026 『怒り(アンガー)』
026です。
※ 11/14 誤字修正
レリックモンスターが自分たちを製造した黒箱を壊す?
僕ら適正者があのトラップ型の黒箱に食いつかなかったから代わりにレリックモンスターたちが壊しているのだろうけれど……
「やりたい放題にも限度があるだろ」
この世界への侵攻してきた黒の創造主へ向けて、そう叫ばずには居られなかった。
黒箱に群がっているラクズーハの数は五……いや六体か。中級レリックモンスターというだけあって、黒箱はみるみるうちに外壁が剥がれ、中から黒い液体や内臓に似たブヨブヨとしたものが飛び出してくる。こんなもの、前に壊した黒箱では出てこなかった。これがトラップの正体かもしれない。これに触れたらアウトなのか、それともこれを壊すべきなのか、判断に悩むのなら叩くのは黒箱ではなくてそれを壊しだしたラクズーハのほうだ。
トラップ型の黒箱に群がる以外にも、ポニテさんの火力スキルに耐えたラクズーハが数体残っている。いま、こんな奴らに構っている暇なんてない。
「黒箱のラクズーハは僕とポニテさんで直接攻撃! 上の二人はそれ以外の奴らを倒して下さい」
それぞれの応答を耳で受け止めながら、僕はポニテさんと肩を並べてラクズーハに立ち向かった。
黒箱はすでに立方体としての形を保ってはいなかった。僕らがどんなに攻撃を与えてもターゲットは依然として黒箱に固定されたままだ。
打撃、剣撃どの攻撃を持ってしてもラクズーハたちは倒れず、一心不乱に黒箱を壊し続ける。六体中六体ともだ。
「こいつら、さっきよりも硬くなっている気がする」
ポニテさんらしくもなく弱音を吐いた。さっきまで急所を狙えば簡単に倒せたはずなのに、一向に倒せる気配が見えない。即死可能とされる部位が異様に硬かった。辛うじて攻撃力の高いスキルを放つことで肉を抉り取り、骨身や内臓が見え隠れしても奴らの腕や足、胴体は動き続けた。
「真悟くん、下を見て!」
ポニテさんの叫び声と同時に僕は地面に視線を落とした。そこには黒箱から零れ落ちた黒箱であった物の血肉─もはや黒箱は生命体と言っていい─が己を破壊するラクズーハに溶け込んでいった。
「これが原因なら!」
「ポニテさん。攻撃したら」
ダメだと言うよりも先に、ポニテさんの大剣は血肉の塊に振り下ろされた。ずぶりずぶりと音を立てて血肉は消えるどころか更に肥大してラクズーハ一体を飲み込んでいく。
「どうして!」
「この黒箱は僕ら適正者に壊されるはずだったもの。黒箱の一部だったその肉の塊だってトラップの一端です」
「じゃあ、どうすれば!」
何か策はないのかと頭をフル回転させるがフラッシュアイディアすら思いつかない。黒箱を壊すことは論外だとして、過剰に固くなってしまったラクズーハを六体も倒す高火力スキルは持っていない。
「なんだや。口ばっかだがね」
振り返ると日輪さんが斧を担いでこちらへ歩み寄ってきた。
「うるさい、あんたは黙って見れてればいいでしょ!」
こんな危うい状況だというのにポニテさんが日輪さんに噛みつく。
「そげなこと言っちょーと、取り返しがつかんよーになーで」
「日輪さん、四の五は言いません。力を貸してもらえるのならお願いします」
近接レリック武器の中でも最大火力を誇る斧であれば、血肉と一緒になったラクズーハでも倒せる、そんな希望を抱いた。
「どげすっかなー」
日輪さんは斧を首後ろにして、両腕は斧を抱えながら悪い顔をしてこちらを眺めた。さすがに僕も苛立ってしまった。
「ひの──」
彼女の名を叫ぼうとした時、上空から矢の雨が日輪さんに降り注ぐ。幸い、一本も日輪さんに当たってはいなかった。
「日輪! ふざけてないでさっさとやれ! 雑魚は全部こっちで殺したんだ、残りのラクズーハくらいどうにかしやがれ」
エクスさんの怒声。たしかにさっきまで残っていた数体のラクズーハは見る影もなかった。
「ちょっとからかっただけだが。しゃんに目くじら立てんでもいーがね」
「ダメ、もう黒箱が!」
虎猫さんの叫び声が上がる。少し目を離した隙に、黒箱はもう半分以下にまですり減っている。地面にはおびただしいほどの血肉が蠢いている。
僕はバカか。こんな茶番に付き合わずラクズーハを叩けば良かった。だが、そのラクズーハも個体としての機能は黒箱を壊し続ける腕のみで、足元は他の六体と血肉が融合しつつあった。
外気功・拳撃を繰りだそうにも必要以上の闘気が練られない。それでも放つしかなかった。
「手出しせんでいいけんな。闘術士。うちが一掃しちゃーわ」
耳元で囁かれたかと思うと、もう日輪さんの姿は横ではなく、僕よりも先に出ていた。
日輪さんは軽々と持ち上げられた斧を振りかざしラクズーハだったモノたちの頭上まで跳躍する。
「ぶっ潰れろや!」
斧は刃先を輝かせながら対象物に振り下ろされた。
轟音と共に、ビル一帯が縦に揺れた。すでに半壊状態であったビルが天地ともに総崩れした。
地面が無くなったかと思うと、僕らは一階へと落下した。瓦礫の山に覆い被されたが押し潰される恐怖も、怪我の不安もなかった。適正者となった僕らには同じレリック武器出ないかぎり肉体を傷つけられることがないのだ。
体に覆われた瓦礫を力任せに弾いて立ち上がる。一階の天井はすでに姿をなくし、そのまま二階のフロアが見て取れた。ステージだった場所にはハンプティさんと囚われていた二人の適正者の姿があった。
ハンプティさんがステージから顔を覗かせる。おーいと手を降っている様子からすると向こうも無事らしい。
僕もハンプティさんに手を振って、無事であることをアピールした。
一階はコンビニエンスストアだったのでレジカウンターや飲料水に食べ物などが見え隠れしている。
「無傷なところを見ると、本当に俺ら適正者ってのは適応者でもない限り無傷なんだ。これはこれでありかもな」
呆れ顔で言ったのはエクスさんだ。隣には虎猫さんもいる。
「俺達は倒壊する前に二階のガラスを割って外へ出たんだ。地面が割れて一緒に落下とか経験したくないからさ」
僕は周りを見渡した。瓦礫に刺さった大剣の隣にポニテさんが座り、その真向かいには斧を肩に乗せた日輪さんがいた。お互いに睨み合っている。
「二人とも。もうやめましょう」
「……別に、私はあの斧女を睨んでただけだし」
「ウチは変に敵意を向けられただけだけん、なんとも思っちょらんで」
僕はエクスさんに助けを求めたが首を横に振るだけだった。
「日輪さん」
「なんだで? あんたもウチに文句でもあーだか?」
「助かりました。ありがとうございます」
僕は素直に頭を下げた。
「真悟くん、こんな奴にお礼しなくてもいいのに」
「どんな人なのか、まだわかりませんけど。でも、僕らは助けてもらったんです」
僕の言葉にポニテさんは納得してくれそうになかった。それもしかたない。誰でも彼でも仲が良くなるとは限らないのだ。
経緯はどうあれ、結果的には日輪さんのおかげで黒箱もあのラクズーハもいなくなったのだ。囚われていた人たちも無事ならばそれでいい。
「ハンプティさん、それと残りの方もこちらに降りてきて下さい。もう大丈夫ですから!」
口元に両手を添えて声を張った。ハンプティさんたちが一階へと降りた。ようやく適正者八人が揃った。
一部を除いて安堵の顔を作り上げた。
一斉に、適正者たちのスマートフォンがハザード音を鳴らし、各々のサポート妖精がスマートフォンのディスプレイから飛び出してきた。
「真悟さま、まだ終わっていません。あのトラップはまだ稼働中です!」
「え? いやでも、あれはもう日輪さんの攻撃で消滅したんじゃ?」
「違います。あれは、消えていません。そう見せかけただけなのです!」
妖精たちの警告を受けた僕ら適正者は急いで一階から離れようとしたが、間に合わなかった。
地面から五メートル近くはある鬼人が飛び出してきた。頭に太くて禍々しい一本の角。裂けた口から見えるのは尖った歯並び。鋼のような四肢と肉体。そのレリックモンスターは僕らを見下ろすなり野獣のような雄叫びを上げた。
なんだ、こいつは。鬼人種の上級レリックモンスターはラクヴァルガなのに、こんな鬼人種のレリックモンスターは見たことがない。
呆然と立ち尽くす僕らに新種の鬼人は図体に似合わず素早く動き、強靭と思えるその腕虎猫さんに落とした。
「虎猫さん、逃げて!」
巨大な鬼人に圧倒された虎猫さんは身動きが取れなかった。攻撃が当たる寸でのところでハンプティさんが身を挺して虎猫さんを庇った。
ちょっとだけ巨大鬼人の拳が当ると、ハンプティさんは虎猫さんを抱いたまま真向かいのビルまで吹き飛ばされた。
巨大鬼人は的確に一人ひとりの適正者を狙っている。逃げるか戦うか……いや、まずは吹き飛ばされた二人の安否だ。
「少しだけここをお願いします。僕はハンプティさんたちの元へ」
僕は両脚に力を込めて全速力で駆けた。ぐったりとして横になっているハンプティさんと、泣きじゃくっている虎猫さんの姿があった。
「ハンプティ! ハンプティ! 起きてよ、ねぇ、起きて!」
まさか死んだのではと焦ったが適正者は死ぬとレリック武器を残して消えてしまうことを思い出してとりあえず安心はした。状況は最悪だが、ハンプティさんの体はここにある。けれど、彼のレリック武器である二本の短剣が柄だけになっていた。
ハンプティさんの懐から彼のサポート妖精、ラビットがスマートフォンと共に出てきた。
「ハンプティさま、いま、瞬間復元を」
ラビットはすぐさまアイテムリストから瞬間復元のガラス瓶を取り出し、柄になった短剣に注いだ。
「ん……んー」
ハンプティさんから息が漏れたが、意識は回復してないようだ。
「虎猫さん、ここでハンプティさんを見守ってあげて下さい」
「うん……」
猛威を振るう巨大鬼人を相手にしているのはポニテさん、エクスさんと日輪さんだけだ。ライブハウスに囚われていた残りの二人はとりあえず武器を構えているだけで、邪魔だった。
参戦するよりも先に、僕は戦うことのできない適正者二人の背後へと回った。
「二人とも。戦えないのなら無理しなくていい。むしろ、この戦いの邪魔になる。吹き飛ばされた僕の仲間のところまで下がって欲しい」
僕の言葉に安堵したのか、二人とも小刻みに頷いて潔く戦線を離脱した。離れ行く適正者二人の背中を見送り、僕も参戦した。
強く硬いイメージを練りつつ、右手の手甲に溜めた闘気を巨大鬼人の顔面に打ち込んだ。右腕が痺れるのがわかる。その反面、攻撃が通っているのも手甲から伝わってきた。
横に揺らいだ巨大鬼人をさらに連撃をいれると、その巨体は真後ろにあったビルへと倒れこんだ。
倒壊するビルの音。舞い上がる砂煙を見とめて、僕はポニテさんと日輪さんの間に立った。
「闘術士。あんたなかなかやるがね。名前、覚えてやってもいいで?」
「なんで、あんたずっと上目線なの! 舐めるのも大概にしろ」
こんな時に……またなのか。
「黙れ、二人とも」
僕はとりわけ冷たい口調で二人を咎めた。
「争うなら、こいつを倒してからだ。いいな?」
返事が返ってこないのは僕の口調が変わったので動揺しているみたいだった。僕の口調なんてもっとどうでもいい。今は目の前の敵に集中するべきだ。
「返事は?」
僕は二人を交互に見ると、完全に萎縮して「はい」と返事を漏らした。
こんな脅すような形で従わせるのは僕らしくない……冷静になれ。
軽く目を閉じて深呼吸を一つ付く。そうだ、冷静になって倒す。
倒れていた巨大鬼人がビルを壊しながら体を起こしてきた。
「近接は両足を削って、立たせなくさせる。後援は頭、胴体へ矢を放って」
僕の指示にみんなは目で答えた。
「なぶり殺しましょう」
この言葉を合図にして、攻撃を開始させた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回は10/18に投稿します。




