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八百万の軌跡、何処へと  作者: 皆麻 兎
第六章 京の地に迫りくる脅威
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第二十二話 共闘

この回から登場するキャラ

ぬりかべ…その名の通り、壁の形をした付喪神系の妖怪。ぬらりひょんの配下で、牢屋の番人をしている

「八那が、ぬらりひょんの手下に…!!?」

迦楼羅から話を聞いた正志郎は、目を見開いて驚いていた。

あれから鞍馬寺に残してきた仲間達と合流した迦楼羅や梓は、彼らに下山途中で起きた出来事を語っていたのである。

「でも、おかげで納得したわ。寺を覆う結界が壊された直後、十数匹近くの狼が出現した所以が…」

そう語る安曇や深刻な表情をしている歩純らの体には、所々にかすり傷があった。

妖狼達(やつら)は、人間なら一撃で殺せる程の牙や爪を持つ妖怪(れんちゅう)だからな。かすり傷で済んだのは幸いか…」

彼女らのかすり傷を見つめながら、梓が独り呟く。

 すぐにでも八那を助けに行きたい所だが、尊隊の連中に邪魔される可能性もあるし…

迦楼羅は、仲間達(みんな)が戸惑う中でこの後どう動くべきか、頭を巡らせていた。ぬらりひょんの命で潜入していた手の目によって寺を覆う結界が破壊されてしまったため、この鞍馬寺も安全とはいえなくなってしまった。そのため、この場所に長居する訳にもいかない。

「…おい」

「ん…?」

迦楼羅が考え込んでいると、こちらへ近づいてきた木戸に声をかけられる。

それを目にした正志郎は少し怯えた表情になり、他の妖怪二人も警戒の体勢に入った。一方、木戸の横には、彼の部下である尊隊の姿がある。

 どうやら、あちらさんも負傷者が出たようだな…

迦楼羅は、二の腕に凍傷を負っている眼鏡の隊員に目が入った時にそれを悟った。

「僧正坊から聞いたが…錦野八那が、ぬらりひょんの手下に連れ去られたそうだな」

「…えぇ、そうよ。まさか、そこへ追いかけてまで八那を殺したいのかしら?」

木戸の台詞(ことば)に対し、安曇が皮肉を口にする。

「…そんな皮肉を話している場合ではありません。…木戸隊長、“例の件”をお話ししても?」

木戸の前に立ちふさがるようにして言葉を口にした隊員・瑠美奈は、安曇らを睨み付けてから木戸に伺いを立てる。

「不本意ではあるが…。俺達が任務を果たすためには、そうするしかないな」

木戸は、ため息まじりの声で部下の進言を了承した。

了解を得た瑠美奈は、再び迦楼羅達に方に向き直って口を開く。

「改めまして…私は、東京府直轄の妖怪討伐部隊・尊隊の瑠美奈と申します。此度我々は、ぬらりひょんという老齢の妖怪を頭首とする“破壊派”の調査のために東京から京都へと参りました」

「…で?そちらさんでは何か解ったのか?」

話の途中で梓が会話に割り込んでくる事で、瑠美奈の眉間にしわが少し増える。

「そちらの件での進展はありませんでしたが…我々が街に待機していた際に、新たな指令が下りました」

「調査とは別の指令…?」

瑠美奈の話を聞く歩純は、首を傾げながらその台詞(ことば)を口にした。

「詳しい事は俺らにもわからねぇが…“政府の良き協力者と云われている妖狐・葛葉の安否を確認しろ”というお達しが出たんだ」

「なっ…!!?」

瑠美奈が話す横で、背の高い隊員・針谷が説明に加わる。

それを聞いた迦楼羅達の表情が一変する。その変化を、尊隊の隊員たちは見逃していなかった。

「成程…そなたら両者とも、葛葉に用があったのだな」

「僧正坊…!」

すると、今度は寺の僧侶達と話の終えた天狗がこちらへやってくる。

「迦楼羅殿…すまない。彼奴の安否のためにもと思いわたしが八那にしたように、彼らにも葛葉を連れ帰らせるよう頼んだのだ」

「…まぁ、いずれにせよ、それが最良か…」

僧正坊の言葉にため息をつくも、迦楼羅は「今は仕方ない」と考え、天狗を責めたりはしなかった。

 人間と慣れあうのは正直嫌だが…戦える奴が多いにこしたことはないしな…

迦楼羅はどう判断するべきかをしっかりと考えてから、結論を出す。

「じゃあ、とりあえず…葛葉を助け出し、互いの用件が済むまでは同盟を組む…つー事でいいかな?隊長さんよ!」

迦楼羅は、少し嫌味っぽい口調で木戸に提案をする。

木戸は不快そうに見えたが、怒りを露わにすることなく、口を開いた。

「…まぁ、いい。今回は、貴様の口車に乗ってやろう」

木戸がそう返事を返し、ここで彼らは共通の目的を果たすための同盟を結んだのである。


「問題は、連中の根城が何処にあるか…だな」

「それなんですが…」

同盟を結んだ後、今後の事を話そうとする迦楼羅に対し、瑠美奈が持っていた紙の束を広げる。

そこには、大阪・京都・奈良といった京を中心とする地図が描かれていた。

尊隊(われわれ)の調べや文献によると、奴ら破壊派の根城は一か所ではなく、日本各地に点々としているそうです。その内の一つとされているのが…」

「この京都付近…という事か」

瑠美奈が指を指した辺りを見下ろしながら、梓が呟く。

「また、葛葉は足を悪くしている。本来根城としていたのが、大阪にある神太森(しのだのもり)故に、そう遠くへ連れ出す事は不可能だからな」

その場で腕を組んでいた木戸は、真剣なまなざしで語る。

「しっかし、俺らがすれ違った際は、普通のお嬢ちゃんにしか見えなかったが…。あれが、八岐大蛇の末裔…ってか」

「針谷少尉。外見に騙されるようでは、まだまだですね」

「って、瑠美奈!そういうお前はどうなんだよ!?」

針谷が不意に呟くと、瑠美奈が呆れた雰囲気で皮肉る。

それが図星だったのか、頬を赤らめながら針谷は反論していた。

「あの時は、そこの二口女がいたから鬼の娘とは気づきませんでしたが…微かに、人ならざる妖力を感じてはいましたよ」

瑠美奈は、横目で針谷を見ながらそう口にする。

「二人とも、そんなに騒ぐなよ…。傷にくる…」

「あ…。すまん、園塚」

すると、右腕に包帯を巻く眼鏡をかけた隊員が、針谷を諌める。

 天狗に傷を癒してもらったようだけれど、それでも完治しないとは…。それだけ強い妖力なのね、雪女の冷気は…

園塚の右腕を見つめながら、歩純は敵の強さを目の当たりにしていた。

「とりあえず、僕らは全員出るとして…そちらさんはどうするの?君らは、全員が戦える妖怪という訳でもないよね?」

一呼吸した園塚は、真剣な眼差しで迦楼羅達を見据える。

「…残念ながら、全員行くぜ」

「貴様やそこにいる髪切りはともかく…他は女子供ばかりだが?」

迦楼羅が一言告げると、今度は木戸が新たに問い返してきた。

「俺とて戦える。それに、そこにいる髪切りは基本、正志朗…豆腐小僧の命しか聞かねぇしな。あと、二口女は妖気に敏感だから、潜入や敵を探し出すのにはもってこいだと思うぜ」

ずっと話を聞いていた梓も、ここでは流石に黙ってはいなかった。

「俺は、雪女にさえ遭遇しなければ、後は敵ではない」

迦楼羅がそっぽを向きながらそう告げると、木戸はフッと嗤った。

「ならば、さっそく役に立ってもらうとしようか」

「それにはまず、この寺を早いところ出て移動しましょう」

「…だな。寺の僧侶共も、早いところ俺らにいなくなってほしいだろうし…」

木戸や瑠美奈が立ち上がると、周囲の殺気に気づいた迦楼羅も立ち上がる。

そうして彼らは、共通の目的を抱きながら、鞍馬寺を出て下山するのであった。



一方、妖狼族の濟羅(さいら)に連れ去られた八那は、彼らの根城の一つを訪れていた。

「あぁ、そうだ。姫さんが会いたがっていた狐…名は何だったっけか?」

「葛葉よ。それが何か…?」

歩きながら話しかけてきた濟羅(さいら)に対し、八那は横目で答える。

 全く…腕縛られているから、手首が痛いよ…

八那は歩きながら、不機嫌そうな態度を取っていた。それもそのはず、自分は抵抗もしていなかったのに無理矢理連れてこられたからだ。

「そう、その名だ。先刻確認したら、その狐に違いないそうだぜ」

「…会わせてもらえるの?」

「今から、連れて行ってやるよ」

「え…」

相手の台詞(ことば)を聞いた八那は、その場で立ち止まる。

 それって、濟羅(かれ)の独断って事…?

八那の視線は、瞬く間に疑いの眼差しと変貌していた。

「まぁ、別に“あんたらを会わせるな”とは命じられていねぇし…問題ないんじゃね?奴とて、話がわからない妖怪ではないしな」

「…随分、ぬらりひょんの事を買っているのね?」

話しながら、二人は薄暗い洞窟のような中を進んでいく。

八那は途中まで気を失っていたので、ここがどの辺りなのかは知るはずもない。

「まぁ、人間に忌み嫌われてきた(あやかし)は少なからず、奴に何かしら思うんじゃねぇか?俺は別に心酔する程まではいってねぇが、仲間の実力を認めてくれているという意味では、“共闘”くらいのつもりでいるのが現状かな」

「そう…」

妖狼の話を聞いた少女は、歩きながら視線を地面に下す。

 “人間に忌み嫌われし”…か。思えば、八岐大蛇(せんぞ)酒呑童子(ちちおや)も、“その部類”に入るのよね…

八那はこの時、以前に垣間見た血の記憶の事を思い返していた。


「ついたぜ」

濟羅(さいら)に連れられてたどり着いたのは、巨大な壁の前だった。

しかし、その中で若干妖力を八那は感じ取る。

「…ぬりかべ。そこを通してやってくれ」

「あ…!!」

濟羅(さいら)が壁に手を添えてそう口にすると、壁がゆっくりと動き始める。

細い瞳が二人を捉えた途端、八那は声を張り上げる。地面のこすれる音と共に、ぬりかべがどいた先に奥へと繋がる道が現れる。

「俺は、ちょいと別件があるんでな。その先に葛葉(やつ)がいるから…お姫様らしく、おとなしくしている事だな」

「お姫様じゃないし…!!」

八那がその先に足を踏み入れると、妖狼族の青年は嫌味っぽい口調でくぎを刺す。

彼女は、お姫様呼ばわりされるのが気に食わないのもあり、不服そうに頬を膨らませていた。

その後、ぬりかべによって出入り口は閉ざされてしまう。

 …一応、目的を一つ果たせるのは良かったけど…。囚われの身となって初めて、目的達成ができるなんて、変なかんじだな…

八那は複雑な想いを抱えながら、奥へと足を進めていく。

「そこに、どなたかおるのか?」

「…っ…!!」

暗闇の奥から声が響き、八那は体を一瞬震わせる。

すると、火の玉による灯りが灯され、彼女の視線の先には白銀色の毛を持つ妖狐――――八那や尊隊が探していた葛葉が、地面に座り込んでいるのであった。


いかがでしたか。

今回は迦楼羅達が、木戸達人間と手を組むという展開までいきましたが…実は連載開始当初、こうなるとは思っておりませんでした。

だって、木戸なんかは”明らかな敵”のつもりで書いていましたしね☆

作者自身も予想外(笑)

さて、次回は葛野と会った八那サイドから始まります!

どうなる事やら…


ご意見・ご感想あれば、宜しくお願いいたします!


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