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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第二章『消失技術の記憶』
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001(094) 『生還者の集い(ギャザリング・オブ・サバイバーズ)』

第二章開始です。

 手にしていたスマートフォンから顔を上げると僕は青く茂った芝生の上に立っていた。

「は?」

 ここは何処だと辺りを見回しても、目の前にあるのは風に揺れる芝生と木々。他にあるとすれば、空だ。

 空の色が青ではなく、赤味が増して紫色に近かった。地球じゃないどこか、なのか?

 つまり、僕はどこかへ飛ばされたというのか。

僕はほんの数秒前にアメリカに到着したばかりだ。

そう、僕が搭乗していた飛行機は長いフライトを終えて、メリーランド州の空軍基地に着陸した。

 そして、搭乗口に密着した階段を降りてコンクリートで出来たアメリカの大地を踏んだ直後に、ポケットに収めていたスマートフォンが震えだした。僕は誰だろうと何気なしにスマートフォンを手にした。しかしよくよく考えて見ればスマートフォンが受信すること事体がおかしい。

 僕のスマートフォンは海外では使用できないサービス設定にしている。本来であれば日本のキャリアであるこのスマートフォンが海外の電波をキャッチするようなことはない。

 僕が得体のしれない場所へ飛ばされた原因はこのスマートフォンだ。この中身はもう現在の科学では辿りつけない技術とプログラムが入り込んでいる。

「白の創造主の仕業か」

 溜息と共に吐き出した言葉に手にしていたスマートフォンから『そうです』と声が聞こえた。

 僕のスマートフォンは通話ボタンを押していないのに、勝手に通信が開通していた。

「白の創造主、ですか?」

『そうです。阿式真悟さん。貴方が到着するのをお待ちしていました』

「ここはどこなんですか? どうやって僕をこんな場所へ?」

『そのお話は、こちらに来てからしましょう。あなたが最後の五人目です。さぁ、進んでください。もうあなたの目には見えているはずです』

「見えているってなに……」

 そう言われて視線を上げると、前方には先程まで無かったはずの一軒家が忽然と現れていた。家は白い柵に囲まれ、庭があり、立派な木が一本植えられていた。

「あの家に?」

『はい。鍵は開いていますので、そのままお入りください。では、後ほど』

 白の創造主は僕の返事を待たずに通話を終わらせた。

 無音となった通話口を耳から離して、スマートフォンをポケットにしまい込む。

 白の創造主が言っていた通り、家のドアには鍵は掛かっておらず、すんなりと来訪者である僕を迎え入れてくれた。

「お邪魔します」

 玄関口で思わず靴を脱ぎかけたが、日本みたいに靴脱場なんてないことに気づく。そういえばここはアメリカだったと思い直す。

 すでに靴からはみ出していた踵を靴の中に沈める。

 そんなことでもたついていると、家の奥からあの女性がこちらへと歩み寄ってきた。

 スラリとした体型で、女性にしては高身長。髪は長く綺麗だった。あの立体型録画映像そのままの彼女が僕の前に立った。

 この人が、白の創造主。

「ようこそ。私の住処へ。どうぞお上がりください。他のみなさんもお待ちかねです」

 スマートフォン越しで聞いた声よりも、柔らかく、表情も人間味にあふれていた。

「どうかされましたか?」

「いえ、なんでもありません」

 どうやら彼女に見とれてしまっていたようだ。

「日本語。喋れたんですね。映像を見た時には同時通訳というか、吹き替えみたいになっていましたけど」

「いいえ。私は日本語という言語は習得していません。あの映像には手を加えましたがね。でも、いま私が阿式真悟さんに話しかけている言語は英語です。みなさんがスマートフォンを所持している限りは、どの言語で会話をされても、話している本人の母国語として認識できるようにしまいた」

「なんでもありですね」

「この程度のことでしたら造作もありません。こちらの世界では統一言語を廃止もしくは禁止と言うべきでしょうか。なるべくこちらのルールを破らないようにしているつもりです」

 統一言語という文言に聞き覚えはあったけれど、白の創造主が歩き始めたので後を追った。

 この家は外で見るよりも中は広く、幾つもの部屋が用意されていた。しばらく歩いた後、白の創造主が角部屋の前に立って扉を開いた。

 そこはまぎれもなく、カズヒデさんのスマートフォンに組み込まれていた立体型映像で映しだされた部屋だった。違ったのは、机もなければ書棚もない。その代わりに十人くらいは座れそうな大きめのテーブル。そして椅子には五人の男女が僕達に背を向けた状態で、横並びに座っていた。

 部屋に入ってきた僕らに、その五人がこちらに体の向きを変えた。日本人以外の人を見るのは初めてではないけれど、黄色人種とは違うので年齢までは見て目ではわからなかった。

「みなさん、ご紹介します。こちらが最後の生還者、阿式真悟さんです」

 白の創造主が紹介してくれたけど、僕も自ら名乗ることにした。

「はじめまして。日本からきた阿式真悟といいます。その、よろしくお願いします」

 僕は会釈程度で頭を下げた。すると、変な歓声が沸いた。僕を歓迎してくれているのかと思ったら、どうも様子が違う。

 黒人男性と白人女性の二人は喜んでいたが、白人男性は悔しがっている。

「あ、あの?」

 戸惑っている僕を見て、テーブルの端に座っていた黒人男性が立ち上がった。

「いやー、悪いな。ちょっとばかりこいつらと賭けをしてたんだよ」

「賭け?」

「そう。あんたら日本人は挨拶する時に頭を下げる習慣があるんだろ?」

「え、ええ。はい、そうです」

「だよな? 俺が日本人ってのは何かあるとすぐに頭を下げる腰の低い人種なんだぜってこいつらに教えたら、信じてくれなくてよ。だから、本当に頭を下げるか賭けようという流れになったのさ。良かったよ。あんたが典型的な日本人で。おかげで俺とイリア、シルヴィアはハインから酒を奢ってもらえる」

「クソ。お前のせいで損したじゃないか。ああ?」

 ハインと呼ばれた白人男性は僕を睨みつけた。日本人にはない迫力のある眼力に弱腰になりかけた。僕は「すみません」と言って今にも折り曲がりそうな腰を、意地でも曲げないように務めた。ここで再び頭を下げたら彼らの思う壺だと察した。人の行動を勝手に賭けの対象にしたのだ。ここで怯んでしまったら、舐められる。第一印象は国も人種が違っても大切なはずだ。

 僕は背筋を伸ばして、彼らを見渡した。

「初対面だというのに、ひどい扱いですね。そんなに日本人が珍しいですか? あなた達を楽しませるための人種ですか」

 僕の一言に、騒いでいた四人が黙った。

「ごめんなさい。そんなつもりはなかったの。あなたの頭を下げる行為は辞儀という挨拶よね? 知ってるわ。私の国では親日家が多いし、日本の文化を学ぶ抗議だってあるの。私はシルヴィア。ポーランド出身よ」

 よろしくねと、シルヴィアはぎこちない会釈をした。

「次はあたし。イリアよ。出身はスペイン。私は日本のこと全く知らないんだけどね。賭けに勝ててよかった。ありがとね、シンゴ」

「じゃあ、次は俺だな。俺はダリウス。この賭けの首謀者でもあるから、シンゴの怒りは俺がすべて受け取るよ。誤解がないように言うが、俺は国や人種で差別はしないよ。気分を害したのなら、謝るよ。すまん」

「いえ、謝るほどじゃ。僕のほうこそ大人げないことをしてしまって」

「大人ってシンゴはまだ高校生くらいだろ? いやもっと若いのか?」

 ダリウスが首を傾げながら聞いてきた。

「そこまでは若くないです。これでも二十歳です」

「マジで!」

 外国人四人とも目を丸くしながら、直立不動となった。日本人ではない彼らが「マジ」という言葉を発したのは妙な気分だった。

「おい、ハイン。お前も自分で自己紹介くらいしたらどうだ?」

 ダリウスが白人男性に向かって顎で促す。

「わかってるよ。ハインだ。生まれも育ちもドイツのブレーメンだ。オレも、そのいきなり睨んで悪かった。別に日本人が嫌いとかそういうのはない。オレは負けることが嫌いなんだ」

 怒っている様子はないにしても、どこか威圧的ではあった。こういう性格の人なのだろうと納得しておく。

「それで、創造主。俺たち五人が揃ったら話をするって約束だが、話してくれるんだろう?」

 ダリウスが僕の隣にいる白の創造主に言葉を投げかけた。

「ええ。お話します。真悟さんもどうぞ、席に座ってください」

「真悟。俺の隣、空いてるから座りな」

 ダリウスが空いた椅子の背もたれを叩く。

 善意だとわかっていても、ダリウスは太ってはいないけれど、筋肉質で近寄りがたさはあった。けれど、彼の温和な笑顔をみて安心して彼の隣に座った。

 並びは一番ひだりから、ハイン、イリア、僕、ダリウス、シルヴィアだ。

 そんな生還者五人の正面に白の創造主が座っている。

「では、話しましょう。これからあなたたち五人にしていただきたいことを」

 白の創造主は僕らを見回す。覚悟の様子でも図っているかのようだ。

「あなた方には、失われた超古代文明の遺跡であるものを発掘して欲しいのです」

 そんな都市伝説みたいな文言を並べ、しかし彼女は真剣な眼差しで言い切った。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

次回投稿は4/9です。

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