#1 珈琲
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いつものように豆を取り出した。今日飲むのはお気に入りのグアテマラ産の豆。味のバランスの取れた種類だ。
手回しのミルに拘る方もいるようだが、私は電動で豆を挽く。豆を均一に挽くことができ、味にムラが出来るのを防ぐためだ。挽いた豆をフィルターに入れたら、約80℃にしたお湯をポトポトと垂らしていく。ああ、この芳ばしい薫りがたまらない。それは焦げた砂糖のようで、煎ったナッツのような感じ。いや、この薫りが珈琲の薫り。それで十分だ。他の何でも無いのだから。
しばらく見守る。コーヒーポットに茶色い水滴が現れたら、少しだけ湯をかける。蒸らしと呼ばれる時間だ。珈琲の味を決める大事な時間、そして、今日の珈琲の味との出会いの瞬間にもなるのだ。
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私と珈琲との出会いは確か小学校六年の頃だった。父が手にした缶コーヒーを一口くれとねだった。
衝撃だった。
舌を出して渋い顔をしてこう言うのだ。
「に、苦い……」
それから、どういう風にこの苦味を克服したのかは分からない。少しずつブラックの味に慣れたのか、カフェオレを飲んでブラックを飲めるようになったのか。それすらも覚えていないのだ。当然だ。ブラックであろうと、珈琲は美味しい。その不変の事実を受け入れられたのだから。
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蒸らしがすんだら、お湯を注ぎながら中央にできた泡を膨らましていく。正直、ここは難しい。そして、お湯を全体に……。
温めたマグカップに珈琲を注ぐ。鼻いっぱいにあの薫りが広がる。湯気をたてながら、それは誘惑する。迷うことなく、口にマグカップを運ぶ。
苦く、香り高い中に広がるほのかな甘味。ビターチョコレートのように苦く、ほんのりと甘味が残る。そして、じわじわと酸味が広がる。液体が喉に伝わっていくのを感じた。そして、口の中に酸味が残る。その酸味がすっと消えたかと思うと、今度はナッツのような香ばしく、深く甘い味わいが……。
しばらく時間をおいて飲んでみた。だが、違う。さっきの味とは違う。よりえぐみ、渋みの角がとれた濃厚な味わい。この化学反応のような魔法が私は好きだ。
珈琲の中にはブルーベリーのような薫りがするものもあれば、和三盆のように舌先でヒヤリとするような感じの味わいを持つものもある。そのことについては、また別の機会に触れよう。
この果て無き世界を私は愛して止まないだろう