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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
66/143

062 『納得(コンセント)』

062です。


※12/30 本文修正

※12/31 誤字脱字修正

 リリィに黒の創造主たち殲滅を誓約したあと。改めて自分の両手脚を眺めた。

 見た目こそ人のそれではないけれど、手を握る感触、伸縮する筋肉は覚醒する前と変わらなかった。自分の中に潜んでいる膨大なる力の質量はいつでも引き出し可能だと頭も体も、精神すらも理解していた。

 これならカーニヴァルとの再戦は一方的にやられることはないだろう。その前に覚醒した力を試してみたいというはやる気持ちもあるけれど、瞬間復元がない状態でレリックモンスターと戦うのはリスクがある。

 万が一、レリックモンスターではなく、適応者との戦いともなれば、無駄な被害を受ける可能性も考えられる。

 もう戦うことを考えていることに驚かなかった。それは読みかけの小説に栞を挟むのと変わらないくらい自然な行為と似ていた。

 だが、物足りなさがあるのは何故だろうか。

「リリィ。僕の覚醒値はどれくらいまで上がったのかな」

 さっきまでは七割程度の覚醒値だった。『境界を越える者』を確実に殺すためには八割以上の覚醒値を会得していなければならない。

「現状の覚醒値は九です。戦闘時になればおそらく残り一を超えることは可能ではありますが、こればかりは実戦を交えなければ体得できないでしょう」

「残りあと一が、どのゲームでも面倒なんだよね」

 敵のHPが一を残して存命することもある。あと一体の敵を倒せばクエスト終了なのに、エンカウントで出会えない、シームレスフィールドであれば見つけられない。アイテムもそうだ。あと一個、あと一個があれば装備強化が出来るのに、何周してもドロップされない。望めば望むほどあと一の壁は超えられない。ゲームはいつも理不尽に設定されている。

 さて、ゲーム『Relic』ではなくこの現実でも、あと一つという呪いから解き放たれる事ができるのだろうか。

 普通にゲームをしていた頃ならば、ルーチンワークに辟易していただろうけれど、今回は条件が違う。

「。覚醒値が九もあれば『境界を越える者』は倒せます。無理にその一つ上を目指さなくてもよろしいかと」

「リリィ。それは絶対といえるかい? もしリリィが絶対と思っているのならそれは誤りだ。その言葉は不確定の時ほどよく使われ、慢心したままでいると痛い目にあうんだ」

「では、やはり実戦を行いますか? しかし、この辺り周辺にはもうレリックモンスターの反応はありませんが」

 違うんだと喋っているリリィの言葉を遮った。

「カーニヴァルとの再戦で、試せばいい」

「お言葉ですが。それこそ慢心につながりませんか?」

「まさか。僕はカーニヴァルを怖れているし、覚醒したとはいえ、あの男の実録は未知数だし判断を謝れば即座に殺されるだろう」

「それならば覚醒値を上げきったほうがいいのではありませんか?」

「わからないかな、リリィ」

 自分の声なのに、初めて聞くような低い声を発していた。

 リリィも僕の変化に気付いたのか、顔を強ばらせた。

「この状態で戦うから面白いんじゃないか。ギリギリで戦うからこそ、残り一の値を手に入れる価値がある」

 リリィは軽く握った右手を左手で抑えて、そのまま胸に当てる。

「本当に、受け入れてしまわれたのですね」

 諦めにも似た、悲壮感を漂わせるか細い声。リリィの言いたいことは重々わかっていた。けれど、この僕で良いのだ。カーニヴァルに覚醒させられた時から決まっていたのだ。

 覚醒した適正者は死ぬ。戦わなければ、異世界化したこの現実世界は救われない。それはポニテさんを死なせることに繋がる。受け入れる以外の選択など用意されていなかったのだ。

「リリィは前の僕が良かったのかな」

「真悟さま、そんな意地悪なことをお聞きにならないで下さい。同じような質問をポニテさまにも出来ますか?」

 これは一本取られてしまった。言い返せないし、ポニテさんには知られたくないことだ。

「自制する努力もしないといけないね」

「真悟さまの匙加減ですよ。真悟さまならばきっと裏の顔を見せることなく、普段通りにポニテさまや他のみなさまと接することができますよ」

 リリィに諭されて、僕も努力してみようと念じてみた。努力するなんていう二文字を使ったのは大学受験に勤しんだ時以来だ。

 なんにしても、求められる覚醒値は手に入れたのだ。カーニヴァルとの再戦までの時間、どうやって過ごすか決めたほうが良さそうだ。

 それに、僕にはまだカズさんとの話がまだ終わっていないのだ。

 リリィをスマートフォンの中に戻らせてから、僕はネットカフェを後にした。

 外に出ると街灯の真下にカズさんはぽつねんと立って煙草を吹かしていた。路上でも煙草は厳禁なはずなのだが、口やかましいお役人でもないのでカズさんを咎めなかった。

「カズさん」

 僕の呼び声に合わせて、カズさんがこちらを向いた。

「よぉ。無事で何よりだ。というか、なんか雰囲気変わったな」

「そうですか?」

「具体的にここがっていうのは指摘できないんだけど、こう、なんだ? 真悟を取り巻く空気みたいなのが違うっつーかさ」

 カズさんでも僕の変化に気が付かれるのならば、あの女性陣たちを前にして覚醒した僕の本質を見抜かれるのは容易いかもしれない。

「覚醒は成功したってことでいいのかね」

「ええ。カズさんのお陰です。ありがとうございます」

「よせやい。俺は大したことを言ってないっての。しっかし腹が減ったな。真悟はどうだ? って、よく見たらお前の腕と脚、何だそりゃ? サイボーグみたいな感じになってんじゃねー」

 カズさんにはそう見えるのか。

「すげー強そうだな。はは、こりゃ期待できるわ。うし、じゃあ、移動すっか。このままノヴァたちのところへ戻るか?」

 カズさんは短くなった煙草を排水口へと投げ込んだ。

「いや、その前に飯食いたいな。ハンプティに飯を作ってもらうのもいいが、『Relic』に絡まない飯がいいな。妖精を介さずに飯となると、どっか適当に飯屋に入ってなにか作るか。お、そういや、この先ステーキ屋と焼肉屋があったよな? チェーン店の。合成肉が盛んでも、あの店は本物の肉使っているからきっと美味いぞ。よし、アメリカ人ばりにステーキ食おうぜ。ライス抜きで肉オンリーだ」

 言動一致させ、カズさんは僕の意見を聞かずに歩みだした。

「待ってください。カズさん。肉の前に、話をさせて下さい」

「えー? 今じゃないとダメか?」

 駄々をこねる子供みたいにカズさんは不満を漏らした。

「今じゃないと、ダメです。みんなの前で、近くで話せるようなことではありませんから」

「内容にもよるな。しょうもない話だったら飯食いながら聞くぞ?」

「言ってくれますね」

 僕は焦らすように勿体ぶってみた。

「んだよ。聞きたいことがあるならさっさと言えよ。腹の虫が暴動を起こす前に、ほれ早く」

「覚醒した適正者がどうして現実世界を取り戻したら死ぬのか、その理由が知りたいんです。白の創造主と話していたカズさんなら、知っているんでしょう?」

 真剣な眼差しを向けていると、カズさんは答えるべき言葉を忘れたかのように押し黙った。

「その感じだと、知らないわけじゃ、なさそうですね。何を考えているんです? 知っていることを話すだけのことじゃないですか」

「別に考えていたわけじゃないぜ」

 嘘だ。いつも軽快に回る舌が、どことなく重く感じられる。

「そう睨むなよ。ちゃんと教えてやるからさ」

「お願いします」

「その代わり、聞いても反論や質問をするなよ? これはもうすでに決まっていることだからな」

 カズさんはさらに念を押したが、問題はなかった。

「どんな風に死ぬのか、その理由くらいは知っておきたいです。納得できなくても、そうなのかと言い聞かせますよ」

「この異世界化した此処は、いわばルーシェンヴァルラの住人たちが活動できるように作り変えられたと想ってほしい」

「はい」

「ルーシエンヴァルラの動植物は、単体で俺たちの世界に根を張り、呼吸をしようとしても、結局は生きながらえないのさ。だが、此処はルーシェンヴァルラと同じ空気、大気に混ざる気、その他さまざまなルーシェンヴァルラにしか存在しないモノが混ざっている。そのおかげもあって、レリックモンスターだけでなく、草木までもが生命活動を行えているんだ。じゃあ、適正者はって思うよな? そりゃ問題ない。なんたって元々はこちらの住人なんだからさ。じゃあ、なんで同じ適正者なのに、覚醒したら死んでしまうのか? 後戻りが出来ないんだ。こちらの住人ではあったけれど、覚醒してしまったその体は、ルーシェンヴァルラでしか生きながらえない。──以上だ。俺もチェイスっつーか白の創造主からは打ち込まえてきたテキストを読んだだけだから、若干ニュアンスは違うかもしれんが、大まかな理由は覚醒したら空気とかいろんなもんが合わなくて死ぬってこと」

「それだけですか?」

「ん? それだけだ。聞けば納得だろ?」

 いま話しているカズさんの言葉に嘘はなさそうだったのに、どうもカズさんが気になって仕方がない。

「じろじろとみんなよ。理不尽かと思うかもしれないけれど、この結果を覆すことは無理だ」

「よく、分かりました」

 本当はカズさんが言っていた覚悟の話を聞きたかったのだが、きっと上手く話をはぐらかすに違いない。

「物分りが早くてよかったよ。これ以上、長話させないでくれよ? もう腹が減って倒れそうだよ」

 僕もこれ以上、カズさんから何かを聞き出すことは無理だと判断した。

「わかりました。ステーキを食べましょう」

「おう。たらふく食って人間としての活力を取り戻そうじゃないか」

 僕らは意気揚々に五年前から躍進し始めたステーキチェーンの店に入り、厨房にある大きな業務用冷蔵庫を開いた。

 冷蔵庫から取り出した肉はカットされていたので、調理場にあるナイフや包丁を使ってカットをし、少量の油を注がれた鉄板に肉を焼きはじめた。

 互いに、食べたい肉を選び、好みの焼き加減で焼かれたステーキは実にうまそうで、口から今にも流れ落ちそうなよだれを飲み込んだ。

 焼き上げの仕上げはシンプルに塩だけにした。この店自慢のソースもテーブルに置かれていたが、食べ終わるまで使うことはなかった。

 一方、カズさんはというと、四百グラムのロース肉を食らっている。僕はライスと一緒に食しているけれど、カズさんは言っていた通り、野菜やライスなど食べらずに肉だけを食い漁っていった。

「そんなに食べたら、取り返しが付かなくなりますよ」

「平気さ。生き残ったら、今度こそお前に頼らずに戦うはめに成るんだからな」

「此処以外にあるリンクした場所で戦うつもりですか」

「この話はもうしたはずなんだが、戦いたい奴だけが立ち向かえばいいのさ。もし登録していても、こういった世界に入りたくなる元プレイヤーはいないはずさ。だったら、戦うさ。黒の創造主たちを殺せるのは俺たち適正者しかいないんだからよ」

 切り分けた肉にソースをふんだんに塗りたくってカズさんは最後の一口を堪能した。

 美味しそうに食べる人だけれど、それはソースのおかげもある、かもしれない。

「真悟。俺に聞いておきたいことはもう無いよな?」

「多分、ないと思います」

「多分はないだろ、多分は!」

「耳元で怒鳴らないで下さいよ」

「うるせぇ」

 腹を肉で満たしてステーキ屋から出るとカズさんはスマートフォンを取り出して通話ボタンを押した。

「もしもし、こっちは終わった。お前たちはいまどこに居るんだ? ああ、ラブホか。大丈夫、真悟がいるから案内してもらうよ」

 カズさんの通話を終わってから、その足で円山町にあるラブホテルを目指した。

 道中、リリィには努力してみようと言ってはみたけれど、うまくいくのかと一抹の不安を覚えた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回投稿は12/31です。

大晦日ということもあり、時間は18時から19時ごろとなります。

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