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異世界化した現実世界を救済します  作者: アサクラ サトシ
第一章 『終末の咆哮』
35/143

031 『収集(ギャザー)』

031です。

 カズさんはポケットからパックされたままの煙草の箱とライターをテーブルに置いた。

 煙草のパックを紐解いて、一本取り出した後にカズさんの動きが止まった。

(ザラ)を忘れてた」

「これ、使えば?」

 ノヴァさんが手前にあった灰皿をカズさんに向けて掲げた。

「まだ吸うだろ。新しいの取ってくる」

 そう言って、カズさんは喫煙ルームの出入り口に置かれた銀の灰皿を取り戻ってきた。

 カズさんが座っているテーブルに灰皿と煙草、ライターが出揃った。準備万端とでも言うかのように、カズさんは煙草に火を付けて美味しそうに煙を吸い込んだ。

「東京オリンピックが開催されてほとんど煙草を吸う機会がなかったけれど、久々に吸うと美味いな」

 カズさんは漂う煙草の紫煙をぼんやりと眺めながら呟いた。

 五年くらい前だろうか、ちゃんとした時期は忘れたけれど、関東内では屋外での喫煙所はほとんど撤去された。分煙という言葉も久しく聞かない。屋内でも喫煙できる場所は限られているはずだった。このハンバーガーショップも喫煙ルームが残されているのは極稀なケースだ。

「カズっち。そろそろ話してくれてもいいんじゃない? 別に煙草を吸うなとは言わないけれど。何を考えているのか私たちは知っておきたいの」

 ポニテさんが痺れを切らして前のめりになってカズさんに詰め寄った。

「カズっちの返答次第では安全区域に縄で縛ってでも置いていくから」

「そう怖い顔をするな。せっかくのかわいい顔が台無しだぞ?」

「茶化さないで。ちゃんと答えてよ」

 すごい剣幕でポニテさんが立ち上がる。さすがに本気で怒っているようだ。

「そう(いき)り立つなよ。俺はなにも無謀なことはするつもりはないんだって」

「瞬間復元がない状態で戦うことが無謀と言わないでなんて言うのよ」

 カズさんはポニテさんになんで怒鳴られているのか理解できない様子でぽかんとマヌケな顔を晒していた。

「戦う? 俺が? いや、なんでそうなった?」

「はぁ? さっき俺は降りないってカッコつけて言ってたじゃん」

「降りないと言ったのは前線に立って戦うことを指したわけじゃない」

「戦わないのなら、一体なにをするっていうの?」

「情報収集さ」

 カズさんは深々と吸い込んだ煙草の紫煙を天井に向けて吐き出した。

「そんなの今更でしょ。集めた所で何かが変わるとは思えないもん」

 ポニテさんはテーブルを叩く。どうやらカズさんが戦わないと宣言してもポニテさんの中にある怒りはまだ収まっていない様子だった。

「ポニ。お前ってゲームの頃からあまり攻略サイトとか見なかったよな。大体、俺たちかフレンドのやつらに『Relic』の情報を聞いていたろ」

「そうだけど? なによ、今になってちゃんと下調べしておけとか言いたいわけ?」

「落ち着けよ。話す身にもなれって。そんなに息巻かれたんじゃこっちの話が進まないだろ」

「ポニ子、ここはおとなしくカズヒデの話を聞きなさい」

 ついにはノヴァさんまでが仲裁に入った。僕はというとただ見守っているだけだった。どうも、大人な二人が揃っていると僕の存在は薄くなってしまう。しかし、二人の存在感は大きく、ポニテさんもひとまずは腰を丸椅子におろした。

「はい、これでいいんでしょ?」

 どうもまだ不貞腐れているようだが、聞き耳は立ててくれるようだ。

「いいか。俺たちは黒の創造主たちに良いように遊ばれている。その自覚はあるだろ? 理由は簡単。情報が少なすぎるからだ。ゲームの中であれば、初見殺しやトラップにギミックにやられたとしても、復活して情報と知識を集めることで攻略に繋がる。ところが、このゲームの世界と現実がリンクしてしまった世界では俺たちの命は一つしか無い。これは予想以上の足かせだ。情報がないまま戦地に向かえば当然、死しかない。得体のしれない存在が待ち構えているからこそ、俺たちは恐れ、次に進むことを躊躇する」

「躊躇なんてしてないってば。ノヴァちゃんやカズっちと離れていても、私たちうまく戦えていたもん」

「聞いたぞ。真悟は適応者との戦いで死にかけたんだろ。なぜ死にかけたのか、ポニは考えたか?」

「適応者なんて存在が反則みたいなもんだし、それに闘気を込めればレリック武器の破壊や、即死させることが出来るなんてしらなかったから」

「その情報はどこで知ることができた? 真悟が身を持って適応者を殺したことで実証されたんだ。真悟がこの情報を教えてくれなかったら、俺たちも適応者との戦いで殺されていたかもしれない」

 ポニテさんもこればかりは反論ができずに黙って頷いた。

 その代わりに、今度は僕がカズさんのやろうとしていることに対して疑問を投じた。

「でも、カズさん。情報を集めるにしても、どうやって? ゲームであれば個人の攻略サイトやまとめサイトなどがありましたけど。このリンクした世界を攻略したサイトがあるとでもいうんですか?」

 僕自身、カズさんに対して失礼な物言いだと自覚はしていたけれど、カズさんの言葉にはあまりにも説得力がなかった。

「あるわけないだろ。そんなもん」

「カズさん」

 名前こそ呼んだが、呆れてしまい続く言葉がなかった。

「人をそんな哀れむような目でみるんじゃないっての。ないからこそ、これから作るんだよ。正しくはリンクしたこの世界で戦っているすべての適正者にな」

「いやいや、言っている意味はわかりますけど、そう簡単にみんながみんなwebサイトを作れる技術があるわけないじゃないですか。それに時間だってない」

「技術なんて不要だ。それは作れる奴にやってくれればいい。大事なのは適正者たちが知り得た情報を提示することさ」

「だから、その提示してもらうにしてもどこで? そういったサイトが出来たとしても適正者以外の人間が出鱈目な情報を上げる可能性だってありますよ?」

「簡単さ、適正者だけが書き込めるツールを使えばいいんだよ」 

 カズさんはポケットからスマートフォンを取り出して『Relic』と連動したアプリ『R』を起動させた。

「いいか、このアプリは『Relic』へ登録したすべてのユーザーが落としている。そもそも『R』がないと、ログイン認証ができないからな。それとこの『R』にはいくつかの機能があっただろ? それを使うんだ」

 そういわれても僕には何一つ響くものがなかった。

「僕はほとんどログイン時にしか開きませんでしたし、ゲームからの公式告知以外はすべてテキスト表示をオフにしていました」

 隣にいるポニテさんも同じように答えた。

 僕らの反応にカズさんは両肩を落として項垂れた。そんなカズさんをノヴァさんが慰めるように言った。

「質問した相手が悪かったわね。一人はソロプレイヤーで人と関わろうとしないし、もう一人はゲーム内でしか交流を持たないんだもの」

「まぁいいか……このアプリ『R』には交流掲示板ってのがある。種類は行くか分かれていたが、フレンド、パーティーなどの募集や雑談質問相談といったスレッドが立っていた。自動翻訳つきだから、国内外の交流も可だ。ここまでいえばわかるだろ?」

「その掲示板機能を使って情報収集をしようと? でも、何人がそのアプリを見ますか? 僕みたいにテキスト表示をオフにしている人だっているはずですよ。直接にでも呼びかけないかぎり難しいですよ」

「と、思うだろ? 実はすでに掲示板の書き込みはしていたんだ。そして、その反応がこれだ」

 カズさんは起動した『R』の表示画面を見せてくれた。スレッドタイトルは『全世界の適正者たちへ』で、発言者の名前にはプレイヤーネームの『カズヒデ』とあった。

 スレッドの内容は、僕らに説明したことがそのまま書かれていた。そして、肝心のレスポンスはというと、すでに百を超えていた。国内だけでなく、海外からの情報も上がっている。予想以上の反応で素直に驚いた。

「さっきも言った通りこのアプリは『Relic』に登録したユーザーしか扱えないツールだ。つまり適正者だけしか書き込めない。命がかかっている状況で出鱈目や偽った情報を流す奴なんていない。これで真悟の心配はクリアされる」

「なんかカズっちがカズっちぽくない感じがして気持ち悪い」

「おい、ポニ。いくらなんでも気持ち悪いはないだろ」

「だって、なんかいつもふざけている人が真面目なことを言って、しかもかなりいい線いっている考えを言ってるなんて気持ち悪いじゃん」

「お前、俺のことをなんだと思ってたんだよ」

「遊ぶときは全力で遊ぶ、面白いお兄さん」

「よし、そのお兄さんという言葉に免じて許してやろう」

 自分ではおっさんだと自虐していたのに、やっぱり呼び方は気にしているみたいだ。一回りも離れた女の子におじさんではなくお兄さんと言われるのは嬉しいのかもしれない。

「でだ。これでまだ終わりじゃない。これはあくまでも切欠で、俺にはもう一つやっておきたいことがある。どちらかというと『R』での呼びかけよりも面白いものになるはずだ」

 楽しそうなカズさんをみて嫌な予感がした。

「何をやろうっていうんですか?」

「いや、本当にラッキーだったよ。この辺り一帯が安全区域なんだろ? だとしたら敵を警戒する心配もなく物色が出来るってもんだ」

「もう犯罪行為を咎める気にはなりませんけど、どこで何を盗むつもりなんです?」

 カズさんはこの近辺にあるどこかのお店で何かを盗むつもりなのはわかっている。そして、残念なことに予想もついてしまっている。

「カズさん、パソコンとカメラを盗もうとしていますね?」

「大正解! さすがに察しがいいな」

 この道玄坂には大手の家電量販店がある。しかも僕らがいるこのハンバーガーショップを出て、右手にみえる小道を通ったところにあるのだ。

 ようやく待ち合わせ場所をここに指定した理由がわかった。

「このリンクした状況を生放送で配信すると、そういうことですか」

「ああ。時間がないし編集とかする暇もないからな。それならWebカメラを使って配信したほうがいいし、外にいる連中に呼びかけることだって可能だ。外にいる連中が、今現在、リンクした世界で戦っている友人や家族たちに連絡をとる。なんたって携帯やメールは送れるんだからな。そうやって拡散していけば『R』にはさらなる情報が入ってくるはずだ」

「このリンクした区域は世界中で起きていますからね。反応も拡散速度もかなり早いかと思いますよ。ただ、僕から一つ、聞いておきたいことがあるんですけど」

「奇遇だな。俺も真悟にお願いしたいことがあったんだ。同じような内容だと手間も省けるんだけどな」

「その生放送に出演するのは僕じゃないでしょうね」

「お前はエスパーか? どうして俺がお願いしたいことがわかったんだ? すごいなー、さすがだなー」

 褒められても全く嬉しくない。カズさんはわざとらしく、白々しく、なおかつ棒読みで言ったからだ。

 やっぱりだ。やっぱり、悪い予感が的中した。カズさんはこういう表に立つことは得意ではあるのに、面白そうなほうを優先する。

 今回は僕が表に立つことが面白いと判断したのだろう。ゲーム内でも自分は裏方で表は他の人間に任せたことが多々あった。

 ゲームの中でならまだしも、現実世界で自分の顔を晒すことなんて断固として拒否したかった。

 が、僕の口から出たのは拒否でも否定でもなかった。

「……わかりました。やりますよ」

 断れない理由もあった。弱みを握られているとかそういうことではなくて、カズさんが何かを考え実行に移した時、だいたいが上手く行っている。もしここで僕が拒否をしてしまうと、なにもかも破綻してしまう、そんな気がしたのだ。

「よし、決まりだな。じゃあ、俺が作ったハンバーガーとオニオンリングを食って、パソコンとカメラを頂戴しに行こうぜ」

 カズさんはポニテさんに差し出したオニオンリングに手を伸ばしたが、無常にも注文したポニテさんに弾かれた。

「これは私の!」

「一個くらいいいだろ!」

「ヤダ。なんかいいところを持っていた感じがするから」

「たまには俺が目立ってもいいだろ?」

 というやり取りが始まった。スグルさんの裏切り行為を聞いた当初は空気が悪くて、どうしようかと思ったけれど、その心配はもうなさそうだった。

 もし心配があるとすれば、この四人が全員生き残っているのかどうかだった。

 きっと大丈夫だろうと安易に構えるわけにはいかない。死はずっと身近に存在している。適応者へと流れる人もまたい続けるのだから。

 適応者になる情報を与えたカーニヴァルを思い出す。あの男がいなければスグルさんが裏切ることもなかったはずなのに。

「カーニヴァル……」

 その名を口にした時、ノヴァさんがピクリと反応した。

「ノヴァさんはカーニヴァルのことを知っていたんですよね? いったいどんなプレイヤーだったんですか?」

 ノヴァさんは難しい顔をして、煙草に手を伸ばそうとしてすぐに引っ込めた。

「最悪なプレイヤーで、最低の男よ」

 ノヴァさんは嫌悪しながらも過去を振り返った。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


次回投稿は10/28となります。

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