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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
79/143

075 『秘密の(シークレット)』

075です。


※ 1/26 本文加筆修正

  

ホテルの一階へ到着して、食堂にも顔を出した。ところがエクスさんたちの姿はなかった。するとちょうど食堂から出てきたハンプティさんと目が合うと、こちらに駆け寄ってきた。

「シンくん。もう行くの? 俺、まだメシ作ってないんだけど」

「ああ、いや。ちょっと出かけてくるだけです。昼前には戻ってきますから」

「なんだ。そうか。あれ、ポニテも一緒に?」

「なによ? 真悟くんと一緒に出歩いちゃいけないってわけ? あんたに咎められる理由なんて無いと思うんだけど?」

 ポニテさんに詰め寄られてハンプティさんは仰け反った。

「悪いなんて一言も言ってないないだろ。なんでそうムキになるんだよ」

「わかればいいのよ」

 満足そうなポニテさんに一矢報いたいとでも思ったのか、ハンプティさんが悪い顔をしだした。

「いつもそんなおっかない顔しているといつかシンくんに嫌われちゃうぜ?」

 また余計な一言を言ったものだと呆れたのだが、予想外にもポニテさんは狼狽してしまった。

「ねぇ、真悟くん。こんな風に怒るような女ってダメ? 私、昨日からいつも怒ってたと思うだけど。もしかして感じ悪かったの?」

 ハンプティさんから僕に矛先を変えたのだが、心情は全く別物だった。

「大丈夫ですよ。そういう、なんというか血気盛んなところも僕はポニテさんらしくていいと想っていますから」

「本当に?」

 僕の言葉が信じられないらしく、上目遣いで僕を見つめた。

「本当ですって。だって、ポニテさんが怒るときはいつだって誰かの為に怒るじゃないですか。そういう所、僕は好きですよ」

「良かったぁー。ほら、真悟くんは私の全部を好きと言ってくれているの。残念でしたー」

 舌を出して反論するポニテさんに、ハンプティさんは疲れた様子だった。

「うわぁ。シンくん、頑張ってね」

「なにそれ、どういう意味?」

「いやだって、ポニテみたいな女って面倒じゃん。かまってちゃんオーラがすごいっていうかさ」

「あんだと! もう一回言ってみな!」

「うわ! やめて!」

 つい調子に乗ってしまったハンプティさんにポニテさんが大剣を掴もうと右腕を肩に手を回した、ところまでは良かったのだが肝心の大剣は所持していない。

「あ、あれ?」

「ポニテさん、大剣は部屋に置いてきたじゃないですか」

「そっか。デートに邪魔だからって。すっかり忘れてた」

「おっちょこちょいだなぁー」

 と、軽口を叩くハンプティさんにポニテさんがひと睨みして黙らせた。

「すみません。なんでもありません」

「わかればいいのよ。ほら、こんな阿呆は放っておいて、さっさと行こう。時間はあまりないんだしさ」

 ポニテさんが僕の腕を引っ張るのだが、僕は動じなかった。

「真悟くん?」

「先に外で待っていてくれませんか? ハンプティさんにお昼ご飯について注文したいことがあるんです。それに昨夜から今日ここに戻ってくるまでハンプティさんとは話せなかったので」

「それもそうだね。わかった。先に外で待ってるねー」

 素直に従ってくれたポニテさんは小さく手を降ってホテルのロビーから出て行った。

 ポニテさんを見送ったあと、僕は改めてハンプティさんと向き合った。

「それで、昼飯の注文ってなんだい? たしかガッツリとカツ丼とかそういうのが良いみたいなの言ってたよね? なんならカツカレーにしてもいいだぜ。なんたってホテルだからな。食材ならたんまりとあるよ」

 ポニテさんがいなくなったことで元気になったのか急に饒舌になった。昨日はじめて僕らと出会ってから、ハンプティさんはポニテさんからいろいろとやられているから、仕方がないのかもしれないけど。

「すみません。お昼の注文というのは二人きりで話すための方弁です」

「え、それってどういう?」

「単刀直入に聞きます。ハンプティさんは白の創造主と話したことはないんですね?」

「それは、えっと……」

 ノヴァさんにも探りを入れてもらったけれど、念のため、直接聞きたかった。

 どういう反応を示すのか確認するため、僕は一時的に覚醒状態にある研ぎ澄まされる五感を発揮させた。

「どうなんですか?」

「ごめん。カズヒデさんには黙っているように言われたんだけどさ。やっぱ、シンくんには話したほうがいいよな」

 ノヴァさんには言えなくても、当事者である僕には隠しきれないということか。なるほど、ノヴァさんの言うとおり嘘はつけないかもしれないな。

「カズさんは僕になにを黙っているように言っていたんです? 教えて下さい」

「白の創造主が、エヴァン・ラスティンからチェイスというアメリカ人に転移したのはもう知っているよね?」

 その問いに僕は素直に頷いてみせた。

 転生ではなく転移と言ったのは、白の創造主自身がその魂そのものを死んでしまった人間の体に移るからだろう。

「このチェイスという人。えっと、死ぬ前の話なんだけどさ。この人は生体科学分野では有名な人らしいんだ。企業だったか、財閥だったのか覚えてないんだけど、そっち系の研究所に在籍していたんだ」

「科学者の体に転移したということですね。それで、それがどうして僕に黙っていろと言ったんですか」

「それは……」

 ここに来て、ハンプティさんの口が重くなった。正直言って、これだけの情報だけでは僕に黙っておく必要はなさそうに思えるのだが。

「ハンプティさん?」

「ごめん。俺も知らないんだ」

「え? 転移した人の職業だけを黙っているように言った、だけなんですか」

「そう。カズヒデさんは何故かこの研究者だったチェイスの過去を黙っているように言ったんだ。シンくんだけでなく、他の人にも。俺もおかしいとは思ったんだ。こんな事くらい黙っている必要がないって。だけど、引っかかったんだ。そして、シンくんが怖い顔して聞いてきたから、黙ってないほうがいいと思って喋ったんだけど」

 ハンプティさんなりに抱えていた問題だったようだが、僕が求めていた答えとは異なっていた。内心がっかりはしたけれど、生体科学になにかしらの秘密が隠されていることがわかっただけでも良いだろう。

「あと、もう一つあるんだけど」

「なんです?」

「多分、こっちのほうがマジで秘密にしておかなくちゃいけないことでさ。シンくんがカズヒデさんとネカフェからこのホテルに戻った後、フリーメールアドレスを作らされたんだ」

「メールアドレスを? 何故?」

「カズヒデさんが集めた情報をメールで送ったらしいんだ」

「らしいって、見ていないんですか?」

「俺のスマホじゃそのメールソフトが見れないんだ。しかもアカウントは作ったけれどパスはカズヒデさんが知っているから見ることができない」

「どうして、そんな面倒なことをさせたんですか? それじゃアカウントを作った意味がないんじゃ?」

「俺もそう思ったし、カズヒデさんにも言ったよ。そしたら、今教える訳にはいかないって。シンくんがすべてを終わらせた後にメールアカウントのパスを教えてくれるんだって」

「カズさんは、何がしたいんだ」

 そう呟いて、僕は頭を巡らせようとしたがポニテさんの呼び声によって思考は停止させられた。

「真悟くん。まだなの?」

 ホテルの自動ドアがポニテさんを招き入れる。怒っている様子はなさそうだが、待ちくたびれているのは事実だ。

「すみません。すぐ行きますから」

「待ってるからねー」

 ポニテさんは踵を返してホテルの階段を下っていった。

 カズさんの行動は謎が多い。ここで考えても答えは見えないだろう。大人しくいま起きいている事実だけを知るだけにとどめておこう。

「最後に」

 僕はハンプティさんを覗き込んだ。

「他に黙っているようなことはありますか?」

「いや、これだけかな。他にもあれば言っておきたいけれど、これといってないんだ。もしかして、聞きたかったのとは違った系?」

 すごく残念そうにするハンプティさんが可哀想に思えた。質問しておいて、秘密にしておいたことを喋ったのに、期待に添えない回答でがっかりさせてしまったとハンプティさんから伝わってくる。

「秘密にしておくように言われたことを話してくれたんです。役立ちました。ありがとうござます」

「そっか! それなら良かった。ほら、ポニテを待たせると悪いから早く行きなよ。昼飯は任してくれよな」

「ええ、期待しておきます。あ、そうだ。カツにするなら、カツ丼でお願いします。僕の中で縁起がいいのはカレーより丼なので」

「オッケ! 最高にうまいカツ丼を用意するよ」

 ようやく笑顔を取り戻したハンプティさんに手を降って僕はホテルロビーを渡り、自動ドアの前に立った。

 新たな謎だけが残ってしまったけれど、わかったことはある。

 カズさんは、僕だけでなく他のみんなにも言えない何かを抱えている。それは間違いなく僕と関係していることに違いない。

自動ドアが一定のスピードで開く。

「なにをするつもりなんですか。カズさん」

 僕の小さな呟きに、ホテルの前で不貞腐れたポニテさんには聞こえなかったようで「なにか言った?」と聞き返してきた。

「ああ。カツ丼が食べたいといったんですが、ハンプティさんはカツカレーがいいと言って聞いてくれなくて」

「なにそれ? 本人が食べたいものを作ればいいのにね? なに料理人気取ってんだろ。よし、私が言って作らせるように」

 ポニテさんはない袖を捲りながらホテルへと向かおうとしたので、急いでポニテさんの腕を掴んだ。

「大丈夫です。もうカツ丼を作ってくれることで納得してくれましたし、最高に美味しいカツ丼にしてやると約束してくれました」

「そうなの? ごめん。また早合点しちゃったよ」

 照れ笑いをしているようだけど、反省は全くしていないとわかる。おっと、五感が覚醒時のままにしていた。僕は急いで通常の五感に戻した。

 気持ちを切り替えよう。ここからはデートなのだ。相手の気持ちがわかってしまうような研ぎ澄まされた五感に頼るのはご法度だろう。

「どこへ行きます? 散歩をするとはいいましたけど、どこへ行くとか決めてないんですよね」

「東急デパートって、安全区域に入っているんだっけ?」

「ええ、あの辺りはもう大丈夫なはずですけど?」

「よし。じゃあ、東急へ行こ。実はね、展示会が開催されているんだ」

「美術って。絵画とかです? 僕そういう知識とか全く無いんですけど」

「そんな知識なんていらないよ。実際に見て、すごいなーとか思えれば十分だもん。興味が無いなら、行かなくてもいいんだけど」

「それなら大丈夫ですね。絵画の知識は明るくないけど、絵を見て何かを感じ取れることくらいはできますから」

「よかった。これでデートらしいデートになるね」

 僕とポニテさんは東急デパートへと向かった。

 芸術鑑賞なんて高校生以来だ。東京に来てから駅やホームで絵画の展示会が開かれているとよく見かけてはいたけれど、敷居が高い気がして足が重たかったのも事実だ。

 デートという機会がなければ、見に行く事なんて一生なかったかもしれない。

 東急デパートに到着したのは良かったけれど、ホテルと違ってエスカレーターとエレベーターは稼働していなかった。

 そして、展示会が開かれているのは地下一階だ。動いていない機械に頼らなくても、階段で降りるくらい普通の人間の時でも問題はなかった。

 二人して地下へ降りて行くと、ポニテさんが不意に笑い出した。

「どうしたんです?」

「だってさ。普通のデートで、こんな階段を登るとかあり得ないなーッて思ってさ。適正者になってなかったら、見に行くの諦めたかもしれないもん」

「それもそうですね」

 会話の内容は普通のカップルとは違う会話ではあるけれど、共有できる話題なので話していても苦にならない。

 地下に到着するとミュージアムに繋がる通路には展示中のポスターがずらりと並んでいた。

 展示されている作品の作者はマグリッドという作家らしい。名前は知らなかったけれど、ポスターにされた作品に見覚えがあった。

 その作品はハットにスーツを着用した男がいて、しかし男の顔には青い林檎が被さっていた。

「不思議な絵ですね」

 本当に素直な感想を述べた。

「マグリッドはシュールレアリズムの作品を手がけた一人なんだ。そう、不思議で面白い絵を描いた人なの。さぁ、いこう!」

 ポニテさんに手を引かれて中へと入った。

 僕はてっきり数えきれないほどの作品が展示されているのかと思ったけれど、マグリッド自身の作品は十点程度で、彼の作品に感化された作家の作品が多く見られた。

 不思議なのは、観客は僕らしかいないはずなのに、絵を見ることに集中しているせいもあってか、一つの作品を見るたびに小声で囁き合った。

 こういうところが日本人らしいのかもしれないと、国民性を再確認しながら通路に添って歩いて行くと、見覚えのある人がマグリッドの作品を眺めていた。

「なんで、あいつが」

 険のある声でポニテさんが口にした。

 僕らの先に居たのは、ポニテさんと和解したはずの日輪さんだった。

「そぎゃんとこに立っとらんで、ここにくーだわね」

 日輪さんの方言に誘われて、僕らはマグリッドの作品前に立った。

 絵の題名は『ビレネーの城』。

 宙に浮かぶ巨石の頂上に、城が存在していた。

 タイトルの城よりも浮かぶ巨石に目を奪われてしまった。

「こげな不可思議な絵。ほんに幻想的で好きだわ」

「私も、好き」

二人は顔を合わせなかったけれど、視線すら合わせないけど、心は一つになった瞬間だった。

 その後、日輪さんとは言葉を交わすことなく展示品を見て回り、元の出入り口まで戻ってきた。

 すでに展示会場の外へ出ていた日輪さんが、ようやく話しかけてきた。

「デート中に悪いとはおもっちょるけど、ウチと付き合ってくれんだーか。こうして会ったんも縁だと思うに。話をさせてくれん?」

 僕は良かったけれど、ポニテさんはどうするのだろう。

 二人は和解をしているけれど、まだ思うことがあるのかもしれない。

「いいよ。私もちゃんと話をしたほうがいいと思っていたの」

 こうして僕らは、レストランフロアまで移動して適当な店に入った。


最後まで読んで頂きありがとうございます。

次回投稿は1/26です。

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