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八百万の軌跡、何処へと  作者: 皆麻 兎
第六章 京の地に迫りくる脅威

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第二十一話 寺を襲撃するために

この回から登場するサブキャラ

濟羅(さいら):ぬらりひょんの部下で、妖狼族の青年。妖狼は妖力を持つ狼で、人間のような姿かたちに変化ができ、他の狼達を従えている。実力が上にあたる迦楼羅に対し臆す事のない度胸を持つ。

手の目:顔がのっぺらぼうで髪の毛がなく、両手にそれぞれ目を持つ妖怪。主に京都に出現する妖怪で人間にも化けれるため、鞍馬寺に侵入していた。


「む…!!?」

「僧正坊…様…?」


何かを感じ取ったのか、天狗は目を見開いて驚く。

交わりの儀が終わって疲弊していた八那は、息を切らせながら天狗を見上げる。


「やっと、あんたも気が付いたか」

「もしや、寺で何かが…!?」


その様子を目の当たりにした迦楼羅が皮肉る一方、宇摩住職は独り動揺していた。


「おい…。あの寺の結界って、あんたが張っているものではなかったっけか?」


異変に気付いていた梓は、交わりの儀を終えた僧正坊を見下ろしながら話す。


「…正しくは、わたしの力の一端を封じ込めた数珠によって張られているにすぎん。故に、万が一数珠が壊されでもしたら、凶悪な妖怪の侵入を許してしまうであろうな」

「…なっ…!!」


天狗の台詞(ことば)を聞いた八那・迦楼羅・梓の3人は、目を見開いて驚く。


「迦楼羅…兎に角、早く戻ろう…!!」

「戻るったって、お前…!」


仲間の危険を感じた八那は、すがるように迦楼羅の胸に飛び込む。

しかし、交わりの儀を終えて疲弊しているのを知っている迦楼羅は、そんな彼女を目の当たりにして戸惑っている。


「嫌な予感がするの…。だから、早く…!!」

「…くそっ…」


今にも泣きそうな表情(かお)をした八那を見た八部衆は、悔しそうに舌打ちする。


「仕方ねぇ…3人で行くぞ!!」

「…お待ちください」


迦楼羅が二人を連れて下山しようとすると、僧正坊に止められる。


「僧正坊様…?」


厳しそうな表情をしている天狗を見た宇摩住職は、瞬きを数回していた。


「迦楼羅天様。鞍馬寺まで下るのならば、この僧正坊もご一緒させてください」


僧正坊の思わぬ台詞(ことば)に対し、その場にいる者全員が驚く。


「先程感じ取った気配は、複数あった。…誰であろうと、敵は一人ではおまへんという事。ならば、永き縁がある寺を放置する訳にはいきますまい」

「…だな。急ごうぜ!」


僧正坊の本意を知った迦楼羅は、そう口にしてから八那を連れて下山するのであった。



「貴様、何をしておる…!!?」

「この声は…!!」


その頃、境内を走り回っていた二口女は、木戸の声が聞こえてきた方角へと走っていく。

着いた先は、寺の重要な文化財等がしまってある場所だった。


「人間の僧侶…?」


たどり着いた歩純は、この非常事態に僧侶がいる事を不思議に感じていた。

見つかった事で振り向いた僧侶は、何かくわえたまま不気味な笑みを放つ。その口には、糸が切れて粉々になった数珠がくわえられていた。


「それは…もしや…!?」

「貴様…知っているのか!?」


木戸は、少し驚いた表情(かお)をしながら、彼女らを睨み付ける。


 邪気が濃くなった…。という事は…!!


僧侶の顔を認識した安曇は、その後周囲で感じたものを察知し、この僧侶が何をしでかしたのかを悟る。


「住職曰く、あの数珠には天狗の神通力が宿っているそうよ。そして、この鞍馬寺を覆っている結界の要でもある…!!」

「…ちっ!!」


安曇の台詞(ことば)を聞いた木戸は、改めて僧を睨み付ける。

すると、僧侶の格好をしたその男は、顔が溶けるように形を変形させていく。普通の僧侶と同じく髪はないようだが、その姿は顔がのっぺらぼうで、左右両方の手に目玉を持つ妖怪・手の目となった。


「さて…わしの役目も終えた事だし、退散させてもらうかのう…」


80代くらいの老人みたいな声をあげた手の目は、その場から逃げ出そうとする。


「この俺が、ぬらりひょんの手先を逃がすと思うか…!?」


木戸は、手に持っていたサーベルの矛先を、妖怪に向ける。


 こいつ…何を考えているのでしょうか…!!


相手は目や口が顔にない妖怪のため、歩純は敵が何を考えているのか全く読めなかった。


「ワォォ―――――ン」

「えっ…!?」


すると突然、外から聞こえる鳴き声に対し、木戸や歩純は驚く。


「この響く遠吠え…。もしや、新手…!!?」


感覚を研ぎ澄まし何かを悟った安曇は、歩純に向かって叫ぶ。


「歩純!!兎に角、外へ行くわよ!!」

「えぇ…!!」


お互いに同意を得た後、二人は急いでその場を後にしたのである。



「さてさて…。やっと、姫様のお出ましって所だな」

「誰…!?」


遠吠えを安曇らが聞いてから数分後、下山している八那達の前に、見知らぬ青年が現れる。

その青年は、人間の姿をしているが後ろに茶色い尻尾を持つ。そして、動きやすそうな恰好に梓ぐらいの体格をしている。


「妖狼族…か。まさか、てめぇ…」


飛翔していた迦楼羅は、地面に降り立ってから相手を睨み付ける。

また、疲弊した八那は、梓におぶってもらいながら下山していたのである。迦楼羅が放つ殺気に対し、相手は飄々とした態度だったこともあり、全く動じていないようだ。


「あんたが、炎を司る八部衆とやらか。まぁ、兄ちゃん。せっかく、奇襲しないで正面から出て来てやったんだ。そんなに怒るなや」

「…あんた、五月蠅い。俺らは急いでいるんだから、さっさとどけ」


相手の態度を見て流石に苛立ったのか、梓がかなり低めの声で敵に向かって言い放つ。

妖狼族の青年は梓に視線を移すが、彼が実際に見ているのは、背中におぶさっている八那だろう。


「俺は、妖狼族の濟羅(さいら)。ぬらりひょんの命で、あんたを迎えに来たんだ。鬼の姫さん」

「ぬらりひょん…!!」


その名前を耳にした八那は、目を見開いて驚いていた。


「お主が、妖狼族の濟羅(さいら)か…。此度は、狼共を連れておらんのか?」


僧正坊は、深刻そうな表情を浮かべながら妖狼族の青年に問う。


「あぁ。今、狼達は寺の境内にいるぜ?そろそろ、結界をやぶったから入れるだろうし…」

「け…結界が…!?」


次第に青ざめていく宇摩住職に気付いた濟羅は、不気味な笑みを浮かべながら口を開く。


「悪いが、おっさん。てめぇの(ところ)の人間共が間抜けになってくれていたおかげで、うまく侵入できたみたいだぜ?」

「くっ…!!」


相手に挑発された宇摩住職は、悔しそうに唇を噛みしめていた。

そんな住職に目も暮れる事もなく、妖狼は話を切り出す。


「さて、本題だ。錦野八那…だったな。ぬらりひょんの奴が、あんたをご所望みたいだ。俺は、あんたを無傷で連れて帰らなくてはならないんだが…。あぁ、そうだ」


濟羅は話している最中、何かを思い出したように視線が宙を泳ぐ。


「見たところ…他の仲間はさしずめ、寺の中に残っているんだろ?狼の群れに雪女…。このままだと、お仲間はあいつらが殺しちまうけど…いいのか?」


飄々とした態度を崩さない濟羅だったが、()は笑っていない。


「何て卑怯な奴…!!」


梓におぶさっていた八那は、右手を強く握りしめながら怒りを抑えようとしている。


「つーか…この迦楼羅が、んな事許す訳ねぇだろ」

「迦楼…羅…?」


息切れする八那の視線の先には、怒りを抑え込んでいる迦楼羅の物凄い低い声が響いていた。

流石にその殺気を感じ取った濟羅は、後ずさりをする。


「つーか、兄ちゃん。あんたに勝てないのは、百も承知だ。だが…俺が雪女と交代すれば、そうもいかねぇよな?」

「てめぇ…!」

「…待って」


敵の挑発に迦楼羅が乗ってしまいそうになるが、八那の一声でそれは鎮まる。

迦楼羅が振り向くと、そこには少しよろつきながらも自分の足で歩く八那の姿があった。


「って、梓…てめぇ…!!」


“何故八那を行かせたのか”と梓を責めようとした迦楼羅だったが、その台詞(ことば)が発せられる事はなかった。

梓が悔しそうに立ち尽くしているのを見た迦楼羅は、事態を把握したようだ。


 くそ…。八那の奴、こんな時に酸漿色の瞳の能力(ちから)を使いやがって…!!


そう後悔する迦楼羅の少し前まで歩いてきた八那は、濟羅(さいら)を真っ直ぐ見据える。


「一つ、訊いてもいい?」

「ん…?あぁ、俺が答えられる事ならばいいぜ」


徐々に近づいてくる八那に気付いた濟羅(さいら)は、満足そうな表情(かお)をしながら了承する。


「貴方達の所に行けば、葛葉…。この西国における妖狐を捜してくれる?」

「ん?妖狐…?」


思いもよらぬ質問だったため、濟羅(さいら)は腕を組んだまま、その場で数秒考える。


 やるなら今…か…!?


二人がやり取りをしている後ろでは、梓が八那を取り戻す機会を伺っていた。


「確か、先日…何処かの狐を捕らえただか何だか…」

「それ、本当…?」

「あぁ。じゃあさ…」

「…っ…!!?」


濟羅(さいら)がその先を口にしようとした途端、八那が苦悶の声をあげる。

彼女の腹部には、相手の拳が食い込んでいた。当て身を食らわされた八那は、その場で体勢を崩して前に倒れこむ。


「ちっ…!!」


瞬時に間合いを詰めて八那を取り戻そうとした梓は、気絶させられたのを悟って数歩下がる。


「いずれにせよ、ぬらりひょんと顔を合わすだろう?…その時にでも訊いてみればいいんじゃね?」

「…ぅ…」


八那は意識が遠のいていく中、濟羅(さいら)の一言だけが耳に届く。

こうして彼女は、敵の手に堕ちてしまう事となる。


「てめぇ…無抵抗の八那(そいつ)に、なんて事しやがる…!!」


気絶した八那を肩に担ぎ上げた濟羅(さいら)に対し、迦楼羅は怒りが爆発しそうになっていた。


「んー…無闇に抵抗されたら、俺の場合…はずみで殺しかねないからな。”無傷でつれて来い”って言われているし…」


相変わらず、妖狼族の青年は飄々とした態度で話す。


「妖狼族の若者よ。その娘を連れて戻るのならば…ぬらりひょんにこう伝えるがええ」

「あん?」


すると、ずっと黙っていた僧正坊が、真っ直ぐな視線を相手に向けながら言う。


「”その娘は、我ら天狗にとっては要となる存在。もし、殺めるとするならば…今まで中立やった天狗(われら)は、貴様らと敵対関係になるであろう”…と」


落ち着いた口調で言う天狗だったが、そこには穏やかではあるが静かな憤怒が漂っていた。


「…了解。一応、伝えといてやるよ」


その静かな殺気を感じ取った濟羅(さいら)は、そう口にしながらフッと嗤う。


「しかし、小豆洗いがこんなに素早い奴だったとは…。世の中、色んな妖怪がいるもんだねぇ~…」

「待て…!!」


彼らに背を向けてその場を去ろうとしている妖狼族の青年に対し、迦楼羅が引き止める。


「取り返したいのならば、正面から乗り込むしかないと思うぜ?」


横目で八部衆を見た濟羅(さいら)は、そこから高速で走り出し、麓へと降りていく。


「くそっ…!!」


悔しさの余り、迦楼羅は拳を木の幹に強く打ち付けていた。

梓や僧正坊らが深刻な表情をしている中、鞍馬寺を襲っていた狼や他の妖怪達が退散していくのであった。


いかがでしたか。

前回よりは短めでも、やはり盛り上がるの何の!!

妖狼族については、やはり、昔アニメで見ていた犬夜叉の影響がでかい(笑)


やっと、京都の妖怪を出してあげる事ができました!

京都・大阪等の近畿地方はメジャー所の妖怪が多く、どいつを敵として出そうか迷っていた次第です☆

連れ去られた八那は、一体どうなる?


それでは、ご意見・ご感想があれば、宜しくお願いいたします!


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