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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
75/143

071 『鏡写し(ミラーコピー)』

071です。


投稿時間が遅くなり、申し訳ありません。


※1/22 本文誤字修正

 夜よりも深い闇の闘気がカーニヴァルの体に侵食していく。しかしそれは、つまりカーニヴァルが生み出した闘紋として形を成していく。闘紋の模様は幾何学的であり、未開拓地に住む原住民が儀式のために彫った刺青のようにも見える。

 カーニヴァルの全身に黒い闘紋が覆った姿は人ならざる者だった。空想生物で例えるのなら、鬼の形容詞が相応しい。

 奴の腕と脚にあったレリック武器の手甲と脚甲も、僕同様に一体化する。紛れも無く、あの姿は覚醒した力によって引き出された姿。

禍々しくも純粋な力の結晶となった黒い闘紋から発せられるカーニヴァルの『狂気』に、僕の『狂気』が共鳴する。脳の深部に眠っている感情の渦。その中心核にある僕の本質。

互いの『狂気』が同類と出会えたことで歓喜する。

他人の目も、意見も、想いも、情も、自分以外のすべてを無視して、殺し合える相手と、ようやく出会えたことに歓喜している。

「この姿を見て、笑った適正者は……いや、人間はお前が初めてだ」

 何気ない言葉を呟いただけだというのに、カーニヴァルからの威圧感が増した。

 この場から逃げ出したい気持ちと真っ向から潰し合いたいという感情がせめぎ合う。

 臆する感情が狂気という大量の水に薄められ、溶けきる。

本能の渦が『狂気』に染まる。戦おう。殺し合おう。これ以上ない相手を前にしているのは僕もカーニヴァルも同じだ。

 僕は内に潜んでいる有限とされた高密度の闘気を全身に流し込む。

「待ってくれたのはありがたいんだが、それをやるなら同時にして欲しかったなぁ」

 カーニヴァルの間延びした声が聞こえた。

 どこからと聞かれれば、目と鼻の先にいる鬼と化した元人間からだ。

 本当にいつの間に、だった。カーニヴァルは後退していた僕との間合いを瞬間移動したかのように出現した。

 覚醒したこの目を持ってしても追えない速度に驚くよりも先に、僕の口から液体が大量に吹き出て、カーニヴァルの顔を赤く染め上げた。

 さらにごふっという的確な擬音と一緒に、さらなる血が口から吐き出される。

 体の中心が熱く燃え上がった。二度目の体験だ。一度目はノヴァさんを目の敵にしたまほろという鎌術士の大鎌を貫かれた時だ。

 カーニヴァルの視線から逃れるようにして、ゆっくりと両目を下に向けると、僕の腹部に肘から上が消えた片腕が見えた。

 貫いた腕を動き回されて耐え難い苦痛に襲われる。

 発動させていたはずの闘気も思うように循環することが出来ず、痛みに耐えることだけに思考が奪われていく。

「油断大敵ってことだ」

 カーニヴァルの言うとおりだった。こいつの変わりゆく姿に見とれているのではなく、僕は僕で闘紋を発動させておけば、こんな結果にはならなかったはずなのだ。

 後悔しても遅いといわんばかりにカーニヴァルの腕はさらに僕の内部に入り込む。

 じゅぶりという音と共にカーニヴァルは腕を引き抜いた。カーニヴァルは骨を引き抜いたお返しと言わんばかりに、僕の臓物を手に掴んでいる。

 生々しい肉質。体の一部をみてしまった衝撃は、計り知れなかった。

「妖精を呼び出して、瞬間復元を使ってもらったほうがいいんじゃねーか?」

 無邪気な子供が年下の子供をいじめるような表情でカーニヴァルが問いかける。

「出血多量で死んでくれるなよ? ほら、早くしろよ。焦らされるのは嫌いなんだっての」

 手にしていた僕の一部だった物を地面に叩きつけた。苛立っているからではなく、居酒屋で注文した品が、三十分経っても出てこないで憤慨している低俗な中年男性のようだった。

「こ、の程度のことで、リリィを呼び出すわけには、いかない」

「ほう、じゃあ、どうやってこの危機をぬけ出す……早くしてくれないと、お兄さん、今度は腕一本、引きちぎっちゃうぞぉー」

 言い方が実に気持ち悪い。

 こんな男と同類の本能を持っていると思うと反吐が出そうだ。

「笑わせ……るな。僕、は……見て──いるからな?」

 適正者と適応者の肉体構造は違っていても、闘気は同じだ。

 自転車運転を一度覚えた人が、一生、その乗り方を忘れないように、僕の中に眠っている有限の闘気を練り出すことなんて、造作もなかった。

 高密度かつ高精度。肉体と力を上昇させる闘気、そして闘紋。

 今度はカーニヴァルが僕の『狂気』に触れて数メートルくらい遠のいた。

 右手の紋章が浅葱色に変色し、闘紋となって全身を覆った。

 ぽっかりと空いた腹部の穴は塞がり、血が止まる。それだけでなく、流れ落ちた血、抉られた肉さえも闘気が復元していく。そして、僕は狂気と完全なる同化を成し遂げる。

 体にできていた大小の傷は完全に癒えた。湧き上がる闘志と抑えきれない殺意の渇望が内から外へと流れ出ていくのがわかる。と、同時に、僕自身がやはり武器になったのだと再確認できた。

 レリック武器は欠損した箇所、破壊された部位は自動復元により元の形に戻っていく。

 人で言えば自然治癒力だ。ただし、レリック武器の自動復元は時間をかけて直すのだが、こんな瞬時に復元されることはなかった。こうして、レリック武器と同化したことにより、人の身にある治癒力と、レリック武器の自動復元、そして膨大な闘気によって瞬発的な復元をさせたのだ。

「初心者に手取り足取り教えるのも大変だ。まぁ、これも先輩が有能だからこそだ。俺に感謝しろよ?」

 余裕を見せているが心の中は読めている。その実、カーニヴァルは僕に怯えている。掴み取れなかったカーニヴァルの内面がようやく把握できるようになった。同等の力以上か僕よりも格下の相手でなければ、覚醒後に手に入れた鋭い五感も働かないようだ。

「お前みたいな不親切な先輩が職場や学校にいたら、さぞ迷惑極まりないだろう。人間だった頃、関わった人たちが不憫でならないよ」

「だろうな」

 姿も質も違うのに、けれど、鏡写しとなった自分と相対する奇妙な感覚。

 もう、言葉はいらなかった。

 あうんの呼吸と思えるほど、僕とカーニヴァルは同時に動き、殺し合いを開始する。

 コロシアムの地表が原型を留めなくなるほどの攻防。

 浅葱色の闘気がカーニヴァルの腕や切断させれば、カーニヴァルの黒い闘気は僕の脚を握りつぶす。

 どんなに深い傷を負っても、闘紋がすぐに体を復元してくれる。

 疾走する暴力。心地いい狂気。交差する恐怖がさらに殺意を加速させた。

 一秒が一分に、一分が十分にと体感時間が伸びていく。

 楽しい殺し合いは長くは続かないことを、僕とカーニヴァルは知っていた。

 闘紋の発動時間は持って五分だ。饒舌の奴でさえも、喋る時間を惜しんで僕との殺し合いに没頭している。武器としての役割を果たすため、僕らは命を削りあった。

 残された時間はあと、何分、何秒残されているだろう。

 僕もカーニヴァルも闘紋による復元力が劣ってきているのが目に見えてわかる。

 疲労を知らないはずのこの体が、肩で呼吸し始めてきた。

 残された時間はわずかだと安易に告げていた。

 疲れているのは向こうも同じと思い込んだのがいけなかった。カーニヴァルは僕の油断を察知して勝負に出た。

 闘紋を纏ってから一度も格闘術を使わなかったのに、ここに来て元格闘技プロとしての技量を見せつけた。

 フェイントを織り交ぜ、虚を突く動作と攻撃に惑わされた。カーニヴァルのなんともない左ミドルを受けたが、その蹴り足に殺意も破壊衝動も感じ取れなかった。いわば無心の攻撃。研ぎ澄まされた感覚が逆に迷いを生じさせる。しかし、これを勝機と見ないほうがおかしい。僕はカーニヴァルの左脚を肘打ちで肉と骨、両方砕いた。黒い闘紋の動きからして、治癒にまわせていないものわかった。

 が、カーニヴァルは顔色を変えることなく、次の攻撃を繰り出す。

 カーニヴァルがしてきたのは無造作に伸ばした右手。これもまた左の蹴りと同じくなんの感情も込められていない虚の拳だった。安易に「殺されたいのだ」と誤解して、その右手を掴んだ。これが悪手だった。

 力任せに掴んだ腕と、そして体は引力に逆らってぐるりと世界を反転させた。

 コロシアムの地表に背中をつけたところまではわかった。だが、何をされたのか理解する暇もなく、黒い闘気を纏った左拳が眼前に迫る。

 すんでのところで体を伸ばし、両足でカーニヴァルを蹴りあげることに成功した。

 さっきのあれは、なんだ。いや、考えている暇はない。何をされたのか僕自身が理解しないかぎり、カーニヴァルの本気の技を盗みぬくことが不可能だ。

 両足を使って逃れたのは運が良かったほうだ。次に同じような攻撃をされたら、躱すこともできない。

 ある程度の思考が固まった後、右脚に激痛が走った。カーニヴァルから視線を逸らすことが出来ないので、痛みだけでどんな負傷をしたのか感知する。

 ……右脚のふくらはぎが半分なかった。僕が両足で蹴り上げた瞬間、カーニヴァルは僕の右脚を掴んでもぎ取ったのだ。

 復元しないところを見ると、闘紋も自己治癒に回せなくなっているということだ。

 これではまともに避けることも出来ない。

「まじかよ。最高の一手だと思ったのに。どんだけ格闘センスに優れてんだよ。ムカつくぞ?」

 ようやく口を開いたかと思えば、嫉妬の言葉だった。

 お互いに脚をやられ、まともに動けない。そして、闘紋が扱える時間も僅かだ。

 自殺行為かも知れないが、賭けに出た。

 いや、同じ『狂気』を纏っている物同士、乗らないわけがない。

「カーニヴァル。残った闘気を打ち付け合うのはどうだ? どちらかが生き残っていれば勝ちだ。最後の攻撃なら、申し分ないだろ?」

「はは、いいね。狂ってるねぇ。いいだろう。どちらの拳が強いのか。闘術士らしい最後にしてやろうか」

 浅葱色の闘紋が、右腕に集中していく。カーニヴァルも右腕に黒い闘紋が集まっていく。

 脚を引きずりながら、闘術士の間合いの一歩手前まで近づく。

 奇しくも、僕とカーニヴァルは同じ構えを取った。

 本当、鏡写しの様で、気分が悪い。

 そう、苦笑いをしてから、僕はカーニヴァルと打ち合う瞬間を決めかねていた。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

次回投稿は1/18です。

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