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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
39/143

035 『信頼(トラスト)』

035です。


やや遅い投稿になりました。

「俺たちも棺破壊に参加する。ただあんたたちとは一緒には行かない……行けないと言い換えたほうが正しいかな」

 エクスさんは日輪さんを横目に見ながら苦笑いをした。

「大方、うちの剣術士とそちらの斧術士の相性が悪いからだろ?」

「まぁ……そう思ってくれて構わない。俺はともかく日輪はいろいろと問題を抱えている女だからさ」

 そういうエクスさんの脇腹を日輪さんが小突く。

 痛がるエクスさんを尻目に日輪さんは小さく頭を下げた。

「ほんに勝手なお願いだとは思っちょります。さっきもいらん口喧嘩なんかしちょったけん、そちらにおる真悟サンを怒らせたけんね。ポニテさんにも悪いと思っちょるし……だけん、ウチの我儘で悪いけんど、許してくれんだーか」

 エクスさんにきつく言われたのか、それとも日輪さん自身で思うところが合ったのだろうか。初対面の頃とは打って変わり、落ち着いた口調だった。

「だってよ?」

 カズさんが僕とポニテさんを見た。日輪さんはおそらく虎猫さんとハンプティさんにはすでに謝罪をしているのだろう。

 僕とポニテさんは顔を見合わせた。

「許すもなにも……ねぇ?」

 ポニテさんは戸惑いながら僕に同意を求めてきた。

「日輪さん、まずは顔を上げて下さい。もう済んでしまったことですから」

「そう言って貰えるとウチもありがたいわ。あと、あのおっきな鬼人に攻撃されそうになった時、助けてくれたが? あん時はほんに助かった……今更になーけど、ほんにありがとう」

「お礼をされるほどではないですから」

 改めて感謝の言葉を言われると困るけれど、素直に感謝の言葉を受け取ることにした。

「じゃあ、話を戻すとしてだ。エクスさん、あんたはそちらの日輪さんと二人だけで棺の破壊に行こうっていうのか? 話には聞いているが、あんたは適応者と戦っているだろ? 二人だけで戦うなんて自殺行為一歩手前だぜ?」

 そこなんだけどと、エクスさんは少し困った感じで言葉を濁した。

「あたしがエクスたちと同行することにしたんだ」

 虎猫さんが一歩踏みだして発言した。

「待てよ。俺も行くって言っただろ!」

 虎猫さんに続いたのがハンプティさんだ。

「ハンプティくん。何度も言うけれど、君のレリック武器の練度では厳しいものがある。それに俺たちは真悟くんみたく甘くはないよ? 戦力になるのであれば率先して戦ってもらう。万が一、また君のレリック武器が破壊、もしくは適応者に攻撃されでもしたら……今度は確実に死ぬよ」

「それは……わかっているけどさ。俺さ、虎猫助けて、死にかけて……ようやく気付いたんだ。誰かが戦っているのになにもしないのはおかしいって」

「ハンプティ」

 虎猫さんが彼の名を呼ぶも、当の本人には届いていない。

「確かに俺はこの中で一番、レリック武器の練度は低い。暗殺術のスキルなんてたかが知れている。だけど、戦い方一つで、逆境を好転させることだってあるんだ」

 ハンプティさんが言葉の勢いに任せてエクスさんに詰め寄っていく。

「だから」

「だから……弱い君を連れて行けと?」

「ぐっ」

 エクスさんはハンプティさんが言われて一番刺さる口にする。

 さらに、エクスさんはハンプティさんに詰め寄る。

「君は巨大だった時のラクズラールの攻撃を食らって即武器を破壊され、人間に戻って瀕死の状態にされた。これは事実だ。あの時は、高火力の日輪、手数の真悟くん、そして剣術による撹乱をしたポニテさんがいたからこそ、君の命が繋がったようなものだ。もし、俺たちのパーティーに参加したとしても、できる限りのことはするつもりだが、確実に君の命を保証するとは限らない。いいかい、もう遊びじゃないんだ。誰かが守ってくれるようなぬるいゲームでも無いんだよ」

「わかっているけどさ……だからってここで居残るのは……痛っ!」

 カズさんがハンプティさんの頭に手刀を入れた。

「なにすんだよ、カズさん!」

「なにすんだ、じゃねーよ。バーカ」

「バカって」

「忘れてないか? 俺も此処に残るんだぜ?」

「それはカズさんの瞬間復元がないからだろ。俺はまだ二つもある!」

 そう叫ぶハンプティさんの左頬に今度はノヴァさんの右拳が入った。

「イッテ! 今度はマジで痛い!」

「お馬鹿さん。レリック練度がカンストしているカズヒデでさえ瞬間復元をすべて使い切ってしまったのよ? それでぎりぎり首の皮一枚繋がった。この意味、いくらハンプティでもわかるでしょ?」

 ノヴァさんが言いたいのは、レリック武器の練度がカンストしていようと、適応者に致命傷となる箇所に攻撃を与えられたら、適正者は即死してしまう。適応者と適正者の戦いは、戦いではなく殺し合いなのだ。いくらなんでも、この意味がわからないハンプティさんではないはずだ。

「それに小学校で相対した剣術士の適応者とは真悟さんが一人で戦った。向こうがトラップを仕掛けて他の三人が動けなかったのは例外ではあるけれど、あなたもネコも実戦はまだでしょう?」

 ネコ……虎猫さんのことを指しているのはわかるが、安直すぎるあだ名だな。突っ込んだら負けな気がするし、話が進まなくなるので言わないでおこう。

「ハンプティ。あんたの気持ちもわかるよ。あたしだって戦わないで、シンちゃんやポニちゃんに頼ろうとした口だもん。安全なところで自分の身を守ることしか頭になかった。でも、それじゃダメだって……あたしも気付いた。だけどさ、カズヒデさんも次がないとわかったからこそ、情報を集めて朝の五時に支給される瞬間復元を待つの。自分を守るのも大切なんだよ」

 虎猫さんの説得によりハンプティさんは固めていた拳を緩めた。

「わかった。わかったよ。自分の身の丈の程をよーく理解しておく」

 ハンプティさんがようやく落ち着きを取り戻すと、エクスさんが柏手を一つ入れた。

「というわけで、俺たちのパーティーに虎猫を引き入れたいんだが、承諾をいただけるだろうか?」

「それは俺にか? それとも元のパーティーリーダーだった真悟にか?」

 カズさんが僕の肩を叩く。

「どちらかというと、真悟くんにかな?」

 そうなるのか。僕は「では」と一言入れてから、エクスさんに確認を取ることにした。

「エクスさん。ノヴァさんも言っていた通り、虎猫さんも適応者との戦闘経験はありません。加えてレリック練度も48。カンストに近いとはいえ万全は言えません。それにエクスさん自身も守り切れる保証はないといいましたよね。僕は……僕は本当に甘い人間で、綺麗事ばかりを並べる人間です。誰も死んでほしくはありません。自分を犠牲にしてもいいといい考えるくらいに。元々、僕は僕の為に戦っていました。でも戦闘を重ねるたびに、誰も死んでほしくないという気持ちが強くなりました。エクスさん、もし虎猫さんを守れないのであれば彼女をパーティーに入れるのは承諾しかねます」

「なるほど。確かに甘くて綺麗事ばかりを言うんだね」

 エクスさんは笑いこそしなかったけれど、嫌味っぽく言ってのけた。

「自分さえ犠牲になればいいなんてさ。それって、周りの人間を信用してないのと一緒じゃないのかい?」

「え?」

 エクスさんの言葉の棘が胸に刺さりちくりと痛んだ。

「意外そうな顔をしているところをみると、自覚がなかったようだね。しかし、こうして言われたことで君は無意識下にあった本性を自覚した。してしまった」

 エクスさんの言葉が真を突いた。否定する言葉がない。

「真悟くん、君は確かに強い。ここにいる適正者の中で誰よりも強いよ。なぜなら、君は非情だ。優しいと思われているかもしれないがそれは表面上だけでの話。君の根底の中にあるのは一人でどうやって闘いぬくか。それが転じて誰も犠牲にさせないと思わせているだけさ」

「エクス、あんたに真悟くんの何がわかるっていうの!」

 吠えるポニテさんに、エクスさんは動じない。

「外野は黙っててくれ」

 エクスさんのひと睨みでポニテさんは黙りこんでしまった。

「俺は真悟くんと話をしている」

「エクスさん、続けて下さい」

「言われなくても、続けるよ。君は自己犠牲により誰かの命を守ると言った。裏を返せば、自分の命を軽んじ、他者の力を信用していないのと同義だ」

 それはもう小学校での番人との戦いで思い知ったはずだ。僕以外の三人が必死に戦っている姿をみて、彼らに頼ろうと決めた……はずだった。でも、僕の中ではそれを良しとしていなかった、のか?

「君がまだ自己犠牲なんていう戯れ言を言っているうちは、自分以外の力を信じていないんだよ。少なくとも、俺は虎猫さんの実力を買っているし信用している。彼女なら手厚くそして過保護にならなくとも戦えるとね。さぁ、真悟くん、君は虎猫さんを……いや、ここにいる誰かの力を信じていると正面を切っていえるかい?」

「ぼ、僕は……」

「はーい、ストップ!」

 カズさんが両手を広げ僕とエクスさんの合間に割り込んだ。

「うちの若いやつをいじめるのもその辺にしてやってくれ」

「すまない。そんなつもりで言ったんじゃないんだが……いや、そう聞こえたんだろうな。俺も大人気なかった。あまりにもきらきらしたことを言うものだからついね。汚い大人の意見を言ってしまいたくなった」

「本題からズレ過ぎだぜ? とても人員引き抜きをする立場の人間がいう言葉ではないな」

「全くだ。お願いする立場のくせに、説教をするなんて」

 反省はしているけれど後悔はしていない、そんな口調だ。

「まぁ、こいつの精神面についてあれこれ言うのはやめてくれ。俺たちはこういうところをひっくるめて好きなんだよ。真悟っていうゲーマーも、人間もな」

 それって、僕がみんなを信用していなかったというのを感づいていたということなのか。心が音を立てて瓦解していく。

 気が付くと、僕は地面に座り込んでいた。そんな僕の隣にポニテさんがいた。両肩には彼女の温かい手が添えられている。

「まだこいつは二十歳そこそこで、精神面は強くない。ようやく人を信用し始めたところなんだ。こいつの傷口を広げるようなことはしないでやってくれ」

 カズさんだけは、僕のプライベートを知っている。僕の汚点であり恥ずかしい過去。誰も信じられず、ゲームに逃げて、一人で遊んでいた僕のことを。

「さて、真悟。このあとは俺に任せるか? それとも立ち上がってエクスさんと話を続けるか?」

 カズさんは僕を信じている。そして、僕もまたカズさんを、みんなを信じようとしている。

「大丈夫です」

 僕は言葉の力を借りて立ち上がる。

「エクスさん、僕の内面は非情かもしれません。他人を信じていない……かもしれません。でも、僕は死んでほしくないという気持ちだけは偽っていません」

「……わかった。それが聞ければ納得した。誰も死なせないよう、努力をする。それでいいかい?」

「はい、その言葉を信じます」

 エクスさんは表情を和らげ、スッと右手を差し出した。僕も口元を緩ませて固い握手を交わした。

 こうして、僕らは再び二つのパーティーへと分かれることになった。

 残された棺は二つ。

 異世界化しつつ夜の渋谷を徘徊することになる。


最後まで読んでいただきありがとうございます。


次回投稿は11/7です。

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