十倍くらいに増えて戻ってきそうだ。ついうっかりそんな光景を頭の中に繰り広げてしまい、俺は吐き気と戦うこととなる。ほんと、奴は精神毒だ。しかもじわじわと長く苦しめるタイプの。


「でも、属性持ちよ? 可愛いし」

「属性はお前のでっち上げだ。というか、可愛い……? ……お前の趣味嗜好に文句を言うつもりはないが、第一条件の『女の子であること』に違反しているだろ。よってどちらにせよNGだ」

「なるほど……」


 難しいわねなんて言って首をかしげる。どう考えても簡単だと思うのだけれど、目が腐ってんのかこいつは。


「分かったわ」


 しかし何とか分かったとの言質はとれた。これでもう大丈夫だろうか。


「ただ、今は一人でも人数がほしいわ。部活が安定するまでは、数合わせに在籍してもらいましょう」

「……」


 別に俺はそこまで部活を作りたいわけではないのだけれど……ただ、友利が、断ったらここまでで手伝いをやめると目で語ってくるので、俺は悩みに悩みぬいた末、諦めた。


「分かったよ……」


 幸先が悪い。映中さんは可愛いが、状況が全く分かっていないらしくおろおろしているし、もう一人はアレだし。まぁしかし、こんなわけで部活を作るために必要な人員は、残り一人となったのだった。


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