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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
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004 『仲間(パーティー)』

主要人物が揃いました。

 ノヴァさんは僕と対面するなり抱きしめてきた。なんとも言えない甘い匂いといろいろと柔らかくてくらくらする。これはヤバイ。

 この人は男女関係なく無自覚にこういうことをしてくる人だ。だからか、リアルでも男と女のトラブルによく巻き込まれると言っていた。その原因が自分にあるとは露ほどにも思わないのが質の悪いところだ。

 僕はノヴァさんとの距離を置いた。それでもノヴァさんからの激励は止まらなかった。僕よりも背の高いノヴァさんはこちらの拒否を無視して頭を撫で回した。

「とても良い啖呵でした。ソロプレイヤーの真悟さんがずいぶんと成長しましたね」

 表情を変えず淡々と話すノヴァさんの声は安らぎを与える。

「けれど、レリックを装着しているとはいえ、ここはゲームではなく生の肉体ということを忘れないで」

 ひどく心配そうな声をだしてノヴァさんが言った。

 後ろを振り返るとポニテさんが素早い剣捌きでガルフィクスの攻撃をいなしていた。

 改めて僕がなにを行ったのか自覚し足が震えだした。

 白虎を使うと決めた時、僕は冷静だと思い込んでいたがそうじゃなかった。僕は友達が倒される所を見たくなくて必死だった。

 足から始まった恐怖が上半身へと這い上がる。崩れ落ちる体をノヴァさんの柔らかい手が支えてくれた。

「ゲームの頃も思っていたけれど、あなたは意外と無鉄砲なところがあるわ」

 ノヴァさんは僕を支えるだけでなく自分の胸に僕の顔を埋めさせた。

 これはポニテさんにはないものだ。いや、違う。そうじゃない。危ない。ポニテさんが戦っているんだった。僕は再びノヴァさんと距離を取って改めて顔を合わせた。

「技名忘れたけど、あの技は捨て身技でしょう? 大ダメージと失神を与える代償にレリックを破壊してしまう」

 ノヴァさんの言うとおり、それが外気功・白虎の特性だ。

「あれだけ派手な技を打ち込まないと、みんなの意識を変えることは出来ないと思っただけです」

「そうね。それは真悟さんが正しい。私を含めここにいたみんなが諦めかけていた。だからこそ、真悟さんの攻撃と言葉は響いたの──偉いわ」

 言い終わると同時に、僕の左胸を小突く。

 そんなことは無いですよと謙遜するつもりだったが、ノヴァさんは余計な一言を添えた。

「それとも……ポニ子にかっこいいとこ見せたかったのかしら?」

「ち、違いますよ!」

 ポニ子というのはノヴァさんが勝手に付けたポニテさんの渾名だ。そのポニテさんの名前を出されただけで声が裏返ってしまったことが恥ずかしい。顔もなんだか熱い。

「あの時は、とにかくやるだけやろうって思っただけで」

 必死になる僕を見てノヴァさんがふふと笑う。

「冗談が通じないのね」

 真顔で冗談を言われても笑えないんだけどな……。

「スイッチしたのはいいんですけど、どうしてポニテさんはノヴァさんのところへ行けと?」

「パーティーを組んでほしいの」

「パーティーを? 僕らのレリックなら攻撃手段を間違えなければ普通に倒せるはずですけど」

 反論する僕の鼻頭をノヴァさんが軽くつまむ。

「その説明はあと。スイセン、出てきて」

 ノヴァさんの左肩から男型の妖精スイセンが現れた。サイズこそリリィと同じだが雰囲気がだいぶ違って勇ましさがあった。

「なんだ? また俺に何かしろっていうのか?」

 順従系のリリィに対して、ノヴァさんの妖精は生意気系だ。妖精の姿形、性別などは任意でキャラメイキングできるのだが、性格だけは僕らの遺伝子情報で造られている。

「減らず口を叩かない。真悟さんを私達のパーティーへ参加させて」

「へいへい、わかったよ」

 スイセンがメニュー画面を開く仕草をしたが、僕の目には映らなかった。どうやらあのメニューが見えるのは使えている適正者のみに可視化されるようだ。

「ほら、申請したからあんたの妖精にコールが届いているはずだぜ」

 スイセンが偉そうに言うと、リリィが僕を呼びかけてくる。

「真悟さま、あの傍若無人なオス妖精からパーティーのお誘いが届いています。このパーティーに参加されますか?」

 リリィはスイセンの口の聞き方が気に入らないようだ。その証拠にリリィはスイセンを睨みつけている。

「頼む。あと、そうカリカリしないで」

「かしこまりました」

 パーティーに参加すると、僕のレリックからさらなる力が流れ込んできた。

「これって強化されたってことですか?」

 不思議がる僕にノヴァさんが小さく頷いた。

「パーティーボーナスみたいなものね。私達がゲームしていた頃とは違って色々と追加されているみたい。ともあれ──これで近距離と遠距離が二人揃った。高火力で畳み掛けましょう」

 ノヴァさんの視線がガルフィクスに向けられる。いま戦っているのはポニテさんとカズさんを含んで五人いる。

「ずいぶんと減ったわ」

 参戦している適正者の人達を言っているのだろう。

「僕はここにいる人達に切欠を作っただけです。逃げることも正しい選択です。それに……」

「それに?」

 きょとんとするノヴァさんを見た後、戦っているカズさんとポニテさんを眺めた。

「きっとみんなは残ってくれると信じていました」

「青臭いこと言ってくれるじゃない」

 ノヴァさんの声が届く。自分でも臭いかなとは思ったけれど後悔はしてない。

背中にまたもや柔らかい感触。そして、後ろから僕を覗きこむようにノヴァさんが顔を近づけてきた。

「ちょっと、ノヴァさん!」

「ありがとう……私達を信じてくれて」

 優しく包み込まれることで、恐怖心が薄れ安心感が広がる。

『おい、コラ! 戦闘中にいちゃついてんじゃねーぞ!』

『ホントその通り。こっちは! 戦って……んのにさ!』

 耳ではなく頭に響くような声が聞こえた。急いでカズさんたちを見る。カズさんは矢を放ち、ポニテさんは大剣でガルフィクスの顔や前足を攻撃している。

『パーティーに入ったならさっさとお前も戻って来いってんだ!』

 カズさんが口を動かすと声がタイムラグなしに聞こえる。かなりの距離があるのに、すぐそばで話しかけられるようだ。

「これって」

「パーティーチャットよ。ヴォイスチャット不要ね」

「不要もなにも……ここ現実ですから」

『ノヴァ。お前のジョークまじでセンス無いからな!』

「カズヒデがいうと腹立つわ。あとで説教」

『言わなきゃいいのにねー。カズっちがノヴァちゃんに怒られんの何度目よ?』

『うっせ。それと、真悟!』

「え、あ、はい?」

 カズさんに名前を呼ばれて背筋を伸ばしてしまった。

『俺もくさいこと言ってんなーって思ったけどさ。嬉しかったぜ』

『私も私も。仲間だなーって実感した。真悟くん、ありがとね』

 こんなに感謝されるとは思わなかったけれど、すごく気持ちが良かった。

『そんで、いつになったらお前はノヴァから乳離れすんだ?』

 言われてハッとした。ノヴァさんの胸はまだ僕に密着したままだ。

『やっぱ、男って胸のある女がいいよねー』

 ポニテさんが苛立っているのが手に取るようにわかる。

 僕は戦っているポニテさんに向かって両手を伸ばし、違うとアピールした。

「誤解です。誤解ですから!」

『はいはい。いいよもう』

 口調が怒りから呆れに変わった。最悪だ。好感度が上がったと思ったら下がりっぱなしだ。

「だから、違いますって」

 僕の弁明にカズさんが豪快に笑った。

『嫌われてやんの。ざまぁー』

 僕を指さして笑っているのが遠目からでも見て取れた。戦闘中だと言った本人がよそ見をしてどうするのだろう。

 カズさんの側面でガルフィクスの挙動が変わった。前足を踏ん張り、背中を浮かせた。あれは攻撃形態が変わった合図だ。

「カズさん。毛針!」

 ガルフィクスが放つ毛針がカズさんに放たれたが間一髪で避けた。僕達を見ながら笑っていたものだから、敵の攻撃が見えなかったようだ。

『あっぶねー。ポニ! 毛針出したなら教えてくれてもいいだろ』

『そういうカズっちも胸が大きいほうがいいんでしょう? あー、やだやだ』

『真悟。マジで戻れ。ポニがへそ曲げてる』

『曲げてないもん!』

 ポニテさんの大剣が白く輝き、振り下ろすと直線の斬撃がガルフィクスを襲う。

 曲げているというより怒ってるの間違いではなかろうか。

「やっと本調子になった」

『ノヴァちゃんの言い方だと、私っていつもへそ曲げているみたいじゃん!』

「ヴォイスチャットつないで遊んでいる時みたいってこと。さっきと違って余裕あるもの。そうでしょう?」

 カズさんが弓を下げて、ガルフィクスを見据える。

『言われてみりゃ、そうだな。もう怖くねーな。むしろ、なぁ? ポニ?』

『うん、私ら楽しんじゃってる?』

 巨大な怪物と戦う二人から笑う声が聞こえる。もう、大丈夫だ。

「さぁ、真悟さん。私達も」

 すぅっと僕から離れたノヴァさんはガルフィクスに向けて杖を構えた。

「ポニテさん。行きますよ」

『断らなくていいから早く来てってば!』

 僕は返答をせずにガルフィクスへと立ち向かった。

 ゲームの頃と同じように、僕とポニテさんでヘイトを管理する。後衛のカズさんとノヴァさんが援護射撃。

 前足はポニテさん、後ろ足は僕が叩いて動きを封じる。顔と胴体はカズさんたちに任せた。残ってくれた三人の適正者は短剣、杖、槍を装着している。

「残ってくれた三人。連携が取れないと思うから、ヒット&アウェイに徹して。悪いけれどそっちのフォローまでできない。深追いだけはしないで」

 冷静に状況把握ができるノヴァさんが残った三人に指示を出す。指示を出された方も素直に従った。

『両前足と爪破壊終わりー。真悟くんはどう?』

 背後にいるポニテさんの声が明るい。勝てると確信している証拠だ。

 ならばこちらもと、両拳に込めた拳をガルフィクスの右後ろ足に打ち込む。

 生々しく骨が砕ける音が耳に残る。ガルフィクスに情けをかけるつもりはないけど、いい気分だとは言いがたい。

「もう一本で終わります」

 左後ろ脚に闘気を込めただけの通常足蹴りを数発食らわせた。

 四本の足を破壊されたガルフィクスが地面にへたり込む。

『前衛二人! 散って!』

 ノヴァさんの合図により、前衛の僕らはガルフィクスから距離を取った。

『ノヴァちゃん、カズっち、決めちゃってよ!』

 ポニテさんが大剣を振り回しながら叫ぶ。

『この私が外すとでも思っているの?』

『ノヴァ、こっちはいつでも撃てるぞ』

 ガルフィクスがよろよろと立ち上がろうとする。

『撃て!』

 ガルフィクスの頭に光の線が突き刺さる。これはカズさんのスキル『ブリッツ・シュラーク』だ。ドイツ語らしいのだが、カズさんが付けた技名のほとんどはドイツ語の直訳だ。理由は語感がかっこいいからとのこと。

 ガルフィクスが断末魔を上げる。あと、もう一息。

『燃えろ』

 ノヴァさんの冷たい声が耳に届く。

 ガルフィクスの真上に黒い歪みが生じると数十個の火球が落下する。スキル『塵芥の焼却』だ。

 火球が着弾すると瞬きするよりも早くガルフィクスは炎に飲み込まれ灰と化した。

「ガルフィクスの個体消滅を確認。完全消滅です! 真悟さま、私達の勝利です」

 リリィが歓喜の声を上げる。

 広場にいた全員が拳を上げて喜んだ。

 こんなに喜んだのは何時以来だろう?

 ゲームなら「はい、おつー」って軽くチャットに打ち込んでいただけだった。

 いま、ここにいる全員が思っているのは、倒したことよりも生き残れたという喜びが大きいはずだ。

 でも、薄々は気づいていたんだ。

 これで終わりではないことに。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


明日の投稿ですが、予約投稿ではなく手動で投稿します。

18時から19時の間に投稿予定です。


よろしくお願いします。

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