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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
45/143

041 『約束(プロミス)』

041です。

「言ってくれるじゃない! このクソが!」

 まほろは女性らしからぬ台詞を吐き捨てた。手にした大鎌を真横にして僕らの首を刈り取りに来る。

 思った通りだ。まほろという女の戦い方、僕ら適正者の殺し方は、闘気を大鎌に載せた黒い斬撃と首を刈り取るかの二つだ。

 もし斬撃を飛ばすのであれば闘気を溜め込むのための時間を要するのだが、こちらが挑発をしたので、まほろは直情的になり首を刈り取ることを選んだ。

 ここまでは狙い通り。さて、問題はこの次だ。

 まほろの移動速度には及ばないにしても、僕も両脚に最大限の闘気を溜め込めば、その移動速度に近い速さを用いることは可能だ。

 両足で地面を蹴り上げ、まほろと直線上で衝突する。当然、まほろは僕の動きに合わせて殺意に満ちた刃を僕の首に軌道修正させる。

「まずはお前だ!」

 まほろは怒りに満ちた声で叫びつつ、あの見えない刃で首を刈り取ろうとする。怒りに任せているせいで、つい先程、僕がその刃を受け止めたことを忘れている。

 闘気を溜め込んだ左手で鎌の刃を掴もうとしたが、手応えなく空を掴んだ。

「え?」

「バーカ、同じ手に引っかかるか」

 まほろは僕が手を出す瞬間を見計らって、大鎌を右手から左手に持ち替えていた。

「クソ」

 今度は見える刃が右方向から襲いかかってくる。上半身を反応させようにも、僕の反射能力では対応しきれない。これは受け止められない。

「死になさい」

 慈悲も温情も感じられない。まほろの死の宣告は虫けら以下を殺すような冷たさに満ちている。

 できれば、利き腕じゃない方が良かったんだけど……仕方ない。

 僕は闘気を込めていた右腕を大鎌の刃に差し出した。上半身を逃がすことは出来なくても、腕一本くらいなら動く。

「なっ!」

 まほろは驚きの声を、たった一言だけ上げた。

 そして僕の右腕は肘から上が宙に舞い上がる。

「ぐっ! ああああ!」

 腕が切り離されるのは本日二度目だが、態勢でも付いたのか、ルイガの斧に切り離された時よりも我慢は出来た。

 腕は失ったけれど、僕の右腕には闘気が込められていたので、多少なりとも大鎌の軌道を逸らすことに成功し、いまこの一瞬の間だけは僕の首が飛ぶことはない。

「腕一本で終わると思うな!」

 まほろは眉間に皺を寄せて大鎌の軌道修正をしようしたが遅い。その叫ぶ事自体が無駄なのだ。

 こっちははじめから腕一本捨てる気でいたんだ。

 失った腕の痛みを堪えるため、下唇を思いっきり噛む。にじみ出た血の味が口内に満ちる。

 連続攻撃スキルの外気功・拳撃を繰り出す。この距離なら絶対に外さないし、急所が狙える。

 残された左腕で連撃したのはみぞおちと肝臓。続けて心臓、喉と内臓や比較的柔らかい首を攻撃した。まほろの顔色がみるみるうちに青くなっていく。ボクシング漫画で読んだだけのリバーブローやハートブレイクショットだったけれど上手くいったみたいだ。

 どんなに肉体面を強化していようとそれは表面的な部分だけであり、内面というか内蔵まで強化対象になるとは思えなかった。

「お……ま──なに──を」

 息も絶え絶えという感じに、まほろは顔中に脂汗を吹き出している。

 これでいい。外気功・拳撃の最後の一発は大鎌を持っているまほろの左手の甲だ。僕は左肘と左膝で手の甲を挟み込んで甲の骨を砕いた。

 その音は、嫌な音だ。聞き慣れたくもない不快な音。

「が! いだぁい!」

 まほろは大鎌を落として砕けた左手を保護した。わなわなと震えるまほろにポニテさんの追撃が入れば終わりだ。適応者を一人殺すのに僕の腕一本で済むのなら安いものだ。

 一つ、我儘をいうのであれば、ポニテさんの手を汚すのは好ましくなかったが……でも、僕の頭ではノヴァさんを救い、この敵を倒す手段が思いつかなかった。

「今度こそ!」

 ポニテさんの大剣がまほろに振り下ろされる。

 勝ったと思った、そう思いたかった。

 気付いてしまったんだ。地面に落ちていたはずの大鎌がなくなっている。

 ──どこへ?

「ばーか」

 まほろの人を見下すような声が聞こえた気がした。

 大鎌はすでに、まほろの、右手の中にあった。

 真下から伸びる黒い刃。

 勢いに乗ったポニテさんの体は急に止まれるような速度ではなかった。

 それなのに、僕が見える景色はとても遅く、スローモーションのようだった。あの刃は確実に刺さる。突き刺さる。ポニテさんの体を貫く。

 左手を伸ばした所で、あの刃は止まらない。止められない。どうする……じゃない。動くんだ!

 ぐずりという音が聞こえた。

 ポタポタと滴り落ちる液体の音。見えるのは大量の赤い血。血の溜まりに雫が落ちる。

 その血を流しているのは僕だ。黒い刃が僕の腹部を貫いている。胃から下腹部の辺りまで冷たい金属が埋まっているのがわかる。

「うぉえ!」

 こちらの意志とは無関係に食道からこみ上げてきた大量の血が吐き出される。

「真悟くん!」

 背後から聞こえるポニテさんの声。

「どうして? なんでいきなり真悟くんが目の前に?」

 わかりませんと言葉に使用にも口に溜まった血のせいでごふごふとしか言えない。

「まだ生きてるの? 本当にしぶといわね。早く死になさい!」

 貫かれた大鎌という異物が、更に食い込む。

「はぁ! がああああ」

 もう叫ぶことしか出来ない。大量の血を流しすぎたせいなのか体が冷たくなていくのがわかる。

「やめろ!」

 振り下ろされる大剣を些末な出来事のようにまほろは受け止めた。

「焦って闘気を溜めなかったのが運の尽きだ」

 パキンと音を立ててポニテさんの大剣が砕けた。

「そんな!」

「引っ込んでろ!」

 ポニテさんの胴体に強烈な回し蹴りが打ち込まれ、一瞬にして吹き飛んだ。

 大切な彼女の名を叫ぼうにも相変わらず口の中は血の海でごふごふと溢れるだけだった。

 まだか……まだ、出てきてくれないのか?

「その目、妖精が出てくるのを待ちわびているのね。出る前に、殺してあげる!」

 間に……合わないのか……。

 目の前が青白い炎が舞い上がる。冷たくなった体が温まる……というよりも熱くなった。当てられている僕の体さえも黒焦げになりそうなくらいの熱さだった。

「この炎! お前か! 奏!」

 まほろは炎に身を焼かれながらノヴァさんの本名を叫ぶ。

 そうか……ノヴァさんがついに戦う気になってくれたのか。

「真悟さま!」

 目の前が真っ白になりかけた所で、炎とは違う。もっと優しくて温かいなにかに体が包まれた感じがした。

「ちっ! 妖精め。ああ! 熱い熱い! 熱いのよ! かなでーーーー」

 まほろは体を燃やしながら忌々しげに、恨みつらみを重ねた怨念を込めた言葉を吐き捨てる。

 この様子だと、まほろもすぐには動けないはずだ。それに、黒い歪みから出てきた時と違って魔法は効いている。まほろを強化していた黒の創造主のアイテム効果が切れかかっているのかもしれない。

 僕の体から異物感が消える。腹部を貫いていた大鎌はずるりと抜け落ちていった。気がつけば、ルイガの時と同じように、周囲には青い魔方陣が貼られている。この魔方陣が発動している間は適応者は手出しできない。一種の無敵状態ではあるけれど、それも僕の体が完全に回復するまでの間だ。

 リリィはすばやく瞬間復元をアイテムリストから取り出して、縦に開いた腹部と切り落とされた腕の部分に注いだ。

 みるみるうちに傷は塞がり、失われた右腕は元に戻った。

「からだが……」

 口がうまく動かすことが出来ない。傷も癒えたように思えるのに不自由さが残っている。

「真悟さま、まだ動けません。ルイガと戦われた時とは比べ物にならないほどの重症だったのです」

「重症」

 それならなぜもっと早く出てこれなかったのだろう。リリィを責め立てるつもりはないけれど、瀕死の状態の度合いが今のほうが酷いのであれば、もっと早く出てきてもいいのではと思考を巡らせる。

「お考えになられていることはわかります。どういうわけか、すぐにお助けに出ることが出来なかったのです。理由はわかりませんが……」

 リリィは申し訳無さそうに言う。ふわふわと浮かぶリリィに触れたかったが、繋がったばかりの右腕は動かすことが出来ず、仕方なくまだ動く左手でリリィの小さな頬を人差し指で撫でた。

「真悟さん。あとは私に任せて」

 凛々しく、そして静かにノヴァさんが歩んでいる。

「奏! よくもこの私を……この忌々しい炎で焼いて……くれたなぁ!」

 まほろは手にした大鎌を振り回して自身を焼いていた炎を打ち消した。服に焦げたあとは見当たらないのに、顔や手、露わにしていた素足は重度の火傷で爛れている。

「許さない。許さない! 私はお前を! 絶対に!」

 怒りの力だけで立っているようにも見えるまほろに対して、ノヴァさんは悲痛な顔をしている。

「まほろ。許さなくていい。私が憎ければ憎めばいい。でもね? 私の大切な仲間を殺すわけにはいかないの」

「ふざけるな。その言葉をどうして、兄さんに言わなかった! もしその一言があれば、兄さんは死ななかった!」

「そうかもしれない。でも、あの人は死んでしまった。私のせいで」

「かもしれないですって! 違う。あんたのせいで兄さんは死んだ。お前が殺したんだ!」

「──まほろ。今度は私と一対一で殺し合いましょう」

 ノヴァさんの手にした杖から出現した細くて鋭い氷の剣がまほろの心臓を射抜いた。

 まほろの口から黒い血が流れ出る。

「次があればね。いいか、生き延びろ。私に殺されるまで、生き続けろ! 約束だ!」

 断末魔の如く叫んだまほろの体が灰のように散り散りになって空へ舞い散った。

「ええ、約束よ」

 ノヴァさんはそう言って、消えたまほろを追うように空を見上げた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


次回投稿は11/19です。

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