1-4 進展
「そろそろ頃合いね」
妹との勝負を勝手に決めたのち、しばらく雪坂さんは以前と変わらずストーカー行為を続けていたのだが、ある日唐突に、朝来るなりそんなことを言い出した。
「彰介君、部活を作るわよ」
「は?」
正直に言おう。真っ先に、何言ってんだこいつはと思った。そして次に、とうとうとち狂ったかと思った。なんで、俺がそんな面倒なものを作らなければならないのだ。
そんな表情をたぶん、鋭敏に読み取ったのだろう。雪坂さんは補足した。
「彰介君の野望を叶えるためよ。人を集めるならば、拠点が必要だと思わない?」
「……あぁ」
頃合いって、その頃合いな。そういえば、俺が雪坂さんに隷属するならば手伝ってもらえるという話もしていたな。……最近振り回されすぎていて、完全に忘れていたけれど。
というか。
「俺、まだお前に従うって言ってない気がするんだけど」
いつの間に俺はこいつの僕になったのか、と思ったら、雪坂さんはそれはとりあえず保留で良いわなんて言い出す。……どういう風の吹き回しだ?
「そうやって、気づいたら契約書にサインさせられてたりする類の話じゃないだろうな」
「私は心から私に仕えてくれる従者しか認めないわ。そんな卑怯なやり方するわけないじゃない」
信用してほしいものだわ、なんて言うが、短い付き合いでも結構わかるものなのだ。こいつは頭から疑ってかからないとダメなタイプの人間だ。
疑いの目を向け続けていると、ややあって彼女は大きなため息をついた。
「……確かに、私は自分の利益を第一に考える人間だわ。ぶっちゃけ、利益を確保するためならば、人を騙すのも何とも思っていないタイプの人間よ」
うん、知ってた。だって、うちの妹と似たような雰囲気を感じるもの。
「でもね、だからこそ信じられると思うわ」
「なんでだよ」
「人を集めることが、私の目標でもあるから。要は、利害の一致というやつね」
「なんで人を集めたいんだ?」
そう問いかけると、返ってきた答えは思いがけないものだった。
「大企業の社長令嬢には、いろいろあるのよ?」
「はぁ!?」
大企業の社長令嬢、初耳である。何、そんなとんでもないやつに目をつけられていたのか、俺は。
「まぁ、ぶっちゃけちゃうと、優花ちゃんとの対戦がらみでちょっと人員がほしいだけなんだけどね?」
「大企業の社長令嬢全く関係ねぇじゃねえか!!」
ただひけらかしたかっただけだろと言いたい。
「まぁでも、そっち方面でもちょっと面倒ごとがあってね。まとめて片づけてしまおうかと。どうせだし」
優花との対戦と一緒くたに片づけられる、社長令嬢がらみのいろいろって何だろうか。全く想像もできない。
「まぁ、どのみち信用するしかできねぇからいいんだけどさ……でも、どこから手を付けるんだ? 部活を作るって言っても、いろいろやらなきゃいけないことあると思うんだけど。書類でも書けばいいのか?」
「いいえ、その前に人を集めないといけないわ」
「……ん? 人を集めるために部活を作るために人を集めるのか?」
たどっていったら頭がショートしそうになった。無限ループって怖いね。というか、本末転倒だよな。
「まぁ、その通りなんだけど、部活を作るにも人が必要なのよ。最低五人。とりあえずその人数は確保しなければいけないの。……まぁ、私に彰介君、あと二人ほどはもう見繕ってあるんだけどね」
仕事早いな。きっとこの天性の強引さを遺憾なく発揮して、無理やりうんと言わせたに違いない。……被害者たちに合掌。
「活動は、今日の放課後から始めるわ」
「おう、了解」
まぁ、こうやって付きまとわれ続けるだけで何も進展が無いよりは、多少強引にでも物事が進むほうがマシか。いろいろな面倒なことを考えるのを放棄して、俺はそう前向きにだけ考えることにした。