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リレーション・エンド ―放課後のVR戦乱遊戯編  作者: 黒猫トム
第一章 エリカの花の咲く町で
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プロローグ 失敗

 自覚はなかった。それは本当のことなのだ。しかし、そう言うと周りの人は嘘だろうと笑うか、逆に心配し始めるか。しかし、共通しているのは、誰一人としてそんなことないよと言ってくれないということだ。

 どうやら、俺に自覚はなかったが、周りから見れば一目瞭然らしい。それが悔しく、俺が政治家ならばきっと、「まことに不本意です」なんて胸をそらせて偉そうに言うだろうなんて本当にどうでもいいことを考えながら窓に切り取られた空を見上げていたら、ふいに飛んできたのは白の弾丸……もとい、チョークだった。


「いてっ」


 クスクスと笑い声が周りから上がる。慌てて前を見ると、教師が顔を真っ赤にしてこっちを見ていた。どうやら怒っているようだ。何度呼んでも返事をしないのは何故だ、なんて言っているが、聞こえていなかったのだからしょうがないじゃないか。……まぁ、全くまじめに聞いていなかったのも確かだけれど。


「彰介、お前いい加減にしろよ」

「すいません」

「申し訳ないと思っているなら、まじめに授業を受けろ」


 謝りはしたが、申し訳ないとは微塵も思っていない。そう返そうかと思ったが、そんなことをしたら説教時間が数十倍に伸びるだけなので、やめた。代わりに、教師の視線が黒板に向かったところでまた空を見上げる。


 初日にやらかした。自己紹介のお決まりだ。開口一番、「ただの人間に(ry」。空気が固まった瞬間というのを俺は初めて肌で感じることができた。あれは歴史的な発見に違いない。空気は、ピシリと音を立てて固まるのだ。もしかしたら幻聴だったのかもしれないが。

 そして、次の日にもやらかした。オリエンテーションの一環で、それぞれ自分の夢を発表しましょうなんて子供っぽい課題が出たのだ。そして、「お金持ちになりたいでーす」とか、「将来ビッグになる」とか、それこそ子供かと思ってしまうような発表が続く中、俺は心底正直に積年の夢を発表した。すなわち、「俺はこの学校で、属性持ちの女の子だけのハーレムを作る!」と。どうせもう一度失敗しているし、それにもしかしたら属性持ちの女の子が寄ってきてくれるかもしれない、なんて淡い期待を抱いて。しかし、手に入れたのは男子からの嘲笑と、女子からの殺気だけだった。

 後から考えれば完全に自業自得なのだが、その時はなんというか、新しい環境にテンションが上がってしまっていたのだろう。しかし、それだけでもう俺の高校生活は暗礁に乗り上げてしまったのだ。もはや軌道修正すらできない。


 春麗らかな一日。こそこそとつぶやく声が、聞こえてはいけない本人のもとへ届いてしまう。そして言葉の中には、俺が自覚していないにもかかわらず、皆から言われるキーワードがやはり入っているのだった。


 人は俺のことをこう呼ぶ。本名の、大風 彰介と。もしくはただ単純に、馬鹿、と。

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