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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
80/143

076 『不可解(イネクスプリカァブル)』

076です。

 僕らは三階まで階段で上りオープンテラスのカフェで落ち着いた。

 テラスにあるテーブル席に腰を降ろしたのは僕とポニテさんだけで、日輪さんだけは座らずに「なにか飲みたいものあるなら言って」と催促をしてきた。

「日輪さん、コーヒー淹れられるんですか?」

 素朴な疑問に日輪さんは「昔、コーヒーショップで働いちょったけん。まぁ、なんとかなーわ」と答えた。

 ただ、レジカウンターにあるクリアケースを一瞥して溜息を漏らした。

「ウィンドウにはいっちょるケーキやサンドウィッチ類はいけんね。昨日から出しっぱなしだけん。とても食えたもんじゃないわ。そんで、なんにする?」

「僕はコーヒーでいいです」

「コーヒーはブラックでいいん?」

「ええ、大丈夫です」

「ポニテさんは?」

 日輪さんは敬称をつけて呼んではいたけれど、どことなくぎこちない言い方だった。

「カフェラテできる?」

「つくれーで。そんじゃ待とって」

 日輪さんは踵を返して店内へ入ってくと、せっせとコーヒーの準備をしだした。

 初めはどこになにがあるのかわからず戸惑っていたが、目当ての品が見つかると仕事は早かった。古くなった豆などはすべてゴミ箱へ破棄して、新しい豆をミルで挽き、冷蔵庫から牛乳を取り出した。

「あんな風にテキパキと仕事をする女性ってカッコいいよね」

 日輪さんの動きに見惚れていたところに、ポニテさんが口にだした。声からして嫉妬している様な感じはしなかった。むしろ言葉の通りで、コーヒーの準備をしている日輪さんに憧れているような感じだった。

「経験者ですからね。身についた技術だからこそあの動きができるのでしょうね」

「あの人も、やっぱり社会人だったりするのかな。年とか聞いてないけど、見た目からして年上だしさ」

 カップを用意している日輪さんを眺め見た。顔つきや仕草からすると確かに僕らと同年代には見えない。二つ、いや三つくらいは上かもしれない。

「オンラインゲームって色んな人がいるとは聴いていたけれど、実際にやってみると社会人のプレイヤーって多いよね。初対面なのにタメ口聞く人もいれば、敬語で話す人もいるけれど、だいたい敬語を使って気配りをしている人は年上というか大人な人ばかりだった気がする」

「僕は常に敬語でしたね。年上とか年下とか関係なく、初対面の人は基本敬語です」

 そういう僕にポニテさんはクスリと笑った。

「真悟くんは親しくなってもずっと敬語のままじゃん。どんなに遊んでも一向に砕けないしさ。ああ、これはゲーム内におけるキャラ設定なのかなって疑ったもん」

「そんなキャラ設定する人いますか?」

「口調のキャラ付けはいるよ。ほら、語尾に何か付けるような人、たまにいるじゃない? 『にゃ』とかさ」

「定番中の定番な語尾ですね。むしろそんな人、実際に遊んでいて出会ったことがありませんけど」

「あくまでも定番的な語尾ってことね。前に遊んでいたオンゲーだと食べ物の名前にしている人がいたのね」

 どういうわけかポニテさんがいきなり笑い出した。

「ポニテさん?」

「ごめん。その人のことを思い出したら……ふふふ。あ、やだ、思い出しただけで面白い」

「そこまで言われると気になるじゃないですか。なにがあったんです? 食べ物の名前と語尾なにが関係しているんです?」

 ポニテさんは右手の平を見せて「待って」と意思表示した。どうやら思い出し笑いを引きずっているようで、落ち着くのを待った。

 軽く咳払いをしてから喉の調子を整えて、僕を見据えた。が、その目はすでに笑っている。

「あー、ごめん。じゃあ、話すね? その人は『てんぷら』っていうプレイヤーネームだったんだけど。この人とはある高難易度単体ボス攻略でしりあったの。レイドパーティー募集のランダムマッチングで偶然一緒になったんだ。顔合わせでみんな『はじめまして、よろしくです」とか短いと『よろ』だけの人もいたんだけど、このてんぷらさんは挨拶も返事も『てんぷら』っていうの。こうして話しているだけだとあんまり面白さ伝わらないかもしれないけど、いざ一緒にやっているとこれがまたツボに入るわけ。しかも強いしPS(プレイヤースキル)も高いの。結局そのダンジョンは失敗しちゃって、解散となったときみんなは「お疲れ様でした」とチャットに打ち込んだの。さて、てんぷらさんも最後もまた『てんぷら!』っていうのかなって期待してたの。そしたらさ。ふふふ」

 そんなにも面白かったのかと、ポニテさんはまた思い出し笑いをしたので、僕まで笑みを零してしまう。

「ごめん。えっと、パーティー解散間際、本当に最後の最後でてんぷらさんはこう叫んだの。『エビフライ!』って」

 ポニテさんは言い終わると同時に爆笑し始め、僕もそのオチに笑ってしまった。

「ね? 最高でしょ? なにこの人って思うじゃない? ずっと『てんぷら』しか言わなかったのに、解散間際に『エビフライ』とか卑怯じゃん? 同じ揚げ物だけどさーって。 当事者だったら笑わない人いないもん。いい裏切られ方ってあるんだなって思ったね。色んな意味でセンス高い人だった」

「ふざけた名前をつけた人って二種類いますよね。すっごいゲームの上手い人か、やる気のないゲーム荒らしするかで」

「そうそう。特に中二っぽい名前の人はハズレが多かったかな。これは私の偏見で、私が出会った人が悪かっただけかもしれないけどさ」

 名前は体を表すとはいうけれど、ゲームに限って言えば両極端なことが多い。ポニテさんが話してくれたてんぷらさんは、とことんゲームを楽しむ派の人だったのだろう。その真逆にまったく意思の疎通を取ろうとせず、協調性に欠けて、攻略を無視して突っ込む人もいるが、こういう人はだいたい強い人たちの中に入って、寄生をして死んでも構わない人だ。

 ソロプレイヤーの僕でさえ、つまり協調性のないこの僕でもパーティーを組んだ時は意思の疎通は取るようにはしていた。そうしなければゲームの攻略が成り立たないからだ。

 他力本願で遊んで、なにが面白いのだろうと思うのだけれど、これもまた人それぞれということだ。

「変わった名前といえば、エクスさんもそうですね。正式名称は『俺がエクスカリバー』って、笑うよりも驚きましたから」

 ポニテさんが手を叩いて笑った。

「そうそう。棺を壊した後に出会ったんだよね。こっちはまた適応者かと思って妖精をださせたら『俺がエクスカリバーさま』って呼ぶんだもん。あの時は突然過ぎて笑えなかったけど、いま思うとかなりシュールな出会い方だよね」

「しかもレリック武器は剣じゃなくて弓ですし。ボケの二段構えとかありえませんよ」

「せめて名前にあった職業だったらまだ救われたのにね」

 僕ら二人が小さく笑っていると、テーブルにコーヒーとカフェラテの入ったカップが置かれた。

 まずいと思って顔を上げると、そこには日輪さんが小さなトレイを持ってなに食わぬ顔で立っていた。

「すみません。別にエクスさんのことをバカにしたわけじゃなくて」

 しどろもどろに答える僕をよそに日輪さんは手にしているトレーから自分のカップをテーブルに置いて、椅子に座った。

「そげにウチの顔色を伺わんでもいいで。エクスの名前はウチも同意見だけんな。ほんにダラなヤツだで」

 日輪さんがコーヒーを口に運び、一口飲むと美味しい溜息を吐いた。

「ほら、二人も飲みんさい。味は保証すーで」

 日輪さんの一言に、僕とポニテさんは「いただきます」と会釈してからカップに注がれたコーヒーを飲んだ。

「美味しい。すごく香りがいいですね」

「このカフェラテもいいよ。砂糖じゃなくてミルクの甘みがほのかに感じられてすごく美味しい」

「だが? まだウチの腕は落ちとらん証拠だわ」

 日輪さんがふた口目のコーヒーを飲んでから、カップを下ろした。すると取っ手の部分を指でなぞりながら「あのな」と呟く。

「昨日の事、ほんに悪いとおもっちょる。残った棺を壊しに行く前に謝ったけど、あん時はまだ反省という反省はしとらんかった」

「そう、でしょうね」

 本音を打ち明けた日輪さんにポニテさんが同意する。

「でも、それは私も同じ。すぐに許すなんて、私も大人じゃないから」

「知っちょる。そこはお互い様だったかもしれんな。だけん、改めて謝るわ。ポニテさん。ほんにごめんなさい。言い訳かもしれんけど、ウチも色んな事があったけん、テンパっとたに。誰かに当たるような大人気ないことして、悪かったわ」

「私も、すぐに熱くなる方だから、冷静になれなかった私も悪いよ。だから……」

「うん。これで仲直りつーか、元々、仲良しではなかったけんど、打ち解けたっつー事でいいだーか」

「いいよ」

「そげか」

「そげだよ」

 と、ポニテさんは日輪さんの方言を真似て舌を出した。

 日輪さんがポニテさんの前に手を差し伸べた。

「自己紹介からさせてもらうわ。ウチは日輪。職業は斧術士だで」

 ポニテさんは日輪さんの手を握りしめた。

「私はポニテ。ポニーテールじゃないけどね。職業は剣術士」

 硬く結ばれた手。その手の持ち主たちは互いに微笑んでいた。

 繋がられた手が離れ、自由になった右手たちは再びカップの取っ手を握った。

「あんな。実は話はこれだけじゃないに」

 日輪さんの顔から笑みが消え、陰りが見える。

「もしかして、エクスとなにかあったの?」

「ようわかったな?」

「女の勘かな? いきなり踏み込むけど、二人は付き合っているの?」

 そう聞かれた日輪さんは苦笑いをしだした。

「まさか。あいつはウチのことを生意気な小娘くらいにしか思っとらんよ。小娘つー年齢でもないけどな」

「でも、好きなんでしょ?」

「そう思っちょったけど。どげだーか。よーわからん。あ、すまんけど、ウチは別に恋の相談をしたくてこの場を作ったんと違うけんな」

「違うの?」

「違うわ。そげな悩みくらい自分でなんとかすーわいね。ウチが話したいんはな、エクスが昨日から変な行動をするようになったに」

「変、とは具体的にどんなことをですか? 今朝、僕がカーニヴァルと戦いに出る前は普通だった気がしたんですけど」

「あん時は、真悟さん、あんたがおったけん、普通を装っただけかもしれんで」

「僕がいたから?」

「順を追って話すわ。昨晩、ウチらは真悟さんの覚醒した力を目の当たりにして、怖くなったんよ。本人を目の前にしていうことじゃないけんど、ほんに怖かったに」

「それは、しかたありません。あれは僕の中に眠っていた『狂気』が出てきたんです。あんなのに触れたら、恐ろしくなっても仕方ありません」

「そう言ってもらえると、ウチらも気が楽になる。そんで、真悟さんとポニテさん二人が消えた後、ウチらはホテルに戻ったんだけど、その帰り道、ウチの隣におったエクスがこんなことを言い出したんよ」

 日輪さんはカップの縁をなぞりだす。

「本当に隠された設定なのかって」

「それって、適正者の覚醒する設定のことを言っているんですか」

「……たぶんな」

 エクスさんの言い方からすると、覚醒する事自体を疑っているように思える。

「エクスはホテルに戻るなり、あんたらんとこのカズヒデつう人と話し掛けて、そのまま二人で部屋に閉じこもった。軽く二時間位な」

 ここでまたカズさんの名前が出るとは思わなかった。エクスさんはこの覚醒した力について何かを察したということだ。もしかしたら、覚醒してしまうと、死んでしまうということさえも思い至ったのか。いや、なんの情報もなしにそこまで察せられることはあり得ないだろう。

「それで、話し終わった後、エクスさんと話はされたんですか?」

 声が上ずってしまう。二時間も二人で何を話し込んだのか、そこが気になる。万が一にでも、僕が死んでしまうことをエクスさんが聞いたのであれば、僕の隣りにいる日輪さんも聞いているかもしれない。

「エクスは部屋に戻ってくるなり、ずっと一人で考えこんどった。いくら話しかけても生返事しかしてこん。一人陰気になっても困るし、一緒におるウチも気が滅入るが。だけん、シャワーでも浴びて気分変えてきーやって言ったら、『覚醒する可能性は日輪やポニテさんだけじゃなさそうだ』って言いよったん」

「それは、当然のことじゃないんですか」

 と、思わず声が漏れてしまった。

「え、なに? どういうこと? 真悟くんもエクスの言っている意味わかるの」

「いや、覚醒する方法は僕が身を持って知っています。僕が味わったような体験をすれば、適正者であれば誰でも覚醒するかと」

 僕はカーニヴァルにされたこと、行われたことを思い出す。気分は当然悪くなり、無性に腹立たしくなった。

「ウチもそう思ったで。でも、どうも違うような気がしてならんに」

「じゃあ、覚醒したらどうなるとかそういう話はしていないんですね」

「え? ああうん。しとらん」

 日輪さんが不思議そうに首を傾げる。どうやら本当に知らないようだ。ひとまず、カズさんは覚醒した適正者が元の世界へ戻った後、死んでしまうという事実は黙ってくれていたようだ。

 しかし、こんな当たり前のことをどうしてカズさんとエクスさんは話し合ったんだ。しかも二人きり、二時間もかけて。

「それからだに。エクスは一人になると言って、別の部屋に入って、一時間くらい戻ってこらんかった」

 確かに不可解な行動ではある。なぜなら適正者の覚醒は、過度のストレスと怒り、自分の内側に眠っている本能を呼び起こすことだと知れているのだ。

 エクスさんはそれ以上の何かに悩み考えていたのか。

「具体的に、エクスさんが一人で何をしていたのか、わかりませんか」

「ウチもそれが知りたいに。直接聞いても、はぐらかされるだけだわ。でも、一つだけ教えてくれたことがあったわ」

「なんです?」

「俺たちは、戦い続けなければいけないようだ、って」

「ちょっと待って。エクスはもう戦えないみたいなリタイア宣言したじゃん。なのになんで?」

「そげだに。だからおかしいから、こうして話をしちょるんだわ。うちからカズヒデさんに話をしてもいいけんど、どうも正直に話してくれる気がせんに。勝手なこというようだけど、二人からカズヒデさんにエクスが何をしちょるのか聞いてごさんだーか」

 日輪さんは不安なのだ。自分の好いている人が、一人で黙々と何かに没頭していることに。

「なによ。水臭い」

 ポニテさんが朗らかに言った。

「私たち、もう友達になれたんだからさ。ちゃーんとカズっちから詳しく聞いてあげるよ」

「そげか。そうして貰えると、ウチも助かるわ。心配しちょったに。なんか、エクスが一人で何かをしでかしそうな気がしちょったけん」

 一人で何かをする。

 それはカズさんにも言えることだ。

 笑い合う女子二人に挟まれながら、僕は一抹の不安を抱く。

 気にするなと思いながら、カップを手に取り、口に運ぶ。

 コーヒーはすでに冷めていて、香りも損なわれていた。


最後まで読んで頂きありががとうございます。

次回投稿は1/28です。

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