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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
82/143

078 『託される(コミット)』

078です。


※ 2/1 誤字修正

 ホテルへ戻る頃には時刻は十一時を回っていた。『境界を越えし者』と戦うまでの時間は三時間ほどあるけれど、余裕があるとは思えなかった。

 ロビーを通りぬけ、右手に見える食堂に目を向けると、出て行く前にはいなかったはずの姿がちらほらと見えた。虎猫さんはもちろんエクスさんと日輪さん、そしてあのライブハウスでリタイア宣言した二人の姿も見える。

 僕らが戻ってきたのを見計らったかのように全員が立ち上がった。

 どうも空気が重く感じられる。

「なにか、あったんですか?」

「シンちゃん、携帯は使える?」

 いの一番に口を開いたのは虎猫さんだった。

「え? 使えるはずですけど」

 そう答えながら、僕はスマートフォンを取り出して起動させた。ちょうどいい、このままカズさんに電話をしてみようと、通話履歴からカズさんを選んで通話を試みた。が、なんの音もしなかった。全くの無音だ。

「あれ?」

「覚醒したシンちゃんなら大丈夫かと思ったんだけど、やっぱりダメなんだ」

 虎猫さんが落胆して椅子に座ると、他のみんなも同じように着席した。

 なにがなんだか、わからない。

「携帯が使えないのは、不思議かもしれませんけど、ここは異世界化が進んでいるんです。使えなくなってもおかしくはないかと」

「違うんだ」

 反論をしてきたのはエクスさんだった。

「違うってなにが? すみませんが、携帯が使えないことはさほど問題じゃないと思いますよ。外部との連絡が取れないくらいですし、それに僕らには妖精を使ってコンタクトを取ることができますから」

「そのコンタクトさえも使えない状況なんだよ」

 より深刻そうな顔をして、エクスさんは片手で顔の半分を覆った。

「使えない? そんなわけが……」

 僕は手にしていたスマートフォンにリリィと呼んでみた。

「あれ、リリィ?」

 僕の呼びかけには一秒と経たずにスマートフォンから出てくるはずなのに、出てくる気配がなかった。

「そう、妖精を呼び出せないんだ」

 エクスさんはポケットからスマートフォンを取り出すと机の上へ乱暴に放り投げた。

「どうして、こんなことに? いや、いつ気がついたんですか? 少なくとも僕がカーニヴァルと戦った後はリリィが出てくれました。八時くらいまでは妖精はでて来たはずです」

「君たちが戻ってくる三十分前だ」

「え?」

「三十分前、俺たちの目の前でカズヒデさんが消えた。それから、携帯も妖精も反応しなくなったんだ」

「カズさんが消えた? そんな馬鹿な話があるわけないじゃないですか」

 もう携帯が使えないことや、妖精たちが出てこないことなど吹き飛んでしまった。

「エクスさん、僕らがいなかった間に、なにが起きたのか説明して下さい!」

「はなからそのつもりだよ。ここに居る誰よりも君に話さなければいけないことなんだ。悪いけれど、知っての通り俺は要領よく、掻い摘んで説明するのが下手だから、何が起きたのかをそのまま話させてもらう」

「構いません。お願いします」

 エクスさんは座っていた椅子から立ち上がり、みんなが注目できるように中央に立って話しだした。

 ここからは僕がエクスさんから聞いた話の全部だ。

「もう結果は知っての通り、カズヒデさんが消えた。これは事実だ。では、どうして消えたのか、その過程を話そう。

 正しい時間こそ覚えてはいないが、カズヒデさんはノートパソコンを片手にこのホテルへ戻ってくるなり、ここにる全員をこの食堂へと収集を掛けた。もちろん、コンタクトを使ってだ。ん? ああ、そうだ、この時はまだ妖精はスマートフォンから表に出てこれたし、会話もできた。

 ここへ来る前に必ずレリック武器を所持してくるようにと付け加えてね。

 そうやって集められた俺たちはカズヒデさんを中心にして円を描くように彼を囲んだ。

 みんな、自分たちも戦わなくてはいけないのかと思ったさ。なにせ、武器を持って集まれと言われたら戦中よろしく特攻しろと命令されるものだと思ったくらいさ。

 輪の中心にいるカズヒデさんが何を言い出すのか、それこそ緊張の時間だったよ。

 束の間の沈黙を跨いで、カズヒデさんは俺たちに話しだした。

『真悟がいない間に、話しておくことがある。だから真悟はここへは呼び出していない』と前置きした。

 真悟くん、そういきり立たないでくれ、どうしてこんな言い方をしたのかも、カズヒデさんは話してくれたよ。

はぁ……すまない。あの時のことを思い出すと俺も冷静にはいられそうにないよ。

……何を言ったのか、教えよう。

 カズヒデさんはこう続けたのさ。

『お前たちのレリック武器を回収する』とね。

 そう、見ればわかるだろう? 奪われたのさ。俺たちのレリック武器はカズヒデさんに奪われてしまった。

 彼の目的は俺たちを戦いから遠ざけようとしたわけじゃないんだ。覚醒した適正者をこれ以上増やさないために、レリック武器を奪いとったんだ。

 この人数を相手にたった一人でと思うだろう。そう、抵抗しようとしたよ。僕を筆頭にといいたいところだけど、先に動いたのはノヴァさんだった。次に日輪、そして俺という順だと思う。他の人はとんでもない告白を聞いて身動きがとれなかったよ。

 もちろん、責めるつもりはない。ここにいる適正者全員がレリック武器を持っていても、無駄だったんだよ。

 気がつけば彼は手のひら大の水晶球を取り出して、俺たちの動きを封じた。

『これはノーマルの適正者にしか効果がない。覚醒した後だとレリック武器と一体化しているからな。分離しているいまだから動きを封じられる』

 おそらく、手元近くにレリック武器を持っていないと発動しないような束縛系のアイテムだったと思う。適正者だけを封じるとなれば、アイテムを使うカズヒデさんも束縛されるからね。

 これは後になって俺が考察しただけだから、実際は違うかもしれないがね。

 なんだい? ああ、そうか。そう思うよね。

 真悟くん。君はカズヒデさんが黒の創造主側、つまり適応者になったのかと思うかもしれないが、もしなっていたら安全区域には入れないよ。

 何より、俺たちのレリック武器を回収したのは誰であろう彼に使える妖精、レイラだよ。

 彼女からは無理やり命令されて、行動しているようには見えなかった。むしろ自発的に、主の為にと純粋な思いで動いていた。

 見事、俺たちから武器を奪うと、彼は手にしていたノートパソコンをノヴァさんの足元に置いて、こう囁いたらしい。

『俺が戻るまで持っていてくれ』と。

 ノヴァさんがここに居ないのは、ノートパソコンの情報を手に入れるためだ。念のため、彼の手伝いをしていたハンプティくんを連れてね。

 身動きがとれない俺たちは、ただことの流れを眺めることしか出来なかった。

『これから暫くの間、携帯もスマホも使えない。妖精すら出てこれなくなる。お前たちは大人しく、真悟が境界を超えし者を倒すことを祈ってやれ』

 そして、白の創造主側が持っていない歪みの中へ消えた。

 真悟くん。彼との付き合いが一番長い君に聞きたい。

 彼、カズヒデという男は裏切ったのか? それとも別の目的を持って行動しているのか?」

 エクスさんの一人語りは話すに連れて熱くなり、感情的な声の張り方をしていた。

 僕は最後の質問を即答できなかった。

「彼の行動にどんな意味があるのかわからない。ただ、俺たちは武器を奪われた。もう戦うことが出来ない。よくよく考えて見れば、昨日の夜にあんなことを俺に教えた時点で怪しむべきだったんだ」

 エクスさんが起こした不可解な行動の理由はカズさんとの密会後だと日輪さんは言っていた。

「昨日の夜、何を話したんですか?」

「ごく、簡単な話だよ。君のような過酷な状況下に置かなくても、適正者は覚醒することが出来ると。俺は……君が手に入れた覚醒した力に恐れ、そして嫉妬したんだ。同様の力さえ手に入れば、黒の創造主、適応者に恐れることなく戦える。だが、その方法を彼は教えてくれなかった。だから、俺はスマートフォンでアプリ『R』を使って情報を収集した……が、なにもわからずじまいだった。もしも、適正者になる方法が、他人のレリック武器を奪うことであれば、俺も同じ行動をとったのかもしれない」

「適応者と戦わずに、覚醒する方法が、他人のレリック武器を奪うだなんて」

「覚醒させないためにレリック武器を奪うとカズヒデさんは言った。ならば、なぜ俺に適応者と戦わずに覚醒する方法があるだなんて教えたんだ。さっき、カズヒデさんは適応者になっていないと言ったが、彼はもう黒の創造主側へとついたんじゃないのか? 覚醒する適正者を増やさないためにも、適正者で居る内に、俺たちのレリック武器を奪い、戦力を削いだ。違うか?」

 鬼気迫るエクスさんに、僕は思い当たることがあった。

 それは、僕とカズヒデさん、そしてノヴァさんの前で誓ったことだ。

『俺は黒の創造主、適応者と戦わないと誓う』と。

 裏を返せば、白の創造主、そして適正者となら戦うという意味を指しているのでは考えてしまう。

「その顔、どうやら思い当たる節があるんだね?」

「いや、でも」

 でも、覚醒したら死んでしまうという事実をエクスさんは知らされていない。

 覚醒していられるのは、この異世界化した中でのことだ。元の現実世界に戻ってしまえば、どれだけ強い力を持ってしても、生き残れない。

「でも、なんだって言うんだ?」

 言えるわけがない。この事実を言ったら、さらに混乱を招くことになる。それとも、覚醒したら死ぬという情報自体が、偽りだったという可能性すら出てくる。

 今度は僕が頭を抱えることになる。

 誰を信じればいい。やっぱり、他人を信じること事体が愚かだというのだろうか。

「君もそうやって黙るのか。しかし、もう俺たちに戦う手段はない。もう、頼れるのは君だけなんだ。いや、もう一人いるか」

 エクスさんは僕の隣にいるポニテさんを睨んだ。

「万が一、真悟くんが倒されたら、次は私がやるよ。そんな話、もう昨日の時点で決めたことじゃない」

「そうだ。そうだったな。すまない」

 申し訳無さそうに謝るエクスさんだったが、ポニテさんを見る目が次第に険しくなっていく。

「ポニテさん。君、レリック武器はどうしたんだ?」

「ああ、せっかく二人きりになれるから、部屋に……まさか!」

 食堂にいた誰もが同じことを思い浮かべた。

 先だって動いたのはポニテさん。次に僕とエクスさんだった。

 ロビーからエレベーターの前に立ったが、ボタンを押すことすらも時間が惜しいのか、階段を駆け上がった。

「何階だ?」

 エクスさんが叫ぶ。

「五階。五◯八!」

 ポニテさんも叫び返す。

 五階に到着して、そのままポニテさんの部屋へ駆け込む。

 ポニテさんが部屋の鍵を取り出そうともたついていたが、取り出すのも面倒になったのか、扉に向かって前蹴りをいれた。

 扉はものの見事に蹴破られ、急いで部屋の中へと入った。

 部屋は僕が出る前と変わらなかった。

 デスクに置かれた化粧品類。乱れたベッド。

 そして、壁には──

「ある。私の大剣」

 ポニテさんの所有武器である大剣は壁に立てかけたままだった。

「よかった。まだ希望は繋がれたままだ」

 エクスさんが安堵の溜息を吐き出す。

「私、今朝からカズっちと会ってなかったから、たぶん、大剣も一緒に持ちだしたんだと思ったんじゃないのかな」

「普通、そう思うのが妥当だ。何にしても取り越し苦労でよかった」

 いつの間にか、部屋の外が騒がしくなってきた。僕らの後を追いかけたみんながここへと集まってきたらしい。

「真悟さん、ポニ子。戻ってきたの?」

 ノヴァさんの声だけが、まっすぐに鼓膜へと届いた。

 棒立ちをして部屋の中を眺めている人たちをかき分けてノヴァさんも部屋の中へと入ってきた。

「はい。いま、ポニテさんの大剣があるのか確認しておきたくて」

「それで、大剣は……あったのね」

 壁に立てかけた大剣をみて、ノヴァさんも安堵する。

「これでまだ私は戦える」

「止めた所で、ポニ子が止まるとは思えないわね。その様子だと、カズヒデが何をしたのか、もう聞いたのね?」

「ええ。信じたくはありませんが」

 信じたくないというより、カズさんにしかその行動理念がわからないのだ。詮索した所で、正解は見つからない。

「きっと、大半の人がカズヒデは私たちを裏切ったと思ったでしょうね」

「それはそうだろう。俺たちのレリック武器を奪ったんだぞ」

 カズさんを擁護するノヴァさんにエクスさんが噛みつく。どうやら、覚醒できなくなったことを、悔み、消えたカズさんに怒りをぶつけている。

「敵となった男が情報を詰めたノートパソコンを託すなんていうかしら?」

「それは……」

 言い淀むエクスさんに、ノヴァさんが肩を叩いた。

「あなたの折れた心を取り戻せさせたのは、誰でもないカズヒデのはずよ。あの男、不器用だからね。まだ何かを隠している。私はそう思っているわ」

「あんたらはお人好しなんだな」

 呆れるエクスさんだったが、笑みをこぼした。

「いいだろう。もし無事に俺のレリック武器が戻ってきたら、その時は、カズヒデさんを一発殴らせてもらうからな」

「いいわよ。それくらいの覚悟くらいカズヒデにもあるわ。もちろん、責任もね?」

 ノヴァさんがウィンクをして答えた。

「よし、決まりだ。ようやく落ち着けることができそうだ。俺は御暇するよ。日輪、戻ろう」

 エクスさんは部屋の中を覗き込んでいた日輪さんを見つけると、そのまま廊下を渡って消えてしまった。

 部屋には僕とポニテさん、ノヴァさんの三人。外には虎猫さんとハンプティさんだけだ。

 例のライブハウスからのリタイア二人組は廊下の前にすらいなかった。

「ようやく、代々木公園からのスタート組が揃ったわね」

 ノヴァさんが、それぞれの顔を確認していく。

「お腹が空いたわ。ハンプティ、最後の食事、作ってくれるかしら?」

「もちろんさ。任せてくれ」

 ハンプティさんが無い袖を捲ると、虎猫さんも手伝うと言い、二人して一階へと戻っていく。

「そして、一人掛けたオフ会メンバーだけが残ったと」

 ノヴァさんが壁に背をもたれた。

「行かないの?」

 ポニテさんに聞かれても、ノヴァさんは動こうとしない。

「普通に料理するのだから、遅れても構わないわよ。それと、二人に話しておきたいことがあるの」

「いい話、ではなさそうですね」

「受け取り方しだいよ」

「それは、カズさん絡みのことですよね」

「もちろん」

 ノヴァさんは腕を組み、一度、俯いてから数秒ほど間を置いてから顔を上げた。

「カズヒデは白の創造主と手を組んだのよ」

 意外な告白に、僕の頭は再び混乱へと陥った。


最後まで読んで頂きありがとうございます。

次回投稿は2/1です。

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