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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
37/143

033 『目的(パーパス)』

033です。

 元の服に着替えてきたカズさんと一緒に、僕らは某大手家電量販店へ入店した。

 店内にはテーマ曲のBGMが流れている。客も店員もいないのにこのテーマ曲が場違いに思えるのはきっと今の店内が普段通りでは無いからだろう。

 店内は電化製品こそ並んではいるけれど、ここも外と同様に異世界の建築物や植物と重なり合っている。

 床の大半は草花に覆われ、壁にはゲーム内にあったモニュメントやレリーフなどが多く見られる。いまこの店内に流すべき曲は王道RPGで流れるようなダンジョンが合うはずだ。

 パソコンのフロアは三階でカメラは地下一階にあるのだが『Relic』の世界と重なり合ったせいでエレベーターとエスカレーターは稼働していなかった。

 仕方なく階段を使ってまずは地下一階に下ってカメラを物色することにした。

 階段を下っている途中、先陣をきっていたカズさんが話しだした。

「話を蒸し返すつもりじゃないが、カーニヴァルなんだけどよ。あいつはなんで渡米したと思う?」

「日本よりもアメリカのほうが広いし廃人プレイヤーが多いからじゃないの? わかんないけど」

 ポニテさんが半ば興味なさそうに答えた。

「廃人プレイヤーなんてどの国にいるだろ。どちらかというと俺は日本人のほうが廃人気質は高いと思うけどな。もちろん、向こうのプレイヤーと殺り合うために行ったのも理由の一つだとは思うが、本質は別だと考えている」

「本質とかいうからにはおおよその見当はつけているということね?」

 ノヴァさんが展示用のハンディカムを手にしながら言った。

「そういうノヴァにだって予想はついているんだろ?」

「カーニヴァルが渡米した目的は『Relic』の制作会社『Spiral』じゃないかしら。たしか本社はシリコンバレーだったはず」

 ゲームの世界がこちらの世界と融合をしようとしているのなら、もともとゲームを作っていた会社が関与している可能性は否定出来ない。でも、本当にそうなのだろうか。

「仮にカーニヴァルが渡米した目的がゲーム制作会社だとしても、ゲームを制作した人たちがこの状況になると考えていたんでしょうか。彼らは普通にゲームを作っただけであって、向こうの世界とこちらの世界がリンクしてしまうのは超常的な力が働いただけとか?」

 自分なりの考えを発言してみたものの、超常的な力とはそもそもなんだという疑問はあった。

「MMORPG『Relic』のウリは遺伝子情報を読み込んで、自分と同じようなキャラクターが作られることだった。でも、そんな技術ってそう簡単に作れるものだと思うか?」

 カズさんは展示されているハンディカムの中で一番高価なカメラを手にして僕を被写体にしてファインダーを覗き込んだ。

「それは科学技術の進歩によるものじゃないですか?」

「遺伝子情報をデジタル解析してゲームに反映するなんて、それこそ科学技術の無駄遣いだと俺は思うがな。だからこそ、遊んでみたくなったんだけどさ」

「カズっち。なにがいいたいの? その口ぶりだととても大切なことを知っているような感じがするんだけど?」

 カズさんが手にしているカメラを取り上げて、今度はポニテさんがカズさんを被写体にした。

 その姿がカメラのケーブルとつながられたモニターに映しだされる。

「ノヴァにも黙っていたんだけど、俺たちが食事をしている時にいろいろとスマホで調べたんだよ。ゲーム制作会社『Spiral』を調べていくうちに、ゲーム開発の中心人物であるエヴァン・ラスティングに行き当たったんだ」

「食事中、スマホをいじっていたと思ったらそんなことをしていたのね? 私も会社の名前までは知っていたけど、開発者までは知らなかったわ。そのエヴァンという人がカーニヴァルの渡米と関係しているとでもいうの?」

 ノヴァさんが腕を組みながらカズさんに問いただした。

「向こうの記事の一部だとな。エヴァン・ラスティングはユダヤ系アメリカ人で三十二歳。遺伝子工学の研究者だったというとこまではわかった。だがそれ以前の過去がまったく開示されていない」

「個人情報だから当然じゃないの? 最近のウィキペディアにだっておおまかな情報しか載せないようになっているみたいだし……というか、カズっちって英語読めるの?」

 ポニテさんは覗いていたファインダーから目を離して驚いた。

「俺の語学力は脇に置くとして。肝心なのはエヴァンという男自身だ。彼は突然、大学側から呼び寄せられた研究員になった。そこで遺伝子情報をプログラミングするシステムを開発した。それをたった数年でゲームへ実用可能にさせてしまったんだ。一人の研究員が入っただけで遺伝子読み込みシステムは一気に飛躍した」

 カズさんはポニテさんが手にしていたハンディカムを手にして、元の位置に戻した。

「俺はずっと疑問を抱いていた。ゲームの世界が現実世界と融合してしまう。それが真悟のいう超常的な力が働いたとしても、たったそれだけの言葉で済ましていいのかとな。実ははじめから仕組まれたことじゃないのかと俺は考えなおした」

「はじめから仕組まれていた?」

 僕を含め、ポニテさんとノヴァさんもオウム返しした。

 でもと、反論しかけたがカズさんはこちらの言葉を遮るようにさらに続けた。

「ゲームの『Relic』は作られた世界ではなく、本当に実在した世界ではないのかと」

 カズさんのとんでもない発言に口を挟まずにはいられなくなった。

「暴論すぎませんか。本当に存在していた世界がどうしてゲームになっていたんですか?」

「だから、ゲームだと思い込んでいた『Relic』のルーシェンヴァルラという世界は実在していた。たぶん、本当はこちらの世界にいる人間をそのままルーシェンヴァルラへと召喚したかったんだろう。しかしそれは実現不可能だった。そこで実現させたのが、遺伝子情報を使い、俺たちの分身を向こうの世界で創りあげた。ゲームと見せかけて、実は異世界で俺たちの分身は戦っていたんだよ」

 ゲームパッドやキーボードとマウスを使ってなと、カズさんは締めくくった。

「仮によ? エヴァン氏がルーシェンヴァルラにもう一人の私たちを作り上げて、冒険をさせたとしましょう。でも、その目的は何? そもそもエヴァン氏は何者だと考えているの?」

「ノヴァらしくない言葉だな。『Relic』のゲーム目的は適正者となって世界を牛耳ろうとする黒の創造主たちを倒すことだ。ルーシェンヴァルラで、敵を倒してほしいと願っているのは誰だ?」

 考えられる答えは一つしかなかった。

「エヴァン・ラスティングは白の創造主?」

「俺はそうだと踏んでいる。どうやってこちらの世界に来たのかまでは想像できてないけどな」

 カズさんはレジカウンターに一人歩みだした。僕らも急いでカズさんの後ろについていく。

「待ってよ。ここまで話しておいて、カズっちの想像話でしたで終わらせないでよ。そのエヴァンって人が白の創造主だとしても、ゲーム内にも白の創造主は出てきたじゃない。白の創造主は複数人いるってことにならない?」

 ポニテさんがカズさんを呼び止める。が、カズさんは呼び声など気にせずレジカウンターの奥へと入っていった。

「想像の話なんだから、俺に言われても答えられないっての」

 レジカウンターの方からカズさんの声だけが返ってくる。

「もしその話が本当だとして、カーニヴァルが渡米した目的は白の創造主だと思われるエヴァンさんを始末しようとしたってことですか?」

 姿を見せないカズさんに向けて僕は声を張った。

「たぶんな。はじめから適応者になろうとしていた人間なんだ。黒の創造主から命令されていてもおかしくはないだろ」

 そう言いながらカズさんがようやくレジカウンターの裏から出てきた。その手にはハンディカムのカメラが入った箱があった。

「妄想話にしては面白いわね。こちらの世界にいる人間を召喚できないから、遺伝子を使い新たな人間を作り上げて戦わせる。しかもゲームだと思えば気楽に出来るものね。辻褄も合っているように思えるわ」

 ノヴァさんが顎に手を乗せながら言う。

「それでも現実味がないわ。もちろん、すでにこの世界がゲームと現実がリンクしているから現実味どうこうなんて言えないけれど」

「これは俺の考えた一つの答えだ。ただ、カーニヴァルが渡米したのは『Relic』を開発したSpiral社にある。これだけは間違ってないはずさ。それとな、エヴァン・ラスティングは『Relic』がサービス終了と同時に謎の失踪をしていると報道されたらしい」

「そんな話、初耳ですよ。本当なんですか?」

「疑うなら証拠だな」

 カズさんは箱をカウンターの台においてスマートフォンを取り出すと、妖精のレイラを呼んだ。

「レイラ、俺が見たニュースの記事を出してくれ。あ、ついでに翻訳もしてくれると助かる」

「久々に呼び出したと思ったらそんなこと? はいはい、ちょっと待って」

 レイラは相変わらず、つっけんどんな口調でカズさんの指示に従い、宙にブラウザを展開させてニュースの記事を見せてくれた。

 内容は次のように書かれていた。

『人気ゲームの開発者であるエヴァン・スティング氏が謎の失踪。勤めていたSpiral社は連絡が付かなくなったエヴァン氏の自宅に入ったが姿はなかった。また会社で使用されていたパソコンにもこれまで開発のデータは全て消去されていたという』

 記事はその後も続いていたけれど、気になった箇所はここくらいだろう。

「半年前の記事なんだが、これを見つけるのにも時間がかかった。報道規制があったかわからないが、このニュースは日本ではもちろん、アメリカでもほとんど取り上げられなかった。しらなくても当然と言えば当然だ」

「失踪となると、カズヒデの妄想話もあながち的外れとは言えなくなるわね。エヴァン・スティングが白の創造主説は別としてもね」

「そこは否定的でもいいさ。俺も完全に信じてくれなんて言わないしさ。よし、カメラはこれでいいだろ。次は三階にいってパソコンだな」

 カズさんはハンディカムを箱から取り出して紙袋に詰め込んだ。

「話はこれで終わりですか?」

「終わりだよ。俺はただカーニヴァルが何をしに渡米したのか。それとエヴァン・スティングという開発者がいたっていうことを教えたかっただけだしさ」

なんとも煮え切らない終わり方だが、いまはそれで納得することにした。

 そのまま階段を登り、次の目的地であるパソコンのフロアに行き着いた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。


次回投稿は11/3になります。

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