1-2 隷属
「体育なんて、優雅じゃないわ。だから、私が欠席するのは当然のことじゃない?」
「はぁ」
「だから私、今日は体調が優れないと言って、見事に見学を勝ち取ったのよ」
「そ、そうですか」
「でもね、見学なんて暇で暇でしょうがないのよ。暇すぎてこのままでは干からびてしまうと思った、そんな私の目に、ライン引きが止まったの。そうしたらもう、魔法陣を描くしかないじゃない?」
「……そ、ソウデスネー」
やべぇ。この子、振り切ってる。属性持ちどころの話じゃない。複数属性を重ね掛けしている感じだ。違う、俺が求めていたのはそうではない。属性持ちと言っても、もっとソフトな……そう! 「あ、あんたのことなんか別に好きじゃないんだからね!」みたいな。あるいは、「お兄ちゃん、大好き!」みたいな。……いや、妹属性は、いいや。
しかし、もっとソフトで甘くてミルキーな感じな女の子が良かったんだ。確かに美人だし、中二病だけど、ここまで振り切った子を求めていたわけじゃないんだ。
なぜこんな状況になってしまったか。それを説明するためには、ほんの少し時を戻す必要がある。
放課後、職員室に駆け込み、俺は先生を呼んだ。ぶっちゃけ名前なんか覚えていなかったので、「一の三の五限の英語を担当していた先生!!」と呼んだら、凄い嫌そうな顔で彼は現れた。そして現れて早々、拳骨を落とされた。解せぬ。
しかしめげずに俺は問いかける。「さっきの魔法陣を描いたのは、どこの誰ですか!? というか、女の子ですか、可愛いですか!?」
「落ち着け馬鹿」
またしても拳骨。今日はやたら星が散る。
「女子だよ。かわいいかどうかは知らん。二組の、雪坂 友利だ。……もう、勝手に行って来い」
「ありがとうございます!!」
駆け出した後ろで、教師が「あと、俺の名前は~」とか、なぜか自己紹介を始めていたが、あまり耳に入らなかった。結局教師の名前はわからずじまいだ。
まぁそんなわけで、噂の彼女に早々に出会えた俺は、その美しさに出会った当初こそ浮かれていたが、彼女が一言しゃべればしゃべるほどうわぁと思ってしまう。どうやら俺は、自分で思っているよりはずっと常識人だったらしい。
「何を生気の抜けた顔をしているのかしら?」
「イエ、ベツニー」
「……まぁ、良いわ」
胡散臭げに俺の方を一瞥し、それから彼女は笑った。とても含みのある笑みで。
「ところで、彰介君」
「はい、なんでしょうか」
「私ねぇ。あなたのこと、気になっていたのよ」
「……は?」
急に、ずいっと寄ってくる雪坂さん。なんでしょうか、この、間は。あと少し近づいたらぶつかってしまいそうなくらいに近すぎる間は。というか今、俺のことが気になっていたと言ったか? それってつまり……。
「こ、ここここここ、こく……告白っすか!!!!????」
「違うわ」
一蹴。恥ずかしすぎる。
「いや……確かに、ある意味では告白と言えるかもしれないわね」
なんだそれは。首をかしげる俺に対して彼女は。
「自分だけの、特徴を持った女の子だけを集めたハーレムをほしがっている、彰介君」
「な、なぜそれを……?」
「だって、有名だもの。普通、言わないわよ。心の中で思っていたとしても、実際に口には出さないわ。そりゃあ有名にもなるわよ」
それを言うならば普通の人はいくら暇だからと言って、校庭に魔法陣など描かないと思うが……うん、言っても無駄な人種だな。
「私ねぇ、面白い事宣言する人もいるものだなぁなんて思ったのよ。この退屈な日常の中で、あえて人とは別の道を選ぶその度胸。王たる資格があると、私は思ったわ。英雄色を好むともいうし、納得したの。だから、だからね?」
そして彼女は、クスクスと笑いながらとんでもない提案をしてきた。
「あなたが私に服従するならば、私が貴方の望みを叶えてあげるわよ。私に隷属しなさい、彰介君」
「なんでそうなるんだよ!?」
友達を通り越して、主従関係から始めましょうなんて、必要なステップを二ケタでは効かないくらいすっ飛ばしている気がする。
やっぱり彼女はどこかずれているのだった。