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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
72/143

068 『朝(モーニング)』

068です。

 ベッドの上で並んで座っている僕らの前にリリィは出現時の恒例である深いお辞儀をしてから顔を上げた。

「おはようございます。真悟さま、ポニテさま」

 スマートフォンから出てきたリリィの姿は、ネットカフェで見た時と同じで、体つきはどこか大人びた感じに、服装は豪華なドレスを着用したままだった。見慣れないというより、違和感のほうがまだ強い。

「やだ、すごくかわいい。覚醒したら妖精もこんな風になっちゃうんだ」

 ポニテさんは小さな感動を受けたらしく、リリィに向けて小さな拍手を送った。

「お褒めのお言葉をいただき、感謝いたします」

 と、仰々しい言葉を連ねたリリィに、ポニテさんは難色を示した。

「堅苦しいところは変わらないんだ……つまらないなぁ」

「すみません。性格だけは変わりようがありませんので。お許し下さい」

「いいよ、決められた性格設定ならどうしようもないからねって、あれ? 私の言葉に受け答えしているけど?」

「ああ、それはですね」と、覚醒したことにより、リリィは容姿服装だけでなく、独立した精神と知性を手に入れたこと、そして主以外の適正者とも会話が可能になったことを話した。

「なおさらいいじゃん。これからもよろしくね。リリィ」

「え? ええ……はい」

 曖昧に答えるのは、つまり僕とリリィにはこれからも、次の機会も訪れないからだ。

「なに? 私とは仲良くしてくれないっていうの?」

「いえ、そういうわけではありません。ポニテさま。リリィの主さま共々、よろしくお願い致します」

「さまかぁ。言われないとなんか照れちゃうね」

 うまく誤魔化すことに成功したとは言い難いが、リリィを呼び出した本来の目的に入ることにした。

「リリィ、呼び出した理由はわかっているよね」

 リリィは僕の方へ体を向けた。

「はい。瞬間復元は無事に三つ生成されています」

 そうか、支給と思っているのはプレイヤーの方であって、実際(ゲーム内の設定)は妖精たちが瞬間復元を作っているという体になるんだった。

「良かった。これでなんとかなる、かな」

「真悟さま。自信をお持ちになってください。覚醒された力はすでに自在に操れるほどまでになっています」

「狂気に呑まれかけたのに、自在といえるのかな?」

 茶沢通りで僕がみせた醜態をスマホの中でリリィは見ていたはずだ。

「闘紋の発動があんなにも簡単に引き起こされるものだとは、リリィも認識不足でした。ですが、一度、体感してしまえば対処方法も自ずとわかるはずです。リリィは真悟さまなら今後、狂気に呑まれず、理性を残して戦えると信じています」

 そこまで信用を置かれると、不安になるのが人の常だ。リリィの信頼に答えるしかないのだが、初めて耳にした闘紋が気になった。

「闘紋というのは、紋章が生きた蛇のようになった後、刺青みたいな形に固定したことかな?」

 僕は右手の紋章を見つめた。闘気を込めていないので、元の形に戻っている。

「はい。もうお気づきではあるかと思いますが、闘紋は適正者の闘気に呼応して全身を纏う模様です。刺青に似ていますが、第二の皮膚あるいは装甲であり、そして武器です」

「それって、最大の防御は最大の武器的な意味?」

 ポニテさんの質問にリリィが頷く。

「厳密には違うのですが、概ねそう思っていただけて大丈夫です。これは敵対する相手からの闘気攻撃、つまりはスキル攻撃などに耐性を持っています。加えて、纏った闘紋は闘気の刃でもあります。相手が触れれば肉体は崩壊するでしょう。しかし、これは闘紋の特性ではありますが、本来の役割は肉体の活性化にあります」

「単純に身体能力向上ってわけじゃないよね?」

 今度は僕が質問をした。

「もちろんです。そもそも闘紋が発動するのは、いくら覚醒した適正者の体でも、覚醒した高密度及び高精度の闘気に耐えられないからこその発動なのです」

 ようやく話が読めてきた。

「自分の闘気に耐えるためにも闘紋は必要というわけか」

「はい。すでに真悟さまは九割の覚醒値にあります。ねっとかふぇで暴走した闘気はあくまでも三割程度の精度だったので、覚醒した肉体のままでも耐えることが出来ましたから」

 よく出来た設定、いやもう『Relic』はゲームではなく、異世界だと判明したのだから設定というよりは理屈と言うべきだろう。

「闘紋が発動した時、僕の闘気と連動しているものだと思ったんだけど、その認識で間違っていないのかな?」

「はい。ただし注意すべき点があります。覚醒したからといって、肉体の内側、精神に潜む闘気は有限です。闘紋を発動したままで戦えば、持って五分でしょう」

「タイムリミットを切ったら闘気が枯渇。適正者ではなくただの人の状態になるわけだ」

「そうなります。真悟さまの肉体とレリック武器が一体化したのもそれが理由です。従来の適正者さまは武器を失うか、闘気を失えば普通の人間と変わらない存在でした。ですが、いまの真悟様は生きた兵器。闘気を失えば……という話になります」

「生体兵器。レリックモンスターと同じだね」

「存在概念は違いますが、表現としては正しいです」

「よくわかったよ。というか、聞いておいて良かった」

「いえ、リリィも早めにお話したほうがいいかと思ったのですが、大切なお話や時間を過ごされると判断したので、お呼びになられるまで身を潜めようと決めていました」

 場の空気を読むなんて、人みたいな配慮を持つようになったものだ。

「ってことは……もしかして、私と真悟くんがここで何をしていたのかも知っているっていうこと?」

 敢えて聞くポニテさんもすごいが、想像したくなかった。ある意味、第三者に盗み見られていたというのと同じなのだ。あまりにも自分たちの時間を重んじるばかりに、互いの妖精がスマートフォンに潜んでいることを失念していた。

 僕とポニテさんは同時に頭を抱えた。恥ずしい気持ちでいっぱいなのだ。

「あの、お二人とも。ご安心下さい」

「なにを?」

 二人同時に声をあげ、しかも互いに声が裏返った。

「この部屋で行われたことは、他の適正者さまにはお伝えしません。リリィを信用して下さい」

「そっちじゃないよ!」

 これもまた同時に叫んだ。見られ聞かれていたのかと軽い自己嫌悪に陥る。というか、空気が読めるようになったのなら、そういうことも言わないで欲しかった。人のようになれたというのに、やはりどこか抜けているところがあるようだ。

 その証拠に、リリィは僕らがなぜ叫んだのかも理解できていないようだった。

「駄目だ。死にたい……こんなにも羞恥心に苛まれたのは人生で初めてだよ。ヤバすぎてなにもしたくなくなった」

「ポニテさん。追い打ちをかけるようですが」

「もうなに? これ以上、恥の上塗りになるようなことがある?」

「ツインテにも、いちおう口止めしといたほうがよくないですか。リリィはこんな感じだからいいとして、ツインテは何かの弾みで言いそうな性格なので」

「わかった。いま言う! すぐに言う! ツインテ、出てきて!」

 ポニテさんに急かされて呼び出されたツインテは当然、この会話も聴いていたわけで、テンパっているポニテさんの言葉をウンウンと素直に聞き頷いていた。

 秘密の会話をするかのように、ポニテさんはベッドの縁あたりに座り直して、ツインテと向き合って喋り合っている。

 ツインテはツインテで「喋らないよ。安心してよ」と焦るポニテさんを説得しているが、それでも不安があるポニテさんは部屋に入ってから僕が寝るまでの間のことを口に出しては悶え、さらに思い出しては頭を掻きむしった。

 時折「あーもー」といううめき声を上げていた。

 向こうは向こうで長くなりそうなので、僕はリリィに話しかけた。

「リリィ。闘紋についてなんだけど」

「教えてもよろしいのですか? ねっとかふぇでは実戦で覚醒した力を試したいと仰っていましたが」

「ああ、いや。本質的なことを聞くつもりじゃないんだ。ちょっとした疑問だよ。ネカフェで僕は一度闘気を暴走させている。それなのに闘紋は発動しなかった。これは何故だい?」

「お忘れですか? 覚醒値が七と九では、闘気の精度と密度は段違いです」

「ああ」

 思わず嘆息した。

「同じことを何度も聞かされるのは気分を害されるかもしれませんが、覚醒値が七であれば、希望的観測でカーニヴァルと互角、さらに上の存在である『境界を越えし者』とでは勝算はゼロです。いまであれば、この意味もよくお分かりになられると思います」

「ごめん。十分に納得したよ」

 闘紋の発動もまた『境界を超えし者』と戦うために必要な条件だったわけだ。

「差し出がましいようですが……再戦時刻は約三時間後です。それまでの間、どうされますか?」

「もう決めているよ」

「そうですか。ならば何も申し上げることはありません」

「本当に、僕を信用しているんだね」

「当然です」

 リリィは笑い、自発的にスマートフォンの中へと戻っていく。

 浮かんでいたスマートフォンは柔らかいベッドの上に落下した。

「あれ? リリィとはもういいの?」

 いつから聴いていたのか、ポニテさんは僕の真後ろに座り、横から顔を覗かせた。

「ポニテさんこそ、ツインテとの話はもういいんですか」

「うん。私は私でうちの子を信じることにした」

「そこまで不安にならなくても、僕らは自然なことをしていただけですからね。まぁ、人に聞かれたら恥ずかしいことですが……」

「うん。そう、だね」

 つい数時間前、この部屋に入った頃のことを思い出す。

 甘い言葉、甘い掛け合い、そんなものは他人がみて楽しいものではないし、ましてや当人たちを知っている人たちからすれば目も当てられない光景のはずだ。

「真悟くん。カーニヴァルと戦うまでの残り時間は、どうするの?」

「リリィと同じことを聞くんですね」

「だって聞いてたしさ。それに真悟くん、なにも言わなかったし……もしかして、続きをしちゃうの」

 ポニテさんが囁く声は甘美で、さながら小悪魔じみていた。

 魅力的な誘惑ではあったけれど、僕の心は決まっていた。

「ごめんなさい。もっと一緒にいたいけど、そろそろみんながいるあのホテルに戻りましょう」

「……ざんねん」

 ポニテさんは寂しそうな顔をしてから、僕の背中に体を密着させて、両腕を肩越しに伸ばして絡めた。

「ポニテさん?」

「ごめん。五分でいいから。このままでいさせて……もう少しだけ、真悟くんに甘えたいの」

 僕は何も言わず、ポニテさんの温もりを背中で感じた。

 とある宿泊施設から外に出て、僕はカズさんに電話をした。要件は簡単に、そちらのホテルに戻るのでロビーもしくは食堂に集まれる人だけ集めて欲しいとお願いした。

 いいよ、わかったと二つ返事をしてくれたカズさんだったが、斬る間際に余計な一言を告げた。

『リアルでこんな台詞をいう日が来るとは思わなかったが、昨晩はお楽しみでしたね?』

 僕は軽く笑ってから、通話を切った。

 カズさんのニヤけた顔が目に浮かぶ。お楽しみだったかどうかは、顔を合わせてもひとまず言わないでおこう。

 まぁ、向こうからすれば僕らは朝帰りみたいなものになるのだから、リリィやツインテが言わなくても、カズさんたちが消えた二人がどこでなにをしていたのかと勘ぐるのは必然ではある。

 これって確実に恥ずかしいパターンだと自覚してしまったが、いまさら引き返せない。

 僕らをどんな顔で迎えてくれるのか気にはなったけれど、ホテル内で待ち構えていた人たちは意外と普通だった。

 頭の中ではいろいろと詮索をしているだろうとは思うけれど、顔には出ていない。

 急な呼びかけにも関わらず、みんなは食堂のテーブル席に座っていた。

 カズさんを初め、ノヴァさん、ハンプティさん、虎猫さん、エクスさんに日輪さんだ。

「すみません。こんな朝早くに集まってもらって」

「これから一人で戦いに行く奴に、顔を合わせない薄情者なんていねーよ」

 カズさんが立ち上がってみんなを見回した。

 僕はリリィみたく深々と頭を下げた。

「お前が感謝することなんてないっての。頭を下げたいのは、ここに居る全員だ」

 ゆっくりと顔を上げる。

「でも」

「だから、そうじゃなくて、お前が言うべきことはそれじゃねーよ」

「じゃあ……軽く倒してくるので、待ってて下さい。またここに戻ってきますから」

「おう、待ってるぜ!」

 カズさんを初め、みな次々に一言かけてくれた。

 僕が狂気に呑まれた茶沢通りでのことを詫び、そして、僕一人で戦うことを申し訳ないと言ってくれた。

「じゃあ、僕はそろそろ」

「もう行くのか?」

 踵を返そうとした僕にカズさんが聞いてきた。

「カーニヴァルと戦うまでの残り時間、一人で過ごしたいんです」

 押し黙るみんなを、もう一度見つめなおした。

 不安と期待を織り交ぜた感情が食堂に満ち溢れている。

「すみません」

 僕の隣にいたポニテさんが手を握ってきた。

「真悟くん」

 別れを惜しむその手をゆっくりと話し、そして、その手をポニテさんの頭に乗せて髪を撫でる。

「行ってきます」

 僕は振り返らず、そのままホテルを後にしてカーニヴァルとの再戦場所であるスクランブル交差点へと向かった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回投稿は1/12です。

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