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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
40/143

036 『油断(ネグリジェンス)』

036です。


※ 11/9 本文修正

  実在する神社名を別名に変更しました。


 時刻は十九時をまわっていた。夜の渋谷は街灯に明かりに彩られている。

 僕は背中にしていたラブホテルを見上げた。この中にはまだライブハウスで助けた二人の適応者が残っている。

「気になるの?」

 ポニテさんが僕を見上げながら聞いてきた。

「ならないといえば嘘ですからね。それでも、安全区域内にいれば敵に襲われる心配はありません。ただ、この先、大丈夫かなって」

一応、ラブホテルを出る間際に話をしたけれど、生気を感じられない答えしか返ってこなかった。取り乱しもせず、ただ自分たちの殻に閉じこもっている、そんな空気を醸し出していた。

「同じ残るでも、前に進むか、留まるかでは意味が違ってくるからな。俺たちにしてやれることなんて何もない。ああいうのは、時間か大きな切欠がない限り解決しない」

 僕らから離れたところで、カズさんが言った。隣にはハンプティさんがいる。二人はセンター街にあるネットカフェに行くという。

「ここから別行動だ。先に行くぜ」

 カズさんは後腐れなく、片手を上げて立ち去っていった。

「シンくん、みんな……無事でいてくれよ。いい情報が手に入ったら知らせるからさ」

 無理に笑顔を作ったハンプティさんもカズさんの後を追っていった。

 二人の姿が見えなくなると同時に、ノヴァさんも歩みだした。それを合図にして僕らは言葉を交わすことなく安全区域の境界線となる109まで向かった。

 109の出入り口広場で立ち止まり、お互いに残った棺のうちどちらに向かうか決めることにした。

「ノヴァさん、残りの棺はどことどこですか?」

「私たちが始めに壊した棺は将棋会館の近くにあるは烏森神社。ここが一番遠いからという理由で選んだの。残りの棺は、唐堂神社と原宿の丘という元学校を改築した教育センターよ」

「この棺の場所ってなにか意味があるのかな?」

 ポニテさんが素朴な疑問をだした。僕らが壊した場所は小学校、エクスさんは渋谷警察署近辺だ。ひとつは元とはいえ学校だ。そして神社。どちらも二つずつで、一箇所だけが普通の通路とも言える場所になる。

「たとえ意味があったとしても、白の創造主側である俺たちには無関係さ。重要なのはどちらがどこで戦うかだ。唐堂神社の場所はわからないんだが、広い神社なのか?」

 エクスさんがノヴァさんに問いかけると、ノヴァさんは小さく首を振った。

「写真地図や境内の風景写真を見た限りだと木々が多いし、道も狭く見通しが悪いわ。近接なら戦い易いかもしれないけれど、遠距離中心のそちらは不利ね」

「ということは必然的に俺たちは元小学校へ行ったほうがいいか」

 それには僕も賛成だった。

「小学校ではグラウンドに棺がありました。広いですし、遠距離攻撃も容易いと思います。日輪さんの近接火力に加えて遠距離からの矢が放たれれば、番人はもちろん適応者との戦いも比較的に楽だと思います」

「適応者のレリック武器にもよるけどな……スピードのある暗殺術士だったら、的を絞るのも厳しい。日輪の一発が当たらない可能性はあるが」

 エクスさんは眉を潜めるが余裕はあった。その理由は魔導術士の虎猫さんがいるからだ。

「虎猫さんが要になるということですね?」

 僕もエクスさんにならって虎猫さんを一瞥した。

「魔法での足止めは定石だもんね。うん、任された!」

「足の止まった所で、ウチがずどんとでかいのを打てば勝ちだで」

 虎猫さんと日輪さんは腕を重ね合わせる。ポニテさんと違って、この二人の相性は良さそうだ。

 向かうべき棺の場所も決まったところで、僕らは自分たちの足を使い明治通りを駆け抜けて明治神宮前駅まで一気に走り抜けた。もちろん、レリック武器を持っているおかげもあって全速力で走っても息は上がっていない。運動能力も今年活躍したオリンピック代表選手を余裕で超えているはずだ。

 駅前の十字路で足を止めて、お互いに地図を確認した。

「ここで一端、お別れですね」

 自然に僕らは円陣を組んでいた。街灯があってもやはり夜の街は薄暗かった。車も人も出歩いていない原宿はとても人気の街とは思えないほどの静けさだった。

「『Relic』の世界とリンクしてからこの辺りは歩かなかったけど、なんというか雰囲気がかなり変わっているよね」

 辺りを見回しながらポニテさんが呟く。移動中にも気になっていたのだが、僕らの世界が『Relic』の世界、ルーシェンヴァルラが浸食をより深めているように見えた。

 なんとも形容しがたい不安を払拭するかのように、日輪さんが持っていた斧を地面に突き刺した。

「この異世界化もウチらがなんとかせんといけんのでしょ。別れを惜しむ前にさっさと動かんといけんで」

 日輪さんは地元の方言で僕らにはっぱを掛けた。聞き慣れない方言ではあるけれど、なんとなく力が貰えた気がした。

「連絡はどうしますか? 僕らは棺へと入る前にコンタクトをとっていたのですが」

「この勢いを殺したくないし、話すことで気が緩みそうだ。棺の破壊と贄の解放を済ませたら携帯に着信を一回残して、折り返しがなければ戦闘継続中とみなして、そちらに向かうのはどうだい?」

「合理的ね。その案に乗ったわ。もう知らない相手でもないものね」

 ノヴァさんの一言ですべてが決まった。念のため、全員の連絡先を交換し合った。もちろん、ポニテさんと日輪さんもだ。ラブホテルでは日輪さんの謝罪を受け入れてはいたけれど、心のどこかでは引っかかっているところがあるのかもしれない。

「お互いの健闘を祈って」

 エクスさんが拳を突き出した。

 自然と、僕らは円を組みその拳に各々の拳を合わせた。

「この拳を離したら、移動しよう。いいかい?」

 エクスさんの提案に、みんなが無言で頷く。

 打ち合わせたわけでもないのに、みんな同時に合わせていた拳を離した。

 二手に分かれるパーティー。

 唐堂神社へと向かう僕らのうち誰も後ろを振り返らなかった。たぶん、向こうも振り返ってはいないのだろう。どういう結果になるのか、分からない。

 先ほど交換し合った番号にコールをしても完全なる不通で、着信を残すことすら出来ないのかもしれない。

 繋がらない携帯は、その人の死と直結していると思っていい。

 エクスさんの言うとおり、僕は他人を信じていない節がある。僕ひとりで戦えばそれでいいとも考えたこともある。

 それでも、僕は今日を通して、自分以外の誰かを信じ、助けを借りたいと思えるようになった。

 今なら心の底から言える。僕以外の誰かを信じている、と。

「真悟さん、そんな怖い顔をしなくても、大丈夫。戦いって生き残れるわ。向こうも、私たちもね」

「ノヴァちゃん。真悟くんはもう大丈夫だよ。ちゃんと自分と向き合えたんだからね。そうでしょ? 真悟くん?」

 どうも、この女性陣には僕の心の内は把握済みらしい。

「二人とも、いつになく怖いくらいに言い当てますね。もちろん、大丈夫です。僕はみんなを死んじまう。情報収集をしているカズさんとハンプティさんも結果を出してくれる。原宿の丘へとむかった三人も問題なく棺を破壊して、贄となった人たちを救います。だから、僕らも戦い、生き残り、そして終わらせましょう」

「何を終わらせるのかしら?」

 ノヴァさんは前方を見たまま聞いてくる。

「黒の創造主が思い描くすべてを、です」

「いつになくかっこいいことを言ってくれるのね。真悟さん、本当に頼もしくなりましたね」

「ノヴァちゃん、真悟くんはいつだって頼もしいよ。いつだって私を守ってくれるんだからね」

「あらやだ、それはポニ子限定じゃない? というよりも、あなたたち……進展しちゃったの? あのホテルで一線を超えて一戦を交えた?」

 またもや笑えない冗談だ。なによりもそのネタはあまりにも……

「ノヴァちゃん。さすがに同性としていうけれど、その発言はオヤジ的っていうか下品だよ」

「あら、上手くいったつもりなんだけど。こういうのもダメなの?」

「言うのなら時と場所を考えて下さい。噛み合った時に、そして本当に面白い時は笑いますから」

 ノヴァさんは残念と言いたげに口をへの字にした。

「さぁ、無駄口たたいてないで急ごうよ。どうせなら、向こうよりも速く棺の場所に到着して、ささーっと棺も番人も、適応者も倒しちゃおうよ!」

 ポニテさんがさらに足の速度を上げた。アッという間にその背中は小さくなり竹下通りを越えていった。

「真悟さん、あの子、たぶん、私の言ったジョークに照れたのよ。ちょっといかがわしいことを想像しちゃったんじゃないかしら?」

「ノヴァさん、それはジョークですか? それとも本気です?」

「あら、私はいつも本気よ?」

 さすがにこの言葉には苦笑いをするしかなかった。

「みんな、右側に高く飛んで、トラップがある!」

 前方を走っていたポニテさんの叫び声に僕らは瞬時に反応して右手に見える建物の上に跳び移った。

 呑気に会話をしながら、敵地に乗り込むものじゃないなと反省。

 すっかりとトラップ型のレリックがあることを忘れてしまっていた。

 先を行っていたポニテさんがこちらへと戻ってくる。彼女の隣には妖精のツインテがスマートフォンの上に現れている。

「危なかった……もう一歩のところでトラップに足を引っ掛けてるとこだった」

「もう、恥ずかしいからって前も見ずに走るからこうなるんだよ? 本気で焦ったんだから」

「こら、バカ! ツインテ、それ言っちゃダメー」

 ツインテがポニテさんの心情を遠慮なしにいった。注意されたツインテはというとなにがいけなかったのか把握していない様子できょとんとしている。

 が、ポニテさんの可愛らしい反応を楽しんでいたのは、この状況をつくりだした張本人であるノヴァさんだった。

 ノヴァさんは口の両端を上げていつになく嬉しそうな顔をしている。普段から冷静沈着な人なのに、こういうことは楽しそうにするんだから。

「ノヴァさん、緊張感を持って下さい」

 さすがに此処は締めないといけない。

「ごめんなさい。遊びに着ているわけじゃないものね」

「真悟くん、ごめん。怒った?」

 ノヴァさんはともかく、ポニテさんまでしょんぼりとした顔をしている。

 僕は軽いため息を付いた。

「怒っていません。でも、ここからどう神社に入るか、考えないといけません」

 目と鼻の先に神社はあるのに、近づけない。

 不用意な戦闘を避けるためにも、此処は迂回した方がいいと判断して、僕らはこの場をやり過ごして別の手段で唐堂神社へ入ることを試みた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


次回投稿は11/9です。

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