060 『同類(ライク)』
060です。
リリィが目を覚ましたのはレイラが予測していた時間よりも三十分ほど遅かった。
「おはようございます。真悟さま」
いつもの様にかしこまった口調でリリィは僕のスマートフォンから現れたのだが、僕はリリィの容姿を見てしばしのあいだ呆けてしまった。
「おお、これはこれは」
カズさんもそういってリリィの姿をみて息を呑んだ。
リリィの髪は腰の辺りまで伸びていて、体躯も少女っぽさが抜けた気がする。また服装も以前のようなワンピースと言った装いではなく絢爛豪華なドレスを着衣している。
「随分とお待たせしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。真悟さま、生まれ変わったこのリリィになんなりとお申し付け下さい」
適正者に仕える妖精らしからぬ服装なのに、言葉遣いもそのまま僕に従順しているのが面白く思えた。
「早速だけど……えっと、どんな風に聞けばいいんでしょう?」
僕はカズさんに顔を向けた。僕の覚醒した力がどれほどのものか、リリィに確認して貰うのだが、どこから聞いていいのかわからなかったのだ。
「いいよ。俺が聞くから」
「いや、でもリリィは僕じゃないと受け答えはしてくれませんよ」
「真悟さま。ご安心ください。リリィは完全な自我を確立しました。他の適正者さまからのご質問等にお答えできます」
「これも、僕が覚醒したからですか?」
僕は驚きの溜息を付くとともにカズさんに視線を向けた。
「白の創造主もようやくまともなアップデートをしてくれたってことだよ。仕える適正者しか会話が成立しないとか、こちらからすれば不便でしかたない。……いまさら、こんな愚痴をいっても始まらないから、さっさと質問をさせてもらうぞ?」
カズさんはリリィと向き合った。
「カズヒデさまのことは白の創造主さまよりお話を伺っております。本当に──」
「待て!」
カズさんがリリィの言葉を遮った。
「俺が聞きたいのは真悟のことだ。俺のことはどうだっていいだろう?」
カズさんの言っていることは最もなのだが、この口ぶりだとカズさん自身に起因しているような気がしてならない。
「申し訳ございません。以後、気をつけます」
一体、何の話をしているだろう。詮索しようにも材料が足らなかった。
「俺が知りたいのは、真悟が覚醒した力が何割まで引き出せるのかが知りたい。話によると、一から十までの段階があると聞いたが?」
「現在、真悟さまの覚醒値は七です。現状でいえば、カーニヴァルと同等の力量だと把握していただければよろしいかと。ですが、カーニヴァルは真悟さまの覚醒後は手を抜いていますし、加えてカーニヴァルは自身のレリック武器を完全には使用していませんでした。その点を踏まえると、五分と五分という見方は誤りになります」
「チェイスから、というか白の創造主から話を聞いているのなら『境界を越えし者』の存在も知っているよな? 七割の覚醒での勝算はあるのか?」
「断言します。勝算はありません。せめて覚醒値が八まであれば良いのですが」
僕のことを話しているのに、当の本人が蚊帳の外ではお話にならない。僕はここぞとばかりに割り込んだ。
「リリィ、その覚醒値が七と八。たった一つの値が違うだけでそんなにも勝算が変わるのかい?」
「真悟さま。そこはレリック武器と同じだとお考え下さい。レリック武器の練度が一から七までは強化値はそこまで変わりませんが、八以上の上昇値は跳ね上がったはずです」
納得のいく回答だった。これはどのゲームでもいえることだけれど、武器や防具の強化は一定のところまでは簡単に上げられる分、ステ値などの上昇値はそこまで高くない。『Relic』ではレリック武器練度が下一桁八以上からステ値が跳ね上がる。
「リリィの言いたいことはわかったけれど、覚醒値を上げる方法や条件はなにがあるんだ? レリックモンスターを百体倒せとか、そういうクエストみたいなものだと、時間が足りない気がするんだ」
「心の問題です」
リリィはとても真面目な顔で言った。
てっきり修行モードのような経験値を積むような作業があるものばかり想定していたので、リリィの回答は予想外すぎた。
「そうは言われてもさ。リリィ、あまりにも抽象的すぎて何をしていいのかやっぱりわからないんだけど? もっと具体的に何をするのか教えてくれないか?」
「言葉足らずでした。まずはどうして七割程度の力に留まっているのかのお話です。真悟さまは覚醒した力を持て余し、かつその力を最大限に使用することを肉体が恐れ、ストップをかけています」
「それって、人間が百パーセントの力を引き出したら、自分の肉体を壊すみたいな話かな?」
「はい。そのような解釈で間違っていません。次に、そのストッパーを解除し、覚醒値を引き上げる方法は真悟さまが『何に』目覚めたのかを気づくことです。リリィが眠っている間に、真悟さまは暴走しかけた闘気を無我の境地で抑えることができました。無我が抑えることであれば、その逆を行えばいいのです。そう、力の解放を身につけるのです」
リリィは淀みなく澄み切った声で説明しきった。
力の解放だと簡単に言ってくれるけれど、容易ではないことくらい僕がよくわかっていた。闘気の暴走は自分の体で実感できていたけれど、まだ内面に眠っている力をどうやって引き出すのか、その切欠がまだ掴めていないのだ。
「真悟さま、難しく考えないで下さい。無我の境地へと踏み込むことができた真悟さまならば、その逆方向にある道も自ずと気づかれるはずです」
「リリィ。さすがにノーヒントでやってみろと言われても難しいよ」
「弱気な発言をしてくれるなよ」
困り果てた僕を見かねたカズさんが口を挟んだ。
「代々木公園で別れる前に、言ったろ? お前はもっと自信を持つべきだ。自分で自分を過小評価するな。かといって自分を過大評価しろ、慢心しろというわけじゃないぜ? お前はお前の実力をちゃんと向き合うべきなんだよ。それができたら、お前は本来あるべき姿を見つけ出すことが出来るんじゃないのかね」
「自信を持つ、ですか」
「ほら、そうやってお前は自分を疑っている。お前は今日一日でどれだけの強敵と戦って、どうやって生き延びてきた? 逃げまわったわけじゃないだろ? その拳と脚でお前は倒してきたんだ。俯くな、前を見ろ、そして、阿式真悟という自分と向き合え」
カズさんの激励に対して「でも」や「だって」なんて言えなかった。言えるはずがなかった。
リリィは心の問題だといった。
そう、実はうすうすとわかっていたことなんだ。
覚醒した直後、カーニヴァルとの戦いで、愉悦と開放感に満たされていた。
そんな僕自身に恐れていたのだ。
あれでは、まるで、戦闘狂で殺人狂の適応者と変わらないのではないかと。
僕もまたカーニヴァルと同類だと思えてしまったのだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回の投稿も本文が短くてすみません。
完全に体調を崩してしまい、筆が思うように進みませんでした。
申し訳ありません。
次回投稿は12/27です。




