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八百万の軌跡、何処へと  作者: 皆麻 兎
第一章 今を知るために
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第五話 認識

<これまでのあらすじ>

今の日本を知るのと、八那を護衛する妖怪を求めて東京府の中心部を訪れる八那と迦楼羅。そこで、東京一帯を治める妖怪・見越し入道の息子である豆腐小僧と出逢う。父が亡くなったので、代わりに東京の街を案内する役目を名乗り出た豆腐小僧。偶然訪れた府庁舎にて、妖の侵入を防ぐ結界が張られている事に迦楼羅が気付く。すると、直後に警官である男性と会う。妖怪が見えるその警官は、八那の事も知っているようだったが…



後ろの方で怯えながら立ち尽くしていた、豆腐小僧。彼の瞳には、緊張感漂った3人の男女が映っている。

「八王子での、川の氾濫…」

「え…?」

緊張感漂う中で最初に口を開いたのは、八那の手首を掴む強面の男だった。

「先日、八王子町にて起きた川の水による氾濫によって、1軒の家屋が跡形もなく流された。あの日は地震が起きた直後でもなく、他の家屋への被害もそう大きくはなかった。…それは、お前の中に宿る“奴”の力ではないのか?…と、問うているのだ」

「それは…」

上から覗き込まれているような状態に対し、目を合わせづらい八那は、俯いてしまう。

「ぐっ!!?」

すると突然、男の左腕が発火する。

目を見開いて驚いた男は、思わず八那の腕を離した。

しかし、燃え上がったのはその一瞬だけで、手を離した直後に火は綺麗に消失していた。

「幻覚…か。小癪な真似を…!」

左手首を抑えながら、男は幻覚を仕掛けた犯人――――迦楼羅を睨み付ける。

「そっちこそ、初対面の女に対して不躾だと思うがな…。まぁ、人間の男ってのが節操ないという(ことわり)は、昔も今も同じのようだし?」

飄々とした態度で嫌味を言う迦楼羅だったが、その紅い瞳は笑ってはいない。

彼の台詞(ことば)を不快に感じたのか、相手の眉が少しだけ動く。

「ふん…。部下が張った結界に、何者が侵入したかと思えば…口だけは達者だな」

男も、迦楼羅に対して嫌味を述べた。

 どちらも、殺気だっていて怖いな…

そんな彼らを見守っていた八那は、二人に対して恐怖心を覚えていた。

「俺は、迦楼羅。釈迦如来に仕え、仏法を守護する八部衆の一人だ。さて…同じ“神”として、そちらも名乗ってもらおうか」

迦楼羅の名乗りを聞いた男は、不愉快そうだったが一呼吸置いてから口を開く。

「俺は、日本帝国軍に属する木戸 碧佐(へきさ)だ。その女は察しているのだろうが…天津神・須佐之男命(すさのおのみこと)の末裔…。というか、生まれ変わりのようなものだ」

木戸が名乗り終わる頃には、迦楼羅は人の姿ではなく、紅い翼を生やした八部衆の姿に戻っていた。

「この国で云う“鳳凰”か…。仮にも、“神”として崇められる貴様が、何故、斯様な邪神の末裔と行動を共にする?」

鋭い視線で迦楼羅を睨む木戸。しかし、彼は全く動じていないようだ。

「邪悪って…!」

しかし、その言い方に対し、八那が黙っているはずもない。

「悪そのものではないか、錦野八那」

「何故、私の名前を…!?」

反論した八那を、木戸は横目で言い返す。

しかし、名前を知っていた事に対し、彼女は驚きを隠せないようだ。

「…俺は、表向きは警官だ。事件が起こり、周囲の者に聞き込みをすれば、行方不明になった一家の名前など、すぐに知る事がかなう」

「成程。普段は警官としての仕事をし、命令などがあれば妖怪退治をする…ってのが、てめぇの生業だな?」

「…貴様らに、これ以上語る義務はない。兎に角…」

不意に、木戸の視線は後ろで立ち尽くしている豆腐小僧の方を向く。

「見越し入道の倅だったな。今のところ、人々に害は与えていなそうなので滅するつもりはないが…父親のように反抗するのであれば、容赦なく斬り捨てる」

「止めて…!!」

男の台詞(ことば)に危機感を持ったのか、八那は豆腐小僧の前に立ちふさがった。

「…しかし、貴様は別だ」

そう口にしながら、木戸は鞘から抜いたサーベルの矛先を、八那に向ける。

「今は普通の女子のように振舞っておるが…その大蛇が持っていた酸漿色の瞳と、酒呑童子を思い出させるその容姿は、いずれにせよ人々に害を成す“悪”となろう」

「勝手に…」

この時、木戸の言葉によって八那は憤りを感じていた。

 この感じ…。自分に対して放たれた言葉よりも、大蛇が感じた屈辱や無念…哀しみ…なの?何だか、負の感情が高ぶっているような気がする…!?

同時に、自身の胸の鼓動が高まっているのを実感している。

「お姉ちゃん…。この妖力…は!?」

目には見えずとも、何かを感じ取った豆腐小僧は、目を見開いて驚いていた。

「やはりお前も…祖先の感情を受け継いでいる…か」

この時、八那達には聞こえていなかったが、木戸は力が高まっている八那に対して独り呟いていた。

 くそ…いくらこの周囲が、敵が仕掛けたと思われる他から見えなくなる結界が張られているとはいえ…八那(こいつ)が本気を出せば、結界を破壊してしまうのでは…!?

力の高ぶりを間近で感じていた迦楼羅は、焦りを見せていた。

しかし、彼はそこで立ち尽くしているだけのはずもなかったのである。

「やれ!鳶!!!」

「何…!?」

迦楼羅が叫んだと同時に、何かが割れる音が周囲に鳴り響く。

その音を耳にした木戸は、目を見開いて驚いていた。彼の視線の先には、一匹の妖怪――――髪切りの鳶がいた。

どうやら、普段はあまり豆腐小僧と一緒に行動をしていなかったのが功を奏し、外側から結界を打ち破る事に成功したようだった。

「どう!!?」

音を確認した迦楼羅は、八那の方に飛びながら突っ込み、彼女に当て身を食らわせるような要領でそのまま担ぎ上げた。

いきなり腹部に痛みが走ったため、八那は殴られたようなうめき声をあげる。

「豆腐小僧!!俺様の足に捕まれ!!!」

「うん…!!」

後ろにいた豆腐小僧の方へ飛翔する迦楼羅に対し、童は瞬時に彼の足首を掴んだ。

それを確認した鳶も、助走をつけた直後に超高速で走り出したのである。

「…逃がしたか」

八那達がその場からいなくなり妖気も消えうせたのを感知した木戸は、ため息をつきながらサーベルを元に戻した。

「錦野八那…。何処へ行こうとも、必ず俺がお前を倒す…!」

その蒼い瞳には、憎悪にも似た闘志が宿っていたのである。



「あー…疲れた!!こんなに素早く飛ぶのは、何百年ぶりだか…」

その後、人気のない神田川のほとりまで逃げた迦楼羅達は、息を上げながら座り込んでいた。

「迦楼羅…ありがとう」

「あん?」

息を上げている迦楼羅の横で、八那は彼に礼を述べる。

「さっき…あの木戸っていう男性(ひと)が言っていた台詞(ことば)よりも…何だかどす黒い感情が、心の奥底からこみあげてきていたの。…もし、貴方が止めてくれなかったら、先日のような事態を引き起こしていたのかもしれない…」

そう述べる八那は、正座をしたまま俯き、震えていた。

そんな彼女を、迦楼羅は黙って見下ろす。

「…それがおそらく、お前の親父も悩まされていた“大蛇(おろち)の執念”だな」

「“大蛇の執念”…?」

初めて耳にする言葉に、八那は首を傾げる。

「…八岐大蛇は昔、奴…須佐之男命に退治されたのは知っているよな?」

「う…うん」

「退治された直後はまだ生きていて、逃走するさ中に天津神…及び、人間に対して憎悪が生まれた。それが、後に息子である酒呑童子に受け継がれた」

「受け継がれたって…それによって、何が…?」

すると、話を聞いていた豆腐小僧が割り込んできたのである。

それを目の当たりにした迦楼羅は少し驚いていたが、ため息まじりで話を続けた。

「まぁ…いいか。豆腐小僧、お前も覚えておけ。力の強い妖怪の親を持つと、如何なる事態が起こりうるかを」

「う…うん…!」

迦楼羅の真剣な表情に圧倒されそうだった豆腐小僧だったが、今度は半べそもかかずに首を縦に頷いた。

「太古の水神として強力な神通力(ちから)を持つ大蛇が、身をもって味わった負の感情は大きい。それに蝕まれると、望んでもいない殺戮や破壊衝動が起こる。酒呑童子の場合、人間の女を攫っては魂を食らっていたそうだが…“大蛇の執念”に蝕まれるとそれがエスカレートし、攫った人間をなぶり殺しにしていた事もあったようだ。正気に戻った後には必ず、当人は悔やんでいたようだが…」

そう語る迦楼羅の表情(かお)は、どこか悲しそうに感じられる。

 豆腐小僧(このこ)も言っていたけど…妖怪とて、好きで人間を食べたり、殺したりしている訳ではないのね…

八那は迦楼羅の話を聞いて、妖怪は全てが“悪い奴ら”ではない事を、改めて認識したのであった。


「ねぇ…八那お姉ちゃん…」

「何…?」

すると、黙り込んでいた八那に対し、豆腐小僧が声をかける。

「僕も…お姉ちゃん達の旅に、連れて行ってもらえないかな…って思ったんだけど…」

「ほほう」

童の提案に、迦楼羅も興味を示す。

「先程の出来事で、僕は思ったんだ。自分は無力だ…と。だから僕も、お姉ちゃんと旅をし、色々な妖怪の事や自分の事をもっと知って…父ちゃんみたいに、強い妖怪になりたいんだ…だから!」

丸くて愛らしい瞳には、決意とも言える強い焔が宿っているように見える。

「…まぁ、今のお前に力がなくても…髪切りである鳶は、ちゃんとした戦力になりうるだろうし…」

「迦楼羅…それって…!」

一瞬考え込んだ八部衆に対し、八那の視線が彼に注がれる。

「いいんじゃねぇか?豆腐小僧も髪切りも、属性に偏りがない妖怪という事で、問題はないだろうし」

普通に口にした迦楼羅の返答を聞いた豆腐小僧の表情が、おどおどしていた状態から明るくなり始める。

「やった!これからも、よろしくね!!って…」

八那も豆腐小僧のように明るい表情を浮かべるが、ふと何かを思い出したようだ。

「ねぇ、迦楼羅…。妖怪って普通、人間みたいに名前を持たないって本当なの?」

「ん…?あぁ、らしいな。妖怪ってのは、互いの呼び方をあまりこだわらない奴らがほとんどだ。酒呑童子(やつ)も申していたが、名をつけたがるのは、人間と神くらいなんだとよ」

その皮肉めいた言い回しに対し、八那は特に不快に思う事はなく、そのまま話を続けた。

「じゃあさ…。“正しき志が身に着くように”…という願掛けを込めて“正志郎”って名前はどうかしら?」

「“正志郎”…」

初めて“名前”を与えられた豆腐小僧は、隣にいる鳶に視線を向ける。

元々髪切りは言葉を発しない妖怪のため、童を見つめる鳶は、そのまま首を縦に頷いた。

「じゃあ、改めて…。僕は正志郎として、お姉ちゃん達の旅に同行する事を、ここに誓います!」

「よろしくね!正志郎!!…あ、私の事は“八那”でいいよ?」

「俺も、呼びすてを許可してやる。俺は“様”は良いが人間の俗称を呼ばれるのは非常に気に食わんのでな」

そう口にした迦楼羅に対し、八那はくすりと笑っていた。



こうして、正志郎とそれを慕う妖怪・鳶が二人の旅に加わる事となる。しかし、天狗を巡る旅はまだ始まったばかりで、数々の困難が待ち受けている事を、この時の彼らは知る由もなかったのである。


いかがでしたか。

やっと、木戸のフルネームを入力できました(笑)

というのも、序章でも登場していたにも関わらず、まだ名乗ってはいなかった訳ですから…。それと、うまい具合に正志郎の名づけにつながったなとも思っております!

因みに、第一話ですれ違っていた警官が木戸に当たります。

さて、ここで第一章が終わり、新章は次の天狗が棲む山へ向かう事となります。

今のところ、残り二人の主要登場人物のどっちを先に出そうか検討中。

何せどちらも、全国区で出没する妖怪のため、場所は選べるけどどのタイミングにしようか迷っている皆麻でございます(苦笑)


それでは、ご意見・ご感想があれば、宜しくお願いいたします★


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