027 『化物(クリーチャー)』
027です。
低めのビルとほぼ同じ高さをもつ巨大鬼人に各々の武器で攻撃を与えた。
ある程度の攻撃を与えた所で、僕はリリィを呼び出して鬼人の体力ゲージがどれほど減っているのか訊ねた。
「四分の一です。どうやら物理攻撃は有効ですが、魔法に付加されているどのエレメントも耐性が高いようです」
本来、鬼人種は雷属性が弱点なのだが効果がないとすると虎猫さんには攻撃を控えてもらったほうが良さそうだ。
「虎猫さん!」
迫り来る鬼人の攻撃を躱しつつ、僕は虎猫さんの方へと顔を向けると、彼女の隣にはシャムが浮遊していた。
「うん、さっきシャムから聞いた。いまからバフ魔法に切り替える!」
さすがは適正者のサポート妖精。きちんとした助言を出しいたようだ。
心配なのは虎猫さんの精神面だ。彼女を庇ったが為にハンプティさんは一時的に普通の人間に戻ってしまった。もしかしたら、ハンプティさんは死んでいたかもしれない。
虎猫さんは気丈に振舞っているが、かなり苦しい思いをしているはずだ。
「できれば速度上昇とレリック武器の耐久度を上げる魔法を使って下さい」
「わかった。耐久度を上げる魔法ならあるから!」
虎猫さんはシャムに話しかけた。たぶん、スキルの変更をしているのだろう。耐久度を選んだということは、やはり鬼人の一撃でレリック武器を破壊されたハンプティさんを見ていたからこその選択か。
レリック武器の耐久度も上がり、近接攻撃を仕掛ける方もかなり楽になるかと思えたが、きちんとレリック武器に闘気を込めていないと武器はすぐにでも破壊されてしまいそうだ。
鬼人との戦闘を始めてどれほどの時間が経過したのかわからないけれど、ようやく鬼人をまともな直立をさせない程度まで両膝を破壊することができた。
「体力ゲージが半分まで削れています」
リリィが戦っている僕を含めた適正者全員に報告をした。
「ようやく半分まで削れたんか。ほんにしんどいわ」
「けど、足が止まった分、こいつはでかい的でしかないってことでしょ?」
「まだ立っちょーけん、的にするなら片膝くらい着かせんといけんが? なら、ウチがどでかいのを一発かましちゃるわ」
日輪さんはまだポニテさんと張り合っているのかと思ったが、二人とも笑顔をこぼしている。戦っていく中で絆を作り上げたようだ。
「それなら両膝がいいんじゃない?」
斧を突き上げた日輪さんに大剣を構えたポニテさんが肩を合わせた。
「あんたもそげに思うが? 真悟サン」
日輪さんは僕の名を見向きもせずに呼んだ。
「ええ。今度は僕があいつにいいのを食らわせてやりますよ」
「頼もしいやっちゃ。行くで、ポニテ!」
「私にもさん付けくらいしろ!」
そう掛け合いながら二人の女の子は巨大な鬼人に向かっていく。
その合間に、僕は両手脚の手甲に闘気を溜めていく。例え、あの鬼人が膝を着かなくてもそれ相応のダメージが入れば怯むはずだ。その隙を狙って外気功・拳撃を食らわせてやるつもりだ。
同じ大物レリック武器を装備していても、移動速度は斧術士の日輪さんよりも剣術士のポニテさんのほうが上だった。
鬼人の右膝に大量の闘気を纏った大剣が打ち込まれた。
「がああああ!」
鬼人は叫び声を上げて体を仰け反らせると前のめりになり右膝を地面に着かせた。続けて日輪さんの斧が左膝を襲う。その技は体を限界まで仰け反らせて、反動で斧を振り下ろした。左膝にきもちよく攻撃が入ると斧は鬼人の左膝から足の裏まで真っ二つにしながら到達した。
鬼人は痛みに耐えかねたのか白目を向いて真横に倒れかかった。僕はというと、すでに攻撃のモーションに入っていた。一直線に高速移動して、鬼人の右肘に外気功・拳撃の一撃目を入れる。骨が砕ける感触とその音を全身で感じ取る。攻撃した拳を引き上げた反動を使って次は柱のように太い喉元へ右拳を打ち込む。柔らかい喉の肉に拳はずぶりと貫通した。
「真悟くん! 危ない!」
僕の右後ろから鬼人の左手が伸びてくる。もちろん、これも想定内だ。右腕は潰しているのなら、僕を狙うのは左手だ。すぐさま右手を喉から引き抜いて鬼人の襲いかかる左手を躱さずに右脚で蹴り落とした。手首を狙ったのが良かったのか僕の蹴りにより鬼人の左腕は面白いように弾かれた。鬼人の体は遠心力によって僕から見て右、鬼人からすれば左に体が傾いた。
まだ、僕の攻撃は止まらない。顎を打ち抜いて脳を揺らして完全に意識を断つ。体を落下させながら胸部に残りの拳撃を全部撃ち込んだ。理想ではこの攻撃で心臓まで達してくれればよかったのだけれど、胴体は鋼鉄のように硬くて鬼人の内側を破壊することは出来なかった。
地面に着地して鬼人を見上げた。両手をだらりと垂らし、うなだれたような鬼人ではあったけれど、まだ息はあった。
「丈夫すぎる」
思わず弱音を吐いてしまったが、鬼人の体力も僅かなはずだ。
「これならどうだ」
エクスさんの声と共に光の矢が鬼人の脳天に突き刺さり、黒い血が流れ落ちてきた。だが、まだ死んでいない。
「嘘だろ? 脳をぶち抜いてまだ生きているのか」
「こいつ、やっぱり普通のレリックモンスターとは違う」
適応者との戦いでレリックモンスターも致命傷となる場所を攻撃すれば即死可能だと判明していた。だがゲーム『Relic』でも見たことのないこの巨大鬼人は規格外のようだ。
弱点属性を克服し、何度も即死してもおかしくない攻撃を食らっているのに死なない頑丈な体。
「ここで出し惜しみしてもしょうがないか」
気を失い身動きの取れない鬼人は格好の餌だった。ポニテさんは大剣を両手持ちにしてライブハウスを半倒壊させたスキルを放った。一直線に伸びた闘気の斬撃は、ライブハウスで見たそれよりも巨大で破壊力が増しているように見えた。
直撃した斬撃は、しかし鬼人の胴体や手足といった肉を削ぐことは出来ても、その姿は建材のままだった。
「これでも……倒しきれないの?」
大剣にもたれかかるようにポニテさんは座り込んだ。闘気をすべて注ぎ込んだせいで、立っていられる気力がないのだ。
姿見は残っていても体力はちゃんと削れているはずだ。
「リリィ、体力ゲージは?」
「五分の一もありません。ただ、形状変化を起こしているようですが、どうも見分けが着かなくて……」
たしかにぱっと見ても鬼人には変化が見られない。悩むのは後だ。ゴリ押しでもしてこいつを片付けてしまおう。残りの体力が僅かなら一斉攻撃を仕掛ければいけるはず。
「ようやったで。ポニテ。安心しいや。ウチが仕留めちゃるけんな」
日輪さんは斧を真後ろに引いて闘気を溜め込んでいた。
「そん首、落としてやーわ!」
斧が鬼人の首と胴体を切り離す。
首は吹き飛ぶこともなく地面に落下して、胴体は頭上の糸を失いゆっくりと後ろへ倒れこんだ。
「どげだ? ちゃんとウチが仕留めてやったが」
日輪さんは満面の笑みを浮かべて僕らにピースサインを送ったかと思うと、そのままがくりとして、斧で体を支えた。
「あー、せっついわ。これやると硬直状態になーけんな。ほんに倒れてくれて良かったわ」
日輪さんもポニテさん同様、闘気枯渇による疲労と大技を使った後のリスクが両方重なったようだ。彼女の健闘もあっての勝利だと思い、ここは肩を貸してあげようと日輪さんに近寄った。
地面に転がる鬼人の首は切り離された部分が生々しく、まだ生きているような気配すらあった。
ちょっと待て。おかしい、なんで……
「なんでこいつの体は消えないの?」
僕とポニテさんの疑問が重なり合った。
「真悟さま! 形状変化は鬼人の内部です!」
日輪さんの背後にあった鬼人の胴体から黒い肌をしたラクズーハが飛び出してきた。初動が早く最も近い距離にいた日輪さんに襲いかかる。
日輪さんの硬直状態はまだ解けてなく、大きな口を開き両手を広げたラクズーハから逃れることが出来そうになかった。
「た……すけて」
歯並びの悪いラクズーハの歯が僕の左手甲に食い込んだ。
「真悟……サン?」
きょとんとする目で日輪さんが僕を見る。
「間に合ってよかった。エクスさん、こいつは僕が引き付けるのでその間に日輪さんを!」
「わかった」
僕の左手甲にガチガチと歯型残そうとするラクズーハに懇親の蹴りを食らわして引き剥がした。
蹴った感触からして、見た目はラクズーハだけれど、肌が黒いだけでなく中身も全く違っていた。体の硬さ、攻撃力の高さ、俊敏性もありそうだ。
黒いラクズーハは僕にターゲットを絞ったらしい。猛禽類のような目で睨みつけていた。
「リリィ、あれはラクズーハなのか? それとももっと別な何かか?」
「ようやく名前がわかりました。あれはラクズラールという名で、上級のラクヴァルガよりも上位に立つレリックモンスターです」
ついに上級よりも上のクラスがお出ましだ。どうやら黒の創造主はつくづく僕ら適正者を追い込みたいらしい。
「ですが、ご安心して下さい、体力はさきほどと同じです」
「さきほどと同じ? ああ、そうか。そういうことね」
「はい。真悟さま……この戦いに幕引きを」
今度こそ、最後だ。
ラクズラールが素早い動きを見せながら、僕を撹乱しつつ距離を縮めてくる。純粋な暴力が、上下左右から繰り出される。避ける経験はすでに黎王で身につけてはいるけれど、ひとかすりでもしたら即武器が破壊されそうだ。もちろん、虎猫さんのバフ魔法は継続されているが、こいつの攻撃を前にしたら雀の涙だ。
油断ならないなと思った矢先、ラクズラールの速度がもう一段階上がった。
「まだ、速くなるのか」
避けきれず左手甲で受けてしまい、手甲の半分が砕けた。闘気を溜めていなければ完全に砕け散っていた。
「真悟くん!」
背後から聞こえる悲鳴に近いポニテさんの叫び。
僕は「大丈夫です」と呟いた。
ラクズラールが僕の懐に入り込み手刀を作って攻撃を仕掛けてきたが、もうこいつの動きも速さも理解した。
「消えろ」
手刀を避けつつ、僕はとっておきのスキルをラクズラールの額に打ち付けた。
ラクズラールは声を上げることもなく灰になり風に舞って飛散した。
「外気功・滅」
ポニテさんが僕の技名を言った。
「あいつはもう瀕死だったんです。だから、この技を使えましたが……おかげで僕も闘気が枯渇して一歩も動けません」
ポニテさんのところに行こうとしたが直進するどころかまともに足が動かなかった。どうやら食事による闘気上昇の効果が切れたらしい。
どうにかポニテさんの前まで到着できたが、僕は崩れるように倒れて、そのまま気を失ってしまった。
朦朧とする意識の中で思い浮かんでいたのは、闘気が枯渇したら気を失うこともあるんだ、なんていう子供じみた率直な感想だった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回投稿は10/20になります。




