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2-1 願い

 確かに、友利の言ったとおりだ。風を感じる。臭いを感じる。これが仮想だなんて信じられない気分だ。……何も見なければ。

 広がっていたのは、とてつもなく奇妙な空間だった。奇妙すぎるその風景は、ここが仮想であると嫌でも認識させてくる。……ただ、確かに危険では無さそうだ。

 これで、この世界から抜けられれば……と思ったところで、俺は首をかしげた。はて、これどうやってログアウトするんだ? そういえば、完全に聞き忘れていた。……あれ、ヤバくないか、これ。

 しばらく途方にくれていたが、やがて、まぁそのうち友利が来るだろうという結論に至る。その時に彼女に聞けば良いのだ。

 と、噂をすれば。


「お待たせ、彰介君」


 真横の空間がゆがみ、そこから友利が顔をのぞかせた。


「待ったぜ」

「……ふーん、今回はこうなっているのね。現実世界を模している……やっぱり作りやすいのかしら」


 目の前にデンと鎮座している巨大なピラミッドを見上げて、彼女は「ということはここはエジプトって設定なのかしら」なんて言う。

 いや、甘い。


「あっち、見てみろ」

「あっち?」


 右を指さし、そちらに彼女の視線を向けさせる。……彼女は固まった。


「スカイツリー……?」

「今度はあっちだ」

「巨大な……ティッシュかしら?」

「更に向こう」

「……なに、あれ」

「知るか」


 何か変な物としか表現できない変な物である。見ていて不安になる造形をしているが、どうやら石造りのようで、まぁ、危なくはない……だろう。きっと。


「……なるほど、ここがカオスなのね」

「カオスは地名じゃねーだろ」


 勝手に変な土地を増やさないで欲しい。


「まぁ、楽しそうで良いじゃない。気に入ったわ」


 おおらかな心を持っているものだ。俺はもう、一時も早く帰りたい。

 ……そうだ、帰りたいと言えば!!


「俺、お前に帰り方聞いてなかったと思うんだけど」

「そうね。言うつもりも無かったわ」


 オイ。


「別に帰り方なんて、意識する必要ないもの。帰るべき時には勝手に帰れるようになっているから」


 どういう意味だ? そう問いかけようとしたが……喉元まで出かかったその言葉は、発される事は無かった。

 不意に、俺と友利のちょうど間の空間がゆがんだのだ。


「……」


 そして、そこからびくびくしながら現れたのは静川さんだった。しばらくきょろきょろとあたりを見渡していたが、やがて安心したのかピラミッドの近くにしゃがみ込んで、小さくなった。……って、どういうことだ。


「おい、友利」

「何かしら」

「なんで、俺が安全を確認する前にもう静川さんか来てるんだ」

「確認したじゃない。ほら、危険は無いでしょう?」


 普通は一度戻って、安全だったぞーと伝えてから次のステップに進むのだ。調査だけさせて、結果の報告も待たずに突入する探検隊がいたら、多分二日もしたら全滅している。

 これでは何のために勇気を振り絞ってこんな世界に一番乗りにやってきたか分からないではないか!


「普通俺が戻ってから」

「おぉ、今回もまたすげぇ金かかってそうだな」

「ええ、鉄規君。一台数百億よ」

「……」


 また、一人。いや、こいつはどうでもいい奴だけど。


「……とーもーりー?」

「彰介君顔が怖いわ。さながら般若のよう」

「当たり前だろ。なんで、俺が、戻る前に、みんな次々とやってくるんだ」

「だって、安全だって分かっていたもの。私は」

「そのお前のことが信用できなかったから、こういう手段を取ったんだろ」

「違うわ。誰かが一番に行かないと、後が続かないでしょ? だから、一番扱いやすそうな彰介君に先に行ってもらったのよ」


 こいつは、本当に、もう……もうっ!! こいつに騙されたって事も腹が立つが、予想通りとても扱いやすく一番乗りにログインしてしまった俺が一番、腹立たしい!!

 俺はこれから先、何度「もう次は騙されない」と思うのだろうか。正直、友利には永遠に勝てる気がしない。


「わっ、なんか凄いね……」


 今度は映中さんである。なんだかもう……諦めた。これからもどうせこうやって、俺は友利に手玉に取られるのだろう。あぁ、そうさ。俺は馬鹿だ。大馬鹿野郎だ。

 さぁ、後は湖鉄だけだ。かかってこい。

 ……しかし、待てど暮らせどやってこない。


「なんだ、まだ躊躇してんのか? チキンかよ」

「いいえ、どちらかといえばビーフだったわ」

「なんだよそれ」

「一番乗りにログインしたって事よ。彰介君の直後くらいにね」


 分かるか!!


「でも、確かに遅すぎるわね。どうしたのかしら。あと五分待ってこなかったら、一度戻って様子を見てくるわ」


 安全だと言い張っていたくせに、早速トラブルでも発生したのだろうか。まだ、始まってもいないぞ。



 それからきっかり四分後。とうとう、湖鉄は現れた。何故かとても不機嫌な様子である。


「何よ、何だってのよ!! ふざけてるの、このゲーム!!」


 不機嫌な様子どころではなかった。完全に怒っている。


「あの女、私の願いをことごとく『それは無理です』って、何様なのよ!!」


 願いって……あれか。俺だけの特別なイベントかと思ったら、そうではなかったようだ。ほんの少しだけ、俺こそが選ばれた人間だとかいい気になっていたので、残念だ。……いや、ほんの少しだけだぜ?


「しかも、何もかも却下されるから、もうこれ何言っても却下されるものだと思って、やけになって『世界平和』って言ったら、その願い叶えますとか……なんなのよ!! 知らないわよ、世界の平和なんて。私の心に安寧が欲しい!!」

「……湖鉄。あなた、馬鹿ね?」

「ばっ!?」


 急に間に割って入った友利が、前触れもなく湖鉄を馬鹿呼ばわりし、それから俺たちの顔を見回した。


「……これから説明しようと思っていたのだけれど、みんな湖鉄と同じように、女神に願いを聞かれたわよね?」


 アレは女神という設定だったのか。確かに神秘的な雰囲気を醸していた。


「あの問いは、あなたたちが得る『ユニーク能力』を決めるための問いなの。その答えを踏まえて、能力は決定するわ」


 ふむ、なるほど。……全く分からん。いや、話は分かるんだけどな、『他人から好かれたい』という願いから、どんな能力が生成されるのかがさっぱり分からない。


「で、これからの話だけど。これから私たちは、二チームに分かれて争うことになる。チームは毎回ほぼバラバラで、今回味方だった人が次回は敵になるかもしれない。……だから、一番賢いのは、自分が得た能力を隠し通すこと。なのに、このお馬鹿さんは」


 湖鉄の頭をペチペチと叩いて続ける。


「自分の能力のヒントになる願いを、自分からあっさりと明かしてしまったわ。馬鹿の極みね」

「知らなかったんだからしょうがないじゃない!」


 まぁ、確かに。俺も友利の言葉がなければ聞いていただろうし、言っていただろうと思う。どう考えても、今回は友利の説明不足が原因だ……とはいえ、彼女が自分に非があると認めるとは思えないが。というわけで、ここは湖鉄に犠牲になってもらおう。うん。


「……まぁ、湖鉄のせいで遅れてしまったけれど、それじゃあそろそろ、これからどんなことをするのかを説明するわね」


 友利のその言葉に、皆の視線が交差した。


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