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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
61/143

057 『融合(ヒュージョン)』  

057です。


※ 12/21 本文修正

 これまで僕がリリィの名を呼べば『お呼びになりましたか、真悟さま』とリリィは仰々しい挨拶をしながらスマートフォンから飛び出てきた。

「リリィ?」

 数秒経ってもリリィは飛び出してこない。おかしいなと思って、ポケットの中からスマートフォンを取り出す。画面は真っ暗なままで、どんな操作をしても受け付けようとしていなかった。

 訝しがっている僕にカズさんが話しかけてきた。

「お前んとこの妖精、へそでも曲げたか?」

「妖精にへそなんてないでしょうに」

 そんな軽口を叩いてみたものの、内面ではかなり焦っていた。リリィの機嫌を損ねるようなことをしたのかと記憶を辿ってみると、覚醒したことくらいしか思い当たらなかった。

「妙だな。話によれば、妖精は普通に出てくるはずなんだが」

「どうしましょう」

 量産されたスマートフォンではあることに変わりはないのだけれど、中身はもう全くの別物になっている。ゲーム『Relic』に存在していた妖精が、0と1というプログラムから生身の肉体をもってスマートフォンの中に居着いている。

 昨日まで簡単に使えていたスマートフォンでなくなっているために、どう操作していいのかわからないのだ。

「こうなったら同族に聞くほうが手っ取り早い。レイラ、出てこい」

 その呼び声と共にカズさんのスマートフォンからレイラが現れた。

「随分と久しぶりね。要件はそちらの適正者さまに仕えている妖精についてかしら?」

 レイラはこれまでと変わらず、自分が仕えている適正者に同じ目線で話している。

「そうだよ。俺たちの話はすでにスマホの中で聴いていたんだろう? 真悟の妖精はどうして出てこなくなったんだ」

「すっごい簡単な話よ。寝ているの。それも完璧な熟睡ね」

「妖精でも寝るのか」

 カズさんが僕の気持ちを代弁してくれた。僕がレイラに話しかけても無意味なのでここはカズさんに委ねるしかなさそうだ。

「眠っている理由は、真悟が覚醒したせいか」

「たぶんね。あ、曖昧に答えたからって何故知らないとか、はぐらかすなとか言わないでよ? 適正者さまにそんな隠された力が眠っていたなんて私たちも知らなかったんだから。でも、いまの真悟サマを見る限りだと、そうとうな力が付加されているわ。人間の肉体であれば目覚めた力に順応するのは早いかもしれないけど、私たち妖精には大きすぎるから順応するまでに時間がかかるの。これが熟睡の理由よ」

「どれくらいで目を覚ましそうなんだ? 明日の朝までに起きてもらわないと間に合うものも間に合わなくなる」

「そうね。私の見立てで、後一時間くらいかしら。えっと、こっちの世界でいうところの、あっぷでーとに意味合いが近いわ」

「回線にもよるが、一時間といえばかなりのデータ量だぞ」

 カズさんは腕を組んで難しい顔をする。

「でも、ネトゲしていた僕らからすると、わかりやすい文言ですよね」

「アップデートされた後、大概は不具合があってすぐメンテになるけどな」

「嫌なことを言わないでくださいよ」

 オンラインゲームは定期的に全サーバーのメンテナンスをしつつ、ゲーム内のアップデートも平行している。大型アップデートともなれば、メンテナンス終了後に待っているのは、ログインオンラインだ。みな、新しくなったゲームを早く遊びたいと一斉にログインするものだから、九割のプレイヤーはログインができずにいる。いつからかログインを待ちわびることから、ログインオンラインという造語が生まれた。

 結局、サービスが再開されてもエラーで強制ログアウトされたりするので、アップデートしてから一時間とまたずに緊急メンテナンスが入ることは多かった。ある意味、こういう不具合もオンラインゲームではよくある出来事の一つだ。

「メンテをするにも、してくれる人がいないじゃないですか」

「エヴァンのことだな」

 エヴァン・ラスティング。『Relic』に遺伝子情報読込機能を搭載させたプログラマー。おそらく彼は『Relic』の世界、ルーシェンヴァルラと何らかの関係を持っていたはずだ。

 過去形にしたのは、カーニヴァルに殺されているかもしれないからだ。カーニヴァルはエヴァンを見つけ、適正者に隠された『設定』である覚醒を聞きだして、多くの適正者を殺した。

「エヴァン……ね」

 カズさんはエヴァンの名を再度、口にしながら椅子に座りひざ掛けに腕を乗せた。

「カズさんもエヴァン・ラスティングは殺されたと思いますか?」

「……今はその話をするのはよそう。お前も俺たちも時間が残されていないんだ。お前の妖精が出てこられないのなら、話す順番を変えるだけだ。棺のシステムと適応者、ガルズディアの話をするぞ」

 カズさんの言うとおり、時間こそないけれどエヴァンの生死について話すくらいの余裕はある。なんだか、エヴァン・ラスティングの話題を避けているようにも思えた。

 かといって、食い下がるほどの重要さが無いのも確かなので、僕は生返事をするだけにしておいた。

「一つずつ整理していこう。俺たちは妖精から棺を壊すことでガルズディアの復活を防げると聞かされた。棺には街で犠牲になった人々の肉体と魂が収まっている。これがガルズディアの生け贄だ。壊せば人々は救えるも、棺には番人がいた」

 言い終わったカズさんに合わせて、続きは僕が話すことにした。

「番人は復活したあとのガルズディアを強化させる役割を持っています。でも、棺を壊し、番人を倒しておけばガルズディアは弱体される。ガルズディアを少人数でも倒せることが可能となった」

「ここまでが俺たち適正者が妖精から聞いた話だ。だが、蓋を開けてみたら棺を壊す前に適応者が出現した」

「妖精たちが知っていた情報は黒の創造主がこちらの世界に侵攻する以前の戦略で、実際には適応者を倒さなければ棺の破壊、そして番人を倒すことが不可能でした」

「黒の創造主は俺たちの邪魔をするためにルールをひん曲げて適応者を配置させた。当然、そう思うよな」

「ガルズディアの復活を阻止されたら元も子もありませんからね」

「俺も当然そう思った。ゲームをしていた俺たちからすると、そういう発想に走ってもおかしくない。だが、それは誤りだ」

「カーニヴァルは適応者が現れること、そして倒されることに意味がある、そんな含みを込めて言ってました」

「本当の生け贄は、適応者の方だってことだよ」

「そんな! じゃ、じゃあ、棺に収納された人たちは何のために?」

「適応者を生け贄にすれば、棺の人たちは無事に解放されるとか考えるなよ? その逆だ。棺の人たちもまた復活するガルズディアの養分にされんだよ」

 ようやく、カーニヴァルが言っていた棺攻略の正しい手順が分かった。そんな意図が隠されていたなんて。適応者を殺さずに棺と番人を処理するなんて芸当は異世界化してすぐに戦うはめになった僕らでは対処の仕様がない。

「こんなの初見で見抜けるわけねーっつーの」

 カズさんはうんざりしたような顔をして溜息を一つついた。

「最悪なやり口だ。そうとも知らずに、俺たちはせっせと適応者を殺し続けた。残る棺と番人、適応者。どれも一つに、一匹に、一人。もう手遅れだ」

「カズさんは知っているんですね? ガルズディアが消えた後に起きる出来事を」

「カーニヴァルが消えると言ったのか?」

「伝言ではありますけど。消えたあとはお楽しみなんてふざけた事を言ってましたが」

「消えるといえば、消えるがな。ガルズディアは生け贄にされた適応者の中から一人選んで、融合する。俺たちが戦ったちぐはくのホムンクルスみたいにな」

 多種族の肉体と性能を混合させたモンスターのホムンクルス。あのモンスターの肉体を媒体として使えば融合も可能というわけだ。

 あとはもう既成事実だけを思い出し、何が起きるのか想定するだけだ。

 尋常ではない、レリックモンスターを超えた存在になってしまう。

「カズさん。ここまでが前提で、本当に話したかったのは、ガルズディアと融合した適応者は覚醒した僕じゃないと倒せない、そういうことですよね」

「ご明察」

 見事に正解を導き出したのに、ちっとも嬉しくなかったし、それに……僕にはまだその先があると思い至っていた。

「いくら覚醒した適正者でも中途半端な力では勝てない、そういうことですね」

「飲み込みが早くて嬉しいよ。つまり、だ」

 後頭部に両手を乗せて、リクライニングシートへ全体重を乗せた。

「ガルズディアと融合した適応者はカーニヴァルよりも強い」

 ようやく、この話の着地点が見えてきた。

「僕がちゃんと覚醒をしなければ、カーニヴァルには勝てても、最後に控えた融合個体となった適応者には勝てないんですね」

 僕の回答にカズさんは頷くだけだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


本日、体調不良の為、今回は文字数が少ないです。

申し訳ありません。


次回投稿は12/21です。

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