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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
73/143

069 『真上(ジャスト・アバーブ)』

069です。


※ 1/14 本文誤字及び加筆修正

 スクランブル交差点へ到着したのは午前六時くらいだった。

 カーニヴァルとの再戦まであと二時間ほどあるけれど、時間の潰し方は自分なりに考えていた。

 昨夜、カーニヴァルと初めて戦った時、僕の理性はほとんど失われていた状態だった。ただ、目の前にいる敵を殺すだけで頭がいっぱいだった。

 その結果が、破壊尽くされたスクランブル交差点の惨状だった。

力任せに、思うままに、カーニヴァルを殺そうとして戦っていたのがよく分かる。あの時は気にもしなかったが、路上に置かれていた車はほぼ原型をとどめていない。抉れた道路、発泡スチロールのように砕けた地下通路へ繋がる入り口。カーニヴァルに吹き飛ばされた時にできたQフロントのガラス壁にできた大きな穴。

 カーニヴァルが黒い歪みから出した、エクスさんたちの人形の跡地には、僕が頭を押し付けられて出来た窪みが出来上がっている。

こうやって再確認をすると、僕が稚拙な単純な攻防を繰り返し、冷静さなど皆無だったことが手に取るようにわかる。

 記憶の断片から、カーニヴァルの動きを呼び起こす。あの男は会得している格闘術のすべてを見せていなかった。

 狂気を受け入れ、心の不安定さは軽減された。力、つまりは体の強さは僕が上だろう。

 問題は技術だ。カーニヴァルと圧倒的な差があるとすれば、格闘技術しかなかった。二本の武道に大切なのは心技体だと聞いたことがある。どれか一つでも欠けてしまえば、実力以上の力は発揮されない、らしい。

 技のない僕に、格闘技のプロフェッショナルに近づいたあの男に、心や力だけで勝てるのか、そういう不安があった。

 茶沢通りで右手の紋章が狂気に触れて闘紋へと変化した時、これならばカーニヴァルなど赤子以下だと思えた。が、それは理性を失っていた状態の僕が下した判断なのだ。

 覚醒した力も闘紋の恩恵も疑っているわけじゃない。だが、あの戦闘狂で殺し合うことを楽しみにしているカーニヴァルと苦戦もせずに倒せるイメージがどうしてもできなかった。

 黙って辺りを見回している内に、時間は呆気もなく経過していく。空が明け始め、薄暗かった渋谷の街が徐々に彩りを取り戻していく。

「リリィ、ちょっといいかい」

僕の呼びかけにリリィはポケットからスマートフォンと共に飛び出してきた。

「なにかお困りになられましたか?」

「困っているといえば否定はしないけれど、リリィにお願いがあるんだ」

「よほど無理なお願いでなければ、真悟さまの仰っしゃるとおりに従います」

「カーニヴァル、そして『境界を超えし者』との戦闘時には、リリィは瞬間復元を使う時まで出てこないでくれないか」

「それは覚醒する前と変わらず、真悟さまが瀕死の状態になるまでこのすまーとふぉんの中で待機しておけ、そう仰っしゃるのですか?」

「これは無理なお願いになるのかな」

「お答えする前に。リリィは真悟さまが覚醒されたことによって、適応者と適正者さまを誤認することなく、ご一緒に戦うことが出来るようになりました。それなのに、リリィの助力なしに戦いたいということですか。リリィでは力不足だと?」

 露骨に主である僕に対して嫌悪を抱いた口調だった。

「無理なお願いになるかな」

「リリィが真悟さまと共に戦いたいと申し上げても、首を縦には振ってくれない、そうですよね」

「悪いけれど、リリィがどんなに説得をしても、僕の考えは変わらない。一人で戦わせてほしい」

「ご存知でないので申し上げますが、いまのリリィであれば以前とは比べにもならない加護の魔方陣、一定時間ステータス上昇の付加魔導術も扱えます。それを利用しない手はありません」

 僕が覚醒したことでリリィのステータスも扱える力も飛躍しているのは想像できた。事実にリリィはそれがあると告白した。

「なおさら、リリィとの共闘はできなくなったかな」

「何故ですか? まだリリィの能力をご確認されていないからではありませんか。きっとお役に立ってみせます」

「怒らせてしまったのなら、ごめん。リリィの力を見くびっているわけじゃないんだ。みんなにも言ったのだけれど、一人で戦いたいだけなんだ」

「リリィを危険な目に合わせないということでしたら、問題はありません。黒の創造主側についている者すべてリリィたち妖精を殺せることは不可能です。それはもうさんざん適応者との戦いで証明されたではありませんか」

「リリィ、それは思い違いだ。根本のところがズレている。僕は僕だけの力でカーニヴァルもまだ見ぬ『境界を越えし者』を倒したい。それだけなんだ」

「覚醒した力に溺れている、というわけではありませんね。真悟さまは純粋に戦いを楽しみたい、それだけの理由でリリィとの共闘を拒む、そういうわけですね」

「聞き入れてはくれない、のかな?」

 リリィは大きな溜息をついた。

「自立した完全なる感情と知性を持っても、リリィは真悟さまの命に従うのみです」

「いつも無理を通して悪いね」

「ですが!」

 リリィは目の前まで近づいてとても小さな人差し指で僕を指した。

「決定的な致命傷を受けられた場合は迅速に現れます。いいですね?」

「ああ、いいよ。死んでしまったら元も子もないからさ」

「ならばリリィは何も申し上げることはありません。ご存分に戦って下さい」

 リリィは胸を張りながら激励してくれた。

「でも、どうしてこんなにも早く再戦の地へ来られたのですか? 一人で考える時間を持ちたいとのことでしたが、カーニヴァルが現れるまでずっとここにいらっしゃるのですか」

「もう確認するところは確認したし、僕とカーニヴァルの差は十分承知している。与えられた力だけを頼るのではなくて、僕自身がちゃんと成長すればいいだけの話さ」

「戦いの中で見出していく……簡単に出来ることなのですか」

「出来る出来無いじゃなくて、やるんだ。それに、あと二時間近くも待つ必要はないさ」

「待つ必要が無いとは? はっ! 真悟さま!」

 リリィが大声を上げて身構えた。睨むその視線の先は僕の後方。

「リリィ。もう下がってくれ。ここからは僕らの時間だ」

「……わかりました。お邪魔はいたしません」

 体の緊張を解いたリリィは大人しくスマートフォンの中に戻って、ポケットの中に収まった。

「妖精とのお話はもういいのか?」

 背中越しから聞こえる声は、いつ聞いても耳障りで、癪に障る。僕は振り返らず、前方を見据えたまま返事をする。

「もっと早めに来るものだと思っていたのに。ずいぶんと遅かったな。黒の創造主が創った移動手段の黒い歪みも万能ではないのかな」

「バカ言え。黒の創造主が創ったものに間違いも狂いもないさ。お前が妖精を呼び出して話しだしたから、ここへ来るのを遅らせたんだよ」

「それは、悪かったな……カーニヴァル」

 振り向くと、レリック武器手甲と脚甲を装着したカーニヴァルが立っていた。

「こっちは、きっと指定した時間よりも早めに来てくれるんだと思っていつでも移動できるように待っていたつーのによ。妖精とお喋り決めてくれるから、いきなり出鼻くじかれた気分だ」

「僕はお前の都合なんて知らないし、どうでもいい。むしろ、僕は感謝してほしいくらいだ。カーニヴァル。お前のことだ。昨晩、姿を消してから僕と早く戦いたくて、殺し合いをしたいと思っていたから、こうして指定時間よりも早く来てやったというのに」

 カーニヴァルをひと睨みすると、奴は涼しい風を浴びるような清々しい顔をした。

「ご親切にどうも。だが、その口ぶりだと俺だけが早期再戦を待ち望んでいるかのように言うのが気に入らないな。ほれ、正直に言えよ」

「そうだよ。僕もお前と戦いたくて、殺し合いをしたくて、早めに来たんだ」

 僕とカーニヴァルは同類なのだ。僕の願いはカーニヴァルの切望。指定された時間を待てないほどにお互いの戦意は高ぶっていたのだ。

「良い狂気っぷりだ。俺の見立ては間違ってなかったな。そろそろ始めるが、準備はいいか?」

「敵相手に合意を求めなくてもいい。僕もお前も似通った狂人だ。さっさと始めよう」

「いいね。その目つき、その気迫。最高だな」

 カーニヴァルが両手を広げると地面が上下に揺れだした。

 大きな地震と間違えるくらいの揺れが数秒間続くと、僕の脚は波打つ地面から足が離れ宙に浮き始めた。思わずカーニヴァルを睨んだが、向こうは笑顔を見せるだけだった。

「上を見てみろ」

 言われるがまま、空を見上げるとそこには空を覆うくらいの黒い歪が目に取れ、中から巨大な浮遊する島が出現した。

 あの島に僕は見覚えがあった。異世界ルーシェンヴァルラに存在していた、

 一対一で戦える特設ステージ。プレイヤー同士の時もあれば、ボス級のレリックモンスターと戦うえる闘技場。

「島まるごと出現させるなんて、相変わらず出鱈目な奴らだ」

「いかにも自分たちの命を削って戦ってますみたいなステージだ。文句は受け付けないぜ」

 カーニヴァルはこちらが聞いてもいないことを自由気まま、勝手にべらべらと語りだした。

 そんな風に無駄な会話をしている合間にも、僕とカーニヴァルは地表からどんどん足が離れていき、島の中央にあるコロシアムに足をつけた。

「ちなみに開始のゴングみたいなのはあるのか?」

 『Relic』がゲームだった頃、PVPを全くしなかったので、このコロシアム利用したことはなかった。試合開始の合図を送るようなものは見当たらなかった。

「あいにく、ゴングはおろか審判もいない。合図は……これにするか」

 カーニヴァルは落ちていた小石を拾う。

「この小さな石が落下したと同時に、始めるっていうのはどうだい?」

「使い古された手法ではあるけれど、殺し合いに奇抜なアイディアはいらない」

「違いないな。じゃあ、始めるぜ」

 カーニヴァルは手にしていた小石をコロシアムステージに放り投げる。

 石の落下速度が妙に遅く感じる。

 僕の鼓動に合わせて、石が徐々に落下して地面に叩きつけられた。

 僕とカーニヴァルは対極にある磁力の如く、一瞬にして間合いを詰め、拳と足の攻防が始まった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回投稿は1/14です。

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