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1-1 中二病

 人生は失敗の連続だという。そして、失敗は成功の母とも言う。ならば、俺が犯した失敗は、ポジティブに考えるならば、人生の中のほんの些細な一ページだし、成功へ繫がっているものなのではないだろうか。いや、繫がっているに決まっている。

 生まれつき持ち前のポジティブを遺憾なく発揮し、俺は即立ち直る。こんな、ぼーっと空を見上げる毎日は大変よろしくない。地に足をつけ、もっと現実的に、俺の夢を達成するにはどうすれば良いかを考えればいいのだ。

 地に足を……?


「……」


 果てしない空から地に……すなわち校庭へと視線を移した俺の目に飛び込んできたもの。巨大な魔法陣、そこにあり。しかも滅茶苦茶凝ったやつ。

 隅っこに、直径十メートルはあろうかという魔法陣が描かれていた。……石灰で。

 なんだ、ありゃ。



「お前はとことん、俺の授業を聞く気が無いらしいな?」


 思わずまじまじと見つめてしまっていると、背後から鬼の声。ギギギと音が出るほどぎこちなく、ゆっくりと振り返る。

 にこやかな笑顔の教師である。先ほどの声との落差が酷い。ここで、そんなに怒っていないようだ。良かったーなんて思えたら、長年馬鹿などやっていない。怒られる機会が多い俺は、いつしか人の表情を見ただけで、その人がどれくらい怒っているかを察する能力を手に入れていたのだ。誰が馬鹿だ。


「あ、あのですね? ちょっと弁明を、聞いて、くださいませんか?」

「許可しよう」


 おぉ、許可が下りた。この機会、逃してはならぬ。


「校庭にですね、巨大な魔法陣があるんですよ。これは凝視してしまうのもやむなしだと思いませんかね?」

「馬鹿か」


 ゴチンと頭上に火花が飛ぶ。校庭を確認もせずにである。どうやら、弁明は聞くが吟味はしないということだったらしい。それって、弁明を聞かないのと何も違いはないのだと思うのだが、どうだろうか。


「アホなこと言ってないで授業に集中しろ」

「いや、本当なんですって!!」


 言葉と目で必死に訴える。その誠意が伝わったのか、


「……正直者にしか見えないとか言ったら、追加で二十回な」


 さらりと不穏当なことを言い、教師はやっと外を見た。そしてそこに広がる魔法陣を見て数秒固まったのち、「お前ら自習してろ」と言い置いて外にすっ飛んでいった。

 ほら見たことか。だから言ったじゃないか、と痛い頭をさすりながら心の中で文句を言う。



「うわ、なんだあれ!」

「変な模様」


 鬼の居ぬ間に洗濯、ではないが、教師が居なくなったとたんに窓際に寄ってくる有象無象。このクラスの生徒達は、野次馬根性丸出しである。

 そんな中、こんな声。


「中二病なんだろ。中学時代に卒業しておけよ」


 ぴきーんときた。中二病、立派な属性である。あの魔法陣を描いたのが女の子で、かつ可愛かったならば、俺のハーレムに入れるのもありかもしれない。確率的には低いが、光明が差した気がした。


「おら、座れ座れ!! 自習してろって言ったろ。なんで立ってんだ」


 これから先の展望に思いを馳せてにまにましていたら、なぜか安心した様子の教師が戻ってきた。窓に集まる生徒達に向かって怒声を浴びせ、生徒達は慌てて自分の席に帰って行く。そうして全員が座ったところで、魔法陣の説明が……。


「では、授業を再開する」


 始まらなかった。


「ちょ、先生!! 結局あの魔法陣はなんなんですか?」

「知るか。今消させてるから、良いだろ。おら、黙れ」

「えー」


 文句の大合唱も聞こえていないように、彼はしれっと授業に戻ってしまった。

 しばらくはざわざわしていた教室も、気づけばまたいつものように静かな環境へと戻っていく。日常ってのは多分、こんな風に保たれてるんだろうな。


 しかし、俺は諦めない。というわけで、授業が終わり、ホームルームも終わり、みんなが帰り始めた頃を見計らって、俺は職員室へと向かった。

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