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1-3 翻弄

 こんなに綺麗な子とこれから先仲良くなれる機会はないかもしれない。しかし、いきなり主従関係はちょっと……、なんて思っていたら、彼女は「しばらくはお試し期間で良いわ」なんてよくわからないことを言って、それからはやたらと俺の近くに現れるようになった。休み時間の度に来るのは当たり前で、体育の時間にしれっと混ざっていたり、気づいたら隣で昼飯を食べていたり。あと、帰り道に気配を感じて振り返ったら、彼女が半歩後ろを歩いていたこともあった。何が驚きって、それだけ近くに寄ってくる彼女の度胸にもびっくりだが、それ以上に、そんなに近くにいたのに十数分もの間全く気付かなかった俺に一番びっくりした。

 そんな感じで、しばらくストーカーも真っ青な接触を受けていたところ……面倒なことになったのだった。



「あなたが噂のストーカーさんね」

「げ」


 やっと家にたどり着いたら、扉の前には小さな少女が仁王立ちしていた。体から放たれるオーラはまるで魔王のようである。


「……誰かしら?」


 今日もまた半歩後ろを歩いていた雪坂さんが、訝しげに俺を見る。


「ここは、この泥棒猫! とでも言えば良いタイミングなのかしら?」

「何言ってんのお前」

「それとも、このハーレムに新たに加わらせてもらうことになりました、って挨拶すれば良いのかしら」

「だからほんと何言ってんの!? 年の差!! どう考えても、そういう関係だったらアウトだろ!!」


 彼女はやはりずれている。


「妹だよ!!」


 彼女の名前は大風 優花、俺の妹である。小学五年生。俺とは色々と真逆の特性を持っているため本当に血が繫がっているのか疑問に思うことは多いが、一応実妹だ。


「……妹に手を出すのはどうかと思うわ、私」

「だから何でそういう思考になるわけ?」

「あら、違うの?」


 一ミリたりともかすっていない。


「どうでも良いんだけどお兄ちゃん、私を無視するのやめてくれない?」

「それはこのトンチンカンに言ってくれ」

「何言ってんの。どんな事情があろうとも、悪いのは全てお兄ちゃんでしょ」

「そう言うだろうと思ったよ畜生!!」


 俺の妹の趣味は、兄を虐げる事である。どうして俺の周りにはこんなやつばかり集まるのか。涙が出そうだ。


「で、このストーカーさんは、なんなの?」


 ビシッと雪坂さんを指さして、優花は俺をにらみつける。


「何でこんな面白い状況を報告しなかったの?」


 ほんともう、心の底から腐ってるよなコイツ。


「お前が面白がって余計なことするだろうと思ったからに決まってんだろ!」

「確かに面白がってるし、お兄ちゃんにとっては余計なことをするかもしれないけど。でもね、お兄ちゃん。報連相って知らないの? お兄ちゃんは私に、どんなことでも報告、連絡、相談をする義務があるの。その内容を吟味するのは私の仕事。で、つまらない報告だったらお兄ちゃんを虐めるのも私の仕事。分かった?」

「分かるか!」


 理不尽にもほどがある。


「彰介君の妹なのに、なかなかやるわね……」

「何、今の一連のやりとりのどこで評価したの? あと、優花も雪坂さんの事をただ者じゃないなコイツみたいな目でみるのやめてね?」


 そんな俺の言葉はもう彼女たちの耳には入っていなかった。すすっとお互いに歩み寄り、勝手に自己紹介を終わらせ、そして二人だけの世界に入ってしまった。なんだか会話の中から拷問、とか絶食、とか恐ろし気な単語が聞こえてくる気がするが、きっと気のせいだ。気のせいに違いない。……気のせいだったらいいなぁ。

 ゴニョゴニョ喋っているので細かいところは聞き取れない。そのため、はたから見れば仲良しな二人組が世間話をしているだけにしか見えない。……だが、俺には分かる。実際はとてつもなくえげつないことを話しているということが。この二人をくっつけて、普通の会話が生まれるわけがないのだ。生まれるのは、なんか……そう、世紀末的なアレだ。

 関わるのも嫌で放っておいたら、そんな感じで五分くらい話し続けていた。そしてそののち、不意に彼女たちはガシッと手を組んだ。何をわかり合ったのか知らないが、やっぱり関わり合いになりたくない世界である。こっちにとばっちりが来ないうちに逃げよう。家の中にこっそりと逃げ込もうとしたら、襟をつかまれ阻止される。


「お兄ちゃんにも関係ある話だから」


 ナンダッテ?


「勝負方法等の細かい内容は後で提示させてもらうわ。……決して後悔させないから、期待していてちょうだい?」

「うん。楽しみにしてるね」

「これで勝った方が……」

「お兄ちゃんを好きに出来る、ってことだから」


 おーい!? 本人不在で何変な勝負まとめちゃってんのこの二人!? しかも、好きなことって……アレだろ。普通のラノベ的展開だったら、一緒にデートに行こう! とか、そんなところだろうが、こいつらにはそんなあまーい展開は期待してはならない。友利が勝ったら確実に隷属させられるだろうし、優花が勝ったら……それはもう想像もできないえげつないことをさせられるに違いない。

 つまるところ、どっちが勝っても俺には地獄が待っているに違いないのだ。


「それじゃあ、日取りが決まったら彰介君経由で連絡するわね」

「うん」


 やはり、この二人が出会ったら面倒になると思った俺の予想は正しかった。しかし、だからといって何が出来るというわけではない。……残念ながら、過ぎた時は巻き戻せないし、こんな化け物達相手に戦いを挑んでも、負けるのは確定なのである。

 後は運命に身を任せるしか、ない。ほんとどうしてこうなった。


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