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1-8 顧問

「お前らほんといい加減にしろよ……」


 次の日の放課後である。創部届を持って行った先は、職員室にいる件の英語教師の元だった。なぜかというと、友利が「あの人は今顧問一つしか受け持っていないし、どうせ暇だから」なんて言っていたためである。とことん縁があるよな、男との縁なんて要らないけど。


「悪の巣窟でも作る気か? よくもまぁこんな……」


 ここで少し声を潜めて、「問題児ばかり集めたもんだな」と続けた。潜めるくらいなら言わなきゃ良いのに。


「絶対に嫌だぞ。なんで俺がそんな非合法な組織の顧問なんかやらなきゃいけないんだ。お断りだ」


 非合法て。許可をもらう(予定の)学校の部活動に合法も非合法も無いだろう。


「名前貸してもらえるだけで良いのよ。後は全部私がやるから」

「で、面倒事起こしたら全部こっちの責任にするんだろ?」

「当たり前じゃない」


 しれっと、友利はそう言った。いや、ここは嘘でも「こっちでなんとかする」と言うべき場所ではないだろうか。正直で大変結構だが、時と場合くらいはわきまえて欲しかった。ほら、教師の眉間のしわも深くなったし。


「……潔すぎるのもどうかと思うぞ」

「大丈夫よ。別に、面倒事起こそうってわけじゃないもの。活動内容も、ここに書いてあるとおり、至って健全だわ?」


 創部届に書かれている活動内容は、「新しい技術に関しての研究」である。ちなみに部名は、「エリカ研究部」。意味が分からない。うさんくささ百パーセントだ。


「どうしてそう、自信満々に健全だと言えるのか分からない。なんだよ、エリカって。それに、新しい技術ってなんだ」

「それは、後で説明するわ。でも、薬品が必要だったり、ドッカンドッカン爆発するようなことをする必要は無い。どちらかといえば……そうね、最近はやりのIT方面の研究よ。静かなものだわ」


 部長の俺が初耳である。そういうのはもっと前に説明しておけよ。いくら、本当の活動を隠すためのはったりとはいえ、口裏を合わせておくくらいはしておくべきだったのでは無いだろうか。


「それに、君山先生は顧問一つしか請け負っていないじゃない。それも、文科系の。さらには、全然部活に顔を出していないって事まで調べはついているのよ?」


 いつの間にそんなことを調べ上げたんだ。


「……いや、まぁそうだけどな」


 来るなって言われているんだと、切な過ぎる独り言を俺は聞いてしまった。しかし友利は気にも留めず、畳みかける。


「だったら、私たちの部活の顧問を掛け持ちするくらい、わけないわよね?」

「わけある」


 君山先生と呼ばれた彼は、大きなため息をついた後、天を仰ぐ。


「なんでこう、俺の元には面倒事ばかり舞い込んでくるんだ……」


 なんか、俺と似たようなことを言っている。意外と苦労人なんだろうか。大変だな、君山先生も。面倒事を持ち込んだ立場で、実際にねぎらう言葉をかけるわけにはいかないけれど、なんとなく同情してしまう。



「……分かったよ」


 ファンタジー同好会なんて今年潰れてしまえば良かったのにとかよく分からないことをしばらくぶつぶつ呟いていたが、やがて彼は、絞り出すようにそう言った。


「お前らの危険性を知らない他の先生が顧問をやるよりは、俺が監視してたほうがまだマシだしな……やってるよ」


 さんざんな言われようだが、一応オーケーはもらえたようだ。


「その代わり、条件がある」


 ピッと人差し指を立て、彼は言った。


「まず、一つ。湖鉄のアレをなんとかしろ」

「無理」「無理だわ」


 湖鉄のアレ。すなわち、自分が風紀委員長だと言って、無い権力を振りかざして治安維持をしていることだろう。無理に決まっている。風紀委員じゃないと指摘されたときに、「だからどうした」と返すような残念な奴を更正させることなんて出来るはずがない。


「……じゃあこれは努力目標でいい。出来るだけなんとかしようとはしてくれ」

「わかったわ。彰介君、お願いね?」

「はっ、え、俺なの?」

「ええ。私には、無駄だと分かっていることに割くほどの時間は無いの。そんな無駄なことは、暇な人がやるべきでしょう? 分かってちょうだい」


 これは、馬鹿にされてるな? そろそろ怒っても良いよな?


「……まぁ、取りあえず行動するなら誰でも良い。期待はしていないが」


 さっき無理と即答した身でおこがましいが、もう少し期待してくれても良いと思う。やる気が起きないじゃないか。


「で、次。二つ目だ」

「まだあるのかよ!」

「一つ目って言った時点で察しろ、馬鹿」


 言われてみりゃその通りだ。


「静川もちゃんとかまってやれ」

「……ん?」


 あの文学少女がどうしたって?


「あいつ……友達がいないんだよ。いつも本と語らっている感じだろ? そのうえ、とても人見知りをするほうで、声も小さいし、怖がりなんだよ」


 それはなんというか……世間一般ではコミュ障と言われるやつなのではないだろうか。


「相手がお前らってのが正直不安でしょうがないんだが、この際荒療治でもいい。あいつをもう少し、人と関わらせてやってくれ」


 なぜ不安だというのだ。この広い胸にどーんと任せておけばいいのに。


「俺は女の子には優しいから、その辺は心配しなくてもいいぜ?」

「あぁ、悪い。言い換える。彰介は近づくな。これは友利に任せることにする」

「なんでだよ!?」


 俺は犯罪者予備軍か何かか。失礼極まる話だ。


「入学二日目にハーレム作るとか言ってたやつに任せられるわけがあるか。教師の間でも話題になってるぞ。前代未聞だとか、馬鹿だとか」

「全く嬉しくないな!?」


 いや、ほんと、自業自得なんだけどさ。でも多少はオブラートに包んでほしかった。それか、知らせないでほしかった。そんな事実知りたくなかった。職員室に来づらくなったではないか。

 しかし、この教師は知らないのである。今まさに創部されようとしている部活が、実はそのハーレムだということを。ざまぁみろ。


「あと、最後だが」

「まだあんのかよ」

「最後だっつってんだろ黙って聞け」


 へーい。

 俺たち二人の顔を見比べて、教師は至って真剣な眼差しで言った。


「お前らまともになれ。これが今までの中で一番重要度の高い義務だ」


 失礼な。


「友利よりはずっとましだ」「彰介君よりはずっとましだわ」


 見事にハモってしまい、俺たちは顔を見合わせる。


「……お前らほんといいコンビだよな」


 はなはだ遺憾である。


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