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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
6/143

006 『決断(デシジョン)』

006になります。

これまでの投稿でPV数が100を超えました。

ありがとうございます。


※ 誤字修正

 笑えない冗談だと思いたかった。

 贄にもなれず、僕らは簡単に殺されてしまう。脳裏に僕が殺したガルブの亡骸がフラッシュバックする。砕け散った頭蓋、飛び出る臓物と体内から飛び出た折れた骨。それらの姿が僕の体と置き換えられる。

 真っ白になる視界。胃の中で溶けつつあった内容物が食道まで込み上げてくる。手で口元を塞いで吐き気を押さえる。

「おい? おいおいおい。冗談だろ?」

 ハンプティさんが笑いながら、しかし力のない声で妖精たちに問いかけた。だが、彼の問いかけに応えてくれる妖精は一人しかいない。

「なんとか言えって……おい、ラビット? 嘘だって言えよ」

 ラビットと呼ばれたハンプティさんの妖精がスマートフォンと共に姿を現す。髪が長くおとなしめの女の子と言った感じの妖精だ。

「ハンプティさま。ノヴァさまの妖精が言ったことは本当なの。ごめんなさい」

「っざけんな! なんで最初に言わねぇーんだよ! そんなこと知っていたら適正者になんかならねーよ」

 怒鳴り散らすハンプティさんにラビットは体を小さくして怯える。

「クソが!」

 自前のレリックを地面に叩きつけると、ハンプティさんは頭を抱えてしゃがみこんだ。

「怒ったり落ち込んだりめんどくさい男」

 虎猫さんがハンプティさんを見下ろしながら呆れた。

 そんな言い方をするとまたハンプティさんが癇癪を起こすと心配をしたけれど、予想に反して彼はおとなしいままだ。

「あんたらはいいよな。レリックレベルも高いからよ。だから余裕あるんだろ?」

 ハンプティさんのいうことも正しい。ゲーム『Relic』においても、レリックレベルが高いほど攻略もしやすく、生存率も高い。

 でもさ、と虎猫さんが反論する。

「ハンプティが適正者になったのは自業自得じゃん? 適正者にならなかったらモンスターにやられてガルズディアの養分になったんだよ」

「うぜーな。んなことわかってる! わかっているからムカついてんだよ!」

 怒りの矛先が他人ではなく自分にあると知って、ハンプティさんは自己嫌悪に陥っているようだ。

 しばしの沈黙のあと、口火を切ったのはスグルさんだった。

「考え方を変えたらどうですか?」

「なにどう変えろというんだ?」

 ほぼ投げやりな言葉でハンプティさんが言う。

「大きく分けて二つ。一つは安全なここに留まること。脅威となるレリックモンスターに襲われることがない」

「もう一つは?」

「君が持っているその怒りをこのクエストにぶつけみるのはどうでしょう」

「そんなこと出来るわけが……」

 反論するハンプティさんだが人差し指を立てたスグルさんをみて押し黙った。

「よく考えてください。確かに君のレリックレベルは低い。一人では生き残れないのは確実です。けれど、ここにはあなた一人ではなくカンストした四人とそのレベルに近い適正者が二人もいる。共に行動するのも手ではないでしょうか」

「絶対に生き残れる保証なんてないだろ? きっとあんたらは足手まといの俺を早々に見切りをつけるはずだ」

「否定はできかねますね。有り得る話です」

「だったら一緒に行くなんて選択肢なんてありえねーよ」

「ここで誰かがなんとかしてくれるのを待っている方が、自分としてはありえない選択肢ではありますがね」

 静かな物言いなのに言葉はきつい。スグルさんの鋭い眼差しにハンプティさんは視線を外せない様子だ。

「なんで、あんたはそう言い切れるんだ?」

 スグルさんはズレた眼鏡を上げて、ハンプティさんを見据えた。

「持論ですが……対抗しうる力があるのなら行動するべきです。どんなに些細な力でも抗うことは可能です。いろいろやり尽くして、その結果、このクエストを失敗したとしても自分は満足いく。生き残れる可能性があるのなら、そこに賭けたい」

「あんた、死ぬかもしれないのに平気なのかよ?」

「平気ではありませんが……やれることをやって死ぬのなら別に構わないと考えています。日常の生活には飽きていたのでこんな状況に置かれるのは本望……おっと、すみません。誤解しないでいただきたいのですが、これはあくまでも自分の考えです。強制はいたしませんよ。ただ自分は理不尽に死ぬのも、悪くない、それだけのことです。ここに残りたいのならどうぞご自由に。他人が死と隣り合わせで戦っている間、あなたはここで自分の事だけを心配して下さい。残念なのはあなたがここに一人残されて、どのような心情に駆り立てられるか観察できないことですね」

 スグルさんは無表情に無感情に自分の述べたいことだけをハンプティさんにぶつけた。反論する余地はあったのだろうけれど、ハンプティさんには心の余裕があまりにもなさすぎた。

 ハンプティさんは両膝を折って頭を垂れた。

 ちょーっといいかなっと苛立った声を上げたのはカズさんだった。

「スグルさんさ? まるで俺らが失敗する前提みたいに話してっけど、俺は生き残るつもりでいるんだけど?」

 ゆっくりと立ち上がったカズさんは、スグルさんへとまっすぐ向かい眼と鼻の距離にまで近づいた。

「もちろん、生き残ること、クエストの成功が理想です。気分を害してしまったのなら謝ります。自分の考えをはっきりとお伝えしたほうがいいと思っただけです」

 スグルさんはすみませんと言いながら小さく頭を下げる。恐縮した態度をみてカズさんはしかめっ面のまま腕を組んだ。

「ただ、気持ちだけで片付くような問題ではありません。そこはカズヒデさんも理解されていますよね」

 丸く収まったはずなのにスグルさんが余計な言葉を添えてしまった。

「あんたの物言い、なんか気に入らねぇーな」

「よく言われます。ゲームでもリアルでも敵ばかり作っていました」

 一触即発の雰囲気の中、空に大きな爆発が起きる。これは魔導のスキルだ。虎猫さんは両手を振って違うと否定している。ということは、あとは彼女しかいない。 

「私がいる限り、誰も見捨てないし殺させもしない」

 ノヴァさんが面と向き合う二人を咎めるように言い放つ。

「思うんだけどさ。難しく考える必要なくない? 行きたい人だけ行けばいいだけの話しっしょ? あたしはもちろん行くよ。スグルの言ってたこと間違ってないと思うし。結局誰かがやらなきゃ、三日後にはガルズディアが復活するんだもん。死にたくもないけど、生き残るためなら、戦うしかなくない?」

「私も虎ちゃんに賛成だねー。昔見たアニメみたいな感じで私は楽しいんだよね。あれはゲームの中に取り残されたり、転生してたけどさ。アニメみたいに俺つえーじゃないけど、戦いのコツも掴んだし、三日あるってことは瞬間復元も毎日三つは必ずあるってことでしょ? 攻略時間はあるんだし余裕はあるよ」

 ポニテさんが虎猫さんに賛同したが、あまりにもお気楽な発言で彼女がいちばん危ういようにも思える。

「真悟、お前も傍観してないで、なにか言えよ。いま、そういう流れだろ?」

 突然の指名に面食らったが、僕なりの回答を提示した。

「戦える人が戦う、それで僕はいいと思います。ここに残ることを非難するのはお門違いです。もうゲームじゃないんですから」

 ガルフィクスとの戦いで逃げた人達もそうだ。彼らも戦う意志を無くした。それのどこが悪いというのだろう。他人よりも自分の身を案ずる方が、人として正しい。

「だーかーらー、そんな事はわかってんだよ。お前はどうするんだって話だよ。誰かが助けてくれるのを待つのか、お前自身が戦うのか、どっちだ」

 流れを読み取れなかったせいで責められてしまった。なんとなく理不尽な気もするけれど文句など言えなさそうだ。

 武器が破壊された状態で攻撃されれば死ぬ。

 死ぬ覚悟を持って戦えるかと言われれば、ノーだ。でも、イエスと言える理由は一つだけある。

「誰かのために戦うなんてできません」

 僕は両腕に装着されたレリックを見て、そして拳を固めた。

「戦えるなら戦う。救ってくれる誰かを信じるよりも行動に移せる僕を信じます」

 ここは仮想と一体化した現実だ。正義の味方や絶対的なヒーローは存在しない。そんな完全な第三者を求めるよりも僕自身を頼りたい。

「理由はそれぞれ」

 ノヴァさんが杖を地に叩きつける。

「戦う、逃げる、寄生する、ゲームではよくある話。個人の考えを押し付けるのも自由といえば自由。どんな決断をしようとも、賛同や拒絶はその人しだい。それでも決断を下した人を責める権利だってないの」

「では、ハンプティさんを残して我々だけで棺とやらを破壊しにいきましょうか」

 スグルさんの言葉に他意はないと想いたいのだが、どうも胸がモヤモヤさせられる。むしろ無自覚な発言なだけにたちが悪いのだ。

「大人しく聴いていりゃ好き放題いってくれる」

 芝生に拳を叩きつけてハンプティさんが吠える。

「俺は死にたくない。その気持ちは変わらない。でもよ? こんなに胸糞悪い気分になったのは初めてだ。生き残ってやるよ、そして、あんたの鼻をあかしてやるからな!」

 ハンプティさんがスグルさんを睨みつける。が、敵意を向けられているのにスグルさんは何も感じていない様子だった。

「なにやら、彼も怒らせてしまったようですね。まぁ、こうなることはよくあるので気にしません。ハンプティさん、ぜひとも頑張ってください」

「クソ。あんたに言われなくてもやってやるよ! みんな、悪かった。俺のせいで変な足止めさせちまって。いや、足手まといが増えて迷惑かもしんねーけど、俺、頑張るからさ」

 ハンプティさんの言葉を受け入れ僕らは互いに視線を合わせた。

 ノヴァさんがカズさんに視線を送る。まとめる役をカズさんに任せたいようだ。その意図を理解したカズさんは軽く笑って頷く。

「よし、決まりだな。でも、無理はさせないからな?」

「は、はい。あの、いまさらかもしんないけど、さっきはおっさんなんて言って、その……すんませんした」

 口調を改めて謝罪するハンプティさんに、カズさんは手の平をひらひらとさせた。

「あー、いいっていいって。気にすんな。おっさんなのは事実だから。それにネットなら年齢性別とか気にして遊ばないだろう? みんなモニター越しでは好き勝手言ってんだからよ」

 僕らはあるあると相槌を打って笑った。

仮初かもしれないけれど、僕らは妖精たちが出したクエストを受けることにした。

 クエストを遂行するにあたり、パーティーは二手に別れることに決まった。

 さすがに七人もいるとノヴァさんの負担が大きいし、複数ある棺を一つのパーティーだけで向かうのは効率が悪いと判断した。

 パーティーの振り分けはレリックレベルと職業を考慮された。第一パーティーはノヴァさんをリーダーに、カズさん、スグルさんの三人。第二は残り四人で編成され、リーダーは僕が務めることになった。

「僕がリーダーですか。後衛の虎猫さんが指揮を取ったほうがいいと思うんですけど」

「さっきもいったけどあたしそういうの考えたくない人なんだ。だからここはシンちゃんにお任せしちゃっていい?」

 シンちゃんって。しかもいきなりタメ口なのがちょっと嫌だった。出会ってすぐに距離を縮める人はいるけれど、虎猫さんは早すぎる気がする。

「わかりました。それでも僕は前衛なので的確な指示はあまり期待しないで下さい」

 万が一のための言い訳かも知れないが念だけは押しておく。

「コンタクトはどうしますか?」

 行動を別に取るのだから、なるべくお互いの進捗状況は把握しておきたい。緊急時以外はリーダー同士でのコンタクトを取り合うことにした。

「頻繁に連絡を取り合う必要もないでしょう。どちらかが棺に到着したらコンタクトを取る、でどうかしら?」

「そうしましょう。それで、肝心の棺の場所ですが。リリィ、君からみんなに教えてくれないか。いや、その前にこの隔離された区域がどれほどの範囲なのかもお教えてほしい」

 リリィが僕らの中心に浮かぶ。

「真悟さま。その問を答える前に一つ、使用許可をいただけますか」

「許可?」

「口頭でお伝えするよりも地図を見たほうがより理解しやすいと思います。そこでリリィが召喚されたこのすまーとふぉんの中にある地図のあぷりを使用させていただきたいのです」

「うん。みんなで確認できたほうがいい。やってくれ」

「かしこまりました」

 リリィはスマートフォンのディスプレイに触れた後、ゲームメニューを開くようにして、地図アプリを空中に表示させた。

「まず、真悟さまたちが居らっしゃるこの付近が区域の中心だと思って下さい」

 現在地を確認させると、地図表示を縮小すると赤いピンが五つ刺さっていて、これが棺の場所を示していた。

「この赤いピンが刺さっている場所に棺があるんだね」

 リリィは丁寧に棺の場所を教えてくれた。そして、この一体化した区域は意外と狭いことも知ることができた。

 北と西にある三つの棺はノヴァさんのパーティー、南と東にある二つの棺は僕らのパーティーが出向くことに決まった。

「これらを徒歩で回るのはちょっと手間だな」

 カズさんが腕を組みながら表示されている地図をみながら呟いた。

「真悟さまも徒歩での移動を考えていらっしゃいましたか」

「歩けない距離じゃないからね」

 体力が削られないにしても、時間がないのは事実だ。

「真悟さま。こちらの世界にあるじどうしゃとかばいくを使用されては?」

 車なら免許はあるのだけれど……待てよ。さらりと流しかけたけれど、リリィは大切なことを言った。

「え、じゃあ。外との連絡やパソコンを使うことができるというのか?」

「もちろんです。黒の創造主によって一体化された世界ですが、それは命を持つ個体のみに制限が課せられているのです。こちらの文明が作り上げた道具などに制限はありませんよ」

 これなら三日と言わず一日で片付けることができるかもしれない。

「うお、マジかこれ!」

 突然の叫び声を上げたカズさんが手にしたスマートフォンを凝視して驚いている。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


明日も同じ時間帯に投稿します。

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