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1-10 エリカ

「もう、鉄規君と映中さんには話してあるのだけれど、静川さんと湖鉄……それと、彰介君には細かいところまでは話していなかったから、説明するわね」


 ん? 俺にも説明していなかっただって? 説明も何も、俺発案なのだから説明される必要も無いのではないか。そこまで考え……不意に、嫌なことに気づいた。

 さっき、俺がこの部の真の目的に触れる事を言おうとしたら、友利に止められた。何か言われては困ることがあるとでも言うように。そして、この部活の名前はなんだ。エリカ研究部。名前だけ適当にでっち上げ、実際は全く違う活動をするのかと思っていたが、しかし俺の左には巨大な機械が鎮座している。そして……部長は、友利だ。

 『人を集めることが、私の目標でもあるから』彼女はそう言っていた。また、同じ時に、『確かに、私は自分の利益を第一に考える人間だわ。ぶっちゃけ、利益を確保するためならば、人を騙すのも何とも思っていないタイプの人間よ』とも言っていた。

 人を集めるまではいい。確かに、利害は一致していた。だが……その後については、彼女のことを信用できる根拠など、何も無いではないか。その先に、俺と友利の利害の一致は存在しないのだから。

 はめられた。気づいたときは手遅れだった。


「この部の活動内容は、この」


 巨大な機械に手をかざす。


「エリカで、楽しく遊ぶ事、ただそれだけ。他の活動については、特に何も考えていないわ」


 やはり彼女の事を信用してはいけなかった。利害の一致なんて言葉も、疑ってかからなければならなかった。これではただ、彼女がやりたいことをする部活のメンバー集めに使われただけではないか……!!



「何なの。いかがわしい物なの? その機械は」


 うおぉ、俺の馬鹿野郎! タイムマシン、プリーズ!! なんて頭を抱えながら星に祈りを捧げている横で、話は続いているのであった。


「別にいかがわしくはないわよ……有り体に言ってしまえば、これはVRゲームよ。といっても、RPGではないのだけどね」


 別にゲーム世界に閉じ込められたりしないわなんてよく分からないことを言う。


「そういえば今年はVR元年とか言われてるな。そういうものの一部なのか?」


 鉄規の問いに、友利は指を振った。


「チッチッ、甘いわ。このエリカは、うちの会社が総力を挙げて作った、完全なバーチャルリアリティよ」


 まあ、1台数百億円するんだけどねなんて、さらりと恐ろしいことを言う。なんてものを学校に持ち込んでいるんだ。というか、もっと警備を厳重にすべきだろう、どう考えても。


「マスクを着ければ、次の瞬間には仮想世界に立っている。風の音、草のにおい、肌に触れる乾いた空気に至るまで、全てが完璧に再現されているわ。ただし、痛み以外ね」


 ほほをつねっても痛くないから、本当に夢みたいな物ね。彼女はそう言った。


「で、最初に戻るけど……要は、このエリカはまだ完璧とは言えない。バグだってまだまだ残っているはずだわ」


 バグのないプログラムは存在しないとは言うが、多すぎても、それはそれで問題だ。だから、リリースまでにテストを重ねて、バグを出来うる限り減らしておきたいのよ。彼女はそう締めた。

 つまり、だ。簡潔に言うならば、こういうことだろう。


「ムー、ムームームー、ムー!」


 最近の猿ぐつわって凄いな。噛まされていたこと完全に忘れてたぜ。


「……つまり、やっぱり俺は騙されていたって事かよ……って、言っている気がするよ」


 映中さんナイスだ。俺のうなり声から、よくそこまで正確に伝えたいことを拾ってくれたものだ。


「いや、そういうわけでもないんだけどね。……大丈夫よ。確かに、利害は一致していないけれど、私、面白いことも大好きなのよ」


 やはり最低なことには違いなかった!



「……さて、お話はここまでにしましょうか」


 ざわめく部員達をしばらく眺めていた彼女だったが、唐突にパンと一つ手を打ってそう言った。


「いくら言っても、実際に体験してみないことには分からないわよね」


 まぁ、そりゃそうだ。俺も、VRとか言われたところで、いまいちピンとこない。皆が一様にうなずくのを見て、彼女はエリカに歩み寄った。そして、ケースの突起に手を当て……引っ張る。

 カパッ、重厚な見た目とは裏腹な結構軽い音とともに、ケースの前面が開いた。そこにあったのは、フックにかかったいくつものマスクだ。耳から目まで、頭の上を全て覆ってしまうような。サングラスプラスヘルメット、と言えば分かり易いかもしれない。それを一つ手に取り、彼女は俺に手渡した。


「さ、彰介君。どうぞ?」

「……?」


 え、こう言うのって普通は言い出しっぺがやるものではないのか?


「彰介君は、私たちのことが心配みたいだわ。本当に危険がないのか確かめるまでは、大切な大切な私達には使わせられないって、そう目が語っているわ」


 少なくとも、鉄規と友利のことは全く心配していないし、使いたいならどうぞお先にという感じなのだが、映中さん、静川さん……それに、どことなく親近感を覚えてしまう湖鉄は、やはり少し心配してしまう。友利が安全だと言っていたとはいえ、疑いの心が無いわけではない。


「……」


 思わず、分かった。しょうがないなと言いかけ、慌ててその言葉を飲み込む。猿ぐつわなう。いい加減学習しろ、俺。

 なんだか良いように乗せられてしまった感じはあるが、三人を守るためと思えば、やってやろうという気分にもなる。なんたって彼女たちは、俺のハーレム(候補)なのだ。

 ゴクリとつばを飲み、俺は差し出されたマスクを受け取り、装着する。


「意識を失うから、机に突っ伏してね。その後、準備が出来たら、右耳のあたりにあるボタンを押せば良いわ」


 言われたとおり、授業中に居眠りをするような格好を取る。ただし、行くのは夢の中ではない。ある意味では、究極の現実の中だ。


 目を閉じ……俺は、ゆっくりとボタンを押した。ぷつんと、意識が肉体から切り放された。


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