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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
41/143

037 『再挑戦(リトライ)』

037です。

 唐堂神社に進入するにしてもトラップ型のレリックがどこに仕掛けられているかを改めて確認するため、ポニテさんの妖精であるツインテに聞くことになった。

 ツインテは自分が乗っているポニテさんのスマートフォンに手をかざして、マップアプリを選択して、空中に展開させた。

 空中に表示されるマップアプリだが何度見てもテレビや映画で表現される光景だと思える。こちらの感心を知るはずもなく、ツインテはマップ表示を地図ではなく航空写真へと変換させた。

「いま、私たちがいる場所はここ」

 ツインテが指した赤いピンは、まさしく僕らがいる竹下通りの前だった。

「棺があるトウドウジンジャはここなんだけど。ほら、見るとわかると思うんだけど、このジンジャという場所の周囲は道路に囲まれているでしょ? 私が見た感じだとこれらすべてがレリックと化しているの」

 ツインテはわかるように指で唐堂神社を囲む道路をなぞった。

「囲むような道路を踏まずに神社の中へ入らないとダメってことね」

 妖精はサポートしている質問しか受け答えしてくれないので、ポニテさんがツインテに問いかける。

「うん、そういうこと。だから、前みたいにどこかの高い建物からこのジンジャへと入ったほうが得策だと思う。あと、このタケシタ通りも少し先にレリックの反応があるわ。トラップ型かそれとも黒箱かわからないけれど、下手に近づかないほうがいいかも」

 小学校の棺を壊す時も、広い範囲でトラップ型が仕掛けられていたことを思い出す。どうやらこれらの仕掛けはどこも同じようだ。

「わかった。ありがとう。後は私たちで考えてみるからスマホの中に戻ってていいよ」

「うん。ポニちゃんも気をつけて。危なくなったらまたこうして出るからね」

 ツインテは小さく手を振ってスマートフォンの中に収まり、表示されていたマップアプリも消えた。

「建物の上を渡って神社の中に入るのはいいとしても、問題はどこの建物から唐堂神社へ入るかだよね」

 ポニテさんが腰に手を当てて呟く。勢いが乗っていた分、トラップの横槍が入ったためにやや落胆気味である。

「いま、私もマップを開いてみているんだけれど、竹下通りに隣接している建物を渡っていくと、唐堂神社の前にある幼稚園へたどり着けるわ。ここなら境内へと入り込めそうよ」

「ノヴァちゃんて本当に仕事が早いね」

「こういうのは、思いついたらすぐ行動に移すことが大切なの。トラップ型のレリックなら地面に触れなければいいのだけれど、黒箱だった場合は考えたほうがいいかもね」

ノヴァさんの言いたいことを自分の口で紡いだ。

「脅威は黒箱から出てくるレリックモンスターではなくて、黒箱自体のトラップも考えられるということですね」

「一番の問題はそこね。真悟さんたちが倒した新種のレリックモンスターを製造する黒箱だとしたら、無駄な戦闘をした上に消耗が激しいわ」

 すぐそばに有るはずの目的地が途方も無く遠くに思えてきた。

「このもどかしさがなんかムカついてくる」

 ポニテさんがブンブンと大剣を振り回して訴える。

「この先になにがあるのかやきもきするよりも、いっそのこと行ってしまいませんか? 不安要素はあるにしても、ここで手をこまねくよりも行動したほうがいい」

 僕はそう口にしてみたものの、向こう見ずな考え方であることに違いなかった。あとは、この答えに残りの二人が賛同するかだ。

「一理あるわね。いろんなことが起きすぎて及び腰になっていた節があるわ」

「私は真悟くんの意見に賛成。もうここまできたら行ってしまおうよ。さすがにトラップに引っかかるのは癪にさわるから、屋上からの侵入ってことにしようよ」

 もしも黒箱が用意されていたら、その時はトラップの黒箱を壊さずにレリックモンスターを倒せばいいだけのことだ。

 ようやく意志が固まった僕らは竹下通りに入って建物の上に上り、屋上から屋上へと飛び移っていった。

 移動し始めてまもなく、幼稚園へと続く小道に差し掛かった時、リリィが僕のポケットからスマートフォントともに現れた。

「真悟さま。この辺りからトラップ型のレリックが仕込まれているようです」

 ビルの下を眺めても街灯が少ないため薄暗い地面が見えるだけで一言トラップと言われてもわかるはずもなかった。

「リリィ、黒箱はこの周辺にあるのか?」

「黒箱の反応はありません。地上にさえ降りなければ問題なくトウドウジンジャへ入ることができます」

 リリィは自信満々に答えてくれた。ここまではっきりと明言してくれたのだから、問題はなさそうだ。

「やっぱり余計な不安を抱えていたみたいですね」

「本当の敵は己なりってね」

 ノヴァさんらしくもなく、まっとうなことを言ったので驚いてしまった。

「そろそろ冗談をいうのも飽きてしまったの。それに、こういう私も悪く無いでしょう?」

 いつになく優しい微笑みをするノヴァさんに見惚れてしまった。

「真悟くん?」

 ポニテさんに呼びかけられて振り向くと、そこにはにこやかに笑っているポニテさんがいた。その笑顔が逆に怖かった。言いたいことは既に伝わっている。どうやら僕がノヴァさんに心変わりしたのかと誤解をしたようだ。

「ポニテさん、そんな風に笑わないで」

「あら、私が笑っていたら駄目なの? どうして?」

「どうしてって……その、誤解ですから」

「ふーん? 誤解って何をどう誤解しているのか、教えてもらっても良い?」

 関係が進展したのは良かったけれど、まさかこういう形になるとは思っていなかった。ポニテさんは見かけによらず嫉妬深いことがわかった。

「ほらほら二人とも。痴話喧嘩という名のノロケはいいから、先を急ぎましょう。そういうのは全部終わった後にしなさい」

「ノヴァちゃんが真悟くんに変な気持ちにさせたのがいけないんでしょう!」

 矛先が僕からノヴァさんに移った。これでは日輪さんの時と同じじゃないか。これが続くのは体力よりも心が参ってしまう。

 ノヴァさんは突っかかってくるポニテさんのおでこを人差し指で突っついた。

 意表を突かれたのか、ポニテさんはおでこを両手で抑えて固まった。

「もう。ポニ子ったら。落ち着きなさい。あなたはいつも目の前にことしか見えていないのだから。リアルでもゲームでも、冷静さを失ったらダメよ。誰かが守ってくれているから、いまのあなたがいるの。そして現実にリトライはないの。一度の失敗ですべてを失い、取り戻すことさえ出来ないかもしれない」

 ノヴァさんの冷静な説教にポニテさんはなにも言い返さなかった。

「ポニ子。あなたはいい子よ。優しくて正義感もあるし、仲間思いが強い。でもね、その熱を誰構わず発散させてはダメなの。我慢して耐えて、次に活かすの。あなたはね、真悟さんと真逆で周りに甘え過ぎなのよ。それによく考えてみなさい。真悟さんが八方美人なタイプにみえる?」

「……見えない」

「それなら真悟さんを信じないとダメよ。いい? 嫉妬深いことは悪く無いことだけれど、行きすぎたら面倒な女になるから注意しなさい」

「面倒? 私が?」

 心外だと言わんばかりに驚くポニテさんにノヴァさんが深く頷く。

「男女ともに、面倒くさいと思われたらそこで関係が終わることがあるから気をつけなさい」

 その言葉を心の中で深く受け止めることにした。

「……気をつける」

 勝手に熱くなっていたポニテさんも冷静になった。

 僕らと違い、ノヴァさんは大人でありいろいろと経験を積んでいるからこそ的確な言葉が出てくるのだろう。僕もポニテさんもやはり現実では学生で現実世界の厳しさなどはまだ知らないことが多いのだ。お子様の恋愛感情なんて、ノヴァさんからすれば未熟な子供たちのお遊びにしか見えないのだろう。

「さぁ、気を取り直して幼稚園まで行きましょう。ぼやぼやしているとエクスさんたちに先を越されるわ」

 どちらが先に棺を壊すのか争っているわけではないけれど、同時に棺破壊をはじめたのだから、遅れは取りたくはなかった。

 こういう人を乗せるのも上手い人だ。

 危惧していた黒箱は存在こそしなかったが、建物の大きさがまちまちで飛び移るのに苦労した。

 移動を始めてから十分程度(無駄な痴話喧嘩のロスを除き)で幼稚園の前にまで到着することが出来た。

「あとはここから向こうへと飛び移れば問題はなしね。スイセン、出てきてらっしゃい」

 ノヴァさんに呼び出されたスイセンは後頭部を掻きながら、面倒臭そうにスマートフォンから出てきた。

「わかってるぜ。ノヴァ。あのヨウチエンって場所になにか仕掛けがないかってことだろ? 大丈夫だ。敷地内にはトラップ型のレリックなんて用意されてない。そのまま広場へ飛び移ってしまえ」

「さすが私の妖精ね。質問する手間が省けて助かるわ」

「俺も慣れてきたからな。お前の考えていることくらい読めるようになるさ。知ってたか? 俺たち妖精も知識を蓄積し次を思考する能力は備わっているんだ」

 そう。妖精たちは身体的な成長こそみせてはいないけれど、思考的な部分に置いては学習し知識を持って発言をしている。僕が適応者と戦い敗れそうになった時、リリィも独自に思考し解決策を練っていた。人工知能だとしてもここまで成長してくれただろうか。

「わかっているわよ。あなたたち妖精はゲームの頃と違う。プログラムで動くのではなく自立した思考を持っているとね」

「まるで人間みたいか?」

「そうね、まるで人間みたいな思考する生命体よ」

「そう言ってもらえると、なんだが光栄ではあるな。残念なのはお前たち適正者みたく戦える武器も力もないということだ」

「悲観しているの?」

「違う。嫉妬さ……用は済んだな。俺は戻るぜ」

「ええ、またお話しましょう」

 スイセンはふんと鼻で笑いながらスマートフォンの中に戻った。

「これで最後の問題も解決ね。慎重になりすぎたかもしれないけれど、あとは唐堂神社へと入るだけね」

 三人とも、息を合わせて幼稚園へと跳躍した。着地したのはいわゆる校庭みたいなところで、外周には遊具などが設置されている。ただ、地面には『Relic』で咲いていたような花に植物。園の建物にはあちらの世界にあった建築物と同化していた。

 幸いなことに、屋上には乗り移れるスペースがあったので助かった。

 幼稚園の先には生い茂った木々と、真下はトラップが仕込まれている道路があった。

「飛び越えられない距離じゃなくてよかったね」

「適正者になっていなかったら間違いなく跳んだ直後に地面へ叩きつけられていたわ」

「準備はいいですか?」

 僕は気を引き締めながら二人に聞いた。

「大丈夫、行けるよ」

「私もいいわ。合図、お願いしてもいいかしら?」

 僕は軽く深呼吸をした。

 九月の、秋へと移り変わろうとする夜の冷たい空気が肺を満たす。

 匂いは晩夏ではなくすでに秋だった。

「行きます」

 三人同時に唐堂神社の境内へと跳び移った。


最後まで読んでいただきありがとうございます。


次回投稿は11/11です。

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