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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
76/143

072 『決着、そして(セトルメント・アンド)』

072です。


※ 1/20 本文誤字修正

 互いの右腕に纏った闘紋から漏れ出す浅葱色と漆黒色の闘気が反発し合い、空間が歪んでは正常に戻る。三度目の歪みが晴れた時、僕らは同時に動いた。

僕とカーニヴァルの右拳が衝突時に生じた耳を劈く炸裂音と浅葱と漆黒が織り交ざった閃光。視覚では確認できないけれど、足元から伝わる振動で浮遊島が地割れを起こしているとわかる。

眩い光が過ぎ去ると、僕の右腕は手甲が失われ、元の人の腕となっていたが、裂傷し腫れ上がっている。筋肉だけでなく、骨さえも砕けた感じだった。適正者の紋章だけが右手の甲に無事に残っている。

対するカーニヴァルはというと、腕どころか右半身を失っていた。

「こりゃ、死ぬな」

 カーニヴァルはにやりと笑って、前方に倒れた。

 右腕の痛みに耐えながら倒れたカーニヴァルの前に立った。

「止めがほしいか?」

「いらないね。時期に死ぬからよ。それに人間に戻った状態で俺を殺したら正真正銘の人殺しになるだろ。それでもいいなら殺してくれてもいいぜ」

 闘気を失い、一時的な普通の人間に戻ったおかげなのだろうか。僕の中に潜んでいる狂気など微塵も感じず、カーニヴァルに対する怒りの感情は抱いているけれど、殺意も抱かなかった。

「負けた負けた……またお前と戦えればいいんだけどよ。二度と戦えないのが残念でならないなぁ」

 国外で異世界とリンクした区域で数か所は元の世界に戻っている。覚醒した適正者が死んだことくらい知っていて当然なので、驚くことはなかった。

 僕が驚かないことを不服に思ったのかカーニヴァルが咳き込みながら呟く。

「んだよ。お前、死ぬこと知ってたのか。負けた適応者の楽しみを奪うんじゃねーよ」

「最低な楽しみだ」

 しかしだ。右半身を失っているくせに、戦う以前みたく饒舌になっているのが気に入らなかった。何故こんなにも喋ることが出来る? 本当に死ぬのか?

「お、その顔は本当に俺が死ぬのか疑っているな。安心しろ。覚醒した肉体なら闘気を失っても生命活動は持続するんだ。それも限られた時間だけどな」

「便利な体だ。それも黒の創造主が与えた肉体だからか」

「俺が欲しかったのは強い肉体と力だ。仕組みまでは知らん。こうして話すことも、言ってみたら俺を倒した褒美みたいなもんだがな」

 褒美という言葉を聞いて怪しんだ。こうやって話すことで油断させるつもりかもしれないと思えたのだ。この状態で第二の適応者が現れたらと考えると構えずにはいられない。

「それはお前の意向のはずだ。次の適応者がくるんじゃないのか?」

「こねーよ。ここに来れるのは適正者を覚醒させた適応者の責任だ。ついでにいうと、適応者が覚醒できるのは、覚醒させた適正者でなければダメなんだよ。つまり、俺以外の適応者がきたらフルボッコで勝負にならねぇ」

 貴重な情報だと思って素直に聴いていたけれど……

「まだ、死なないのか」

「そんなに俺とのお話が気に入らなければ、殺してくれたって良いんだぜ?」

「誰がお前の言うとおりにするか」

「はは。他人の命令に従うのって面倒だよな。わかるぜ。じゃあ。俺を倒した報酬としてお前たち適正者に有益な情報を提供してやろう。『境界を超えし者』が出現するのは十四時二十七分だ。あと俺を倒したことにより、破壊されていない棺に収容された渋谷の人間どもは棺ごと安全区域に運ばれた」

「サービスは良さそうだが、棺の中にいるホムンクルスはどうなる?」

「信じる信じないは自由だが、白の創造主の息がかかった区域ではホムンクルスはもちろん、黒の創造主が創りあげた物、契約された者すべて活動停止する。これだけは唯一曲げられないシステムだ」

「信じていいのか?」

「疑うなら自分たちの目で確認するといいさ。お前たちは気づいていなかったようだから教えてやるけど、昨晩からレリックモンスターと黒箱は撤収撤去しておいた。『境界』を倒すまでは、ひとまず安全区域から出ても平気だ」

「やけに手厚くしてくれるのだが、なにか意図はあるのか?」

「勝手に疑えばいいさ。お前が『境界』の奴を倒せばそのまま解放される。とりあえずのエンディングは迎えられる。お前は、死ぬけどな」

「何度も言うな。僕はもう死ぬことは承知の上だ」

「お前、本当に『狂気』の本質を抱いた男か? 普通なら戦えなくなることに絶望しているはずなのに。俺からすると正気の沙汰じゃないな」

「褒め言葉として受け取ってやる」

「……生き残りたいとは思わないのか」

「なにが、言いたい?」

 足元が急に揺らいだ。その振動は徐々に強くなり、浮遊島の端々が削られては消失していく。その速度ははやく、中央に位置した僕らのところへ迫ってくる。

 それに、目に映る景色も変わってきている。どうやら島は崩壊をしながら降下していた。

「内に秘めた『狂気』が正常であれば、妖精を殺して適応者になる選択肢を選ぶはずだろ?」

 足元にいるカーニヴァルを再び見下ろすと、体は徐々に灰となり風に舞いつつある。

「それが最後の誘い文句か。お門違いだ。さっさと死んでくれ」

「二度と戦えないのが、本当に……」

 カーニヴァルは最後まで言い切ることなく、完全なる灰になって消え去った。

 呆気無く、拍子抜けするくらいに。

 降下していた浮遊島もまた消え去り、僕の足はスクランブル交差点に着地していた。

 安堵したせいもあったのか、負傷した右腕が急激に痛みだした。

「リリィ、頼む」

 僕の呼びかけにリリィは飛び出てきた。

「真悟さま……お見事です。そしてご苦労様でした。いま、瞬間復元をつかいます」

 リリィはアイテムリストから瞬間復元を取り出して右腕だけでなく、傷を負っているすべての箇所に瞬間復元を使った。

 痛みは瞬時に消え、疲労さえも払拭された。

「真悟さま。ご気分は?」

「大丈夫だ。結局、瞬間復元の消費は一つだけで済んでよかった」

「そうですね。まさか闘紋が傷まで癒やすとは」

「リリィも知らなかったのか?」

「はい、適応者にも覚醒することができたのも驚かせられましたが。あの傷を癒やすなんて、リリィにも白の創造主さまから教えられなかったことです」

 腑に落ちないところではあるけれど、カーニヴァルを倒せたのだから良しとしよう。

「お疲れ様」

 唐突だった。声をかけられたことではなく、前触れも気配もなく、僕らの目の前に一人の男が立っていた。年の頃は、僕と変わらないかもしれない。服装もシャツとデニムと九月の寒空の下では肌寒い格好だ。

「誰だ」

 思わず身構えた。適応者のような危険な雰囲気を持っていない。かと言って、僕の知らない適正者にも思えなかった。

「警戒しないでくれ。私は君と戦いに来たのではないよ。挨拶をするために訪れただけの話さ」

「挨拶? お前は誰なんだ?」

 何も感じられないのが余計に恐ろしかった。

「これは失敬した。自己紹介が遅れたね。私は君たちの言う黒の創造主だ」

「お前が?」

「いかにも。そうだね。ゲームとやらでいう、いわばラスボスという存在だ」

 にわかに信じられないが、信じるほかなかった。雰囲気がこれまで出会った適正者、適応者とも違う。見た目は人間だけど中身が別次元の存在だと、僕の五感が訴える。

「し、真悟さま。あの者がいうことは事実です。白の創造主さまと同じ気質、闘気ではない異なる力を纏っています」

「ほう、さすが覚醒した妖精だ。私の本質が見えるのかい? だが、あまり見ないほうがいい。毒されてしまうからね」

「リリィ。スマホの中に!」

 僕が命令をするとリリィはすぐさまスマートフォンの中に身を隠した。

 黒の創造主と名乗った男を睨みつつ、闘気を練り上げる。もうなれたもので、闘紋を右腕に纏うのも瞬時に行えた。

「ほう。それが適正者の闘紋とやらか。白の覚醒に手を加えて適応者にも闘紋を練出せるようにしたのだが……そちらのほうが質は上のようだ」

 その感心しきっている顔に拳を突き立てたが、身動き一つ取らず、平然としていた。僕の攻撃が蚊にも劣ると言いたげな顔でもあった。

「そう興奮しないでくれ。私は挨拶に来たのだ」

 黒の創造主だと思われる男が手を下げると、僕が立っている場所だけが重力が変わり、体が重くなった。

「うご、けない」

「血気盛んなようだから、大人しくしてくれたまえ。なに、案ずることはないよ。あのカーニヴァルを倒した男が気になっただけなのでね。うん、いい面構えだ。白のところに居るのは勿体無い素材だ」

「僕は適応者にはならないぞ」

「ならなくともいいのだ。そして誤解しないでいただきたいのだが、私は君を殺しに来たのではないよ。挨拶と、そして、白に伝言を頼みたい。これは覚醒した適正者のみに話していることだ」

 そんなことがあったなんて、初耳だぞ? カズさんも知らなかったことだ。いや、教えられなかったのか。白の創造主が新たに転生したチェイスが教えなかっただけなのか。

「白の者よ。君が創りあげた適正者は非常に優秀だ。おかげで私もやりがいが持てる。だが、残念だ。もう時間は待ってくれない。私の計画は全うされる」

「なんの、ことだ?」

「いずれわかる。確かに伝えてくれよ」

「僕は白の創造主とは話したことがない」

「ああ、申し訳ない。君に言ったのではない。君に仕える妖精にお願いしたのだ。では、さらばだ」

 黒の創造主と名乗った男は、現れた時と同様に瞬時に姿を消した。

 僕は伝言の内容を思い出す。

 計画とは、一体なんのことだ?


最後まで読んで頂きありがとうございます。

次回投稿は1/20です。

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