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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
51/143

047 『甘い声(スウィート・ヴォイス)』

047です。


※ 12/1 誤字修正

 これから一時間後、僕はあの動画投稿サイトで白の創造主の『適正者』から黒の創造主の『適応者』へ寝返りを宣言したカーニヴァルと戦うことになった。あの動画では宣言こそしていたけれど、いまは現『適応者』となっている。

 先程までそのカーニヴァルと話していたノヴァさんのスマートフォンにはデジタル時計が表示されていて、二十一時四分を示している。いまから一時間後だと二十二時ごろに決闘の場として指定された渋谷スクランブル交差点にいなければいけないのだが、徒歩で三十分、走れば十分程度で辿り着ける。

 時間の猶予はあるけれど心の余裕はなかった。まだカーニヴァルとの会話で積もり積もった怒りは冷めていないからだ。

「真悟さん」

 ノヴァさんの呼び声によってようやく我に返った。

「なんですか?」

「なんですか、じゃないわ。ずっと呼びかけていたのに怖い顔をして私のスマートフォンを睨み続けていたのよ」

 言い終わると同時に、ノヴァさんは溜息をついた。そう言われると、ついさっきまで二十一時四分を表示していたデジタル時計はいつのまにか六分となっている。

 僕は握りしめていたスマートフォンをノヴァさんに返すと、ポニテさんに腕を掴まれた。

「真悟くん。誰と戦うの?」

 不安そうな目をしながらポニテさんが聞いてくる。彼女だけが通話してきた相手を知らなかった。

 カーニヴァルの名を教えていいのか言い淀んでいると、ノヴァさんが「カーニヴァルよ」と告げ口をした。相手の名を知って、ポニテさんの顔を一気に青ざめた。こうなるとわかっていたから悩んでいたのに。

「ノヴァさん!」

 僕は思わず語尾を荒げたが、言われた本人は素知らぬ顔で僕に視線を移した。

「今言おうと後で言おうと、知ることに変わりはないでしょう。そんなことよりも、電話をしてきたあのカーニヴァル自身が相手なの? だって、あの男はいまシリコンバレーにいるんじゃなかったかしら」

「移動手段ならありますよ。カーニヴァルと話しているときはうっかり忘れていましたけど、適応者だけが使える移動手段。あの黒い歪みです」

「空間移動する魔法? それともアイテムなのかしら。まぁ、そこはここで話し合うことではないわ。問題は、そのカーニヴァルと戦うのは誰かということよね?」

 僕は言葉に詰まった。このまま黙ってスクランブル交差点へ向かうことはできない。

「即答できないということは、真悟さんだけが指名されたということでいいのかしら」

「え?」

 今にも消え去りそうな蝋燭に灯った火のような声でポニテさんが呟く。

「うそ、でしょ?」

 ポニテさんは震えた声で軽く笑いながら尋ねてきた。

 押し黙っていると、ポニテさんが両手で僕の右手を握りしめた。

「どうして? どうしてまた真悟くんなの?」

「ポニテさん」

「さっきノヴァちゃんも、真悟くんのリリィも言っていたじゃん。もう瞬間復元が無いんだよ。一度でも致命傷のダメージを食らったら、もう……真悟くんは……」

 ポニテさんの頬に涙の道が出来た。

「ねぇ、なんで戦うの? そんなの真悟くんらしくないよ。どうしてそんな命を粗末にするようなことをしちゃうの!」

「僕はそんなつもりは──」

 ないとは断言出来なかった。あの時、僕はカーニヴァルの煽りと下品な欲望に苛立ち、怒りが抑えられずに決闘の申し出を承諾してしまった。

「またなの? また私たちを守ろうとして、真悟くんが戦うの?」

 まっすぐな視線に耐えられなくなり、僕は顔を伏せた。

「どうしても、許せなかったんです。なにがとか、どういったことを言われたのかは、聞かないで下さい。詮索もしないでください。ただ、一つだけ言えるのは、あの男は僕を完璧に、これ以上無いというほど、怒らせたんです」

「怒りに任せるなんて、本当にらしくないわね」

 ノヴァさんまでも普段の僕らしくないと言いたげだった。

「言わなくても、おおよその見当は付くわ。きっとエクスたちが人質にされたのでしょう。エクスの携帯から私へ電話を寄越してきたのも、それが理由ね。そして、人質を解放するにあたって、真悟さんは一人でカーニヴァルと戦うと。そうじゃない?」

 あくまでも冷静に考えていたことを、的確な言葉へと変換しながらノヴァさんが言った。

「そんなのダメ。私も戦う」

 ポニテさんが大剣を握りしめて立ち上がるも、今度は僕がポニテさんの手を握りしめて制した。

「この戦いは一対一です。第三者の介入があれば、エクスさんたちは殺されます」

「だからって、真悟くんを一人で戦わせることなんて出来ないよ!」

 階段の踊り場がポニテさんの金切り声で満たされる。

「殺されないって保証ないじゃん……例え勝つことが出来ても、真悟くんが五体満足でいられる確証もないじゃん」

「それは最悪の結果です。そうならないように戦うんです」

 いつもならこうやってなだめれば、ポニテさんは言うことを聞いてくれたのだが、今回ばかりは首を縦には振ってくれなかった。

「私、エクスたちが死んでも辛いけど、それ以上に真悟くんが居なくなる方が悲しいし辛い」

 僕らの関係はまだ始まったばかりだ。僕が告白をしてからポニテさんから友達以上の関係でいられるようにはなれたけれど、まだそれ以上の間柄になったわけじゃなかった。それは、この異世界化した世界が終わるまで何が起きるかわからないから。どちらかが死ぬかもしれないし、二人とも命を落とすかもしれない。

 最悪なのは一人残された場合だ。

 好きな人が、大切な人がいなくなった世界で、生きていくのは難しい。きっと色んな悲しみと辛さを経験してきた大人たちなら耐えることも出来たかもしれない。でも、僕らはまだハタチそこそこの未熟な大人だ。時間が解決してくれるなんてありきたりな言葉で納得できるはずがない。

「お願い。真悟くん。私を一人にしないで。お願い……」

 僕らの握り合っている両手は指と指の隙間を重ね絡み合い、手の平はぴったりと合わさっていた。

「エクスも、あの日輪って女も、虎ちゃんも……死んで欲しいとは思ってないよ。でも、私は、それでも真悟くんの命を選ぶ」

「ポニテさん、それは……」

「わかってる。私、すごく酷いことを言っているよ? でもさ。違うじゃん。命は平等だとか、綺麗事をいう偉い人が居るかもしれないけれど、平等じゃない。その人にとって大切な人と、そうでもない人と比べたら、選ぶのはやっぱり大切な人でしょ」

 極端な喩え話ではあるけれど、理解することはできる。

「めんどくさい女だと思われてもいいよ。私は真悟くんをカーニヴァルのところなんて行かせない」

 理由はどうあれ、ポニテさんが反対することはわかっていた。納得させるための言い訳も、方便も詭弁もなかった。

「ポニテさんの想いは嬉しいです。本当に、これ以上ないってくらい幸せな気持ちでいっぱいです」

 僕はポニテさんと合わさった両手をさらに強く握った。小さくて温かい手。細い腕に、細い首筋、少しまるっとしているけれど愛嬌があるその輪郭。伏せ目がちな両目に長いまつげ。名前はポニテなのに実際に目の前にいるこの人の髪型は黒髪のロングだ。

 僕が好きになった人。

 この人の為に、僕はゲームでも、この異世界となってしまった現実でも、僕は戦おう。

 そう決めてしまったのだ。

 ポニテさんを傷つけようとする輩を僕は許さない。

 カーニヴァルは虎の尾を踏み抜いた。そう、僕の怒りに満ちた火は鎮まるどころかいまも轟々と燃え上がっている。

 なにより、僕はカーニヴァルという男の存在自体が気に入らないのだ。カーニヴァルがまだ人間で、適正者であったころに投稿した動画を見た時からだ。

「ポニテさん、納得しなくてもいいです。してほしいなんて、説得もしません。理解すら出来ないかもしれません。ただ、僕は許せないんです。僕だってポニテさんと同じなんですよ」

「なに、が?」

「エクスさんたちを助けること以前に、僕はポニテさんが大切なんです」

「それってどういう?」

 カーニヴァルはエクスさんたちだけでなく、ポニテさんさえも手にかけるようなことを示唆させた。あの気に入らない口調で、人を見下すような口ぶりで。

「お願いです。あの男だけは僕が殺します。ポニテさん、それにノヴァさん、今回ばかりは僕の我儘を通させて下さい」

「ポニ子。真悟さんの意思は固いわ。あなたの気持ちも相当なものかもしれないけれど、真悟さんを思いとどまらせることはできないわよ」

 ノヴァさんが説得に入った。

 強く握り合っていた両手が緩む。僕からではない、ポニテさんの方からだ。

「真悟くんが約束を守ってくれるなら」

「なんですか?」

 ポニテさんの顔が迫ってくる。潤んだ瞳が僕を見つめている。あと数センチで口唇が重なりあうというところで、その柔らかそうな口唇は僕の右耳へと逸れた。

「ちゃんと私のところに帰ってきて」

 そう、甘い声で囁かれた。

「ちゃんと帰りますよ。ここへ」

 離した両手を、そのままポニテさんの背中に回して抱いた。

「僕は、ここに戻ってきます。この言葉だけでも信じて下さい」

「破ったら……許さないんだからね?」

「怒ると怖いからな。ポニテさんは」

「うん、そうだよ。私は怖いの。だから、約束は守って」

 互いに合わさった胸部を離す。僕は改めてポニテさんと目を合わせた。

 もう、ポニテさんの目に涙はなかった。

「お熱いところ、申し訳ないだけれど」

 ノヴァさんの一言で、僕とポニテさんは弾けるように離れた。この一時だけ、僕はノヴァさんの存在をかき消していた。

「嫉妬して声を掛けたわけじゃないから誤解はしないでね」

「しませんよ」

「しないよ」

 と、僕とポニテさんは息を合わせたかのように反論した。

「カーニヴァルと戦うとしても、それは何時で、どこなの?」

「一時間後にスクランブル交差点です。ここからならさほど時間もかかりませんから」

「私はカーニヴァルとの戦いを止めないわ。それはエクスたちを助けてほしいからではなくて、真悟さんの意思で決めたことですもの。横槍を入れることなんてできないもの。ただ、勝つといったけれど、対策はあるの?」

「それは、ノヴァさんの記憶が頼りです」

「記憶? ああ、そういうこと。でも、私が知っているのはゲーム『Relic』だったころのカーニヴァルよ。それでもいいのかしら」

「全く知らないで戦うよりかはマシです」

 この中でノヴァさんだけがカーニヴァルとゲーム内ではあるけれど、会ったことがあるのだ。

「なにから聞きたいのかしら」

「カーニヴァルのレリック武器はすでに動画で見た通り、手甲と脚甲でした。つまり僕と同じ闘術士ですよね? 接近戦に成るのは確実です。知りたいのはその先、どういった戦い方をするのか。スキルなども覚えていたら教えてほしいんです」

「教えると言っても、私が知っているのは初のレイドボスが実装された不死鳥の時だけどいいの? あの頃のレリック武器上限は三十五だったから、カンストした時のスキルは痴愚かもしれないわよ?」

「大まかでいいんです。スキルでなくても、戦い方とかどういう行動パターンがあったのか。魔導術士のノヴァさんなら離れた所で動きを見ていたはずですから」

「それなら覚えているわ。むしろ忘れられないと言ったところかしら」

「と、言うと?」

「カーニヴァルの戦い方は連携を取らない完全スタンドプレーよ。けれど、視野は広く他のプレイヤーたちがどのように動くのか、先を読みながら攻撃と行動を行うタイプね。人間性には難があるけれど、ことゲームプレイに関しては上級者ということ。そして、真悟さんと違って手数で戦うような器用さはなかった。端的に言えば、どれも一撃でしとめるような大技が多かったわね」

「僕と近しい感じがしますね」

「性格は似ても似つかないわよ」

「やめてください。そのジョークも笑えないでは済まされませんから」

 あんな男と同じにされるなんてまっぴらだ。

「僕も手数の多いスキルをよく多用しますが、重たい一撃を与えるスキルがありますから」

 外気功・白虎や外気功・滅がいい例だ。リスキーなスキルではあるが、決まった時は勝ちが確定している。

「戦闘スタイルが似ているのであれば、必然的にスキルがどうこうではなくて、個人の戦闘技量と判断、観察力がものをいうわね」

「僕もそう思います。加えて、あの男の性格も話すことで触れることができたので、勝ち目はあります」

「頼もしいわ。ポニ子、喜びなさい。あなたの大切な男性は有能かつ雄弁よ」

「ノヴァちゃん!」

 からかわれたポニテさんが軽く怒る。

 今度は自分のスマートフォンを取り出して時間を確認する。二十一時三十二分。そろそろ出たほうがよさそうだ。

「時間です。すみませんが、二人はここで待っていてください。終わったら、ちゃんと連絡しますから」

「待ってるわ」と、ノヴァさんは余裕ある顔をしていた。

「気をつけてね?」と、ポニテさんは最後の最後に不安そうな顔をした。

 僕は二人を一瞥して、軽く頭を下げてから背を見せた。

「真悟くん!」

 僕は足を止めるだけで振り返らなかった。ここで振り返ったら迷いが出そうだったからだ。

「待ってるから!」

 僕は背後にいるポニテさんに向けて片手を上げた。

 一息ついて、僕は一気に階段を駆け下りていった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


次回投稿は12/1になります。

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