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八百万の軌跡、何処へと  作者: 皆麻 兎
第三章 法印坊が保護した妖怪と筑波山の怪岩
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第八話 人探し

<この回に登場するサブキャラ>

法印坊…筑波山に棲む天狗。外見は子供の姿をしているが、長生きしているので結構年はいっている。自分の身長よりも大きい翼を持っている。性格は少し我儘で高飛車。

「もう、本当に何処にいるのよ!!彼女はー!!」

ある日の昼間、八那は息を切らしながら声を張り上げる。

旅を続ける彼らが今訪れているのは、茨城郡の南部に有する筑波山。男体山と女体山の2峰から成るその山は、その広さもかなりのものである。そんな中での“人探し”なので、そう簡単に見つけられるものではない。

「仕方ねぇだろ、八那!天狗が言う二口女の髪がないと、交わりの儀が行えねぇんだから…」

愚痴をこぼす八那に対し、迦楼羅は空を飛翔しながら答える。


今から時間を遡る事、数時間前――――――――――

「ほぉ、お主が大蛇(おろち)の血を引く餓鬼の娘か。よう来たな!」

「はぁ…」

筑波山にある大仏岩の前にて、山の天狗・法印坊が八那を見てそう口にする。

彼女が呆れたような声を出していた理由は、目の前にいる天狗が自分より背の小さな童の姿をしていたからだ。しかし、その体と似つかないくらい、背中に生えている翼は大きく広がっている。

「図体より翼の方が大きいって、変な天狗(やつ)!」

「ほんに、無礼な奴だな!!外見に惑わされようとは、愚かな八部衆じゃ」

迦楼羅の台詞(ことば)を耳にした法印坊は、不機嫌そうに頬を膨らませる。

 そんな態度では、童と思われても仕方ないかも…

八那や正志郎は、ふとそんな事を考えていた。

「俺とて、相手の力量を見くびってはおらんさ。筑波の山は、古くから霊場として名をはせていた地。故に、棲む天狗の強さも、翼は神通力の強さを示すものだという事も、よく知っている」

迦楼羅は一瞬、真剣そうな口調で述べる。

呆気に取られた法印坊だったが、すぐに我に返って話し始める。

「して、我にも力を献上するとな?」

「はい…って、もうご存知なんですね?」

「うむ。天狗は互いに事を共有する術を持っておってな。最も、神通力のように目に見えぬものは共有できぬ訳だが…」

“大蛇の末裔である自分が山を訪れ、天狗に力を分け与える”という話を一言も口にしていないのに既に知っている事に対し、八那は疑問に感じていた。

しかし、法印坊が得意げに話した答えによって、納得したのである。

「我との交わり方はさして難しくはないのだが…いかんせん、媒介を持つ女が今この場にいなくてな…」

「媒介…ですか?」

天狗の台詞(ことば)に対し、正志郎は恐る恐る問いかける。

「数年前、ふた口女という(もの)を保護してな。彼奴が持つ髪の毛は我の翼と相性がよく、術を使うに最適な物なのじゃが…」

「へぇ、同族以外の妖怪(やつ)を従わせるなんて、珍しい事もあるんだな!」

「…そやつは、放っておけば鬼になっていたやもしれんからな。そうなる前に、保護してやったのじゃ」

天狗の呟きに迦楼羅が反応するが、今度は不機嫌にならずに答えてくれた。

しかし、童の姿をした天狗が深刻そうな表情で語っていたくらいだから、あながち嘘ではないのだろう。


「まず、そやつを連れてこん事には、始まらぬ。故に、我の元にそやつを連れてこい」――――そう法印坊から命じられて、現在に至る。

「このお山に棲む天狗達が手伝ってくれれば、少しは探しやすいんだろうけど…」

そう告げながら、正志郎は周囲を見渡す。

そこには、数十匹はいるであろう天狗が、木々の周囲を走り回っている。しかし、主と同様で、彼らも八那達に力を貸そうという思いやりのない妖怪達であった。

「でも、“放置していたら鬼になっていた”って、どういう事なんだろう?」

「…それはおそらく、その女が元は人間だった故だろうな」

「迦楼羅…?」

後ろから声がしたので振り返ると、八那の目の前には宙に浮いた状態で止まっている迦楼羅の姿があった。

しかし、普段のふざけた態度を取る彼ではなく、どこか深刻そうな表情を浮かべている。

「ふた口女ってのは…文字通り、2つの口を持つ女の妖怪だが…。大半は、人間が妖怪に変化した存在だと云われている」

「僕みたいに、生まれながらの妖怪ではなく…って事?」

「そうだ。それは、鬼とて一緒だ。鬼とて、負の感情を高ぶらせた人間が変化する存在。鬼を天狗が恐れる所以は…お前なら解るだろう、八那」

正志郎の問いに答えた迦楼羅は、横目で八那の方に視線を向ける。

「私の父…酒呑童子も、そうやって鬼になったから…?」

「…らしいな。最も、あの時代には酒呑童子(やつ)以外にも鬼は存在していたようだが…どうにも、鬼の代表的存在が酒呑童子(やつ)と人間達には定着しちまったからな。勝手なもんだぜ」

そう語る迦楼羅は、どこか不機嫌そうにも見える。

 人間という種族は、どこまでも勝手な連中だ。酒呑童子(やつ)は、好きで悪名高い鬼になった訳でもねぇのに…!

そんな迦楼羅の心の叫びを、八那達は知る由もなかった。

「それにしても、このお山。岩がたくさんあるんだねぇ…!」

山中を歩いている途中、不意に正志郎が上を見上げながら呟く。

しかし、それは後ろを歩いていた鳶も同じような事を感じていたようで、周囲にある岩をつっついている。

「あぁ。確か、この山。色んな所以を持つ岩が多くてな…って、おい!八那!!」

山にある岩の事を語ろうとする迦楼羅だったが、ある方向を見つめている八那に声を張り上げる。

「迦楼羅…?」

ぼんやりとしていたのか、八那は彼の声で我に返る。

「…どうやら、無意識の内に感じ取っていたのかもな。その方角は行かねぇ方がいい」

「そう…なんだね。理由は解らないけど、何故かそっちに行ってはいけないような気がしたんだ…」

迦楼羅の台詞(ことば)を聞いた少女は、妙に納得していた。

すると、八部衆はため息交じりで口を開く。

「その先には、屏風岩なる大岩がある。その岩はな、八那。大蛇を倒した須佐之男命が祭られているんだと」

「そっか…。それならば、八那が何かを感じ取るのも無理はないかも…」

迦楼羅の説明を聞いて、今度は正志郎が納得していたのである。

「因みに、この山からだったら、俺も天界に帰る事ができる」

「そうなの?」

思いもよらぬ迦楼羅の台詞(ことば)に、八那は瞳を数回瞬きする。

その表情を確認した八部衆は、フッと哂ってから話を続ける。

「あぁ!この山には、”弁慶七戻り“と人間達が名付けた岩があってな。そこは、現世(うつしよ)常世(とこよ)…あるいは、聖と俗とも云うのかな?そこを分ける門と人間達は思っているようだが、あながち嘘ではない。特に、この国に住まう八百万の神々は、こういった門を使って人間界と天界を行き来できるんだ」

「へぇー…」

得意げに語る迦楼羅の話に、八那や正志郎は興味深そうに聞いていた。



「さて、間もなく陽が沈む…。今日の所は諦めて、また明日にでも探し始めるしかねぇな!」

迦楼羅がそう口にした頃、辺りはすっかり夕日に包まれていた。

幸い、大岩の多い山であるため、野宿するには困らない。

「じゃあ、作った握り飯でも食べましょう!」

八那はそう口にして、持っていた風呂敷を開けた。

そこには、山へ来る途中の村で、村人から分けてもらった米を蒸してこさえた握り飯が人数分入っていた。

「おぉ、なかなか美味いじゃねぇか!」

「迦楼羅…もう少し、よく噛んで食べてくれない?」

最初の一口・二口で食べきってしまった迦楼羅を見た八那は、半分呆れていた。

「そうだよ、迦楼羅!せっかく八那が、人間から交換してもらった米で…」

そう口にしながら、正志郎はもう一口かじろうとしたその時だった。

「あれ…!!?」

「正志郎…どうしたの?」

半べそをかきそうになっている豆腐小僧を見た八那は、彼に問いかける。

「ぼ…僕の握り飯が…ない…」

「あ…?地面に落としたんじゃねぇの??」

それを聞いた迦楼羅が、嫌味っぽい口調で問う。

「そんなはずないもん。滑って落としたりなんて…」

迦楼羅の台詞(ことば)で半べそをかいてしまった正志郎を見て、八那は少し危機感を覚える。

「だ…大丈夫よ!私の残り物でよければ、あげるし…って!!?」

八那が自分の握り飯をあげようと手を差し出すが、その手にも握り飯がなかった。

「あれ??」

しっかりと手で持っていたはずなのに、見当たらない事に対して八那は首を傾げる。

「キーっ!!!!」

「鳶…!!?」

この時、何処からともなく、鳥の叫び声のようなものが響く。

その方角を見ると、鳶が何かを追いかけるかのように、足早に彼らの前を去っていったのである。

「あの叫び声って、確か…」

「うん。鳶は、怒った時にだけああやって叫び声を出すんだ!」

八那が叫び声の正体を口にしようとすると、髪切りをよく知る正志郎がその先を口にした。

気が付くと、視線の先には紅い翼で飛翔する迦楼羅の姿がある。

「行ってみようぜ!おそらく、鳶が追いかけた奴が握り飯泥棒かもしれねぇしな!」

「そっか…うん、行ってみよう!!」

迦楼羅の意見に同意した八那と正志郎は、鳶が走っていった方角へと駆けだしていく。


「痛っ…痛いじゃないのよ!!!」

「ちょ…やめてくださいっ…!!」

八那達が走っていった方角から、二つの女性らしき声が響いてくる。

 女性の声…あれ、もしかして…

この時、八那の脳裏には一つの仮説が生まれていた。

「鳶…!!」

髪切りの姿を発見した正志郎は、声を張り上げる。

「キーっ!キーっ!!!」

八那達の視線の先には、地面に倒れた女性の姿と、そこに乗り上げている鳶の姿があった。

明らかに怒っているのがわかる鳶は、その女性の髪を切り取っていたのである。

「鳶…止めなって!!」

正志郎が鳶の側に駆け寄ると、ようやく鳶は冷静さを取り戻したのである。

「…なぁ、八那」

「迦楼羅…?」

不意に横に立って声をかけてきた迦楼羅に対し、八那は答える。

「食い物の恨みって、人も妖怪も恐ろしいもんだな」

「…だね」

髪切りの口元にご飯粒がついているのを見た迦楼羅は、状況を察したような口調で話していた。

一方、八那も鳶が怒った理由が、自分の握り飯を食われたからと理解していたのである。


こうして、鳶が捕まえた握り飯泥棒の女。それが実は、彼らが探していた妖怪・ふた口女だという事実はこの後、鳶がその女からどいた後に知る事になるのであった。


いかがでしたか。

今回からの新章。

ここでやっと、次の新しい登場人物を出してあげられそうです!

しかし、食い物の恨みはやはり恐ろしいですよね(笑)

この章を書くにあたって、現在の茨城県にある筑波山を調べたんですが、岩の話は山の事を調べている間に知った次第です!

そう考えてみると、この山がどれだけ大きいのかがよくわかりますね☆

因みに、今回の天狗が子供の姿をしていた件ですが…

天狗といえば、長い鼻に赤い肌に黒い翼。山伏みたいな恰好をしているのが一般的ですが、中には童の姿をする天狗もいるそうです!前回が「美形の青年」な天狗だったので、今回はそっち路線でいってみようかなと★

さて、次回は握り飯泥棒の訊問に入る?(笑)

また、怪岩が多いのもあるので、ちょっと八那にも何か変化があるかもしれないです。


それでは、ご意見・ご感想があれば、宜しくお願いいたします!


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