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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
42/143

038 『周知(ウェル・ノウ)』

038です。

 着地した場所は唐堂神社に隣接した建物の屋根の上だった。竹下通りと違ってこの辺りには街灯などが設置されていないので暗闇が濃くて、目が慣れるのに時間がかかりそうだ。

「肝心の棺はどこにあるんだろう?」

 ポニテさんの質問に答えられないでいると、彼女の懐からスマートフォンと一緒にツインテが飛び出してきた。

「こんな時こそ、サポートの私が出番ってわけだよ」

 ツインテはピースサインの間に左目を入れたポージングを決めた。定番でありながら使い古されたその決めポーズはツインテがすると違和感がなかった。妖精という存在がそう思わせているのだろう。

「今回はやけにでしゃばってくるね」

「他の適正者さまに仕えているサポート妖精ばかりにいいところを持って行かれたくないからね。今回ばかりは張り切っちゃうってわけよ」

 妖精の間にも意地の張り合いみたいなのがあるのかもしれない。

「それで、問題の棺はどこにあるの?」

「いま、地図を出すから」

 ツインテは自分の真下にあるポニテさんのスマートフォンに手を触れて、宙にマップアプリを展開させた。

 先ほどみたいに航空写真のマップが表示される。僕らの現在地はすでに表示されていて、青いマークが付いている。

「ポニちゃんたちの現在地がここで、棺はここにあるよ」

 ツインテが指差したところにピンが刺されたのは、唐堂神社の御本殿前だった。ここからさほど離れていない距離だ。このまま屋根を伝っていけば辿り着ける。

「ツインテ、ありがとう。そうだ、せっかくだからスキルを変更しておこうかな。どうせ一発目に戦うことになるのは適応者だからね」

「かしこまりだよー」

 ポニテさんはそのまま大剣にセットされているスキルを変更し始めた。

「各々どんなスキルを使うか確認しておいたほうがいいですね」

 僕の提案に二人とも乗ってくれた。

 棺破壊は適応者に続いて、番人との戦闘になる。番人は獣種、自然種、鬼人種といったレリックモンスターを配合させたホムンクルスということはすでにわかっているし、ダメージを与え、最終的にはホムンクルスの要となるコアを破壊すればいい。問題は、その前に戦う適応者だ。

 こちらは元人間、元適正者だ。どのRelic武器を持って現れるか分からない上に、向こうも考えながら戦いにくる。ゲームでいえばPVPになるのだが、遊びではなく本当の殺し合いだ。加えて、向こうは死んでも復活はできるけれど適正者である僕らには復活などなく、そのまま死を迎えてしまう。

「真悟さんはまた外気功・滅を使うつもりなの?」

 どのスキルを入れるか考えている最中に、ノヴァさんが尋ねてきた。

「小学校で黎王という剣術士の適応者と戦った時はこれで仕留めることが出来ましたからね。ダメージを蓄積させ、瀕死にまで追い込んでしまえばこの一撃で殺せます」

「そうそう、ノヴァちゃんにも見せたかったなぁ。ゲームの時みたいに一瞬で殺しちゃうんだよ。適応者だけじゃなくて、あの新種の鬼人種だって倒せたんだから」

 ポニテさんが自分のことみたいに自慢する。もちろん、彼女に言われて悪い気はしないけれど、おだて過ぎだとは思う。

「けれど、その新種の鬼人に使って気を失ったのよね? 闘気残量がゼロになって自然回復が追いつかなくなって」

 ノヴァさんが痛いところをついた。

「まぁ、そうですけど。ちゃんとダメージ残量を確認しておけば問題なく倒せますから」

「真悟さん、あなたは忘れていることがあるわ」

「忘れている?」

「適応者と二度も戦っているのに大切なところを見落とすのね。適応者との戦いでは相手の体力残量は確認できないのよ?」

「あ……」

 相手がレリックモンスターであれば妖精たちがダメージ残量を教えてくれるのだが、適応者との戦闘時において、僕らの妖精は姿を表わすことが出来なかった。

「思い出した? 私たちの妖精は適応者を適正者と誤認してしまう。そうなってしまうと、ゲームの頃と同じく、サポート妖精は介入することが不可能なのよ」

 僕は身震いしてしまった。あの時、黎王が瀕死よりもちょっとだけ体力があったら僕の外気功・滅は不発に終わり、闘気を空にして気を失っていたのだ。

「どうやって黎王という適応者の体力、もしくは致命傷にまで追い込んだのか聞いていなかったけれど、外気功・滅が聞いたのはある意味、運が良かったのよ」

「あの時は、外気功・拳撃の連続技を放って、確実に殺せると判断して滅を打ったんですけどね」

「見た目が瀕死でも向こうはもう黒の創造主の恩恵を受けているのよ? それに私たちが知らないアイテムまで使っている」

 そうだ。小学校で戦った時、黎王は僕以外の適正者を牢獄に閉じ込めた。黎王は僕との一騎打ちを狙っていたと同時に、僕が誰よりも危険だと察しての行動だった。

「真悟さんはすでに二人の適応者を殺している。まぁ、向こうは復活ができるから人殺しではないのだけれど……重要なのは適応者たちには私たちのことが知られているということよ。話に聞く限りだと、すでに真悟さんは黒の創造主側では要注意人物とされている。ということは、これから現れる適応者も真悟さんに対する対策を練っていると考えたほうがいいわ」

「それを言ったらノヴァちゃんだって適応者を殺したんでしょ? それにエクスだって一人殺している……手の内を知られているっていうのはマイナスにしかならなくない?」

「攻略しているのは私たちではなく、黒の創造主たちということ。立場逆転ね……」

 ノヴァさんは軽い溜息を吐いてから、今一度、僕を睨みつけた。

「だからこそ、外気功・滅は使わないほうが良い。致命傷になったとしても、それを回復させる何かがあったとしたら、その時点で敗北は確定してしまうわ」

「まるで詰将棋みたいですね。そして心理戦も含まれている。こういう時こそ、ゲームみたいにルーチンが組めるような戦闘だったらと思いますよ」

 いつになく弱音を吐いた。ノヴァさんから、第三者の冷静な分析をきかされることで、これまでの勝利は運が良かったと改めて思い知らされる。

「ノヴァさんだったら、どういうスキル回しにしますか?」

「私だったら、向こうの知らないスキルを使うわ。最大火力の攻撃ではなく、乱発できる魔法に切り替える。そのほうが相手も読みにくいし、迂闊には近づけられないだろうから。ポニ子も大きな一撃を狙うようなスキルではなくて、『いっぱい斬る』や『逃げ場をなくすやつ』をつかったほうがいいわ」

 ノヴァさんが口にしたポニテさんのスキル二つはどれも複数攻撃を行えるものだ。

「うん、でも、一つくらい大技があってもいいと思うんだけど」

「一撃で仕留めるではなく、重症を与えるというのならあってもいいわね。うん、私も一つくらいは入れておくわ」

 女性二人はスキルの組み合わせができつつあった。僕のほうはというと、複数攻撃ができる外気功・拳撃は残したままだが、他をどうするか悩んだ。

「僕は攻撃スキルを外気功・拳撃だけに絞って残りは防御と移動スキルにします」

「防御はわかるけれど、どうして移動スキルにするわけ?」

 ポニテさんが上目遣いでこちらをみる。

「俊敏性は暗殺術士の次に早いとされていますが、攻撃の素早さは短剣と剣が一つ上です。こちらが腕を伸ばしたところに、手首や観察部分を斬る付けることかできますから。拳と足を使うということは、攻撃対象を増やしているのと同じです。そこに移動速度をあげるスキルをつければ、相手の視界に捕らえられることなく攻撃ができます」

「移動ね。それなら近接だけでなく、遠距離攻撃にも撹乱することが可能だわ。考えたわね」

 黎王との戦いで刃を持つ相手との戦い方は概ね理解している。相手の武器に触れないことが重要なのだ。

 お互いにどのような特性をもったスキルを付けるのか確認しつつ、準備を整える。

 ふと、僕はハンプティさんに頼んで作ってもらっていた弁当を使用していないことに思い出す。

「ポニテさん、お弁当まだ持っていますか? まだ使っていないのならここで使ってしまいましょう」

 お弁当という言葉に、ノヴァさんが大きな口をあけて驚いた。

「そんな物まで用意していたなんて。感心するわ。私も一つくらい作っておけばよかった」

「簡単にステ値があがるシロモノですからね。このリンクした世界になって利用できるものは最大限に使わないと。ただでさえこちらが不利な状況ですし、少しでも勝率を上げるなら利用しない手はありません」

「そういう戦略部分では真悟さんは上手なのよね。感心するわ」

 僕とポニテさんはスキル変更にあたっていた妖精たちにハンプティさんお手製のお弁当をアイテムリストから引き出させた。

 実際、どんなものを作ったのかは、ハンプティさんから聞かされていなかったけれど、なるべく食べやすいものだったら助かる。

 リリィがアイテムリストから引き出したお弁当は紙に包まれたものと飲料水がはいったペットボトルだった。

「ペットボトルまでアイテム化できるのか」

 なぜかそういうところに感心が行ってしまった。妖精が調理したものであれば、何に包んでも注いでも、それはアイテムとして活用できるようだ。

「私も同じような感じだけど」

 僕とポニテさんが同時に包み紙を開くと、出てきたのは案の定というか想像通りにサンドウィッチで、僕はハムと卵が一緒にサンドされたもの。ポニテさんはコールスローとハムをサンドしたものだった。二人して大きな口でがぶりつくと、コンビニのサンドウィッチではない手作りの感じがして、パンは柔らかくハムと卵が絶妙にマッチしていて美味しかった。ピリリと刺激するマスタードがまたよかった。

 さすがにパンなので口の中がもさつき、乾くのでペットボトルの蓋を開けて飲み込む。口の中に広がったのはレモンの爽やかな酸味と炭酸。ほのかに感じる甘みは蜂蜜だ。レモンと蜂蜜は相性がいいけれど、まさか炭酸水までいれるとは思いもしなかった。

 さほどお腹が空いていたわけではないけれど、僕とポニテさんは瞬く間に完食してしまった。

「二人とも良い食べっぷりね。こっちまでお腹すいてきちゃう」

「ああ、ごめんね?」

「いいのよ。もし次があったら私もお手軽なものをこしらえるわ。それで、ステータスなどは上昇しているの?」

 さっそく、リリィたちにお弁当の効果を確認すると、僕の方は攻撃力上昇と闘気回復量が増加。ポニテさんのほうは防御と素早さ、闘気のほうは絶対量が上がっていた。

「ただし、持続時間は三十分です。戦うならお早めにしたほうがよろしいかと」

 その忠告はポニテさんのツインテも同じだった。

 三十分もあれば問題はない。前回の小学校で黎王と戦った時は十分と戦っていなかった。

 準備は整った。

 僕らは屋根を渡って、棺が置かれている御本殿の前に降り立った。

 僕らが目にした御本殿はもう日本らしい神社の形はほぼ失われていた。『Relic』の世界にあった神殿らしきものと一体化していた。

 御本殿へと繋がる参道の途中に、目的の棺が置かれている。中身は液体化した人々たちで鈍く光っている。

「ノヴァさん、棺へ魔法攻撃を」

 ノヴァさんが杖を大きく振り上げて棺へ雷を落とした。が、閃光は棺に当たる直前に枝分かれしてコンクリートの地面に落ちた。

 あの黎王と同じように、黒い歪みが現れる。

 いよいよ、三度目になる適応者との戦いが始まる。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


次回投稿は11/13です。

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