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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
55/143

051 『覚醒め(モーニング・グローリー)』

051です。


※ 12/9 本文修正

※ 12/19 本文修正

 エクスさんの首が地面へと落下するよりも前に、カーニヴァルの顔面に拳を撃ち打ち込む。もちろん、ありったけの力を撃ち込んだ、そのつもりなのにこいつは、カーニヴァルは体を微動ともせずに立っていた。

 カーニヴァルは僕の拳を頬に受けながら、笑みをこぼしている。

「可哀想に、無駄死だな」

「ふざけるな」

 右拳を引いて、今度は左の拳を打ち出すがカーニヴァルは簡単に受け止めてしまった。

「っつ!」

 カーニヴァルが掴む僕の左拳は軽く握られているよう見えるのに、カーニヴァルの握力は万力のような圧があった。

「俺からしたら無駄殺しだ」

 口調は呑気なのにカーニヴァルが握る僕の拳は更に圧力が増している。その強引な力技で僕の足は耐えかね、片膝を折った。

 左拳の痛みを耐えて頭を下げると、眼下にエクスさんの生首が転がっていた。

「エ……クスさん」

 エクスさんだったその頭はすでに血の気を失い、青白くなっている。

「無駄に殺したというのなら、なぜ、エクスさんを殺す必要があった」

 見下ろすカーニヴァルを睨む。

「いちいち説明する必要はないなぁ。てか、これ邪魔だな」

 エクスさんの頭はカーニヴァルが足の裏で踏み抜かれたことで、灰となり消え去った。

 適正者は死ぬと肉体を残すことなく消滅してしまう。唯一、生きていた証が残るとすればそれはレリック武器だけだ。だが、黒い歪みを通された時点ですでに彼らは武器を所持していなかった。

「なんでお前みたいな人間がいるんだ。人を殺したいという理由だけがお前の生きがいなのか」

「あー、はいはい。人の命は大切みたいなご高説は聞き飽きた。だいたい説教で改心する人間なんていてたまるかよ」

 カーニヴァルがさらに握る力を強められ、完全に屈服させられる。

僕はエクスさんを助けることも出来ず、地べたに這いつくばり、嗚咽を吐きながら呆気無く殺されたエクスさんの姿を見ることしか出来なかった。助けられなかった不甲斐なさ、カーニヴァルに手も足も出ない自分の弱さ、様々な感情が入り乱れる。

「おい、俺を殺したいか? それとも自分だけ助かりたいか?」

「言わないとわからないのか」

 顔を歪めながら減らず口を叩く。そうでもしなければ心が折れて何もできなくなりそうだった。

「吠えるな。この結果を招いたのはお前のせいだ」

「なにを!」

「おいおい、殺した俺が悪いとでも言いたいのか? 違うね。殺される過程をお前が踏んだんだ。ろくに考えもせずに歩んだ。俺の口車に乗せられ、馬鹿正直に信じたお前が悪い。お前がここに来なければ、あっちで昏睡している女二人はいまでも無事にいられたのかもしれないんだ」

 ポニテさんたちに視線を向ける。意識を失い、杭を打ち込まれ合わさった両手が痛々しい。胸を猛禽類の爪で鷲掴みにされるような圧迫感に襲われる。

「闘術士シンゴ、アドベンチャーゲームで言うルート選びに失敗したんだ。それでもだ、お前はまだ生きているし、まだバッドエンドではない。これ以上の犠牲者を出すも出さないも、お前しだいだぜ?」

「僕、しだいってどういうことだ」

「教えるか。テメーで考えな」

 ずっと下に押し付ける力が反転して引き上げられ、丸められたティッシュみたく僕は放り投げ飛ばされた。

 飛ばされた先はセンター街の出入り口にある小さな書店の入り口だった。

 物理的に投げ飛ばされただけなので、今度も衝撃こそ与えられたが肉体のダメージはカーニヴァルに握られていた左拳だけで済んだ。

 カーニヴァルは僕のことなど見向きもせず、ノヴァさんとポニテさんのほうへと歩んでいる。そして、エクスさんの首を跳ねた時と同じように、カーニヴァルは右手で手刀を作り、その刃を項垂れたポニテさんの細い首筋に──

 網膜に焼き付くポニテさんとカーニヴァルの姿。

 駄目だ、やめろ。殺すな。僕は彼女の元へと戻ると約束したんだ。

 ──ボクカラ、カエルバショヲ、ウバウナ──

 頭の内側から『何か』が弾け飛び、一瞬にして全身を巡る。活性化していく肉体と闘気。

 僕は無意識のうちにカーニヴァルの手刀を受け止めていた。

「こっちが当たりだったか」

「いいや、ハズレだ」

 掴んだカーニヴァルの右腕を、手甲ともども握り潰した。カーニヴァルの蹴り技が飛んできたが、脅威でないとすぐに判断できたので片手でいなした。

 カーニヴァルの腕の骨がごりごりと音を立てて砕けていく。肉と肉の合間にある骨がすり潰され、カーニヴァルの腕も原型を留められないほどの肉塊と化していた。

 カーニヴァルの顔が苦痛で歪んだ。自分が強いこと、誰にも負けない自信に満ちた余裕がすっかり消えている。

「ようやくお目覚めかよ」

 カーニヴァルは手甲を失った左手を使って、肉ミンチになった右腕を切り落として、僕から間合いを取った。

「どうした。殺し合いをするんじゃなかったのか」

「するさ。もちろんするとも。だが、今じゃない」

「この期に及んで命乞いか。それを僕が許すと思っているのか」

「許しを請う必要はないね。俺は誰にも縛られたくないから、こうして一人で動いている」

「お前の事情なんか知らん。大人しく殺されてしまえ」

「だから、断るって言ってんだろ」

 カーニヴァルは残った左腕でポケットを弄り、スマートフォンを取り出した。

「これ、見覚えがあるだろ」

 そのスマートフォンの機種はエクスさんが持っていたものだった。

「いまさらそれを返してもらうことで自分の命が助かると思っているのならそうとう頭がおめでたいな。返す相手をお前が殺してしまったじゃないか」

 カーニヴァルは僕の意見など無視してエクスさんのスマートフォンを僕に向けて投げたので、受け取るしかなかった。

 手にしたスマートフォンは正しくエクスさんのものだった。棺破壊に向かう前に連絡先を交換した時に見たから間違いなかった。

 僕はひとまずエクスさんのスマートフォンをポケットの中にしまい込む。闘気を纏っていればポケットの中にあるスマートフォンが壊れたりしないだろう。

 もう思い残すこともないだろうと、カーニヴァルに襲いかかった。奴に残されたレリック武器は両脚に装着された脚甲のみ。蹴り技にさえ注意しておけば勝てる相手だ。

 僕の中に流れ終えた『何か』がそうだと告げている。

 面白いように僕の攻撃はカーニヴァルにヒットする。ところが、致命傷を与える攻撃をしているのに、カーニヴァルは倒れる様子がなかった。もちろん不死身であるはずがないので攻撃を与えれば与えるほど、カーニヴァルは弱っていった。

 簡単には殺しはしない。あえて僕は致命傷に成るような箇所を外して攻撃し続けていた。ここで殺しても二十四時間後にはこいつは復活する。ならば、二度と僕にふざけた真似ができないように傷めつける。

 そう決めていた。

 残っていた左腕をへし折ると「んぐぅ」という醜い悲鳴を上げた。その後は、腹部への連打、連打、連打。左右にある肋骨がぼきぼきと音を立てて折れていくのがわかる。脚甲で守られている膝の皿を下段蹴りで破壊すると、カーニヴァルは自力で立つことが不可能になった。

 もう止めはいつでもさせる。そんな余裕を持ったせいもあり僕は勝ち誇ったようにカーニヴァルを見下ろした。

 黒い血を吐き出しながらカーニヴァルは再び笑う。

「傷めつけられるのが、そんなに嬉しいのか」

「バカいえ。俺はノーマルだ。サディストでもマゾヒストでもない」

「……じゃあ、ただの戦闘狂だ。お前の目的は意図的に適正者の能力を向上させるためだ。提示した約束を、自ら破り、人質を僕の目の前で殺したのは、僕の……適正者が隠れ持っている『何か』に覚醒めさせるためだ……そうだろう?」

 ポニテさんを助けようとした時に頭から流れだした『何か』が、感覚的に教えてくれた。

「俺がシリコンバレーに居たのは、ある男に会うためだった」

 殺されることを覚悟したのか、カーニヴァルはおもむろに、一方的に語りだした。

「開発者のエヴァンか」

「……まぁ、そういうことにしておく。俺は──」

 カーニヴァルは激しい咳を繰り返す度に、大量の黒い血を吐き出した。呼吸も荒くなり話すことすら困難なように見え始めた。

 か細い息遣いをしながら、カーニヴァルは言葉を紡いでいく。

「そいつから聞いたのさ。適正者にはゲームでは実現不可能だった『設定』が施されていると。その隠された『設定』を発動させたのが今のお前だ」

「それが人を殺すことなのか?」

「いろいろ試した結果だ。言わなかったか? アメリカで殺しまくったって。いい……実験……材料だったぜ」

「人として終わっているな。だからこそ適応者になったのかな」

「発動条件はいろいろだ。適正者を精神か肉体のどちらかを追い込む。そこで心が折れればなにも覚醒めない。開拓者でアメリカに移り住んだ人種なら簡単に覚醒めてくれるとおもったけど、百人中二人いればいいほうだった」

「謙信のような武人みたいなことをした結果がこれか。殺されても復活できるからこそできる荒業か……狂ってる」

「なんとでも言えよ。つっても俺は殺されるつもりは毛頭ないがな」

「放っておいてもお前は死ぬ。苦しみながら死んで行け」

「何度……何度おなじことを言わせる。俺はノーマルだ。サディストでもマゾヒストでもないんだ。ぶっちゃけ、俺をこうして見下ろすお前のほうがよっぽどサディストだ」

 僕には変わった性癖も趣味趣向もないと反論した所で、納得するような男でもないことは重々理解している。

「俺はよ、瞬間復元もない、一発で死んでしまうような相手を殺しても楽しくないんだよ」

「なぜ、それを知っている?」

「知ってて当たり前だろ。『Relic』の世界であるルーシェンヴァルラと現実世界を繋いだのは黒の創造主だぜ? この異世界化が進行したここは黒の創造主が管理と監視をした箱庭だ。俺たちに隠し事なんて無理なんだよ」

「黒の創造主と言うのは覗き趣味をもった古代人ということか。なるほど、お前たち戦闘狂に相応しい変態だ」

「ははは」

「なにがおかしい」

「面白いだろ。ようやく口先だけの男から有言実行できる適正者になったんだ。身の丈にあった言葉を扱えるのは、なかなかどうして……様になるもんだ」

「もういいか?」

「なにがだ」

「お前と会話をしても楽しくないからだ。有言実行……殺してやる」

「バカ言え。殺されたら二十四時間もお前と戦えないとかありえないだろ。俺の苦労を無駄にしてたまるか」

「無駄にしてやる。無抵抗のエクスさんを殺した罰だと思え」

「その罰はお前が壊したけどな」

 カーニヴァルのレリック武器名は手甲が咎だったか。そのまま一生、罪と罰を背負いながら生き続けるがいい。

 手甲にありったけの闘気を込める。

「僕は首を跳ねない。お前の頭蓋を打ち砕く」

「おお、怖い……だが、タイムリミットだ」

 レトロゲームでもあるまいし、タイム制限など現実世界にはない。

 拳を振り上げた時、遠くから声が聞こて、体が固まった。

 その声色は聞き覚えあり、間違えるはずも無いのだが信じられなかった。

 その声を持っている彼女はいまもなお昏睡しているのだ。

「真悟くん!」

 スクランブル交差点の中央にポニテさんが立っている。

「ポニテさん……どうして?」

 じゃあ、カーニヴァルが黒い歪みから出したポニテさんやノヴァさんは?

「おい、どういうことだ!」

 と、カーニヴァルに向けて叫んだが、そこには黒い血の水たまりだけが残っていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


次回投稿は12/9です。

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