1-7 虚偽
次の日、立場は逆転した。どや顔をしているのが俺で、頭を抱えているのが友利である。
「俺も二人、候補を見つけてきてやったぞ。どうだ、ひれ伏せ!」
放課後の、昨日とだいたい同じ時間。俺は友利に、新しいメンバーを見つけてやったので、会ってみろと無理やり昨日と同じ使われていない教室に引っ張り込んだ。そして、現れた二人を見て、友利は頭を抱えたのだ。
「……彰介君、あなた、本当に人選が最悪ね」
「お前だけには言われたくねぇよ!?」
心の底から心外だ。確かにツインテールの方はアレだが、静川さんは自分でも結構良い人選だと思う。そう伝えると、返ってきたのは「二人とも最悪」との答えだった。
「あのね彰介君、なんのために人を集めているの? なんで動ける人を連れてこないの?」
「……は? なんで動ける必要があるんだ」
ハーレムに動けることなんて条件はないと思う。
「……あぁ、そうだったわね。昨日、言っとけばよかった。まさか、彰介君ごときが一日で人を見つけてくるとは思わなかったから、油断していたわ」
「さりげなく毒を吐くな」
「吐きたくもなるわよ……」
湖鉄の事を指さし、「まずこっちは」と、なぜ最悪なのかの説明を始める。
「彰介君、わかってないと思うけどこの子、風紀委員でも何でもないわよ?」
なぜか入室してからずっと友利に対して牙を剥いて威嚇し続けている湖鉄は、その言葉に対して「だからどうした!」と叫ぶ。いや、だからどうしたもねーだろ。というか、この感じだと……。
「何、二人とも知り合いなの」
「敵よ」「敵だ!」
あのいかにも敵なしですわとでも言いたげな彼女が、明確に敵だと認識している湖鉄は結構すごいやつかもしれない。悪い意味で。
「やたらと絡んでくるのよ。私がやることなすこと一挙手一投足にいちゃもんつけてくるの。風紀委員長の名に懸けてとか言って」
確かに友利の一挙手一投足は、風紀委員から見れば風紀を乱す行為以外の何物でもないので、その点については間違ってはいないのだろうが……風紀委員長でも何でもないくせによくもまぁそこまで無い権力を振りかざせるものだ。
「先生に言いつけてやればいいじゃねーか」
「いや、先生も諦めているのよ、困ったことに」
問題児の極みじゃねーか。……我ながらほんと、運が無さすぎやしないか?
「諦めているんじゃなくて、認めてくれたんだよ」
「嘘つけ」
なぜか脳裏には、うちの英語の担当教師が頭を抱えながら「もう勝手にしろ」と言う絵面が浮かんだ。実際、当たらずといえども遠からずかもしれない。
「雪坂が絡んでいるなら、やっぱりいかがわしい部活でしょ。私が入っておいて正解だったみたいね!」
「……ね? 面倒でしょ?」
心底同意である。……まぁ、もとより湖鉄については俺自身まともな人選では無いと思っていたので、これはいい。金魚の糞みたいたものだ。
「じゃあ、静川さんはなんでダメなんだよ」
「見るからに運動神経なさそうじゃない」
まぁ確かに無さそうだけれど。文学少女なんてそんなもんだ。しかし、である。
「なんで運動神経無いといけないんだ?」
俺としては別に、運動神経の有無なんて気にしないが。
「それは、私と優花ちゃんの勝負の関係よ。別に、現実に運動神経がある必要は無いけれど、あるに越したことはないの。……昨日の時点で言っておくべきだったわ。不覚だわ」
運動神経がそれなりに必要な勝負ってなんだ……サッカーでもすんのか?
「まぁ、連れてきてしまった物はしょうがないわ……とりあえず今回はこのメンバーで創部の申請を出しておくわ。もうそこの二人には入部届書いてもらったの? まだならここにあるけど」
何でも無いことのように懐から入部届を取り出す友利。入部届をいつも忍ばせておくのって常識なんだろうか。俺の常識が音を立てて崩れ落ちていきそうだ。
「……いや、ここにもう書いてもらった物があるから」
「あ、そう。じゃあコレはいらないわね」
懐に入部届をしまい直す。アレを次にまた出す機会は訪れるのだろうか。いや、訪れないだろう。